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第1章
8.騒動勃発
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一気に張り詰める空気の中、一斉念話が届く。
《緊急連絡です! 神官府にて作成中の火炎霊具が暴走しました。場所は第三霊具生成室、暴走している霊具は二等です》
霊具とは、専用の器に術式を組んで霊威を込めた道具のことだ。霊具を用いれば、徴を持たないただ人でも奇跡を起こすことが可能になる。通信霊具、転移霊具、治癒霊具など多くのものが国中で活用されていた。
《二等? 専門職用に火力制限を緩めたものか。……怪我人と原因、状況は?》
アシュトンが素早く念話返しで問いかけた。視線が虚空をさ迷っているところを見ると、自身でも遠視しているのかもしれない。
《はい、周囲の者は自身の霊威で防御したため、死傷者はいません。原因は作成担当者の力の乱れによるものです。現在、炎がかなりの勢いで上がっています。結界で封鎖しているのでこれ以上広がることはありませんが、霊具の暴走を収めなければ鎮火しないかと》
「そうか……結界で状況が安定しているのであれば、ちょうど良い実地訓練になる。主任神官に指揮を取らせて対処を――アマーリエ!? どこへ行く!」
アシュトンが呼ぶ声を聞き流し、アマーリエは大神官の部屋を飛び出した。神官府の案内図を遠視し、霊具作成室の前に転移する。
(まずいわ、絶対にあの子が出しゃばる!)
ミリエーナは大の目立ちたがりで自信家だ。何か騒動が起きるたびに自分が解決しようと、先陣切って渦中に突っ込み、余計に引っ掻き回して混乱させる。
《おいアマーリエ、よせ!》
ずっと聞こえなかった『声』が脳裏で弾ける。アマーリエの周囲に危険が迫れば分かるようにしていると言っていたから、この不穏な事態を察知したのだろう。焦った様子で呼びかけて来るが、構わずに辺りを見回す。嫌な予感は的中した。
「――待ちなさいミリエーナ!」
想定した通り、妹が噴き上がる炎に突撃しようとしていた。霊具作成室の扉は開いており、内部に張り巡らされた封鎖結界の中で激しい火炎が踊っている。結界の中に突っ込もうとするミリエーナに全力で体当たりして阻止し、姉妹で床に転がり込む。
「きゃあ! ちょっと誰よ――ってアマーリエじゃない! 何するのよ!」
その場に居合わせていたミリエーナの婚約者シュードンも、厳しい顔でアマーリエを睨む。
「おい能無し! 俺のレフィーに何をする!」
レフィーとはミリエーナの秘めたる名前である。帝国の者は、ファーストネームとファミリーネームの間に、大切な者にしか呼ばせないシークレットネームを持っているのだ。シークレットネームを含めたフルネームは、正式な場でしか名乗らない。
アマーリエはシュードンを無視してミリエーナを怒鳴り付けた。
「それはこちらのセリフだわ! 何をしようとしていたの!」
「私が消火してあげるのよ! 天にこの雄姿をご覧いただければ、神様は完全に私にべた惚れよ!」
「素晴らしい心がけだよレフィー!」
陶酔した表情で頷いているシュードンは引き続き捨て置く。《バカ妹なんざほっとけよ!》と叫んでいる『声』も。
「消火なんか無理よ、暴走したのは二等の霊具だと言っていたでしょう! 中位以上の神官が力を込める強力な霊具なのよ、私たちの霊威じゃ弾かれるわ」
ミリエーナは強い霊威を持つが、所詮『サード家の中では』という前書きが付く。神官全体で見た場合は、決して強くない。だが、妹は怯まなかった。
「私はどんくさいアンタとは違うのよ、ちゃんと準備して来たの!」
ふんと顎を逸らしたミリエーナが掲げて見せたのは、手に持てる大きさの霊具だ。
「二等の放水霊具よ。保管庫から持って来たわ、これを使えばバッチリよ! 私ってやっぱりかしこ~い!」
《ダメだ、真性のアホだぜこいつ》
「待って、それはダメ!」
『声』が呆れたように呟き、アマーリエは霊具を発動させようとした妹の手を叩く。その弾みで宙に飛んだ霊具が、すっぽりとシュードンの手に収まった。
「おお! よしレフィー、俺に任せろ!」
何を勘違いしたのか、ぐっと拳を握ったシュードンがキランと歯を輝かせてミリエーナに笑いかけ、炎に向かって駆け出した。
「ああ、私の手柄ぁ!」
(バカッ!)
見当違いの悲鳴を上げる妹を横目に、アマーリエは跳ね起きてシュードンに追い縋る――が、間に合わない。
《アマーリエ! ……くそっ、しゃーねえなぁ》
「うりゃあぁぁ、喰らえぇ!」
霊具が起動され、大量の水が溢れ出る。その瞬間、猛スピードで駆け付けた佳良が床を踏み込んで跳躍し、シュードンに盛大な飛び蹴りをかまして押し倒した。
「ふげぇっ!」
同時にアマーリエも、別方向から弾丸飛翔して来た桃色の小鳥の頭突きを肩に喰らい、再び転倒した。
「きゃあ!」
直後、放水霊具と作用し合った火炎霊具が膨張し、封鎖結界を吹き飛ばすほどの大爆発を起こした。
《緊急連絡です! 神官府にて作成中の火炎霊具が暴走しました。場所は第三霊具生成室、暴走している霊具は二等です》
霊具とは、専用の器に術式を組んで霊威を込めた道具のことだ。霊具を用いれば、徴を持たないただ人でも奇跡を起こすことが可能になる。通信霊具、転移霊具、治癒霊具など多くのものが国中で活用されていた。
《二等? 専門職用に火力制限を緩めたものか。……怪我人と原因、状況は?》
アシュトンが素早く念話返しで問いかけた。視線が虚空をさ迷っているところを見ると、自身でも遠視しているのかもしれない。
《はい、周囲の者は自身の霊威で防御したため、死傷者はいません。原因は作成担当者の力の乱れによるものです。現在、炎がかなりの勢いで上がっています。結界で封鎖しているのでこれ以上広がることはありませんが、霊具の暴走を収めなければ鎮火しないかと》
「そうか……結界で状況が安定しているのであれば、ちょうど良い実地訓練になる。主任神官に指揮を取らせて対処を――アマーリエ!? どこへ行く!」
アシュトンが呼ぶ声を聞き流し、アマーリエは大神官の部屋を飛び出した。神官府の案内図を遠視し、霊具作成室の前に転移する。
(まずいわ、絶対にあの子が出しゃばる!)
ミリエーナは大の目立ちたがりで自信家だ。何か騒動が起きるたびに自分が解決しようと、先陣切って渦中に突っ込み、余計に引っ掻き回して混乱させる。
《おいアマーリエ、よせ!》
ずっと聞こえなかった『声』が脳裏で弾ける。アマーリエの周囲に危険が迫れば分かるようにしていると言っていたから、この不穏な事態を察知したのだろう。焦った様子で呼びかけて来るが、構わずに辺りを見回す。嫌な予感は的中した。
「――待ちなさいミリエーナ!」
想定した通り、妹が噴き上がる炎に突撃しようとしていた。霊具作成室の扉は開いており、内部に張り巡らされた封鎖結界の中で激しい火炎が踊っている。結界の中に突っ込もうとするミリエーナに全力で体当たりして阻止し、姉妹で床に転がり込む。
「きゃあ! ちょっと誰よ――ってアマーリエじゃない! 何するのよ!」
その場に居合わせていたミリエーナの婚約者シュードンも、厳しい顔でアマーリエを睨む。
「おい能無し! 俺のレフィーに何をする!」
レフィーとはミリエーナの秘めたる名前である。帝国の者は、ファーストネームとファミリーネームの間に、大切な者にしか呼ばせないシークレットネームを持っているのだ。シークレットネームを含めたフルネームは、正式な場でしか名乗らない。
アマーリエはシュードンを無視してミリエーナを怒鳴り付けた。
「それはこちらのセリフだわ! 何をしようとしていたの!」
「私が消火してあげるのよ! 天にこの雄姿をご覧いただければ、神様は完全に私にべた惚れよ!」
「素晴らしい心がけだよレフィー!」
陶酔した表情で頷いているシュードンは引き続き捨て置く。《バカ妹なんざほっとけよ!》と叫んでいる『声』も。
「消火なんか無理よ、暴走したのは二等の霊具だと言っていたでしょう! 中位以上の神官が力を込める強力な霊具なのよ、私たちの霊威じゃ弾かれるわ」
ミリエーナは強い霊威を持つが、所詮『サード家の中では』という前書きが付く。神官全体で見た場合は、決して強くない。だが、妹は怯まなかった。
「私はどんくさいアンタとは違うのよ、ちゃんと準備して来たの!」
ふんと顎を逸らしたミリエーナが掲げて見せたのは、手に持てる大きさの霊具だ。
「二等の放水霊具よ。保管庫から持って来たわ、これを使えばバッチリよ! 私ってやっぱりかしこ~い!」
《ダメだ、真性のアホだぜこいつ》
「待って、それはダメ!」
『声』が呆れたように呟き、アマーリエは霊具を発動させようとした妹の手を叩く。その弾みで宙に飛んだ霊具が、すっぽりとシュードンの手に収まった。
「おお! よしレフィー、俺に任せろ!」
何を勘違いしたのか、ぐっと拳を握ったシュードンがキランと歯を輝かせてミリエーナに笑いかけ、炎に向かって駆け出した。
「ああ、私の手柄ぁ!」
(バカッ!)
見当違いの悲鳴を上げる妹を横目に、アマーリエは跳ね起きてシュードンに追い縋る――が、間に合わない。
《アマーリエ! ……くそっ、しゃーねえなぁ》
「うりゃあぁぁ、喰らえぇ!」
霊具が起動され、大量の水が溢れ出る。その瞬間、猛スピードで駆け付けた佳良が床を踏み込んで跳躍し、シュードンに盛大な飛び蹴りをかまして押し倒した。
「ふげぇっ!」
同時にアマーリエも、別方向から弾丸飛翔して来た桃色の小鳥の頭突きを肩に喰らい、再び転倒した。
「きゃあ!」
直後、放水霊具と作用し合った火炎霊具が膨張し、封鎖結界を吹き飛ばすほどの大爆発を起こした。
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