36 / 601
第1章
36.連れて行く②
しおりを挟む
横断幕の横にかけられたタペストリーには、家紋と思われる紋章が縫い込まれていた。写真の中にはアマーリエもいる。両親の横で、不安と緊張が入り混じった面持ちで前を見据えていた。ミリエーナの姿はない。
(これはもしかしてアレか、バカ母の家で有色の神を勧請して拒絶された時の写真なのか?)
アマーリエにとって最大の悪夢となったその日は、母方の親族との会合で神を勧請したと聞いている。
同じページにある写真には、サード邸とは違う邸の様子が写されていた。装飾品のところどころに、タペストリーと同じ家紋が刻まれている。
(バカ母の家で撮った写真か)
それほど量は多くなく、数枚ほどしかなかったが、正面玄関と思わしき写真や、庭の写真もあった。
アマーリエからすれば即座に破り捨てたい悪夢の記録だろうが、ミリエーナの部屋にあったものである以上、勝手に処分するわけにもいかないのだろう。
「――あ?」
何とは無しに見ていたフレイムは、ある一枚を見た瞬間に眉を顰めた。
「何だこれ」
アルバムからその写真を取り出し、至近距離でじっと見つめる。
(……うん、間違いない。何でコレがここにある?)
そして、電流に撃たれたように目を見開いた。
脳裏に稲妻の如く蘇る記憶。
『有色の神威をお持ちの高位神だったわよ』
『気は落ち着いた暗めの赤色で、黄土色か茶色も混じっていたわ』
『あの時はこの本に載っている勧請の方法を忠実に再現したわ』
『9年前に私が勧請して、不快にさせてしまった高位神よ』
『神様に叱られちゃった。私は間違いだらけだって。ミリエーナより優れているところなんか一つもない、正真正銘の出来損ないだって』
「ちょっと待て。まさか……じゃあ――ルファってのは……」
ベッドの上で夢の中の住人となっているアマーリエを振り返り、フレイムはたった今駆け巡った推測をもう一度反芻した。霊獣たちが耳をよそがせる。
『どうされました、フレイム様』
『何かあったのですか』
「あ、いや……」
内心の動揺を隠し、フレイムは返事を濁した。
(落ち着け。まだそうと決まったわけじゃねえ。もしそうなら……もしあいつなら、9年前は何で悪態を吐くだけで大人しく天に還ったんだ?)
「……なぁ、お前らも9年前の勧請の場にいたんだよな。当時のこととか降臨した神たちのことって、詳しく分かるか?」
問いかけると、ラモスとディモスは顔を見合わせた。しばし考え込んだ後、しょんぼりと下を向く。
『――情けない話ですが、仔細をお伝えするのは難しいかと。確かに我らもあの場にいましたが、主の両親と不仲ですので……勧請の準備を始める時点で主から遠ざけられ、参加者の輪の外側から見ていることしかできませんでした』
『それなりに距離がありましたし、神々の前にはご主人様や両親、近親者がいたので……彼らが遮蔽となって細かい部分は見えませんでした。少年のお姿をした神がご主人様を拒むところは、辛うじて見えたのですが』
万一にでも勧請の邪魔をされないようにと、強めの霊具を持ったダライに牽制されていたため、遠視でアマーリエの付近を見通すこともできなかったのだという。
役に立てず申し訳ない、と項垂れる二頭に、フレイムは明るく笑って頷いた。
「そうか。いや、良いんだ。そんなら仕方ねえよ。俺ももうちょっと考えてみるわ」
(やっぱ当事者のアマーリエに聞かないと駄目だな。辛い記憶を思い出させるのは心苦しいが、ちゃんと確認しねえと。……だが、もし俺の予想が当たっていたなら――)
立ち尽くしたまま、難しい顔になって胸中で唸る。
(これはひと騒動あるかもしれねえぞ)
(これはもしかしてアレか、バカ母の家で有色の神を勧請して拒絶された時の写真なのか?)
アマーリエにとって最大の悪夢となったその日は、母方の親族との会合で神を勧請したと聞いている。
同じページにある写真には、サード邸とは違う邸の様子が写されていた。装飾品のところどころに、タペストリーと同じ家紋が刻まれている。
(バカ母の家で撮った写真か)
それほど量は多くなく、数枚ほどしかなかったが、正面玄関と思わしき写真や、庭の写真もあった。
アマーリエからすれば即座に破り捨てたい悪夢の記録だろうが、ミリエーナの部屋にあったものである以上、勝手に処分するわけにもいかないのだろう。
「――あ?」
何とは無しに見ていたフレイムは、ある一枚を見た瞬間に眉を顰めた。
「何だこれ」
アルバムからその写真を取り出し、至近距離でじっと見つめる。
(……うん、間違いない。何でコレがここにある?)
そして、電流に撃たれたように目を見開いた。
脳裏に稲妻の如く蘇る記憶。
『有色の神威をお持ちの高位神だったわよ』
『気は落ち着いた暗めの赤色で、黄土色か茶色も混じっていたわ』
『あの時はこの本に載っている勧請の方法を忠実に再現したわ』
『9年前に私が勧請して、不快にさせてしまった高位神よ』
『神様に叱られちゃった。私は間違いだらけだって。ミリエーナより優れているところなんか一つもない、正真正銘の出来損ないだって』
「ちょっと待て。まさか……じゃあ――ルファってのは……」
ベッドの上で夢の中の住人となっているアマーリエを振り返り、フレイムはたった今駆け巡った推測をもう一度反芻した。霊獣たちが耳をよそがせる。
『どうされました、フレイム様』
『何かあったのですか』
「あ、いや……」
内心の動揺を隠し、フレイムは返事を濁した。
(落ち着け。まだそうと決まったわけじゃねえ。もしそうなら……もしあいつなら、9年前は何で悪態を吐くだけで大人しく天に還ったんだ?)
「……なぁ、お前らも9年前の勧請の場にいたんだよな。当時のこととか降臨した神たちのことって、詳しく分かるか?」
問いかけると、ラモスとディモスは顔を見合わせた。しばし考え込んだ後、しょんぼりと下を向く。
『――情けない話ですが、仔細をお伝えするのは難しいかと。確かに我らもあの場にいましたが、主の両親と不仲ですので……勧請の準備を始める時点で主から遠ざけられ、参加者の輪の外側から見ていることしかできませんでした』
『それなりに距離がありましたし、神々の前にはご主人様や両親、近親者がいたので……彼らが遮蔽となって細かい部分は見えませんでした。少年のお姿をした神がご主人様を拒むところは、辛うじて見えたのですが』
万一にでも勧請の邪魔をされないようにと、強めの霊具を持ったダライに牽制されていたため、遠視でアマーリエの付近を見通すこともできなかったのだという。
役に立てず申し訳ない、と項垂れる二頭に、フレイムは明るく笑って頷いた。
「そうか。いや、良いんだ。そんなら仕方ねえよ。俺ももうちょっと考えてみるわ」
(やっぱ当事者のアマーリエに聞かないと駄目だな。辛い記憶を思い出させるのは心苦しいが、ちゃんと確認しねえと。……だが、もし俺の予想が当たっていたなら――)
立ち尽くしたまま、難しい顔になって胸中で唸る。
(これはひと騒動あるかもしれねえぞ)
45
あなたにおすすめの小説
結婚十年目の夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。彼は「送り間違えた」というけれど、それはそれで問題なのでは?
ぽんた
恋愛
レミ・マカリスター侯爵夫人は、夫と政略結婚をして十周年。侯爵夫人として、義父母の介護や領地経営その他もろもろを完ぺきにこなしている。そんなある日、王都に住む夫から「結婚契約更新書」なるものが届いた。義弟を通じ、夫を追求するも夫は「送り間違えた。ほんとうは金を送れというメモを送りたかった」という。レミは、心から思った。「それはそれで問題なのでは?」、と。そして、彼女の夫にたいするざまぁがはじまる。
※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
婚約破棄から50年後
あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。
そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。
できない子に転生しましたが、家族と食卓があれば十分です ―人間不信だった私が、ゆっくり育つ異世界生活―
愛朱ひいろ
ファンタジー
人の顔色ばかり伺い、心を壊した26歳の会社員女性。
彼女は死後、異世界で「できない子」として転生する。
魔法は使えない。
体は不器用で、成長も人より遅い。
前世の記憶のせいで、人と関わることが少し怖い。
けれどこの世界には、
見守り支えてくれる両親と、
あたたかい食卓があった。
泣いて、つまずいて、できないことに落ち込みながら、
彼女は少しずつ「できないままでも、生きていていい」と知っていく。
これは、
最強でもチートでもない主人公が、
家族と食事に支えられながら、ゆっくり育ち直す
生活密着型・異世界転生×成長×グルメファンタジー。
……の、予定です。
毎日更新できるように執筆がんばります!
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
ローザリンデの第二の人生
梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。
彼には今はもういない想い人がいた。
私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。
けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。
あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。
吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。
※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。)
1/10 HOTランキング2位、ありがとうございます。
侯爵令嬢ソフィアの結婚
今野綾
恋愛
ソフィアは希少なグリーンアイを持つヴィンセントと結婚したが、これは金が欲しいソフィアの父の思惑と高い爵位が欲しいヴィンセントの思惑が一致したからに過ぎない
そもそもヴィンセントには美しい恋人がいる
美男美女と名高いヴィンセントとその恋人は身分に大きな差があるために結婚することは叶わないのだ
その事をソフィアも耳にしており、この結婚が形ばかりのものであることを知っていた
結婚して早々、ソフィアは実家から連れてきた侍女夫婦とあばら家に住むように言われて…
表紙はかなさんです✨
ありがとうございます😊
2024.07.05
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる