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第6章
56.昂然と在れ
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一方、葬邪神は腕を止め、クルリと振り向いた。顔面の布は降りており、容姿は見えなくなっている。
『今の言葉はつまり、俺の決定が納得できないのかな?』
布の壁に取り巻かれた彼の様子は、くぐもった声と気配でしか推測できない。だが、雰囲気を感じる限り、不快感や怒りは抱いていないようだった。純粋にアマーリエの言葉を確認している。
「大変恐れながら、ご拝察の通りにございます。私は神官府の長たる大神官として、神格を持つ者の端くれとして、この精霊に深い憤りを抱いております」
声が掠れないように、裏返らないように振り絞りながら、可能な限り自信を浮かべた表情を作る。ここで臆してはならない。怯んではならない。退いてはならない。
「この度被害を受けましたアンディ・ソル・アーシエは、神官府の次代を担う存在にして、私の後継候補。我が同胞でもあり、かけがえのない存在なのです」
ちびっ子たちは、れっきとした次代の大神官ないし神官長だ。聖威師として、既に世界王たる帝国と皇国の王をも超えた位置付けにいる。
「我ら聖威師の宝を私欲に利用した愚か者が、恐れ多くも尊き葬邪神様より褒賞を賜り、願いを叶えていただくなど、狭量な身では得心がいきかねます」
葬邪神の愛し子になるということは、あくまで褒美であり温情なのだという位置付けを、逆に利用する。
「罪を犯した者には褒賞ではなく罰を。切願成就ではなく挫折をお与えいただきたく」
(どうにか処罰を与える方向に持っていければ、恩赦が適用されるはず。後はアンディさえ同意してくれれば……)
火事の被害者であり当事者のアンディが赦免を望めば、水晶神もその意思を無下にはしないだろう。クリスタルの神は穏和な性格で、愛し子の心を大切にする。
(アンディが自分の口で意思を表明するのが一番だけれど、どうしても無理そうならば、ルルアージュちゃんたち経由で考えを確認してもらうしかないわね)
「――大神様方に、何卒伏してお願い申し上げます」
もつれそうになる舌を宥めて言い切ったアマーリエは、優雅に拝礼する。神に対し最大限の礼儀と敬意を払いながらも、従容たる姿を崩さず、昂然と相対する。フルードが、アリステルが、アシュトンが――かつての聖威師たちが、皆そうして来たように。
連綿と受け継がれた神官府の長の位と生き様を今この時に受け継いでいるのは、他ならぬ自分だ。情けない姿など意地でも見せてやるものか。
『……なるほど。顔を上げて良いぞ。うん、一理ある意見だなぁ』
数瞬の沈黙の後、葬邪神が言った。体を起こしたアマーリエは、彼が首を縦に振ったことを、布の動きから読み取った。ボロ布を纏ったその姿が、見知った青年のものに戻る。光を通さぬ漆黒の双眸が、どこか感慨深げな色を帯びていた。
『お前が大神官になってから5年か。神にとっては半瞬にも見たぬ刹那でしかない。だが、お前にとっては濃い時間だったようだ。最初に見えた時は、フルードの後に付いてヨチヨチと歩いていたお前が、随分と立派になった。幾多の出来事を乗り越え、自分の足で立てている』
神々の長兄から投げられた最上級の賛辞が、アマーリエの心に沁みる。だが、葬邪神の言葉には続きがあった。
『お前の主張には一定の理がある。それは認めよう。……ただ、それはそれとしてだな~』
その瞬間、フレイムとブレイズが身動ぎし、フルードがラミルファに視線を送り、頷いたラミルファとアリステルが口を動かしかけた。しかし、それより早く甲高い声が迸った。
『今の言葉はつまり、俺の決定が納得できないのかな?』
布の壁に取り巻かれた彼の様子は、くぐもった声と気配でしか推測できない。だが、雰囲気を感じる限り、不快感や怒りは抱いていないようだった。純粋にアマーリエの言葉を確認している。
「大変恐れながら、ご拝察の通りにございます。私は神官府の長たる大神官として、神格を持つ者の端くれとして、この精霊に深い憤りを抱いております」
声が掠れないように、裏返らないように振り絞りながら、可能な限り自信を浮かべた表情を作る。ここで臆してはならない。怯んではならない。退いてはならない。
「この度被害を受けましたアンディ・ソル・アーシエは、神官府の次代を担う存在にして、私の後継候補。我が同胞でもあり、かけがえのない存在なのです」
ちびっ子たちは、れっきとした次代の大神官ないし神官長だ。聖威師として、既に世界王たる帝国と皇国の王をも超えた位置付けにいる。
「我ら聖威師の宝を私欲に利用した愚か者が、恐れ多くも尊き葬邪神様より褒賞を賜り、願いを叶えていただくなど、狭量な身では得心がいきかねます」
葬邪神の愛し子になるということは、あくまで褒美であり温情なのだという位置付けを、逆に利用する。
「罪を犯した者には褒賞ではなく罰を。切願成就ではなく挫折をお与えいただきたく」
(どうにか処罰を与える方向に持っていければ、恩赦が適用されるはず。後はアンディさえ同意してくれれば……)
火事の被害者であり当事者のアンディが赦免を望めば、水晶神もその意思を無下にはしないだろう。クリスタルの神は穏和な性格で、愛し子の心を大切にする。
(アンディが自分の口で意思を表明するのが一番だけれど、どうしても無理そうならば、ルルアージュちゃんたち経由で考えを確認してもらうしかないわね)
「――大神様方に、何卒伏してお願い申し上げます」
もつれそうになる舌を宥めて言い切ったアマーリエは、優雅に拝礼する。神に対し最大限の礼儀と敬意を払いながらも、従容たる姿を崩さず、昂然と相対する。フルードが、アリステルが、アシュトンが――かつての聖威師たちが、皆そうして来たように。
連綿と受け継がれた神官府の長の位と生き様を今この時に受け継いでいるのは、他ならぬ自分だ。情けない姿など意地でも見せてやるものか。
『……なるほど。顔を上げて良いぞ。うん、一理ある意見だなぁ』
数瞬の沈黙の後、葬邪神が言った。体を起こしたアマーリエは、彼が首を縦に振ったことを、布の動きから読み取った。ボロ布を纏ったその姿が、見知った青年のものに戻る。光を通さぬ漆黒の双眸が、どこか感慨深げな色を帯びていた。
『お前が大神官になってから5年か。神にとっては半瞬にも見たぬ刹那でしかない。だが、お前にとっては濃い時間だったようだ。最初に見えた時は、フルードの後に付いてヨチヨチと歩いていたお前が、随分と立派になった。幾多の出来事を乗り越え、自分の足で立てている』
神々の長兄から投げられた最上級の賛辞が、アマーリエの心に沁みる。だが、葬邪神の言葉には続きがあった。
『お前の主張には一定の理がある。それは認めよう。……ただ、それはそれとしてだな~』
その瞬間、フレイムとブレイズが身動ぎし、フルードがラミルファに視線を送り、頷いたラミルファとアリステルが口を動かしかけた。しかし、それより早く甲高い声が迸った。
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