8 / 666
第1章
8.騒動勃発
一気に張り詰める空気の中、一斉念話が届く。
《緊急連絡です! 神官府にて作成中の火炎霊具が暴走しました。場所は第三霊具生成室、暴走している霊具は二等です》
霊具とは、専用の器に術式を組んで霊威を込めた道具のことだ。霊具を用いれば、徴を持たないただ人でも奇跡を起こすことが可能になる。通信霊具、転移霊具、治癒霊具など多くのものが国中で活用されていた。
《二等? 専門職用に火力制限を緩めたものか。……怪我人と原因、状況は?》
アシュトンが素早く念話返しで問いかけた。視線が虚空をさ迷っているところを見ると、自身でも遠視しているのかもしれない。
《はい、周囲の者は自身の霊威で防御したため、死傷者はいません。原因は作成担当者の力の乱れによるものです。現在、炎がかなりの勢いで上がっています。結界で封鎖しているのでこれ以上広がることはありませんが、霊具の暴走を収めなければ鎮火しないかと》
「そうか……結界で状況が安定しているのであれば、ちょうど良い実地訓練になる。主任神官に指揮を取らせて対処を――アマーリエ!? どこへ行く!」
アシュトンが呼ぶ声を聞き流し、アマーリエは大神官の部屋を飛び出した。神官府の案内図を遠視し、霊具作成室の前に転移する。
(まずいわ、絶対にあの子が出しゃばる!)
ミリエーナは大の目立ちたがりで自信家だ。何か騒動が起きるたびに自分が解決しようと、先陣切って渦中に突っ込み、余計に引っ掻き回して混乱させる。
《おいアマーリエ、よせ!》
ずっと聞こえなかった『声』が脳裏で弾ける。アマーリエの周囲に危険が迫れば分かるようにしていると言っていたから、この不穏な事態を察知したのだろう。焦った様子で呼びかけて来るが、構わずに辺りを見回す。嫌な予感は的中した。
「――待ちなさいミリエーナ!」
想定した通り、妹が噴き上がる炎に突撃しようとしていた。霊具作成室の扉は開いており、内部に張り巡らされた封鎖結界の中で激しい火炎が踊っている。結界の中に突っ込もうとするミリエーナに全力で体当たりして阻止し、姉妹で床に転がり込む。
「きゃあ! ちょっと誰よ――ってアマーリエじゃない! 何するのよ!」
その場に居合わせていたミリエーナの婚約者シュードンも、厳しい顔でアマーリエを睨む。
「おい能無し! 俺のレフィーに何をする!」
レフィーとはミリエーナの秘めたる名前である。帝国の者は、ファーストネームとファミリーネームの間に、大切な者にしか呼ばせないシークレットネームを持っているのだ。シークレットネームを含めたフルネームは、正式な場でしか名乗らない。
アマーリエはシュードンを無視してミリエーナを怒鳴り付けた。
「それはこちらのセリフだわ! 何をしようとしていたの!」
「私が消火してあげるのよ! 天にこの雄姿をご覧いただければ、神様は完全に私にべた惚れよ!」
「素晴らしい心がけだよレフィー!」
陶酔した表情で頷いているシュードンは引き続き捨て置く。《バカ妹なんざほっとけよ!》と叫んでいる『声』も。
「消火なんか無理よ、暴走したのは二等の霊具だと言っていたでしょう! 中位以上の神官が力を込める強力な霊具なのよ、私たちの霊威じゃ弾かれるわ」
ミリエーナは強い霊威を持つが、所詮『サード家の中では』という前書きが付く。神官全体で見た場合は、決して強くない。だが、妹は怯まなかった。
「私はどんくさいアンタとは違うのよ、ちゃんと準備して来たの!」
ふんと顎を逸らしたミリエーナが掲げて見せたのは、手に持てる大きさの霊具だ。
「二等の放水霊具よ。保管庫から持って来たわ、これを使えばバッチリよ! 私ってやっぱりかしこ~い!」
《ダメだ、真性のアホだぜこいつ》
「待って、それはダメ!」
『声』が呆れたように呟き、アマーリエは霊具を発動させようとした妹の手を叩く。その弾みで宙に飛んだ霊具が、すっぽりとシュードンの手に収まった。
「おお! よしレフィー、俺に任せろ!」
何を勘違いしたのか、ぐっと拳を握ったシュードンがキランと歯を輝かせてミリエーナに笑いかけ、炎に向かって駆け出した。
「ああ、私の手柄ぁ!」
(バカッ!)
見当違いの悲鳴を上げる妹を横目に、アマーリエは跳ね起きてシュードンに追い縋る――が、間に合わない。
《アマーリエ! ……くそっ、しゃーねえなぁ》
「うりゃあぁぁ、喰らえぇ!」
霊具が起動され、大量の水が溢れ出る。その瞬間、猛スピードで駆け付けた佳良が床を踏み込んで跳躍し、シュードンに盛大な飛び蹴りをかまして押し倒した。
「ふげぇっ!」
同時にアマーリエも、別方向から弾丸飛翔して来た桃色の小鳥の頭突きを肩に喰らい、再び転倒した。
「きゃあ!」
直後、放水霊具と作用し合った火炎霊具が膨張し、封鎖結界を吹き飛ばすほどの大爆発を起こした。
《緊急連絡です! 神官府にて作成中の火炎霊具が暴走しました。場所は第三霊具生成室、暴走している霊具は二等です》
霊具とは、専用の器に術式を組んで霊威を込めた道具のことだ。霊具を用いれば、徴を持たないただ人でも奇跡を起こすことが可能になる。通信霊具、転移霊具、治癒霊具など多くのものが国中で活用されていた。
《二等? 専門職用に火力制限を緩めたものか。……怪我人と原因、状況は?》
アシュトンが素早く念話返しで問いかけた。視線が虚空をさ迷っているところを見ると、自身でも遠視しているのかもしれない。
《はい、周囲の者は自身の霊威で防御したため、死傷者はいません。原因は作成担当者の力の乱れによるものです。現在、炎がかなりの勢いで上がっています。結界で封鎖しているのでこれ以上広がることはありませんが、霊具の暴走を収めなければ鎮火しないかと》
「そうか……結界で状況が安定しているのであれば、ちょうど良い実地訓練になる。主任神官に指揮を取らせて対処を――アマーリエ!? どこへ行く!」
アシュトンが呼ぶ声を聞き流し、アマーリエは大神官の部屋を飛び出した。神官府の案内図を遠視し、霊具作成室の前に転移する。
(まずいわ、絶対にあの子が出しゃばる!)
ミリエーナは大の目立ちたがりで自信家だ。何か騒動が起きるたびに自分が解決しようと、先陣切って渦中に突っ込み、余計に引っ掻き回して混乱させる。
《おいアマーリエ、よせ!》
ずっと聞こえなかった『声』が脳裏で弾ける。アマーリエの周囲に危険が迫れば分かるようにしていると言っていたから、この不穏な事態を察知したのだろう。焦った様子で呼びかけて来るが、構わずに辺りを見回す。嫌な予感は的中した。
「――待ちなさいミリエーナ!」
想定した通り、妹が噴き上がる炎に突撃しようとしていた。霊具作成室の扉は開いており、内部に張り巡らされた封鎖結界の中で激しい火炎が踊っている。結界の中に突っ込もうとするミリエーナに全力で体当たりして阻止し、姉妹で床に転がり込む。
「きゃあ! ちょっと誰よ――ってアマーリエじゃない! 何するのよ!」
その場に居合わせていたミリエーナの婚約者シュードンも、厳しい顔でアマーリエを睨む。
「おい能無し! 俺のレフィーに何をする!」
レフィーとはミリエーナの秘めたる名前である。帝国の者は、ファーストネームとファミリーネームの間に、大切な者にしか呼ばせないシークレットネームを持っているのだ。シークレットネームを含めたフルネームは、正式な場でしか名乗らない。
アマーリエはシュードンを無視してミリエーナを怒鳴り付けた。
「それはこちらのセリフだわ! 何をしようとしていたの!」
「私が消火してあげるのよ! 天にこの雄姿をご覧いただければ、神様は完全に私にべた惚れよ!」
「素晴らしい心がけだよレフィー!」
陶酔した表情で頷いているシュードンは引き続き捨て置く。《バカ妹なんざほっとけよ!》と叫んでいる『声』も。
「消火なんか無理よ、暴走したのは二等の霊具だと言っていたでしょう! 中位以上の神官が力を込める強力な霊具なのよ、私たちの霊威じゃ弾かれるわ」
ミリエーナは強い霊威を持つが、所詮『サード家の中では』という前書きが付く。神官全体で見た場合は、決して強くない。だが、妹は怯まなかった。
「私はどんくさいアンタとは違うのよ、ちゃんと準備して来たの!」
ふんと顎を逸らしたミリエーナが掲げて見せたのは、手に持てる大きさの霊具だ。
「二等の放水霊具よ。保管庫から持って来たわ、これを使えばバッチリよ! 私ってやっぱりかしこ~い!」
《ダメだ、真性のアホだぜこいつ》
「待って、それはダメ!」
『声』が呆れたように呟き、アマーリエは霊具を発動させようとした妹の手を叩く。その弾みで宙に飛んだ霊具が、すっぽりとシュードンの手に収まった。
「おお! よしレフィー、俺に任せろ!」
何を勘違いしたのか、ぐっと拳を握ったシュードンがキランと歯を輝かせてミリエーナに笑いかけ、炎に向かって駆け出した。
「ああ、私の手柄ぁ!」
(バカッ!)
見当違いの悲鳴を上げる妹を横目に、アマーリエは跳ね起きてシュードンに追い縋る――が、間に合わない。
《アマーリエ! ……くそっ、しゃーねえなぁ》
「うりゃあぁぁ、喰らえぇ!」
霊具が起動され、大量の水が溢れ出る。その瞬間、猛スピードで駆け付けた佳良が床を踏み込んで跳躍し、シュードンに盛大な飛び蹴りをかまして押し倒した。
「ふげぇっ!」
同時にアマーリエも、別方向から弾丸飛翔して来た桃色の小鳥の頭突きを肩に喰らい、再び転倒した。
「きゃあ!」
直後、放水霊具と作用し合った火炎霊具が膨張し、封鎖結界を吹き飛ばすほどの大爆発を起こした。
あなたにおすすめの小説
聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!
碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった!
落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。
オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。
ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!?
*カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
空港清掃員58歳、転生先の王宮でも床を磨いたら双子に懐かれ、国王に溺愛される
木風
恋愛
羽田空港で十五年、黙々と床を磨いてきた清掃員・田中幸子(58)は事故死し、没落寸前の子爵令嬢エルシアとして転生する。
婚約破棄の末に家を追われた彼女が選んだのは、王宮の清掃員――前世の技で空気まで変わるほど磨き上げていく仕事だった。
やがて母を亡くした双子王子王女に懐かれ、荒れた執務室の主である喪中の国王とも距離が縮まり……。
「泣くなら俺の胸で」――床も心も磨き直す、清掃令嬢の溺愛成り上がり。
誘拐された公爵令嬢ですが、なぜか皇帝に溺愛されています』
富士山麓
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間――
目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。
そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。
一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。
選ばれる側から、選ぶ側へ。
これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。
平民の薬師と契約結婚した冷徹公爵様ですが、実は私は5年前に失踪した侯爵家の正当令嬢でした~偽りの夫婦が本気の溺愛に変わるまで~
ハリネズミの肉球
恋愛
「これは契約だ。愛は不要だ」
そう言い放った冷徹公爵アルフォンスと、平民の薬師リアの結婚は、打算だけで結ばれた偽りの関係だった。
家も名も持たないリアは、生きるためにその契約を受け入れる。
――けれど。
彼女の作る薬は奇跡のように人を救い、荒れた公爵領は少しずつ変わっていく。
無関心だったはずのアルフォンスもまた、彼女の強さと優しさに触れるたび、心を揺らし始める。
「……お前は、俺のものだろう」
それは契約の言葉のはずだった。
なのに、いつからかその声音は熱を帯びていく。
そんな中、明かされる衝撃の真実。
リアは――5年前に政変で消えた侯爵家の正統令嬢だった。
彼女を陥れた貴族たちが再び動き出す中、アルフォンスは選ぶ。
契約か、それとも――愛か。
偽りから始まった関係は、やがて逃れられない執着へと変わっていく。
※本作品は、人工知能の生成する文章の力をお借りしつつも、最終的な仕上げにあたっては著者自身の手により丁寧な加筆・修正を施した作品です。
即席異世界転移して薬草師になった
黒密
ファンタジー
ある日、学校から帰ってきて机を見たら即席異世界転移と書かれたカップ麺みたいな容器が置いてある事に気がついた普通の高校生、華崎 秦(かざき しん)
秦は興味本位でその容器にお湯と中に入っていた粉を入れて三分待ち、封を開けたら異世界に転移した。
そして気がつくと異世界の大半を管理している存在、ユーリ・ストラスに秦は元の世界に帰れない事を知った。
色々考えた結果、秦は異世界で生きることを決めてユーリから六枚のカードからスキルを選んだ。
秦はその選んだスキル、薬草師で異世界を生きる事になる。
成功条件は、まさかの婚約破棄!?
たぬきち25番
恋愛
「アリエッタ、あなたとの婚約を破棄する……」
王太子のアルベルト殿下は、そう告げた。
王妃教育に懸命に取り組んでいたアリエッタだったが、
それを聞いた彼女は……?
※他サイト様にも公開始めました!