神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

文字の大きさ
558 / 601
第7章

69.大神官の奏上

しおりを挟む
 ◆◆◆

「焔神様ー、こんにちはです~」
「こら、何ですかその言葉遣いは」

 ゆるーい感じで入って来た青年の横で、フルードが困ったように眉を下げている。

『良いってことよ。堅苦しいのは好きじゃねえから。従神も使役も下げてあるしな』
『ですが、聖威師が天の神に対して――』
『あー、分かった分かった。ほら、こっち来なセイン』

 焔神の領域にそびえる巨大な主神殿。ここは、その中心たる謁見の間……ではなく、一角にあるフレイムの私室の一つだ。

 気負う様子もなくひょっこりと顔を覗かせたランドルフと、彼に同伴したフルード。上座にある主席に腰かけたフレイムはカラリと笑い、弟に向かって来い来いと手招きした。素直に従うフルードを、自身の隣の席に座らせる。

『こうして見るとマジで大きくなったなぁ、ランドルフ。お前ももう18歳か』

 続いて、扉の前に立ったままのランドルフにも、親しげに声をかけた。ランドルフの方がフルードより背が高い。柔らかくも冷然とした美貌は、父母の麗姿を良い具合に取り混ぜて受け継いでいる。凍れる艶やかさに関しては、母というより祖父譲りだろう。なお、若干空気が読めないところも祖父から流れているようだ。

『お前も来いよ、遠慮すんな』

 フレイムは眦を下げた。フルードの面影をそれなりに宿す容姿ではなく、生き写し級に酷似した瞳と魂を見て。そして同時に、ランドルフ自身に対しても優しい目を向ける。きちんと彼当人を見なければ失礼だからだ。

『恐れ入りますー』

 神域の主から許可を得たランドルフが如才なく足を踏み出し、眼前に進み出る。一切の無駄がない、流麗な動きだった。短く切っている髪がふんわりと揺れる。

「大変お世話になっていながら、すぐの個別対面が叶わず、失礼いたしました」
『気にすんな、先祖回りのが優先だ。親孝行ならぬ先祖孝行だからな。ちゃんとするんだぞ』
「はいー」
『あ、茶淹れてやるよ。菓子と軽食も……』
「いいえ」

 上座から立ち上がろうとするフレイムに、ランドルフは小さく首を横に振った。

「まずはご挨拶させて下さい」

 瞬間、彼の纏う空気が豹変した。選ばれし神に見初められた有色の神格持ちであり、現役の大神官。そして、数千年を超える歴史を誇るイステンド大公家、その系譜と長の地位を受け継ぐ者。規格外の求心力を放つ姿は全てを凌駕し、高位の神の目をも釘付けにする。

「改めまして、ミレニアム帝国当代大神官にしてイステンド大公家現当主、ランドルフ・フェル・イステンドがご挨拶申し上げます。尊き大神よ、この度は伺候の御許可を賜り恐悦至極に存じます」
『ああ、面を上げて楽にしろ』

 文句の付けようがない所作で拝礼したランドルフに、フレイムは淡い笑みを刷いた。

「本日は、日頃より大神様に賜っております天恩への感謝に加え、是非お伝えしたき議があり、参上いたしました」

 次いで発された言葉を聞き、やはりかと思う。この子が来訪の申し出をして来た時、何となく勘がざわめいたのだ。今までの礼を述べたいのはもちろんだが、他の理由もある気がする、と。ランドルフが単独ではなくフルードと共にやって来た時点で、その予感はさらに強まっていた。

『聞こう』

 短く答えながら、用件とは何だろうかと考える。幾つか推測は立てているが、それが当たっているか否かは今から分かることだ。大神官として話していることから、私的なことではなく神官府あるいは神官にまつわる何かなのだろうが。

「有り難き御言葉。なればこの場をもちまして、高貴なる焔の神に奏上申し上げます――」

 そうして滔々と紡がれた言葉は、静かに神域の中へ流れていった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?

ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十周年。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。 ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

婚約破棄から50年後

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。 そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。

できない子に転生しましたが、家族と食卓があれば十分です ―人間不信だった私が、ゆっくり育つ異世界生活―

愛朱ひいろ
ファンタジー
人の顔色ばかり伺い、心を壊した26歳の会社員女性。 彼女は死後、異世界で「できない子」として転生する。 魔法は使えない。 体は不器用で、成長も人より遅い。 前世の記憶のせいで、人と関わることが少し怖い。 けれどこの世界には、 見守り支えてくれる両親と、 あたたかい食卓があった。 泣いて、つまずいて、できないことに落ち込みながら、 彼女は少しずつ「できないままでも、生きていていい」と知っていく。 これは、 最強でもチートでもない主人公が、 家族と食事に支えられながら、ゆっくり育ち直す 生活密着型・異世界転生×成長×グルメファンタジー。 ……の、予定です。 毎日更新できるように執筆がんばります!

侯爵令嬢ソフィアの結婚

今野綾
恋愛
ソフィアは希少なグリーンアイを持つヴィンセントと結婚したが、これは金が欲しいソフィアの父の思惑と高い爵位が欲しいヴィンセントの思惑が一致したからに過ぎない そもそもヴィンセントには美しい恋人がいる 美男美女と名高いヴィンセントとその恋人は身分に大きな差があるために結婚することは叶わないのだ その事をソフィアも耳にしており、この結婚が形ばかりのものであることを知っていた 結婚して早々、ソフィアは実家から連れてきた侍女夫婦とあばら家に住むように言われて… 表紙はかなさんです✨ ありがとうございます😊 2024.07.05

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

ローザリンデの第二の人生

梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。 彼には今はもういない想い人がいた。 私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。 けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。 あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。 吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 1/10 HOTランキング3位、ありがとうございます。

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

処理中です...