491 / 602
第7章
2.始めの一歩を堅実に
しおりを挟む
(最初の数回は順調に対応できていたけれど、段々吸収率が悪くなって来て、5回目で持ちこたえられずオーバーヒートになってしまったわ)
『今回は台風を想定していた。自然に発生する災害の中で、地上で起こり得る最大限と思われる規模を現象させた。風は私、雨は泡神様、雷は当波』
同席してくれていた嵐神が、ほっそりした肢体に絡む優美な領布を靡かせながら顎に指を当てる。
(皆様がこぞって協力して下さるのよね。いえ有り難いのよ、とっても有り難いことではあるのだけれども……)
アマーリエは視線を遠くへ投げてひとりごちた。神威は万能な力なので、一柱の神が全ての天災を起こすことも可能だ。だが、様々な神々が神器作製のために助力すると申し出てくれたため、全然嬉しくないオールスターズが誕生している。
なお、手を挙げてくれた神の中には魔神もいる。神器は地下世界の存在からの襲撃にも対応できるようにしたいので、魔を司る神の協力は有り難い。また、高位神だけでなく、金剛神と水晶神、桜梅桃の女神に大公家や一位貴族の先達たち、マーカスも含め色無しの神々も数多協力してくれている。
『世界規模の災害を吸収すると想定した場合、現段階では4回が限度ですね』
フルードが思案げに呟いた。その目が見遣る方向には、砕けた玉の欠片の一つが転がっている。
『神器の性能と耐久度を高め、自動回復機能を強化した上で修復専用の神器も別途で作製した方が良いでしょう。本体と修復用の神器はそれぞれ複数個ずつ創生しておけば安心かと。ローナと当波様はどう思われますか?』
『私も同様に思います。下位互換の霊具を作り、設計書を残しておくのも一手かと。そうしておけば、仮に遠い未来で神器が壊れてしまっても、霊具を量産して凌げます。ただ、神器や霊具が心根の良くない者の手に渡れば、悪用されるやもしれません』
天災で具象する大自然の力を吸収し、生活に必要なエネルギーに変換する代物だ。内部に貯め込んでいる膨大な力を乱用されれば惨事が起こる。
『神官府と複数名の高位霊威師たちが厳正に管理するよう、昇天前に念押しをしておくべきだね。……ただ、500年後には、神官府や国の状況が現在とは変わっているかもしれない。最終的な判断はその時の聖威師に一任すれば良いと思うよ』
当波がゆったりとした笑みを浮かべて言った。温和な面を彩る茫洋とした眼差しは、いずれ来る未来に据えられているかのようだ。
『最後の日を迎えるまでに多くの神々と聖威師が神器作製に携わっていけば、最新の情勢に即した発案や新しいアイデアの提言が都度なされていくだろう。それは今後500年の間に顕現する聖威師に委ねるとして、私たちは最初の一歩を堅実に固めることに専念しよう』
それは最もな意見だった。まだ数百年の猶予がある現時点から、全てを細かく決めてしまうことはできない。今はそれよりも、しっかりとした土台を作っていく時期だ。
(使い勝手ももっと考えなくては。使用時には所有者に結界を張るようにしようかしら。形状も玉ではなく、装着型にした方が持ち運びやすいわよね)
最大級の災害の中、徒人が両手に神器を抱えてウロウロできるはずがない。そんな悠長なことをしている間に命を持って行かれる。今はアマーリエが生身で運搬使用しているが、それは聖威師だからこそ可能な芸当だ。人間が同じことをしようと思えば、高位の霊威師でなければできないだろう。
(デザインや意匠は後代の聖威師たちに任せるとして、私たちは機能を少しでも作り込んでおかなくては。いずれにしても改良の余地ありね)
胸中で唸っている間に、フロースもうーんと首を捻った。
『同時に幾つもの天災が発生することだってある。複数の事象に対応できるようにもしないと。他の代表的な災害と言えば、地震や火山、津波や洪水、急激な気候変動とかかな。今度は砂神様と焔神様に模擬災害を起こしてもらおう。ウェイブも協力してくれるよ』
砂神はルルアージュの主神だ。地神の御子神でもある。
『自然災害とは異なるが、伝染病の蔓延などもある。神器に治癒機能も加えれば良い。治療専用の神器を別で創生しても良いがね。二の兄上に頼んでごらん、それは面白いと、ノリノリで実験に付き合ってくれるだろう』
「え、疫神様ですか。確かに疫病はお手の物だと思いますけれど……」
アマーリエは及び腰になった。今は聖威師たちに免じて抑えてくれているが、あの自由奔放な神は世界への加減も慈悲も容赦も持たない。
『心配せずとも僕が一緒にいるよ。二の兄上の悪神姿も見られるかも……いや、それはないか。仮にあっても見ない方が良い。アマーリエやリーリアにはショックが大きすぎる』
『今回は台風を想定していた。自然に発生する災害の中で、地上で起こり得る最大限と思われる規模を現象させた。風は私、雨は泡神様、雷は当波』
同席してくれていた嵐神が、ほっそりした肢体に絡む優美な領布を靡かせながら顎に指を当てる。
(皆様がこぞって協力して下さるのよね。いえ有り難いのよ、とっても有り難いことではあるのだけれども……)
アマーリエは視線を遠くへ投げてひとりごちた。神威は万能な力なので、一柱の神が全ての天災を起こすことも可能だ。だが、様々な神々が神器作製のために助力すると申し出てくれたため、全然嬉しくないオールスターズが誕生している。
なお、手を挙げてくれた神の中には魔神もいる。神器は地下世界の存在からの襲撃にも対応できるようにしたいので、魔を司る神の協力は有り難い。また、高位神だけでなく、金剛神と水晶神、桜梅桃の女神に大公家や一位貴族の先達たち、マーカスも含め色無しの神々も数多協力してくれている。
『世界規模の災害を吸収すると想定した場合、現段階では4回が限度ですね』
フルードが思案げに呟いた。その目が見遣る方向には、砕けた玉の欠片の一つが転がっている。
『神器の性能と耐久度を高め、自動回復機能を強化した上で修復専用の神器も別途で作製した方が良いでしょう。本体と修復用の神器はそれぞれ複数個ずつ創生しておけば安心かと。ローナと当波様はどう思われますか?』
『私も同様に思います。下位互換の霊具を作り、設計書を残しておくのも一手かと。そうしておけば、仮に遠い未来で神器が壊れてしまっても、霊具を量産して凌げます。ただ、神器や霊具が心根の良くない者の手に渡れば、悪用されるやもしれません』
天災で具象する大自然の力を吸収し、生活に必要なエネルギーに変換する代物だ。内部に貯め込んでいる膨大な力を乱用されれば惨事が起こる。
『神官府と複数名の高位霊威師たちが厳正に管理するよう、昇天前に念押しをしておくべきだね。……ただ、500年後には、神官府や国の状況が現在とは変わっているかもしれない。最終的な判断はその時の聖威師に一任すれば良いと思うよ』
当波がゆったりとした笑みを浮かべて言った。温和な面を彩る茫洋とした眼差しは、いずれ来る未来に据えられているかのようだ。
『最後の日を迎えるまでに多くの神々と聖威師が神器作製に携わっていけば、最新の情勢に即した発案や新しいアイデアの提言が都度なされていくだろう。それは今後500年の間に顕現する聖威師に委ねるとして、私たちは最初の一歩を堅実に固めることに専念しよう』
それは最もな意見だった。まだ数百年の猶予がある現時点から、全てを細かく決めてしまうことはできない。今はそれよりも、しっかりとした土台を作っていく時期だ。
(使い勝手ももっと考えなくては。使用時には所有者に結界を張るようにしようかしら。形状も玉ではなく、装着型にした方が持ち運びやすいわよね)
最大級の災害の中、徒人が両手に神器を抱えてウロウロできるはずがない。そんな悠長なことをしている間に命を持って行かれる。今はアマーリエが生身で運搬使用しているが、それは聖威師だからこそ可能な芸当だ。人間が同じことをしようと思えば、高位の霊威師でなければできないだろう。
(デザインや意匠は後代の聖威師たちに任せるとして、私たちは機能を少しでも作り込んでおかなくては。いずれにしても改良の余地ありね)
胸中で唸っている間に、フロースもうーんと首を捻った。
『同時に幾つもの天災が発生することだってある。複数の事象に対応できるようにもしないと。他の代表的な災害と言えば、地震や火山、津波や洪水、急激な気候変動とかかな。今度は砂神様と焔神様に模擬災害を起こしてもらおう。ウェイブも協力してくれるよ』
砂神はルルアージュの主神だ。地神の御子神でもある。
『自然災害とは異なるが、伝染病の蔓延などもある。神器に治癒機能も加えれば良い。治療専用の神器を別で創生しても良いがね。二の兄上に頼んでごらん、それは面白いと、ノリノリで実験に付き合ってくれるだろう』
「え、疫神様ですか。確かに疫病はお手の物だと思いますけれど……」
アマーリエは及び腰になった。今は聖威師たちに免じて抑えてくれているが、あの自由奔放な神は世界への加減も慈悲も容赦も持たない。
『心配せずとも僕が一緒にいるよ。二の兄上の悪神姿も見られるかも……いや、それはないか。仮にあっても見ない方が良い。アマーリエやリーリアにはショックが大きすぎる』
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?
ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十周年。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。
※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
君といるのは疲れると言われたので、婚約者を追いかけるのはやめてみました
水谷繭
恋愛
メイベル・ホワイトは目立たない平凡な少女で、美人な姉といつも比べられてきた。
求婚者の殺到する姉とは反対に、全く縁談のなかったメイベル。
そんなある日、ブラッドという美少年が婚約を持ちかけてくる。姉より自分を選んでくれたブラッドに感謝したメイベルは、彼のために何でもしようとひたすら努力する。
しかしそんな態度を重いと告げられ、君といると疲れると言われてしまう。
ショックを受けたメイベルは、ブラッドばかりの生活を改め、好きだった魔法に打ち込むために魔術院に入ることを決意するが……
◆なろうにも掲載しています
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
婚約破棄から50年後
あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。
そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。
『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』
鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」
幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された
公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。
その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、
彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。
目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。
だが、中身は何ひとつ変わっていない。
にもかかわらず、
かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、
「やり直したい」とすり寄ってくる。
「見かけが変わっても、中身は同じです。
それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」
静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。
やがて彼女に興味を示したのは、
隣国ノルディアの王太子エドワルド。
彼が見ていたのは、美貌ではなく――
対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。
これは、
外見で価値を決められた令嬢が、
「選ばれる人生」をやめ、
自分の意思で未来を選び直す物語。
静かなざまぁと、
対等な関係から始まる大人の恋。
そして――
自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。
---
最初からここに私の居場所はなかった
kana
恋愛
死なないために媚びても駄目だった。
死なないために努力しても認められなかった。
死なないためにどんなに辛くても笑顔でいても無駄だった。
死なないために何をされても怒らなかったのに⋯⋯
だったら⋯⋯もう誰にも媚びる必要も、気を使う必要もないでしょう?
だから虚しい希望は捨てて生きるための準備を始めた。
二度目は、自分らしく生きると決めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
いつも稚拙な小説を読んでいただきありがとうございます。
私ごとですが、この度レジーナブックス様より『後悔している言われても⋯⋯ねえ?今さらですよ?』が1月31日頃に書籍化されることになりました~
これも読んでくださった皆様のおかげです。m(_ _)m
これからも皆様に楽しんでいただける作品をお届けできるように頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします(>人<;)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる