神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

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第7章

40.艶やかな花には毒がある

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 一方、聖威師で固まったアマーリエたちが、密やかな声で話している間に、イデナウアーはラミルファとフルードからフレイムに視線を移していた。空色の眼差しを受けたフレイムが、ふっと口端を持ち上げる。

『俺とはきちんと話したことがなかったよな。同じ場所にいたことは何度かあったが』

 顕現してからの年数で言えば、自身とは比較にならぬほど年上である少女神に、平然とぞんざいな口調で話しかける。対するイデナウアーは、敬意を表して麗しい礼を取った。やはり、神は神格が高い方が上位なのだ。

『尊き焔神様にご挨拶申し上げます。お目もじできましたこと光栄に思います』
『ああ、初めましてだな――毒華神。奇跡の神、毒神様の愛し子と話せて嬉しいぜ』

 皮肉げに放たれた声は、イデナウアーとの距離を考えるとやや大きめだった。視線も微妙に彼女から外れ、その後ろを見ている。すると、まさにその方角にあった扉が開き、小さな神官たちが出て来た。

「主神様、ドクカシンとは何ですか?」
「僕たちが待っていろと言われた部屋まで声が聞こえて来たのですが」

 フレイムはおそらく、2人がいる気配を察して言葉を投げたのだろう。共にキョトンとした顔を浮かべているエアニーヌと慧音は、こうして見ると本当にまだ子どもだった。これからこの子たちを待ち受ける未来を思うと胸が痛む。だが、両名は神官としても人としても、やってはいけないことを重ねすぎてしまった。子どもだから大目に見てあげよう、という段階はとうに通り越している。

『おやおや、出て来てしまったの。いけない子たちだね、ボクの言い付けを破っちゃうなんて』

 また喋り方が変わったと思ったアマーリエは、次の瞬間息を呑む。おっとりと目元を和ませる原初の聖威師――その顔に浮かぶ愉悦の嘲笑。その双眸を見た刹那、這い上がるような怖気が走る。芳香を放つ食虫植物にフラフラと引き寄せられ、パックリと捕らえられた昆虫を見るような目だった。

 悪神の愛子まなご。その意味がじわじわと脳裏に浸透していく。

(毒神様の御心を掴んで奇跡の聖威師になったくらいだもの。元から悪神に相応しい素養を持っていたのかもしれないわ。フルード様は、美醜を超えた魂でラミルファ様を魅了したみたいだけれど……イデナウアー様はまた違うパターンで見初められたのかしら)

 アマーリエが知る悪神の愛し子といえばもちろん、先代の大神官兄弟だ。より近しい関係にあるのはフルードの方である。まがつ神たる御子神ラミルファの心をも鷲掴みにした、優艶ゆうえんな魂。美醜や善悪という概念を凌駕し、清澄せいちょうの極致にありながら最高格の悪神をも魅了した無類の慈心。

(もしくは、昔は優しかったものの、神として永年過ごす内に悪神の性情に順応していったとか?)

 思考を巡らせかけるが、詮無いことだと気付いて止める。どちらの予想が正解に近かろうが、あるいはどちらも外れていようが、正解が分かったところで現状が良くなるわけではないからだ。

『ほー、コイツらか』

 地を這うような声を漏らしたフレイムが、山吹色の目でエアニーヌと慧音を睥睨した。小柄な2人はビクリと身を震わせ、イデナウアーの背に隠れる。念話では随分と調子良く喋り倒していたが、実際に対面してみれば神圧に小さくなっているようだ。

『うふふ、ご機嫌よう』

 神官たちを綺麗に無視し、花神がにこやかなみを浮かべて友好的に語りかけた。宿るのは純然たる親愛。目の奥に怒りや抗議を秘めている気配もない。

『花神様、ご機嫌麗しく』

 イデナウアーも破顔する。こうしてみると、やはり彼女も花の神に相応しい。実際、花神ではあるのだ。前に要らん一文字が付いているだけで。

「え……え? 花神様?」
「こっちの神も? 花神様って二柱いるのか?」

 後ろからひょっこりと顔を出したエアニーヌたちが、自身の主神と花神を交互に見ている。だが、フレイムが面倒くさそうにジロリと見遣ると、慌てて後ろへ引っ込んだ。

『君たち、少し静かにしてなさい』

 少女神が振り返り、やんわりとした口調で目尻を下げる。光風に遊ぶ花弁に優しく頰を撫でられたように、神官たちは安心した顔になった。対するフレイムはジト目だ。彼は当然気付いている。対峙する神が、穏和な花のごとき顔の裏に刷いている本性に。
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