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第7章
54.魂の悪霊化
《ええ、魂の悪霊化については、神官府の講義で習いましたわね。わたくしに説明できますかしら?》
こんな時でも抜き打ちで口述試験をぶち込むあたり、リーリアも中々にスパルタだ。だが、大樹とミンディはすぐに食らいついた。
《はい。徴を発現しなかった一般人は、亡くなれば輪廻の輪に乗って転生します。今世での記憶をまっさらにした上で新しい肉体を得て、来世に生まれ変わることになります》
《でも、残して来た縁者や知己のことが気がかりで、すぐには転生せずに魂のまま留まって、様子を見ている者もいます》
俗に守護霊と呼ばれる存在だ。恨みつらみで取り憑いたり、未練から現世にしがみ付いている場合、背後霊や浮遊霊などと呼ばれる。ミンディの母親と大樹たちの両親は守護霊になっていたが、彼らが神に見初められたことで安堵し、次の生へと巡っていった。
《そういう魂が穢れた場合、輪廻の輪に乗れなくなってしまうと習いました。転生できないまま現世をさ迷って、最後は地下世界に住む悪霊に仲間とみなされて連れて行かれてしまうと》
ミンディの言葉に、アンディと美種が小さく身を震わせた。魔物や邪霊と同じく地下世界にいる悪霊は、悪神たちの共通駒として動くこともある存在だ。
《悪霊を引き寄せるくらい魂が穢れてしまうことを、悪霊化と呼びます。そうなると元には戻れない。後は悪霊に見付かって地下世界に引きずり込まれるのを待つだけ。地下に落ちたら永劫に帰って来られない》
沈痛な声で締めくくる高芽。地下落ちの末路を迎えれば、よほどの奇跡が起こらない限りは戻って来られない。
《合格ですわ。よく答えられましたわね》
称賛を送る神官長に、高芽とミンディが顔色を失くして問いかける。
《じゃあまさか、毒粉に混じって空を漂っているあの黒い火の玉は、悪霊化した魂なんですか?》
《悪霊は鬼火の形で現れることもあると習いましたが、もしかして……》
《正解ですわ。ですが、悪霊化した魂を救う方法はあります。高位の神官が直々に浄化すれば、汚濁を引き剥がして元通りの魂に戻せますのよ》
《魂魄浄化の儀ですね。でも、魂が完全な漆黒になってしまったら、もう手遅れだと聞きました》
大樹が反応した。魂魄浄化は神官の務めの一つでもある。
《いいえ、聖威師ならばそれでも救済できますわ。わたくしも聖威師になって間もないみぎりに、帝国の先代大神官フルード様が大規模な一斉浄化をなさったところを見たことがあります》
一呼吸置き、リーリアは静かに言葉を継いだ。
《あの圧巻さ、凄絶さ、優美さは筆舌に尽くし難いもの。人間の言語で表現できる次元の素晴らしさではありませんでしたわ。まさに天に達する存在の極地でしたのよ》
当時を回想し、万感の思いを込めて言う。そして、先代から大任を受け継いだ当代として、次代を担う子どもたちに激励を飛ばした。
《今回は神器による神威で穢れたため、聖威師の清めでなくば対応できないでしょう。わたくしが毒粉を浄化した後、大神官アマーリエが魂魄を清還しますわ。あなたたちは適宜、補佐ならびに見学をなさい。その目に、記憶に、魂に、儀式の様を焼き付けるのです》
次はあなたたちがやるかもしれないのだから、と暗に告げる。ミンディたちが硬い面持ちで応を返した。
《よろしい。では始めます》
端的な合図と共に、無数の雫が宙に輝いた。光が消えた空の下でも敢然と輝く、涙の結晶。凄絶な波動と共にアクアマリン色の聖威が迸り、ドーム状に人界を覆っていく。あちこちから、わっと安堵と歓声が渦巻いた。神官府だけでなく、帝城や皇宮、都からも聞こえる。おそらく全国で同様の声が上がっているだろう。国民たちが、聖威師が動いたことを察したのだ。
波打つ力が揺らめき、清浄な水の流れをもって毒粉をかき消していく。これが色を持つ神威の断片。圧倒的という言葉すら空疎に思えるほどに別次元の御稜威。死穢を打ち払う救済の登場を察し、ひび割れかけた世界が期待に輝く。
感嘆の吐息すら漏らせず、ただ硬直して凝視するミンディたちの前で、空が割れた。赤光のごとく差し込む紅葉色の輝きが世界を照らす。ヒラリと神官衣の裾が翻った。
こんな時でも抜き打ちで口述試験をぶち込むあたり、リーリアも中々にスパルタだ。だが、大樹とミンディはすぐに食らいついた。
《はい。徴を発現しなかった一般人は、亡くなれば輪廻の輪に乗って転生します。今世での記憶をまっさらにした上で新しい肉体を得て、来世に生まれ変わることになります》
《でも、残して来た縁者や知己のことが気がかりで、すぐには転生せずに魂のまま留まって、様子を見ている者もいます》
俗に守護霊と呼ばれる存在だ。恨みつらみで取り憑いたり、未練から現世にしがみ付いている場合、背後霊や浮遊霊などと呼ばれる。ミンディの母親と大樹たちの両親は守護霊になっていたが、彼らが神に見初められたことで安堵し、次の生へと巡っていった。
《そういう魂が穢れた場合、輪廻の輪に乗れなくなってしまうと習いました。転生できないまま現世をさ迷って、最後は地下世界に住む悪霊に仲間とみなされて連れて行かれてしまうと》
ミンディの言葉に、アンディと美種が小さく身を震わせた。魔物や邪霊と同じく地下世界にいる悪霊は、悪神たちの共通駒として動くこともある存在だ。
《悪霊を引き寄せるくらい魂が穢れてしまうことを、悪霊化と呼びます。そうなると元には戻れない。後は悪霊に見付かって地下世界に引きずり込まれるのを待つだけ。地下に落ちたら永劫に帰って来られない》
沈痛な声で締めくくる高芽。地下落ちの末路を迎えれば、よほどの奇跡が起こらない限りは戻って来られない。
《合格ですわ。よく答えられましたわね》
称賛を送る神官長に、高芽とミンディが顔色を失くして問いかける。
《じゃあまさか、毒粉に混じって空を漂っているあの黒い火の玉は、悪霊化した魂なんですか?》
《悪霊は鬼火の形で現れることもあると習いましたが、もしかして……》
《正解ですわ。ですが、悪霊化した魂を救う方法はあります。高位の神官が直々に浄化すれば、汚濁を引き剥がして元通りの魂に戻せますのよ》
《魂魄浄化の儀ですね。でも、魂が完全な漆黒になってしまったら、もう手遅れだと聞きました》
大樹が反応した。魂魄浄化は神官の務めの一つでもある。
《いいえ、聖威師ならばそれでも救済できますわ。わたくしも聖威師になって間もないみぎりに、帝国の先代大神官フルード様が大規模な一斉浄化をなさったところを見たことがあります》
一呼吸置き、リーリアは静かに言葉を継いだ。
《あの圧巻さ、凄絶さ、優美さは筆舌に尽くし難いもの。人間の言語で表現できる次元の素晴らしさではありませんでしたわ。まさに天に達する存在の極地でしたのよ》
当時を回想し、万感の思いを込めて言う。そして、先代から大任を受け継いだ当代として、次代を担う子どもたちに激励を飛ばした。
《今回は神器による神威で穢れたため、聖威師の清めでなくば対応できないでしょう。わたくしが毒粉を浄化した後、大神官アマーリエが魂魄を清還しますわ。あなたたちは適宜、補佐ならびに見学をなさい。その目に、記憶に、魂に、儀式の様を焼き付けるのです》
次はあなたたちがやるかもしれないのだから、と暗に告げる。ミンディたちが硬い面持ちで応を返した。
《よろしい。では始めます》
端的な合図と共に、無数の雫が宙に輝いた。光が消えた空の下でも敢然と輝く、涙の結晶。凄絶な波動と共にアクアマリン色の聖威が迸り、ドーム状に人界を覆っていく。あちこちから、わっと安堵と歓声が渦巻いた。神官府だけでなく、帝城や皇宮、都からも聞こえる。おそらく全国で同様の声が上がっているだろう。国民たちが、聖威師が動いたことを察したのだ。
波打つ力が揺らめき、清浄な水の流れをもって毒粉をかき消していく。これが色を持つ神威の断片。圧倒的という言葉すら空疎に思えるほどに別次元の御稜威。死穢を打ち払う救済の登場を察し、ひび割れかけた世界が期待に輝く。
感嘆の吐息すら漏らせず、ただ硬直して凝視するミンディたちの前で、空が割れた。赤光のごとく差し込む紅葉色の輝きが世界を照らす。ヒラリと神官衣の裾が翻った。
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