神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

文字の大きさ
572 / 605
第8章

12.副大精霊

しおりを挟む
(あれが副大精霊なのね)

 青緑の髪を持つ長身男性を眺め、アマーリエはへぇと頷いた。副大精霊は文字通り大精霊に次ぐ存在で、四大高位神全てに仕える神使だ。当然、箔付けの神格を賜っている。

『大丈夫ですか、アルシオ様。先代が来ていたようですが……』
『ウォーロック……いや、副大精霊か。ああ、大事はない。先代は己の持ち場を抜けてこちらに来ていたようだ。聖威師様の一時昇天で使役がバタ付き、周囲の目が離れた隙を突いたのだろう。今後は見張りを強化する』

 素っ気なく答える大精霊へ、副大精霊が足早に歩み寄った。

『失礼ながらお顔色が……やはりお疲れが溜まっておいでなのでしょう』

 気遣わしげに述べた副大精霊は、やや視線を下げた。トパーズ色の瞳が曇る。

『あなたのご子息のことは私の責任でもあります。私の見立てが甘かったがために、このような状況になってしまい、お詫びのしようもございません』
『違う、お前は関係ない。私があの子をきちんと見てやらなかったせいだ』

 アマーリエには何のことだか分からない会話を展開する精霊たち。副大精霊がふと声を潜めた。

『アディへの対応も、可能な限り私が行います。御用向きがあれば遠慮なく念話を下さい』
『それには及ばない。公私の別は分けなくてはならない。少なくとも業務に関することで、大精霊たる私があの子と接触を控えるべきではない。それから、アディではなくアーディエンスだろう。外では愛称ではなく本名で呼べ』

 大精霊がピシャリと告げた。心なしか声が硬く、苛立っているようだった。纏う気配は明らかに尖っている。それが感じ取れないはずはないだろうに、副大精霊は恬然てんぜんとした表情で頷く。

『失礼いたしました。ええ、もちろん分かっております、仰せの通りですとも。ですが、我々にも感情があります。理屈だけで全てを割り切れるわけではない。あなたではなくあの子の方が。――何しろあの子は、先代大精霊イーネストの息子なのですから』
(えっ。そうだったの?)

 アマーリエは瞠目した。完全に出るタイミングを逃してしまい、図らずも盗み聞きの形になってしまっている。もう転移でこっそり抜けてしまった方が良いのではないかと考えていたところに、この発言だ。

『かつて神逐により神格を剥奪されたことで、先代は神からの情を失いました。しかし、彼側からの親愛は消えぬため、未だに何かに付けて神々の後を追う始末』

 桜梅桃の女神たちを、愛しげな哀しげな顔で注視していた先代の姿が脳裏をよぎる。だが、この世界の神は際限なく身勝手で冷酷だ。身内ではない者がどれだけ愛を差し出したところで、芥子粒ほどもそれを返してくれることはない。それでも先代は、無意味な行いをやめられない、諦められない。神々の同胞愛は無限であるからだ。

『先代の愚行が明るみに出たことと、神逐後は精霊の家族を顧みず神々ばかりを追うせいで、彼の家庭は完全に崩壊してしまいました。妻は嘆き悲しんで心を病み、当時まだ幼子であったアディ……アーディエンスは他の精霊から鼻摘まみ者にされ、辛酸を舐めながら育ちました』

 トパーズの眼差しが痛ましげに伏せられた。相対するアメジストの双眸は、チラとも揺らがない。

『アーディエンス自身が死に物狂いで努力したことで、今では正当な評価をされるようになりましたが――父親は未だにあの有り様ですし、母親も回復途上。あの子の先行きは不透明です』
『イルーナは……先代の妻は、心優しくたおやかだからな。花びらのように柔く、薄氷のように繊細な魂の持ち主だ。お前はイルーナを献身的に看護してやっているそうだな』
『はい。彼女は一般的な基準より少しだけ純真で、無垢な女性なのです。あのままではあまりに憐れですから』
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

できない子に転生しましたが、家族と食卓があれば十分です ―人間不信だった私が、ゆっくり育つ異世界生活―

愛朱ひいろ
ファンタジー
人の顔色ばかり伺い、心を壊した26歳の会社員女性。 彼女は死後、異世界で「できない子」として転生する。 魔法は使えない。 体は不器用で、成長も人より遅い。 前世の記憶のせいで、人と関わることが少し怖い。 けれどこの世界には、 見守り支えてくれる両親と、 あたたかい食卓があった。 泣いて、つまずいて、できないことに落ち込みながら、 彼女は少しずつ「できないままでも、生きていていい」と知っていく。 これは、 最強でもチートでもない主人公が、 家族と食事に支えられながら、ゆっくり育ち直す 生活密着型・異世界転生×成長×グルメファンタジー。 ……の、予定です。 毎日更新できるように執筆がんばります!

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?

ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十年目。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。 ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

処理中です...