諦めないという事

菫川ヒイロ

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 その日は連休だったせいかムロはいつもより遅く起きた。
 
 
「ふあ~」


 欠伸をしながらボリボリと頭と腹と背中をかくが、背中がちょうど手の届かない
 場所だったためにかけない。でも痒みが気になって仕方がないのでベットの上で
 もぞもぞしてみたがよくなる気配が一向にない。
 
 
 身近に何か棒状のものはないかを探し、目についたのはテレビのリモコンだった。
 少々固いがそれでもリモコンで痒い所をかいてやると何とか痒みは治まった。
 
 
「そんな事言ってもね、こっちは納得出来ないんですよ! 」


 テレビが突然つくと急に怒鳴られた、テレビの中の人に。
 それにビクッと驚いてしまったムロはすぐにテレビを消した。
 
 
 起きてすぐに人の怒鳴り声を聞く事ほど不快なものはない。
 そもそもムロは温厚な性格で他人に意見するのは苦手なタイプだ。
 だから出来るだけ揉め事が起こらないようにして生きて来た。
 
 
 他人の邪魔にならないように、それがムロの生き方だった。
 
 
 ムロは嫌な気分を変えるべく冷蔵庫を開けて炭酸飲料を取り出すと、蓋を開け
 そのまま口をつける。こういう時は糖分を取るに限るのだ。
 寝起きの炭酸は体に悪い事をしている感じがして何となく好きだった。
 
 
 ただ最近少しばかりお腹が気になっては来ている。
 このままいけば確実に病気になるだろうなとは思ってはいるが、嫌な事があると
 甘い物へと手が伸びてしまうのは止められなかった。
 
 
 お腹をポンポンと叩いて、まだ大丈夫だと確認するとムロは朝食を食べるのだ。
 とは言えおじさんの一人暮らし、食事は自分で用意しないといけない。
 面倒だが、こればかりはどうしようもないと事だった。
 
 
 だってムロだからで全ての理由が説明出来てしまうが、ムロはイケてない中年の
 おじさんだからだ。そんなおじさんが家庭を持つなんて事はとっくの昔に諦めて
 いた。
 
 
 自分の事だ、自分が一番よく知っている。
 ムロは鏡に映った自分の姿を見てトイレに行く事にした。
 
 
 トイレのドアノブを回してドアを開けパンツを下ろして便座に座ろうとしたら
 そこには便座がなかった。
 
 
 
 
 *****
 
 
 
 
「うわあ」


 ムロはそのまま後ろに転がる。
 自分がどんな状態なのかも分からないので周りを見渡せば、
 そこはムロがまったく知らない場所だった。
 
 
 
 



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