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第1章
26.漆黒の神炎
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(……え?)
アマーリエは咄嗟に状況が掴めず、唖然と形代を眺める。一瞬後、シュードンの悲鳴が弾けた。
「なっ…………ぎゃああぁぁあっちゃああぁ! 熱い熱い熱うぅい!!」
両腕を振り回して迸らせた絶叫に、アマーリエとミリエーナは飛び上がった。室内が一気に修羅場と化す。
「お、落ち着いてシュードン! 形代を消すか、自分との同調を停止させるのよ!」
急いで声をかけるが、本人は熱さで全く聞いていない。
「た、助けてくれ! み、水、水ぅ! あぁぁ上手く召喚できない!」
ここで応えたのはミリエーナだった。両腕を頭上にかざし、威勢よく告げる。
「ふふん、私の出番ね! 出でよ、氷水よ!」
霊威が発動し、氷塊混じりの水が召喚されると滝のように降り注いだ――シュードンの頭上に。
「ぎゃー冷たああぁ! ……あづいいぃ! 冷たい! あつーい!」
交互に叫ぶシュードンがびしょ濡れの姿で床をもんどりうつ。形代は相変わらず燃えている。
「ミリエーナ、水は形代にかけないと! 本人をずぶ濡れにしてどうするの!」
「わ、分かってるわよ! ちょっと間違えただけじゃない」
ミリエーナが再度水を召喚し、形代にかけた。だが、黒炎はますます激しく燃え上がる。シュードンの金切り声が大きくなり、ミリエーナの顔に焦りが浮かんだ。
「そんな、どうして消えないの!? 霊威を込めた霊水なのよ!?」
アマーリエは七転八倒するシュードンに向かって叫んだ。
「シュードン、聞こえている!? 形代との同調を止めて! シュードン!」
だが、声が届いている気配はない。
(仕方ないわ)
アマーリエは意を決して黒炎を睨んだ。
(一か八か……形代を破ったら強制解除できるかもしれない!)
高温を覚悟し、燃える形代に手を伸ばした時だった。
室内の大気が白みを帯びた淡い黄色に染まり、部屋中に虹色の粒子が弾けて舞い踊った。一陣の風が吹き、フッと炎が消える。
「ぎゃあああぁ……あれ?」
ジタバタと四肢を動かしていたシュードンが瞬きする。
「た、助かった……一体何が――へ?」
目を白黒させながら辺りを見回していた動きが、アマーリエとミリエーナの背後を見て止まった。
「え?」
アマーリエとミリエーナはそろって振り返る。そして硬直した。
いつの間にか、部屋の扉が開いている。そこに、華奢な痩身を持つ小柄な少女が佇んでいた。その容貌は、完璧という表現すら生ぬるく思えるほどに完成されたものだった。美の極致を超える、人の域など軽く凌駕した麗姿。
漆黒の双眸が、底知れぬ意思を宿してアマーリエたちを見据えた。
「大事ないか」
天上の宝珠を転がしたような声が放たれる。可憐な外見からすると、思いの外低い声音だった。
細い体に纏っていた黄白色の外套を払い、少女が音もなく一歩踏み出した。瞳と同じ色をした柔らかな長髪が揺れる。
気が付けば、アマーリエは無意識に足を引き、床に額を打ち付けるようにして平れ伏していた。シュードンがゴムボールのごとく跳ね起き、体を丸めてその場に這いつくばる。ミリエーナも崩れ落ちるように両膝を付いてうずくまった。
ただ佇んでいるだけの少女が、その存在だけで全てを圧倒し、平伏させている。
「楽にせよ」
気怠げな美声が聞こえた瞬間、体が軽くなった。だが、素直に身を起こす気にはなれない。アマーリエが床を見つめたまま息を殺していると、シュードンのかすれ声が耳に届いた。
「こ……皇帝、様……お助け下さったのですか。お慈悲に心より御礼申し上げます」
アマーリエは咄嗟に状況が掴めず、唖然と形代を眺める。一瞬後、シュードンの悲鳴が弾けた。
「なっ…………ぎゃああぁぁあっちゃああぁ! 熱い熱い熱うぅい!!」
両腕を振り回して迸らせた絶叫に、アマーリエとミリエーナは飛び上がった。室内が一気に修羅場と化す。
「お、落ち着いてシュードン! 形代を消すか、自分との同調を停止させるのよ!」
急いで声をかけるが、本人は熱さで全く聞いていない。
「た、助けてくれ! み、水、水ぅ! あぁぁ上手く召喚できない!」
ここで応えたのはミリエーナだった。両腕を頭上にかざし、威勢よく告げる。
「ふふん、私の出番ね! 出でよ、氷水よ!」
霊威が発動し、氷塊混じりの水が召喚されると滝のように降り注いだ――シュードンの頭上に。
「ぎゃー冷たああぁ! ……あづいいぃ! 冷たい! あつーい!」
交互に叫ぶシュードンがびしょ濡れの姿で床をもんどりうつ。形代は相変わらず燃えている。
「ミリエーナ、水は形代にかけないと! 本人をずぶ濡れにしてどうするの!」
「わ、分かってるわよ! ちょっと間違えただけじゃない」
ミリエーナが再度水を召喚し、形代にかけた。だが、黒炎はますます激しく燃え上がる。シュードンの金切り声が大きくなり、ミリエーナの顔に焦りが浮かんだ。
「そんな、どうして消えないの!? 霊威を込めた霊水なのよ!?」
アマーリエは七転八倒するシュードンに向かって叫んだ。
「シュードン、聞こえている!? 形代との同調を止めて! シュードン!」
だが、声が届いている気配はない。
(仕方ないわ)
アマーリエは意を決して黒炎を睨んだ。
(一か八か……形代を破ったら強制解除できるかもしれない!)
高温を覚悟し、燃える形代に手を伸ばした時だった。
室内の大気が白みを帯びた淡い黄色に染まり、部屋中に虹色の粒子が弾けて舞い踊った。一陣の風が吹き、フッと炎が消える。
「ぎゃあああぁ……あれ?」
ジタバタと四肢を動かしていたシュードンが瞬きする。
「た、助かった……一体何が――へ?」
目を白黒させながら辺りを見回していた動きが、アマーリエとミリエーナの背後を見て止まった。
「え?」
アマーリエとミリエーナはそろって振り返る。そして硬直した。
いつの間にか、部屋の扉が開いている。そこに、華奢な痩身を持つ小柄な少女が佇んでいた。その容貌は、完璧という表現すら生ぬるく思えるほどに完成されたものだった。美の極致を超える、人の域など軽く凌駕した麗姿。
漆黒の双眸が、底知れぬ意思を宿してアマーリエたちを見据えた。
「大事ないか」
天上の宝珠を転がしたような声が放たれる。可憐な外見からすると、思いの外低い声音だった。
細い体に纏っていた黄白色の外套を払い、少女が音もなく一歩踏み出した。瞳と同じ色をした柔らかな長髪が揺れる。
気が付けば、アマーリエは無意識に足を引き、床に額を打ち付けるようにして平れ伏していた。シュードンがゴムボールのごとく跳ね起き、体を丸めてその場に這いつくばる。ミリエーナも崩れ落ちるように両膝を付いてうずくまった。
ただ佇んでいるだけの少女が、その存在だけで全てを圧倒し、平伏させている。
「楽にせよ」
気怠げな美声が聞こえた瞬間、体が軽くなった。だが、素直に身を起こす気にはなれない。アマーリエが床を見つめたまま息を殺していると、シュードンのかすれ声が耳に届いた。
「こ……皇帝、様……お助け下さったのですか。お慈悲に心より御礼申し上げます」
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