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しおりを挟む海に来ていた。
この時期の海は天気の所為なのか黒く見える。
ざぶーんと波が打ち寄せて来るのを俺はただじっと見ていた。
「婚約破棄されたんだってな」
唐突に話し出す男、俺の父親である。
そんな父親の言葉に俺は何も答えずにただ引いて行く波を見ていた。
「生きていりゃあ、そんな事もある。それが人生ってもんだ」
父が突然立つと言った。
「悪い事もあれば、良い事だってあるし、それの繰り返しばかりだ。
お前だけじゃねえ、俺だってそうなんだからな」
父は落ちていた流木を海へと投げる。
投げた流木はすぐに波に乗って戻って来た。
父は戻って来た流木をもう一度海へ投げる。
すると流木はすぐに波に乗って戻って来た。
一般的に三回というのが目安だろうと思う。
でも三回、四回と続けた父は諦める事をせずに投げ続けた。
「なんでだ! 」
結局父はそう叫ぶと一人で帰って行った、俺と流木を残して。
*****
「ただいま」
俺は一人で家へ帰ってくれば、玄関に父親のびちょびちょになった靴が
脱ぎ捨てられていた。
「おかえり。寒かったろうに」
ばあちゃんがたばこをふかしながら出迎えてくれた。
朝、目が覚めれば父親が居り、無理やり海に連れ出された。
結局何がしたかったのかなんて分からないまま俺はばあちゃんが出してくれた
味噌汁を飲む。
「母ちゃんはいつ帰って来るんだ? 」
「黙って飲みな! 」
ばあちゃんが新聞紙をめくる音が潮騒のように聞こえた。
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