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第7章
42.トドメを放つのは邪神様
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エアニーヌと慧音が慌てて口を抑えて黙り込む。
『手厳しいな。相手は大事な大事な愛し子なのに』
『だってこの子たちは生き餌ですから』
フレイムが皮肉げに言うと、イデナウアーはコロコロと笑った。
「え、生き餌――?」
「って……何のことだ?」
一方、今の台詞を聞いた神官たちの表情はにわかに曇っていく。何かがおかしいと気付き始めたのだろう。
『にしてもさ、この2匹は随分とボクたち好みの性格をしてる。どういった子たちなの?』
イデナウアーが聖威師たちを見て問いかけた。ボクたちとはおそらく、悪神という意味だ。
尋ねられたアマーリエたちは素早く視線を交わし合った。誰が答えるかを瞬時に相談する。なお、そんなの自分の神威で視て下さいよ――とは言えない。相手は天の神だ。
「恐れながら申し上げます」
ここは私が、と目で告げたアマーリエは口を開いた。
「エアニーヌ・スージー・アウストと楷園慧音は、共に裕福な平民の出身です。生家は神官の家系ではありません」
『そうだね、神官の家なら貴族位やそれに準じる地位を授かるはずだもん』
「はい。ただ、富豪の家に生まれたことで両親や周囲から大変丁寧に世話を焼かれて育ち、こういった気性になったようです」
甘やかされてワガママ放題のボンボンになっちまいました、というのをオブラートに包んで説明する。
『へーそうなんだー。平民の富裕層って考えようによっては得だよね。お金はあるから贅沢な暮らしができて、貴族のような責任も不自由さもない』
所詮は無位の平民という蔑みさえ気にしなければ、良いとこ取りをしているとも取れる。何より、この世界は霊威の有無と強弱が重視されるので、血筋が悪くとも無名の家でも、神官であればそれだけで上位者だ。身軽な平民の神官、というのが一番気楽で高メリットなのかもしれない。
「仰せの通りです。エアニーヌは母が、慧音は両親共に相当甘かったようで、自分の思い通りにならないことはない状況で大きくなったとのことです」
「幼児のまま大きくなった者の成れの果てですねー」
言葉を控えていたランドルフがズバッと言い捨てた。
「なっ……そんな言い方ないじゃないですか!」
「いくら聖威師様とはいえ――」
当人たちが抗議の声をあげかけた時。
『いいや、神々も同じことを言っているよ』
涼やかな美声が響いた。フロースだ。場に次々と神威が顕現する。だが、ちびっ子たちの主神やオーネリアたちの姿はない。
『最初は主神や元聖威師なども含めた全員で来るつもりだったのだけど。あまり大勢で押しかけて一斉に話しても、ダレるだけだから。こちらで相談して、私と毒神様、ママさん、アリステルが代表で来ることにしたんだ。待機している残りの神々には、随時念話や視聴覚共有で状況を連絡する』
(えっ、毒神様?)
聞き捨てならない単語に視線を走らせると、すっかり回復した様子のアリステルの隣に、見知らぬ神が身をうねらせている。
ヒィッと悲鳴混じりに息を呑む声が響いた。アマーリエの視線の先を追ったエアニーヌと慧音だ。
「な、何なのあれ!?」
「へ、蛇……?」
先代大神官の横でとぐろを巻いていたのは、巨大な蛇だった。人間を数名まとめてすっぽり包み込めそうなほど長大な体躯をしている。ヌラヌラ光る鱗は鈍色で、錆色と苔色の斑点模様があちこちに入っている。三角形を描く頭部の下からは、チロリと覗く舌は二股に裂けていた。
魅入られたように蛇を注視していた慧音が、不意に顔を引き攣らせた。一オクターブ高い声で言う。
「おい、あの蛇マダラじゃないか!?」
「嘘でしょ、だってマダラ蛇は悪神よ!?」
エアニーヌも上擦った声を出して後ずさる。神に関する古代文書に記述があるのだ。蛇の神は基本的に真っ当な神だが、マダラ模様の蛇だけは特殊で、悪神であるから気を付けろと。神官府の講義で悪神について習う際にも教えられる。
「な、何で悪神がここに来るのよ?」
『そりゃお前、ここが天界だからだろ。悪神だって天に坐す神々の一柱なんだから』
全力の叫びに、冷静に返したのはフレイムだ。ラミルファも呆れた様子で肩を竦めている。
『今更何を驚いているのだい。それを言えば僕も悪神なのだがね。さらに言うなら、ヴェーゼ――先代大神官の片割れも、先ほど来訪した黒髪で長身の青年神たちも悪神だよ。ちなみに青年神たちは僕の兄だ』
神官たちを生き餌から解放してくれないかと、フルードとアリステルがイデナウアーに探りを入れていた場に、葬邪神と疫神、ラミルファもいた。その内、真っ当な神はフルードだけである。
(悪神率高いわね)
内心でツッコむアマーリエだが、そもそもの話、イデナウアー自身が悪神なので仕方がない。
「ええっ、先代大神官は分かっていたけど、あなたも悪神!? さっき来ていた神々も!?」
「主神様に別室にいるように言われたから、少ししか見ていないけど……」
エアニーヌと慧音が呆然と目を剥いた。末の邪神がアマーリエたちを一瞥する。
『そうだよ。今は悪神らしい容姿をしていないから分かり難かったのかな。さて、役者もそろったし、話を進めたい。もうネタばらしをしてしまおう』
そう言い置いて神官たちに向き直り、トドメの言葉を放つ。
『はっきり言おう。ここの神域の主も――もっとはっきり言えば君たちの主神も――悪神なのだよ』
『手厳しいな。相手は大事な大事な愛し子なのに』
『だってこの子たちは生き餌ですから』
フレイムが皮肉げに言うと、イデナウアーはコロコロと笑った。
「え、生き餌――?」
「って……何のことだ?」
一方、今の台詞を聞いた神官たちの表情はにわかに曇っていく。何かがおかしいと気付き始めたのだろう。
『にしてもさ、この2匹は随分とボクたち好みの性格をしてる。どういった子たちなの?』
イデナウアーが聖威師たちを見て問いかけた。ボクたちとはおそらく、悪神という意味だ。
尋ねられたアマーリエたちは素早く視線を交わし合った。誰が答えるかを瞬時に相談する。なお、そんなの自分の神威で視て下さいよ――とは言えない。相手は天の神だ。
「恐れながら申し上げます」
ここは私が、と目で告げたアマーリエは口を開いた。
「エアニーヌ・スージー・アウストと楷園慧音は、共に裕福な平民の出身です。生家は神官の家系ではありません」
『そうだね、神官の家なら貴族位やそれに準じる地位を授かるはずだもん』
「はい。ただ、富豪の家に生まれたことで両親や周囲から大変丁寧に世話を焼かれて育ち、こういった気性になったようです」
甘やかされてワガママ放題のボンボンになっちまいました、というのをオブラートに包んで説明する。
『へーそうなんだー。平民の富裕層って考えようによっては得だよね。お金はあるから贅沢な暮らしができて、貴族のような責任も不自由さもない』
所詮は無位の平民という蔑みさえ気にしなければ、良いとこ取りをしているとも取れる。何より、この世界は霊威の有無と強弱が重視されるので、血筋が悪くとも無名の家でも、神官であればそれだけで上位者だ。身軽な平民の神官、というのが一番気楽で高メリットなのかもしれない。
「仰せの通りです。エアニーヌは母が、慧音は両親共に相当甘かったようで、自分の思い通りにならないことはない状況で大きくなったとのことです」
「幼児のまま大きくなった者の成れの果てですねー」
言葉を控えていたランドルフがズバッと言い捨てた。
「なっ……そんな言い方ないじゃないですか!」
「いくら聖威師様とはいえ――」
当人たちが抗議の声をあげかけた時。
『いいや、神々も同じことを言っているよ』
涼やかな美声が響いた。フロースだ。場に次々と神威が顕現する。だが、ちびっ子たちの主神やオーネリアたちの姿はない。
『最初は主神や元聖威師なども含めた全員で来るつもりだったのだけど。あまり大勢で押しかけて一斉に話しても、ダレるだけだから。こちらで相談して、私と毒神様、ママさん、アリステルが代表で来ることにしたんだ。待機している残りの神々には、随時念話や視聴覚共有で状況を連絡する』
(えっ、毒神様?)
聞き捨てならない単語に視線を走らせると、すっかり回復した様子のアリステルの隣に、見知らぬ神が身をうねらせている。
ヒィッと悲鳴混じりに息を呑む声が響いた。アマーリエの視線の先を追ったエアニーヌと慧音だ。
「な、何なのあれ!?」
「へ、蛇……?」
先代大神官の横でとぐろを巻いていたのは、巨大な蛇だった。人間を数名まとめてすっぽり包み込めそうなほど長大な体躯をしている。ヌラヌラ光る鱗は鈍色で、錆色と苔色の斑点模様があちこちに入っている。三角形を描く頭部の下からは、チロリと覗く舌は二股に裂けていた。
魅入られたように蛇を注視していた慧音が、不意に顔を引き攣らせた。一オクターブ高い声で言う。
「おい、あの蛇マダラじゃないか!?」
「嘘でしょ、だってマダラ蛇は悪神よ!?」
エアニーヌも上擦った声を出して後ずさる。神に関する古代文書に記述があるのだ。蛇の神は基本的に真っ当な神だが、マダラ模様の蛇だけは特殊で、悪神であるから気を付けろと。神官府の講義で悪神について習う際にも教えられる。
「な、何で悪神がここに来るのよ?」
『そりゃお前、ここが天界だからだろ。悪神だって天に坐す神々の一柱なんだから』
全力の叫びに、冷静に返したのはフレイムだ。ラミルファも呆れた様子で肩を竦めている。
『今更何を驚いているのだい。それを言えば僕も悪神なのだがね。さらに言うなら、ヴェーゼ――先代大神官の片割れも、先ほど来訪した黒髪で長身の青年神たちも悪神だよ。ちなみに青年神たちは僕の兄だ』
神官たちを生き餌から解放してくれないかと、フルードとアリステルがイデナウアーに探りを入れていた場に、葬邪神と疫神、ラミルファもいた。その内、真っ当な神はフルードだけである。
(悪神率高いわね)
内心でツッコむアマーリエだが、そもそもの話、イデナウアー自身が悪神なので仕方がない。
「ええっ、先代大神官は分かっていたけど、あなたも悪神!? さっき来ていた神々も!?」
「主神様に別室にいるように言われたから、少ししか見ていないけど……」
エアニーヌと慧音が呆然と目を剥いた。末の邪神がアマーリエたちを一瞥する。
『そうだよ。今は悪神らしい容姿をしていないから分かり難かったのかな。さて、役者もそろったし、話を進めたい。もうネタばらしをしてしまおう』
そう言い置いて神官たちに向き直り、トドメの言葉を放つ。
『はっきり言おう。ここの神域の主も――もっとはっきり言えば君たちの主神も――悪神なのだよ』
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