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第7章
69.大神官の奏上
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◆◆◆
「焔神様ー、こんにちはです~」
「こら、何ですかその言葉遣いは」
ゆるーい感じで入って来た青年の横で、フルードが困ったように眉を下げている。
『良いってことよ。堅苦しいのは好きじゃねえから。従神も使役も下げてあるしな』
『ですが、聖威師が天の神に対して――』
『あー、分かった分かった。ほら、こっち来なセイン』
焔神の領域にそびえる巨大な主神殿。ここは、その中心たる謁見の間……ではなく、一角にあるフレイムの私室の一つだ。
気負う様子もなくひょっこりと顔を覗かせたランドルフと、彼に同伴したフルード。上座にある主席に腰かけたフレイムはカラリと笑い、弟に向かって来い来いと手招きした。素直に従うフルードを、自身の隣の席に座らせる。
『こうして見るとマジで大きくなったなぁ、ランドルフ。お前ももう18歳か』
続いて、扉の前に立ったままのランドルフにも、親しげに声をかけた。ランドルフの方がフルードより背が高い。柔らかくも冷然とした美貌は、父母の麗姿を良い具合に取り混ぜて受け継いでいる。凍れる艶やかさに関しては、母というより祖父譲りだろう。なお、若干空気が読めないところも祖父から流れているようだ。
『お前も来いよ、遠慮すんな』
フレイムは眦を下げた。フルードの面影をそれなりに宿す容姿ではなく、生き写し級に酷似した瞳と魂を見て。そして同時に、ランドルフ自身に対しても優しい目を向ける。きちんと彼当人を見なければ失礼だからだ。
『恐れ入りますー』
神域の主から許可を得たランドルフが如才なく足を踏み出し、眼前に進み出る。一切の無駄がない、流麗な動きだった。短く切っている髪がふんわりと揺れる。
「大変お世話になっていながら、すぐの個別対面が叶わず、失礼いたしました」
『気にすんな、先祖回りのが優先だ。親孝行ならぬ先祖孝行だからな。ちゃんとするんだぞ』
「はいー」
『あ、茶淹れてやるよ。菓子と軽食も……』
「いいえ」
上座から立ち上がろうとするフレイムに、ランドルフは小さく首を横に振った。
「まずはご挨拶させて下さい」
瞬間、彼の纏う空気が豹変した。選ばれし神に見初められた有色の神格持ちであり、現役の大神官。そして、数千年を超える歴史を誇るイステンド大公家、その系譜と長の地位を受け継ぐ者。規格外の求心力を放つ姿は全てを凌駕し、高位の神の目をも釘付けにする。
「改めまして、ミレニアム帝国当代大神官にしてイステンド大公家現当主、ランドルフ・フェル・イステンドがご挨拶申し上げます。尊き大神よ、この度は伺候の御許可を賜り恐悦至極に存じます」
『ああ、面を上げて楽にしろ』
文句の付けようがない所作で拝礼したランドルフに、フレイムは淡い笑みを刷いた。
「本日は、日頃より大神様に賜っております天恩への感謝に加え、是非お伝えしたき議があり、参上いたしました」
次いで発された言葉を聞き、やはりかと思う。この子が来訪の申し出をして来た時、何となく勘がざわめいたのだ。今までの礼を述べたいのはもちろんだが、他の理由もある気がする、と。ランドルフが単独ではなくフルードと共にやって来た時点で、その予感はさらに強まっていた。
『聞こう』
短く答えながら、用件とは何だろうかと考える。幾つか推測は立てているが、それが当たっているか否かは今から分かることだ。大神官として話していることから、私的なことではなく神官府あるいは神官にまつわる何かなのだろうが。
「有り難き御言葉。なればこの場をもちまして、高貴なる焔の神に奏上申し上げます――」
そうして滔々と紡がれた言葉は、静かに神域の中へ流れていった。
「焔神様ー、こんにちはです~」
「こら、何ですかその言葉遣いは」
ゆるーい感じで入って来た青年の横で、フルードが困ったように眉を下げている。
『良いってことよ。堅苦しいのは好きじゃねえから。従神も使役も下げてあるしな』
『ですが、聖威師が天の神に対して――』
『あー、分かった分かった。ほら、こっち来なセイン』
焔神の領域にそびえる巨大な主神殿。ここは、その中心たる謁見の間……ではなく、一角にあるフレイムの私室の一つだ。
気負う様子もなくひょっこりと顔を覗かせたランドルフと、彼に同伴したフルード。上座にある主席に腰かけたフレイムはカラリと笑い、弟に向かって来い来いと手招きした。素直に従うフルードを、自身の隣の席に座らせる。
『こうして見るとマジで大きくなったなぁ、ランドルフ。お前ももう18歳か』
続いて、扉の前に立ったままのランドルフにも、親しげに声をかけた。ランドルフの方がフルードより背が高い。柔らかくも冷然とした美貌は、父母の麗姿を良い具合に取り混ぜて受け継いでいる。凍れる艶やかさに関しては、母というより祖父譲りだろう。なお、若干空気が読めないところも祖父から流れているようだ。
『お前も来いよ、遠慮すんな』
フレイムは眦を下げた。フルードの面影をそれなりに宿す容姿ではなく、生き写し級に酷似した瞳と魂を見て。そして同時に、ランドルフ自身に対しても優しい目を向ける。きちんと彼当人を見なければ失礼だからだ。
『恐れ入りますー』
神域の主から許可を得たランドルフが如才なく足を踏み出し、眼前に進み出る。一切の無駄がない、流麗な動きだった。短く切っている髪がふんわりと揺れる。
「大変お世話になっていながら、すぐの個別対面が叶わず、失礼いたしました」
『気にすんな、先祖回りのが優先だ。親孝行ならぬ先祖孝行だからな。ちゃんとするんだぞ』
「はいー」
『あ、茶淹れてやるよ。菓子と軽食も……』
「いいえ」
上座から立ち上がろうとするフレイムに、ランドルフは小さく首を横に振った。
「まずはご挨拶させて下さい」
瞬間、彼の纏う空気が豹変した。選ばれし神に見初められた有色の神格持ちであり、現役の大神官。そして、数千年を超える歴史を誇るイステンド大公家、その系譜と長の地位を受け継ぐ者。規格外の求心力を放つ姿は全てを凌駕し、高位の神の目をも釘付けにする。
「改めまして、ミレニアム帝国当代大神官にしてイステンド大公家現当主、ランドルフ・フェル・イステンドがご挨拶申し上げます。尊き大神よ、この度は伺候の御許可を賜り恐悦至極に存じます」
『ああ、面を上げて楽にしろ』
文句の付けようがない所作で拝礼したランドルフに、フレイムは淡い笑みを刷いた。
「本日は、日頃より大神様に賜っております天恩への感謝に加え、是非お伝えしたき議があり、参上いたしました」
次いで発された言葉を聞き、やはりかと思う。この子が来訪の申し出をして来た時、何となく勘がざわめいたのだ。今までの礼を述べたいのはもちろんだが、他の理由もある気がする、と。ランドルフが単独ではなくフルードと共にやって来た時点で、その予感はさらに強まっていた。
『聞こう』
短く答えながら、用件とは何だろうかと考える。幾つか推測は立てているが、それが当たっているか否かは今から分かることだ。大神官として話していることから、私的なことではなく神官府あるいは神官にまつわる何かなのだろうが。
「有り難き御言葉。なればこの場をもちまして、高貴なる焔の神に奏上申し上げます――」
そうして滔々と紡がれた言葉は、静かに神域の中へ流れていった。
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