異世界転生。「この世界は歪んでいる。」

桂木 鏡夜

文字の大きさ
3 / 6
一章【ー出会いー】

2話「エルフの幼女。」

しおりを挟む
  「ぐあぁぁ!や、やめろぉぉ!」

 振り返ると、黒い鎧を纏った男が店主に剣を向けていた。

  店主は片足を切断され血を吹き出しながらのたうち回っている。


「やめろ?可笑しな事をいう人間だ。我が同胞のその言葉を無視してきた奴が言うセリフではないな。」

 チャキ!。

 父が剣を構えた。黒鎧はそれを無視し、ゆっくりと店主に歩みよる。

 店主は無くなった足を引きずりながら必死に後ずさりすると父が止めに入る。

「やめろ!!ここが私、グラフィス辺境伯の地と知っての狼藉か!?」

 父がそう言うと黒鎧は父に振り返る。

「これは、これは。辺境伯様で。探す手間が省けましたな。」

 父は怪訝な表情を浮かべる。

「私を探していたのか?ふっ。面白い。私が辺境伯という拍を魅せてくれ‥」

 バシュ!!!

「る?」

 ボトッ。

 その一瞬。ここにいる皆全てが喉を詰まらせた。

 父の首が落ちたのだ。

「キャァァァ!!!」

 母の悲鳴が響き渡る。

 母は急ぎ父の首を持ち上げ、首を父の身体に何度も何度も取り付けようと試みる。

 だが着くはずもなく、母のドレスが血みどろになるだけだ。

「ぐあぁぁあ!!」

 またもや悲鳴が聞こえメルの視線が店主に向けられると、店主は縦二つに別れていた。

「次は子供か。子供を殺すのは不本意だが、今の世に侵された子は絶たねばならぬ。せめて一瞬にして息を止めてやろう。」

 黒鎧は瞬時にクリスの前に立つ。

 ボトッ。

 また首が落ちる。

 メルはそれを黙って見るしかなかった。

 そしてクリスの目は「助けて」と訴えかける様にメルを真っ直ぐと見ていた。

 メルの瞳には自然と涙が溢れだし、恐怖の余りか失禁し股を濡らす。

 動けないメルに黒鎧は歩みより剣を振り下ろした。

 ザシュ!!!

 だが斬られたのはメルではなく。自分の母だった。

 母がメルを庇ったのだ。

 母はメルに崩れ落ちると、最後の力を振り絞り、涙ながらにメルを抱き寄せた。

「ごめん‥ね。私。‥最後まで貴方を守ってあげれない。ごめんね。‥メル。愛して‥いるわ。」

 ズバシュ!!!

 涙を浮かべ笑顔を作る母の首が、目の前で飛んだ。

 血しぶきがメルの身体全体に飛び散りメルの感情が崩壊する。

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 メルは勢いで手に持つ剣を抜き取り黒鎧に突っ込んだ。

 だがその剣は掠ることもなく空を切る。
 
 それでもメルは諦めず手に持った砂を投げつけた。

 黒鎧はその瞬間動きを止める。そのタイミングでメルは剣を振るった。

バシュッ!!

 しかし虚しく、斬り落とされたのはメルが剣を持つ左手だった。

「死を覚悟し、尚諦めず立ち向かってくるその心行きは良し。この世で出会わなければ良い強者となったろう。」

 ドッ!!!

 重い衝撃がメル腹部に響く。

 そしてメルは吹き飛ばされ武器屋の壁を突き破り瓦礫の下敷きとなった。

(何なんだよいったい‥。)


 黒鎧は事を終えるとダークエルフへと歩み寄り、首輪を外す。

「もう大丈夫だ。怖かったろう。」

 そう言って黒鎧はダークエルフの頭を撫でるとダークエルフの目から涙がポトポトと落ちた。

「共にくるか?」

 ダークエルフはコクコクと頷くと、黒鎧はダークエルフを連れその場を去った。

 〇〇〇〇

 メルは暖かい光に包まれている。

 (暖かい。なんだこれは?死んだんじゃ‥)

 徐々に意識が冴えてきて目を開く。

 すると、メルの顔を心配そうに見つめる美しい幼女がいた。

 耳は尖り肌は純白である。

(エルフ‥)

 そして特に印象的だったのが瞳の色だ。右目が青、左目が緑の色をしていた。

「ってか俺の手!!‥!!?」

 メルが無くなった手を見ると、傷口から溢れ出ていた筈の血が止まっていた。

「お前が直してくれたのか?」

 メルの発言にエルフは首を縦に動かすと、メルに指示する様に扉の向こうを指差した。

「もう、ここは持たない。早く出て。」

「何言って‥。」

 メルは発言しようとするが今の状況にようやく気づく。

 武器屋が燃えている。今にも崩れそうだ。

 メルは急ぎ起き上がりエルフに手を伸ばす。

 するとエルフはキョトンとした表情を見せる。

「何してんだよ!早くここを出るぞ!」

 メルの発言にさらに驚きを見せるエルフ。

 それもその筈。この世界で人間以外の種族は誰彼構わず酷い仕打ちを受けていた筈だからだ。

 そんなエルフの幼女に人間であるメルが手を差し伸ばしたのだ。

「おい!早く立てよ!崩れちまうだろ!」

 そう言ってメルがエルフの手を無理やり取り、立たせようとするとエルフの足に痛みが走り、顔を歪ませた。

 メルはそれに気づき、エルフの足を見る。そこには骨が見える程の傷を負っていた。

「なんだよこれ!!お前!俺を治しときながら自分を治さなかったのか?」

「君を治療中に天上が落ちてきて‥足に当たったの。」

「バカ!お前!自分の治療が先だろ!早く治せ!」

「無理。もう‥魔力なくなっちゃった。」

「な!!?」

 メルは信じられないとばかりの表情をする。

「大丈夫。私を置いていってもいいよ。誰も君を恨んだりしないから。」

 メルは目を大きく開けると、いきなり自分の頬をひっぱたいた。

 その様にエルフはまた驚き目を丸くする。

(俺は一体何やってんだ?こんな幼い子にこんな事言わすなんてバカだろ!)

 メルは強引にエルフを背中に背負い込んだ。

 身体が小さい為、小さな幼女の体格とはいえドッシリと身体全体に負荷が掛かる。

 だけどメルは歯を食いしばりエルフを引きずりながら動きだす。

 エルフは拒否しようともしたが、必死なメルの姿に目を奪われると、静かにメルの背中へと身を委ねたのだった。

「まってろ!必ず助けてやっからな!」



 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...