神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

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第7章

59.花の神は咲って怒る

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『ねえ、毒華神はまだ愛し子の誓約を維持したままでしょう。撤回しても良いと言っただけで、実際に撤回したわけではないし、撤回すると約束したわけでもないものね』

 そう告げ、にこりとイデナウアーへ向ける満開のわらい顔が怖い。

『つまり、この神官たちの所有権はまだ毒華神にある。だからあなたにお願いするわ。神官たちを悪霊に引き渡して欲しいの。真っ黒にまで穢れた魂ではないけれど、毒華神が気にいる程度には濁っているし、悪霊にとって良い玩具になるでしょう』

 通常の愛し子であれば、神格を得た時点で神としての権利が確立する。独立した一柱の神としての権能は、主神であっても犯せない。主神との間に結ばれるものも純然たる信頼関係であり、隷属関係ではない。
 だが、生き餌としての愛し子は違う。生き餌は主神の奴隷であり所有物だ。権利など与えられない。主神の意思一つで如何様いかようにも命運を決められ、拒否権はない。

『そうですわね。仰せのままにしてもよろしゅうございますわ』

 同じく咲き乱れる笑みで答えるイデナウアー。聖威師と選ばれし神から異なる要請をされれば、当然、序列が上である後者の意に沿うだろう。

「花神様、お待ち下さ……」
『可愛い雛。私は今、毒華神と話しているから、少しだけ待ってくれるかしら。せっかく話しかけてくれたのにごめんなさいね』

 ざっと血の気が引いていく感覚と共に発しかけたアマーリエは、優しい拒絶に阻まれる。申し訳なさそうに眉を下げる花神の眼差しは穏やかだが、瞳の中に瞬く無数の煌めきの強さが、ここは譲らないと告げていた。天の神に、それも自身より高位の神にこう言われてしまえば、引き下がるしかない。

(フレイムに助けを……いいえ、駄目だわ。花神様に喧嘩を売ってくれと頼むようなものだもの)

 選ばれし神同士の確執など生じさせてはならない。真の神格を出せば最高神にすら匹敵する特別な神々だ。同じ理由でラミルファにも頼れない。リーリアやランドルフたちに緊急念話を飛ばしたとて、彼らにも手の打ちようがないだろう。

(それに、処罰として酷すぎるわけでもないのよね。イデナウアー様に上手く乗せられてしまったとはいえ、結果的に花神様の寵児を僭称せんしょうして怒らせてしまったのだし。しかも、神器で地上を滅ぼしかけた。子どもだから許されるという範囲を超えているわ)

 後者の地上壊滅は、神々にとって大した問題ではないだろう。何しろ、彼ら自身が遊びや勢いで星どころか宇宙をバンバン壊しまくっている。だが、人間にとってはとんでもない行為だ。

(この子たちは、愛し子を標榜ひょうぼうしたことで神側の禁忌を犯し、地上を死滅させかけたことで人間側の禁忌にも触れてしまったのよ)

 そろりと目線を動かして周囲を確認すると、フレイムは眉を寄せて黙り込んでいた。ラミルファは両手を頭の後ろで組んで我関せずだ。フルードとアシュトンが苦渋の面持ちで視線を交わし、アリステルは茫洋と立ち尽くしている。葬邪神はいつもと同じ大らかな顔でニコニコしていた。

 山吹色の瞳と視線が絡むと、フレイムは難しい顔で花神とイデナウアー、神官2名を順繰りに見遣り、再びアマーリエと目を合わせると、微かに首を横に振った。

(やっぱり無理か……この状況では誰も動けないわよね)

 このまま地下世界行きが確定してしまうのだろうか。だが、この子たちはまだ子どもだ。オーブリーや老侯とは違い、これからやり直せるかもしれない。最後にもう一度だけ機会を与えてやれないか。地下に引き込まれれば昇天も転生も叶わず、永劫に戻って来られない。

『では花神様のお望み通りにいたしましょう。ごめんねぇアマーリエ。愛し子を撤回するって、きちんと先約してなかったから。今回は花神様のご意向を優先するね』

 場にいる者たちを見回してしばし黙考したイデナウアーが決を下した。
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