神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

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第6章

51.お義姉様もお怒り中

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 ◆◆◆

『私の炎がアマーリエとアンディを襲った』

 ブレイズの放った言葉が、乾いた木々に燃え移る猛火のごとく放たれた。抑揚のないその声が、逆に彼女の怒りを表している。

『私の力が、私の義妹と同胞を襲った。私の大切な存在を』

 若干表現を変えて繰り返すブレイズ。瞋恚しんいに燃えるルビー色の瞳、その中に轟く業火。天界の共有領域にある広間に集った神々が、当惑を滲ませて顔を見合わせる。
 そっと気配を探ると、下座の端にいるマーカスが気遣いの視線を向けてくれているのが分かった。場内にいる金髪碧眼や黒髪黒目の神々もだ。彼らのほとんどは、元聖威師であった者たちだ。

『アマーリエ、怪我は無かった? アンディも』

 優しげな顔に憂いを乗せて聞くのは当真。隣には、優美な面を顰めた恵奈がいる。フルードとアシュトン、アリステル、それに佳良やオーネリア、ライナスと当波たちも、デカデカと『心配』と書かれた面差しを向けて来る。
 彼らがいるのは広間の奥。上座に当たる位置で、色持ちの神々が君臨している。

「はい。皆様方のご加護を持ちまして、私もアンディも傷一つ負っておりません」

 被害者であり渦中の者となったアマーリエは、有色の神々の前で拝礼した。

(うぅ……どうしてこんな場所で。神々のど真ん中じゃない)

 本当は天馬が暴れた時のように、フレイムにさっと報告してもらいたかったが、今回はそうはいかなかった。天馬の件と委任状盗難から間を空けずに起こった騒動であり、水晶神とアンディも被害に遭ったため、高位の神々が状況を憂慮して全体集合をかけたのだ。
 委任状窃盗事件は早々に決着を付けられたものの、火神の采配でアマーリエ付きに割り振られたマイカの配置変更をした以上、報告を上げないわけにはいかず、既に天界で周知の事実となっている。

(アンディは大丈夫かしら)

 今一人の当事者であるアンディは、この位置に出るよう言われた際、緊張のあまり過呼吸を起こしてしまった。今はミンディや大樹たちと共に後方に下げられており、金剛神と桜梅桃神、地上番以外の聖威師たちが側に付いてくれている。ラモスとディモスもそこにいた。

『フレイムが居合わせたことが不幸中の幸いだったわ。そうでなければどうなっていたか』

 姉神の言葉に黙って目礼するフレイムは、上座の中で最もアマーリエに近い位置に佇んでいる。山吹色の瞳に、見慣れた明るさと親しみやすさは無い。感情を表出させぬ無表情の裏で、煮えくり返るような憤怒が逆巻いている。

『抑えろブレイ。皆が怯えている』

 ブレイズより数歩後ろで成り行きを見守っていた葬邪神が宥める。その幅広の肩の上には、幼児姿の疫神がテーンと座っていた。仲が悪いのか良いのか分からない双子である。

『分かっているわ。……何が起こったか説明してくれる?』

 口調を和らげたブレイズが問いかけたのは、アマーリエの横で畏まっている水晶神だ。高位神がズラリと居並ぶ前に出る羽目になり、傍目から見ても分かるほど強張っている。

『色持ち様方にご説明申し上げます。私は愛し子を……ソルを寝かし付けた後、自領の神苑に出て空を見ておりました。そうしましたら急に背後が明るくなり、振り向くと神殿に火の手が上がっていたのです』

 硬い声で述べるクリスタルの神は、12歳程の少年の姿をしている。容貌は神に相応しく完成された造形美。その眼窩にはまる虹彩は黒、瞳孔は無色透明。肩に付かない長さの髪は滑らかな絹布のような質感で、けぶるような白色。

『私の神威では到底太刀打ちが叶わず、対処のしようがありませんでした。世界を壊さぬよう抑えている真価を表出させれば違ったのでしょうが、それは最後の手段ですので』

 当時を思い出すかのように眉を寄せ、幼さを色濃く残す声が説明を続ける。

『起こった事象が火事ですので、火炎もしくは水を司る高位神に助けを求めようと考えました。私は神格の高い神々にお目通りしたことが少ないのですが、大饗の宴でお話しさせていただきました焔神様と燁神様のご尊顔が思い浮かび、咄嗟に連絡を飛ばしました』

 水晶神は運良く外に退避できていたため、炎から距離を取れば念話が使えたそうだ。ただし、炎の中にいるアンディを強制転移で呼び寄せることはできなかった。

「私からも、アンディから聞き取った話を代理でお伝えさせていただきます」

 クリスタルの少年神が言葉を切ったタイミングで、アマーリエは口を挟んだ。アンディ本人は後ろで伸びてしまっているので、代わりに話すことにしたのだ。

「あの子が眠っていたところ、パチパチという音が聞こえて目が覚めたそうです。その時点で窓の外は炎に包まれており、逃げようとドアを開けても廊下が高温となっていて部屋から出られず、転移も使えなかったと」
『起きた時にはもう出火していたということね。火が付いた瞬間は誰も見ていないの?』
『申し訳ございません、煉神様。私もソルも、使役たちにも確認したのですが、気が付いた時には既に燃えておりました』
『謝ることではないわ。神域の門は開けていたのね?』
『はい』

 アンディの上司であるアマーリエやリーリア、ランドルフたちが挨拶に来る可能性を考え、門を解放していたそうだ。神面を抑制しているアマーリエたちだが、有している神格自体は高位のものだ。色持ちではない水晶神からすれば、軽視できる相手ではない。

『ならば、私の神威の欠片が何かの拍子に入り込んだのかしら。いえ、それにしてもおかしいわね』

 ブレイズが眉を顰めて唸る。少し切れ端が飛んだくらいで火事を起こすような危険な神威など、垂れ流しにしているはずがない。

『いずれにせよ、原因は分からないのね。ならば過去視をして――』
『もうやった』
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