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第1章
67.聖威師の務め①
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『動くな、王都神官府の緊急捜査隊だ!』
『ミハロ・デーグ! 神器の管理不行き届きの疑義で拘束する!』
『王都の神官府で詳しく取り調べさせてもらおう』
フルードから通達を受けた捜査官が急行したらしい。幾人かの足音と怒号、手錠がはめられるような音が連続して響く。
『さて、神器は……ん? おい、あれではないか!? 転送霊具の中に入ってるぞ!』
『何だと!? すぐに出して――いや駄目だ。もう転送が始まりかかってる!』
『今からキャンセルはできないか……くそ、どこ宛てだ!?』
神器の様子に気付いたか、にわかに色めき立つ捜査員たち。フルードが未だ繋がっている通信霊具に語りかけた。
「皆さん、落ち着いて下さい。聞こえますか。私が本件の通報者です」
『うわっ……ああ何だ、通信霊具か――って通報者!? ではあなたは大神官様ですか!?』
「はい。そちらにある神器は、この通信霊具を到着の座標にして転送される設定になっています。今から帝国神官府の結界を一時的に開き、弾かれずに届くようにしますから、触らずそのままにしておいて下さい」
『受け入れ……つまり神器にご対応下さるのですか?』
「こちらが転送を拒否すれば、テスオラ王国で神器が暴走してしまいます。対神器用の神器を用意している間に被害が広がるくらいならば、こちらで引き取ります」
『ああ、ありがとうございます、助かります! 旧式の霊具なので、転送完了までにまだかかるかと思います。しばらくお待ちいただけますでしょうか』
『分かりました。それでは一度通信を切りますが、ミハロ・デーグの処分の件は重ねてお願いします」
『承知いたしました。今後、進捗書と報告書を随時お送りします!』
通信を切ったフルードが、霊具を浮かせて斎場の隅に移動させる。その直後、通信霊具の周囲に光が走った。霊具を目がけて神器が転送されかかっているのだ。
(どうして大神官が対処するの? ラミルファ様の相手をしなくてはいけないのだし、この場はまだ気の揺らぎも大きいのだから、他の聖威師に任せればいいのに)
他の聖威師たちは避難場所にいるだろう。通信霊具を彼らに転送し、それを持って人気のない場所に転移してもらい、送られて来る神器に対処してもらえれば周囲に被害は出ない。
「……大神官、通信霊具を神官長やオーネリア様のお手元に転送して、念話で事情を話して対応をお任せすればよろしいのではありませんか?」
恐る恐る提案してみると、フルードはいつも通りの穏やかな表情でアマーリエの方を向く。
「そうできればいいのですが……通信霊具が保たないかもしれません。ダライは随分と年季の入った霊具を使っていたのですね。元々限界だった所を、彼が落として蹴り飛ばしたせいもあるのでしょうが、もう壊れかけています」
「えっ……」
「その状況で、神器がこれを座標として定め、繋がりを構築しています。この上さらに転送など別の力を加えては完全に故障し、座標を見失った神器が別の場所に飛ばされるかもしれません。霊具を修理するために修復の力を込めるのも同じことです。修理するどころか座標としての波動を乱し、神器の正常な転送を阻害してしまいかねない」
アマーリエは唖然とした。新しい霊具を買う金も修理する金も惜しみ、ガタがきたものを使い続けていたツケが来ているのだ。
(お母様とミリエーナが散財した分を一部でも節約して、中古でいいから買い直していれば良かったのに……)
例え撥ね付けられようとも進言しておくべきだったと悔やむも、今更だ。フレイムの神威ならば霊具を上手く修復できるだろうが、人間側の管理不足で起きた事故の尻ぬぐいを、高位神に手伝ってくれと頼めるはずもない。
「で、では、霊具を持って徒歩で別の場所に移動すれば……」
「それも難しいかと。先ほどダライが落とした時、霊具の一部が欠けたようです。霊具を構築している霊威が溢れて拡散し、この斎場の地面や木々、瓦礫などに広く染み込んでしまっている。いわば、この場一帯が霊具と共鳴しています。霊具本体だけを別の場所に引き離せば、その時点で破損してしまいます」
言われて目を凝らすと、確かに通信霊具の一部が不自然に欠けていた。この状態でまだ完全に故障していないのは、ある意味奇跡かもしれない。周囲が霊具と呼応したことで、結果的にギリギリでバランスが取れているのだ。
(本当だわ。私も慌てていたから気が付かなかった……)
つまり、ここで対処するしかないわけだ。頭を抱えていると、微塵も慌てていないフルードが話題を変えた。
「ところでアマーリエ、あなたは正常化を使ったことはありますか」
「……い、一応はあります。ですが実践ではなく、属国神官府の初等実技でのことです。ビーズ玉ほどの簡素な霊具が少し不調になったのを直すだけの、基礎の基礎しかやったことがありません」
無能のアマーリエが失敗すればサード家の面子に関わるからと、基本中の基本しかやらせないよう、ダライが陰で圧をかけていたためだ。
「やり方自体を知っていれば問題ありません。神器の正常化をお願いできますか。あなたはもう聖威師です。やろうと思えばできるはず」
『ミハロ・デーグ! 神器の管理不行き届きの疑義で拘束する!』
『王都の神官府で詳しく取り調べさせてもらおう』
フルードから通達を受けた捜査官が急行したらしい。幾人かの足音と怒号、手錠がはめられるような音が連続して響く。
『さて、神器は……ん? おい、あれではないか!? 転送霊具の中に入ってるぞ!』
『何だと!? すぐに出して――いや駄目だ。もう転送が始まりかかってる!』
『今からキャンセルはできないか……くそ、どこ宛てだ!?』
神器の様子に気付いたか、にわかに色めき立つ捜査員たち。フルードが未だ繋がっている通信霊具に語りかけた。
「皆さん、落ち着いて下さい。聞こえますか。私が本件の通報者です」
『うわっ……ああ何だ、通信霊具か――って通報者!? ではあなたは大神官様ですか!?』
「はい。そちらにある神器は、この通信霊具を到着の座標にして転送される設定になっています。今から帝国神官府の結界を一時的に開き、弾かれずに届くようにしますから、触らずそのままにしておいて下さい」
『受け入れ……つまり神器にご対応下さるのですか?』
「こちらが転送を拒否すれば、テスオラ王国で神器が暴走してしまいます。対神器用の神器を用意している間に被害が広がるくらいならば、こちらで引き取ります」
『ああ、ありがとうございます、助かります! 旧式の霊具なので、転送完了までにまだかかるかと思います。しばらくお待ちいただけますでしょうか』
『分かりました。それでは一度通信を切りますが、ミハロ・デーグの処分の件は重ねてお願いします」
『承知いたしました。今後、進捗書と報告書を随時お送りします!』
通信を切ったフルードが、霊具を浮かせて斎場の隅に移動させる。その直後、通信霊具の周囲に光が走った。霊具を目がけて神器が転送されかかっているのだ。
(どうして大神官が対処するの? ラミルファ様の相手をしなくてはいけないのだし、この場はまだ気の揺らぎも大きいのだから、他の聖威師に任せればいいのに)
他の聖威師たちは避難場所にいるだろう。通信霊具を彼らに転送し、それを持って人気のない場所に転移してもらい、送られて来る神器に対処してもらえれば周囲に被害は出ない。
「……大神官、通信霊具を神官長やオーネリア様のお手元に転送して、念話で事情を話して対応をお任せすればよろしいのではありませんか?」
恐る恐る提案してみると、フルードはいつも通りの穏やかな表情でアマーリエの方を向く。
「そうできればいいのですが……通信霊具が保たないかもしれません。ダライは随分と年季の入った霊具を使っていたのですね。元々限界だった所を、彼が落として蹴り飛ばしたせいもあるのでしょうが、もう壊れかけています」
「えっ……」
「その状況で、神器がこれを座標として定め、繋がりを構築しています。この上さらに転送など別の力を加えては完全に故障し、座標を見失った神器が別の場所に飛ばされるかもしれません。霊具を修理するために修復の力を込めるのも同じことです。修理するどころか座標としての波動を乱し、神器の正常な転送を阻害してしまいかねない」
アマーリエは唖然とした。新しい霊具を買う金も修理する金も惜しみ、ガタがきたものを使い続けていたツケが来ているのだ。
(お母様とミリエーナが散財した分を一部でも節約して、中古でいいから買い直していれば良かったのに……)
例え撥ね付けられようとも進言しておくべきだったと悔やむも、今更だ。フレイムの神威ならば霊具を上手く修復できるだろうが、人間側の管理不足で起きた事故の尻ぬぐいを、高位神に手伝ってくれと頼めるはずもない。
「で、では、霊具を持って徒歩で別の場所に移動すれば……」
「それも難しいかと。先ほどダライが落とした時、霊具の一部が欠けたようです。霊具を構築している霊威が溢れて拡散し、この斎場の地面や木々、瓦礫などに広く染み込んでしまっている。いわば、この場一帯が霊具と共鳴しています。霊具本体だけを別の場所に引き離せば、その時点で破損してしまいます」
言われて目を凝らすと、確かに通信霊具の一部が不自然に欠けていた。この状態でまだ完全に故障していないのは、ある意味奇跡かもしれない。周囲が霊具と呼応したことで、結果的にギリギリでバランスが取れているのだ。
(本当だわ。私も慌てていたから気が付かなかった……)
つまり、ここで対処するしかないわけだ。頭を抱えていると、微塵も慌てていないフルードが話題を変えた。
「ところでアマーリエ、あなたは正常化を使ったことはありますか」
「……い、一応はあります。ですが実践ではなく、属国神官府の初等実技でのことです。ビーズ玉ほどの簡素な霊具が少し不調になったのを直すだけの、基礎の基礎しかやったことがありません」
無能のアマーリエが失敗すればサード家の面子に関わるからと、基本中の基本しかやらせないよう、ダライが陰で圧をかけていたためだ。
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