神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

文字の大きさ
2 / 666
第1章

2.婚約拒否されています

 ◆◆◆

 ――神々が自身の使いを選定する。

 突如として世界を駆け巡ったその報に、人類は大きな衝撃を受けた。

 ◆◆◆

統一暦3014年10の月、上旬。

「ちょっとアマーリエ! まだできないの!?」

 苛立ちを帯びた怒鳴り声が、広々とした食堂に反響した。

「もう少し待ってミリエーナ、この飾りを付けたら仕上げだから」

 愛くるしい顔をしかめて腕組みしているのは妹のミリエーナ。きめ細かい金髪が明かりを弾いて輝いている。いつもより威勢がいいのは、豪勢なコース仕立ての朝食をデザートまでしっかり食べ終えた後だからだろうか。

《いつもながらやかましい小娘だな。よし、燃やしてやるぜ》

 脳裏に木霊する声を無視し、椅子に腰かけたアマーリエは一瞬だけミリエーナを見上げた。だが、すぐに手元の絹に視線を戻す。幾日もかけて縫い上げたドレスは、あと少しで完成しようとしていた。

「ドレス一着縫うだけで何をぐずぐずしているのよ。そんなザマだから18歳にもなって婚約者の一人も決まらないんじゃない! このままじゃ行き遅れコースまっしぐらね」

 険しい顔で時計を確認していたミリエーナが、腕組みしてこちらを睨め付けた。

「ねえアマーリエ、分かってるの? 私はあんたより遥かに優秀な神官なの。神々のお目に留まるべき存在なのよ。なのに、あんたがトロいせいで出遅れたらどうしてくれるのよ」

 白い指がひったくるようにドレスを取り上げた。

「あ! 待って、まだ……」
「もういいわ、飾りの一つや二つなくたってどうってことないわよ」

 言い捨てた妹はさっと布地に目を走らせ、満足げに頷く。

「うん、まあまあの出来じゃない。じゃあ着替えてくるわね」

 バタバタと遠ざかる足音を聞きながら、アマーリエは嘆息した。付けそびれた花飾りが手の中に寂しく残されている。

「あの子ったらイライラして……」
《あーあ、バカな小娘だ。最後の飾りを付けてバランスが取れるドレスだったのになぁ。気が短いのは損だな。やっぱり俺が燃やしてやるか。ボボォーッとな!》
《はいはいダメよ、燃やさないで》

頭の中に直接届く心地よい声を軽くあしらいながら、走り去った妹に思いを馳せる。

《焦るのも仕方ないわよ。神の御使みつかいになれるかもしれないんだもの》

上手くその栄誉に浴することができれば、地上にいるうちから永劫の幸福が保証される。

《生前から神使に選ばれるなんて、私には夢のまた夢だけれどね》
《ん? そんなことねえぞ。お前は神が好む清廉な魂を持ってるぜ》
《またいつものお世辞ね。リップサービスは間に合っているわ》
《いや、本当に……》
《はいはい、分かりました!》

 なおも言い募ろうとする声を遮断し、一つ息を吐いて床を見つめる。

(私は期待なんてしない。……出しゃばって前みたいになるのはもうたくさんよ)

 冷めた心でひとりごち、アマーリエはテーブルに目を向けた。ポツンと置かれているのは自分の食事。冷めたスープと固いパンだけだ。もそもそしたパンをちぎって口に含みながら思う。

(私は神使も婚約も、何も望まないわ)

 妹の言う通り、自分に未だ婚約者はいない。破棄されたわけでも解消されたわけでもなく、それ以前の『婚約拒否』である。幼い頃からそうだった。打診してもしても、返って来るのは断りの手紙ばかり。ミリエーナの婚約者であるグランズ子爵家の嫡男シュードンに至っては、アマーリエのことを面と向かって『能無し』呼ばわりして来る。
 見る目の無い奴らばかりだと『声』はバカにしていたが、これが現実だ。昔はどうにかしてどこぞの家と繋げようと躍起になっていた父も、今では匙を投げている。

(そもそも、神官としての力も最弱の私なんかと婚約したい人はいないわよね)

 自虐気味に笑い、アマーリエは乾いた声で呟いた。

「さて、食べたら私も行かないと。末端でも神官なのだから」

あなたにおすすめの小説

聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!

碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった! 落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。 オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。 ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!? *カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

空港清掃員58歳、転生先の王宮でも床を磨いたら双子に懐かれ、国王に溺愛される

木風
恋愛
羽田空港で十五年、黙々と床を磨いてきた清掃員・田中幸子(58)は事故死し、没落寸前の子爵令嬢エルシアとして転生する。 婚約破棄の末に家を追われた彼女が選んだのは、王宮の清掃員――前世の技で空気まで変わるほど磨き上げていく仕事だった。 やがて母を亡くした双子王子王女に懐かれ、荒れた執務室の主である喪中の国王とも距離が縮まり……。 「泣くなら俺の胸で」――床も心も磨き直す、清掃令嬢の溺愛成り上がり。

誘拐された公爵令嬢ですが、なぜか皇帝に溺愛されています』

富士山麓
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。

平民の薬師と契約結婚した冷徹公爵様ですが、実は私は5年前に失踪した侯爵家の正当令嬢でした~偽りの夫婦が本気の溺愛に変わるまで~

ハリネズミの肉球
恋愛
「これは契約だ。愛は不要だ」 そう言い放った冷徹公爵アルフォンスと、平民の薬師リアの結婚は、打算だけで結ばれた偽りの関係だった。 家も名も持たないリアは、生きるためにその契約を受け入れる。 ――けれど。 彼女の作る薬は奇跡のように人を救い、荒れた公爵領は少しずつ変わっていく。 無関心だったはずのアルフォンスもまた、彼女の強さと優しさに触れるたび、心を揺らし始める。 「……お前は、俺のものだろう」 それは契約の言葉のはずだった。 なのに、いつからかその声音は熱を帯びていく。 そんな中、明かされる衝撃の真実。 リアは――5年前に政変で消えた侯爵家の正統令嬢だった。 彼女を陥れた貴族たちが再び動き出す中、アルフォンスは選ぶ。 契約か、それとも――愛か。 偽りから始まった関係は、やがて逃れられない執着へと変わっていく。 ※本作品は、人工知能の生成する文章の力をお借りしつつも、最終的な仕上げにあたっては著者自身の手により丁寧な加筆・修正を施した作品です。

即席異世界転移して薬草師になった

黒密
ファンタジー
ある日、学校から帰ってきて机を見たら即席異世界転移と書かれたカップ麺みたいな容器が置いてある事に気がついた普通の高校生、華崎 秦(かざき しん) 秦は興味本位でその容器にお湯と中に入っていた粉を入れて三分待ち、封を開けたら異世界に転移した。 そして気がつくと異世界の大半を管理している存在、ユーリ・ストラスに秦は元の世界に帰れない事を知った。 色々考えた結果、秦は異世界で生きることを決めてユーリから六枚のカードからスキルを選んだ。 秦はその選んだスキル、薬草師で異世界を生きる事になる。

成功条件は、まさかの婚約破棄!?

たぬきち25番
恋愛
「アリエッタ、あなたとの婚約を破棄する……」 王太子のアルベルト殿下は、そう告げた。 王妃教育に懸命に取り組んでいたアリエッタだったが、 それを聞いた彼女は……? ※他サイト様にも公開始めました!

刺繍妻

拓海のり
恋愛
男爵令嬢メアリーは魔力も無くて、十五歳で寄り親の侯爵家に侍女見習いとして奉公に上がった。二十歳まで務めた後、同じ寄り子の子爵家に嫁に行ったが。九千字ぐらいのお話です。