神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

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第7章

10.レシスの祖

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 かつてノイズがかった過去視で目にした、遥か遠い祖先。遊運命神シュナイツァーに取り縋り、神罰牢に落とされようとしているレシスの末裔への慈悲を請うていた。その後、眠り神の一柱となり、今もなお覚醒していないと聞いている。

『もしかして、また過去視をしたのか?』
「何とも言えないけれど……そうかもしれないわ」

 神格を抑えている身なので、不鮮明にしか視認できなかったのだろうか。遠くとも血縁関係にあるため、血が呼応して粗画像ながらも視えたのかもしれない。以前と同じように。

『だが、レシスの神罰はひと段落付いてるはずだぜ。どんな夢だったんだ?』
「女の子は泣いていたわ。何かをすごく心配していたの。多分だけれど、神器の作用がどうだとか言っていた気がするわ」

 粗い映像と雑音混じりの声を手繰り寄せながら、アマーリエは身を起こした。かかっていた掛け布が体から滑り落ち、滑らかな白肌が露わになる。巨大な寝台の四方を覆う天蓋の外に、従神や使役の気配はない。就寝時は全員下がらせている。

「それで、確かめると呟いて立ち去ったのよ。神々に知られたら止められるから、こっそり確認するって。自分の手足になる人間を欲しがっていたわ。そこで夢が終わったの」
『今のタイミングでその内容か。何かキナ臭いな。あの神はまだ寝てるって聞いたが』

 眉間に皺を寄せたフレイムも上体を起こし、愛妻に神衣を着せかけた。彼自身は一瞬で着衣している。

『侵入した神官たちの潜伏場所も知れてない状況なんだ。姉神か葬邪神様に話した方が良いんじゃねえか。レシスの祖なら悪神だから、葬邪神様の方か』
「けれど、ただの夢かもしれないわ。下手に騒いで何もなかったら……」

 フレイムの提案は最もだが、本当に過去視や遠視をしたという確証はない。念のために報告しておく方が良いとはいえ、神々に与える影響を思えば、今の段階で天のまとめ役に話すことは気が引けた。

「まずはフルード様とアリステル様に相談しても良いかしら。同じレシスの血筋だし、いきなり葬邪神様の所に行くよりは気軽に話せるわ」
『そうだな。んじゃ明るくなったら念話するか。まだ暗いし、もう一眠りしろよ』

 優しい手付きで抱擁され、夫と共にベッドに倒れ込む。遠のいた温もりに再び包まれたアマーリエがフレイムの胸に頰を擦り寄せると、囁きが落ちて来た。

『これはあくまで可能性の話として聞いてくれ。神官たちだが――これだけ探しても見付からねえ、複数の神々が目撃してるし見間違いでもねえ、地上や神罰牢を視てもいねえ、となれば……どっかの神が、自分の領域に匿ってるのかもしれん』
(えっ)

 耳元で発された吐息混じりの言葉に、思わず視線を上げる。真剣な光を放つ山吹色の眼とぶつかった。

「ど、どうしてそんなことをするの? それに、神域の門を解放していたか施錠を緩めていた神々は、全員内部を確認して下さって、異常なしと報告しておられたわよ」

 報告の場にはブレイズと葬邪神もいた。神格を抑えている状態のアマーリエに対してはともかく、あの二柱の前で堂々と偽りを述べる神がいるだろうか。

『理由は俺も分からねえ。けど、仮にユフィーの視た夢に意味があるとすれば、レシスの祖が鍵を握ってる気がする。あの神は寝てるから、神域も固く閉ざされてるし、誰も中を確認してないはずだ。……だが、実は起きて密かに動き出し、何かの目的で神官たちを匿っていたとすれば――』

 アマーリエの胸中に、これまで妄想と勘違いを拗らせて騒動を起こしてくれた元眠り神たちの姿が去来する。魔神、疫神、遊運命神、戦神に闘神。最終的には全員誤解が解けて円満解決したものの、彼の神々には随分と胃が縮む体験をさせられた。

「……フルード様とアリステル様によく話してみるわ」

 もうあんな思いはごめんである。安心を求めてフレイムの体にピタリとくっ付きながら、アマーリエは絞り出すように呻いた。

(何事も起こらずにエアニーヌたちが見付かって、平穏無事な幕引きができると良いのだけれど……)


 結論を言えば、そう上手くいくはずがなかった。
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