499 / 602
第7章
10.レシスの祖
しおりを挟む
かつてノイズがかった過去視で目にした、遥か遠い祖先。遊運命神シュナイツァーに取り縋り、神罰牢に落とされようとしているレシスの末裔への慈悲を請うていた。その後、眠り神の一柱となり、今もなお覚醒していないと聞いている。
『もしかして、また過去視をしたのか?』
「何とも言えないけれど……そうかもしれないわ」
神格を抑えている身なので、不鮮明にしか視認できなかったのだろうか。遠くとも血縁関係にあるため、血が呼応して粗画像ながらも視えたのかもしれない。以前と同じように。
『だが、レシスの神罰はひと段落付いてるはずだぜ。どんな夢だったんだ?』
「女の子は泣いていたわ。何かをすごく心配していたの。多分だけれど、神器の作用がどうだとか言っていた気がするわ」
粗い映像と雑音混じりの声を手繰り寄せながら、アマーリエは身を起こした。かかっていた掛け布が体から滑り落ち、滑らかな白肌が露わになる。巨大な寝台の四方を覆う天蓋の外に、従神や使役の気配はない。就寝時は全員下がらせている。
「それで、確かめると呟いて立ち去ったのよ。神々に知られたら止められるから、こっそり確認するって。自分の手足になる人間を欲しがっていたわ。そこで夢が終わったの」
『今のタイミングでその内容か。何かキナ臭いな。あの神はまだ寝てるって聞いたが』
眉間に皺を寄せたフレイムも上体を起こし、愛妻に神衣を着せかけた。彼自身は一瞬で着衣している。
『侵入した神官たちの潜伏場所も知れてない状況なんだ。姉神か葬邪神様に話した方が良いんじゃねえか。レシスの祖なら悪神だから、葬邪神様の方か』
「けれど、ただの夢かもしれないわ。下手に騒いで何もなかったら……」
フレイムの提案は最もだが、本当に過去視や遠視をしたという確証はない。念のために報告しておく方が良いとはいえ、神々に与える影響を思えば、今の段階で天のまとめ役に話すことは気が引けた。
「まずはフルード様とアリステル様に相談しても良いかしら。同じレシスの血筋だし、いきなり葬邪神様の所に行くよりは気軽に話せるわ」
『そうだな。んじゃ明るくなったら念話するか。まだ暗いし、もう一眠りしろよ』
優しい手付きで抱擁され、夫と共にベッドに倒れ込む。遠のいた温もりに再び包まれたアマーリエがフレイムの胸に頰を擦り寄せると、囁きが落ちて来た。
『これはあくまで可能性の話として聞いてくれ。神官たちだが――これだけ探しても見付からねえ、複数の神々が目撃してるし見間違いでもねえ、地上や神罰牢を視てもいねえ、となれば……どっかの神が、自分の領域に匿ってるのかもしれん』
(えっ)
耳元で発された吐息混じりの言葉に、思わず視線を上げる。真剣な光を放つ山吹色の眼とぶつかった。
「ど、どうしてそんなことをするの? それに、神域の門を解放していたか施錠を緩めていた神々は、全員内部を確認して下さって、異常なしと報告しておられたわよ」
報告の場にはブレイズと葬邪神もいた。神格を抑えている状態のアマーリエに対してはともかく、あの二柱の前で堂々と偽りを述べる神がいるだろうか。
『理由は俺も分からねえ。けど、仮にユフィーの視た夢に意味があるとすれば、レシスの祖が鍵を握ってる気がする。あの神は寝てるから、神域も固く閉ざされてるし、誰も中を確認してないはずだ。……だが、実は起きて密かに動き出し、何かの目的で神官たちを匿っていたとすれば――』
アマーリエの胸中に、これまで妄想と勘違いを拗らせて騒動を起こしてくれた元眠り神たちの姿が去来する。魔神、疫神、遊運命神、戦神に闘神。最終的には全員誤解が解けて円満解決したものの、彼の神々には随分と胃が縮む体験をさせられた。
「……フルード様とアリステル様によく話してみるわ」
もうあんな思いはごめんである。安心を求めてフレイムの体にピタリとくっ付きながら、アマーリエは絞り出すように呻いた。
(何事も起こらずにエアニーヌたちが見付かって、平穏無事な幕引きができると良いのだけれど……)
結論を言えば、そう上手くいくはずがなかった。
『もしかして、また過去視をしたのか?』
「何とも言えないけれど……そうかもしれないわ」
神格を抑えている身なので、不鮮明にしか視認できなかったのだろうか。遠くとも血縁関係にあるため、血が呼応して粗画像ながらも視えたのかもしれない。以前と同じように。
『だが、レシスの神罰はひと段落付いてるはずだぜ。どんな夢だったんだ?』
「女の子は泣いていたわ。何かをすごく心配していたの。多分だけれど、神器の作用がどうだとか言っていた気がするわ」
粗い映像と雑音混じりの声を手繰り寄せながら、アマーリエは身を起こした。かかっていた掛け布が体から滑り落ち、滑らかな白肌が露わになる。巨大な寝台の四方を覆う天蓋の外に、従神や使役の気配はない。就寝時は全員下がらせている。
「それで、確かめると呟いて立ち去ったのよ。神々に知られたら止められるから、こっそり確認するって。自分の手足になる人間を欲しがっていたわ。そこで夢が終わったの」
『今のタイミングでその内容か。何かキナ臭いな。あの神はまだ寝てるって聞いたが』
眉間に皺を寄せたフレイムも上体を起こし、愛妻に神衣を着せかけた。彼自身は一瞬で着衣している。
『侵入した神官たちの潜伏場所も知れてない状況なんだ。姉神か葬邪神様に話した方が良いんじゃねえか。レシスの祖なら悪神だから、葬邪神様の方か』
「けれど、ただの夢かもしれないわ。下手に騒いで何もなかったら……」
フレイムの提案は最もだが、本当に過去視や遠視をしたという確証はない。念のために報告しておく方が良いとはいえ、神々に与える影響を思えば、今の段階で天のまとめ役に話すことは気が引けた。
「まずはフルード様とアリステル様に相談しても良いかしら。同じレシスの血筋だし、いきなり葬邪神様の所に行くよりは気軽に話せるわ」
『そうだな。んじゃ明るくなったら念話するか。まだ暗いし、もう一眠りしろよ』
優しい手付きで抱擁され、夫と共にベッドに倒れ込む。遠のいた温もりに再び包まれたアマーリエがフレイムの胸に頰を擦り寄せると、囁きが落ちて来た。
『これはあくまで可能性の話として聞いてくれ。神官たちだが――これだけ探しても見付からねえ、複数の神々が目撃してるし見間違いでもねえ、地上や神罰牢を視てもいねえ、となれば……どっかの神が、自分の領域に匿ってるのかもしれん』
(えっ)
耳元で発された吐息混じりの言葉に、思わず視線を上げる。真剣な光を放つ山吹色の眼とぶつかった。
「ど、どうしてそんなことをするの? それに、神域の門を解放していたか施錠を緩めていた神々は、全員内部を確認して下さって、異常なしと報告しておられたわよ」
報告の場にはブレイズと葬邪神もいた。神格を抑えている状態のアマーリエに対してはともかく、あの二柱の前で堂々と偽りを述べる神がいるだろうか。
『理由は俺も分からねえ。けど、仮にユフィーの視た夢に意味があるとすれば、レシスの祖が鍵を握ってる気がする。あの神は寝てるから、神域も固く閉ざされてるし、誰も中を確認してないはずだ。……だが、実は起きて密かに動き出し、何かの目的で神官たちを匿っていたとすれば――』
アマーリエの胸中に、これまで妄想と勘違いを拗らせて騒動を起こしてくれた元眠り神たちの姿が去来する。魔神、疫神、遊運命神、戦神に闘神。最終的には全員誤解が解けて円満解決したものの、彼の神々には随分と胃が縮む体験をさせられた。
「……フルード様とアリステル様によく話してみるわ」
もうあんな思いはごめんである。安心を求めてフレイムの体にピタリとくっ付きながら、アマーリエは絞り出すように呻いた。
(何事も起こらずにエアニーヌたちが見付かって、平穏無事な幕引きができると良いのだけれど……)
結論を言えば、そう上手くいくはずがなかった。
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?
ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十周年。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。
※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
君といるのは疲れると言われたので、婚約者を追いかけるのはやめてみました
水谷繭
恋愛
メイベル・ホワイトは目立たない平凡な少女で、美人な姉といつも比べられてきた。
求婚者の殺到する姉とは反対に、全く縁談のなかったメイベル。
そんなある日、ブラッドという美少年が婚約を持ちかけてくる。姉より自分を選んでくれたブラッドに感謝したメイベルは、彼のために何でもしようとひたすら努力する。
しかしそんな態度を重いと告げられ、君といると疲れると言われてしまう。
ショックを受けたメイベルは、ブラッドばかりの生活を改め、好きだった魔法に打ち込むために魔術院に入ることを決意するが……
◆なろうにも掲載しています
侯爵令嬢ソフィアの結婚
今野綾
恋愛
ソフィアは希少なグリーンアイを持つヴィンセントと結婚したが、これは金が欲しいソフィアの父の思惑と高い爵位が欲しいヴィンセントの思惑が一致したからに過ぎない
そもそもヴィンセントには美しい恋人がいる
美男美女と名高いヴィンセントとその恋人は身分に大きな差があるために結婚することは叶わないのだ
その事をソフィアも耳にしており、この結婚が形ばかりのものであることを知っていた
結婚して早々、ソフィアは実家から連れてきた侍女夫婦とあばら家に住むように言われて…
表紙はかなさんです✨
ありがとうございます😊
2024.07.05
できない子に転生しましたが、家族と食卓があれば十分です ―人間不信だった私が、ゆっくり育つ異世界生活―
愛朱ひいろ
ファンタジー
人の顔色ばかり伺い、心を壊した26歳の会社員女性。
彼女は死後、異世界で「できない子」として転生する。
魔法は使えない。
体は不器用で、成長も人より遅い。
前世の記憶のせいで、人と関わることが少し怖い。
けれどこの世界には、
見守り支えてくれる両親と、
あたたかい食卓があった。
泣いて、つまずいて、できないことに落ち込みながら、
彼女は少しずつ「できないままでも、生きていていい」と知っていく。
これは、
最強でもチートでもない主人公が、
家族と食事に支えられながら、ゆっくり育ち直す
生活密着型・異世界転生×成長×グルメファンタジー。
……の、予定です。
毎日更新できるように執筆がんばります!
『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』
鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」
幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された
公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。
その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、
彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。
目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。
だが、中身は何ひとつ変わっていない。
にもかかわらず、
かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、
「やり直したい」とすり寄ってくる。
「見かけが変わっても、中身は同じです。
それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」
静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。
やがて彼女に興味を示したのは、
隣国ノルディアの王太子エドワルド。
彼が見ていたのは、美貌ではなく――
対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。
これは、
外見で価値を決められた令嬢が、
「選ばれる人生」をやめ、
自分の意思で未来を選び直す物語。
静かなざまぁと、
対等な関係から始まる大人の恋。
そして――
自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。
---
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる