神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

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第2章

24.波乱の認証

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 言い争いをやめ、ポカンと少年を見ていた祖父とマキシム当主が我に返った。

「う、うむ……出迎えに感謝いたす」
「貴府の主任神官に挨拶させていただきたく存じます」
「承知しております。どうぞこちらへ」

 少年の先導で歩くこと少し。リーリアたちは大きな扉の前に辿り着いた。

「お入りを」

 僅かな音すら立てずに扉が開く。高い天上が広がるそこは、ダンスパーティーが開けそうな広さのホールだった。霊威の灯で煌めくシャンデリアが幾つも吊り下がり、数段高くなった奥の間に人影が見える。

 深い翠色の法衣を着込んだ神官数名が下に控え、段上には美麗に飾り立てられた宝座が幾つも並び、色とりどりの衣を纏った麗しい男女が着席している。中心には一際大きく豪奢な首座が置かれており、鳥肌が立つほどに美麗な青年が座していた。

 ワインレッドの髪に山吹色の双眸。尖った耳、縦に裂けた瞳孔。そして、立ち昇る圧倒的な御稜威みいつ。無造作に足を組み、右腕で頬杖を付いてこちらを睥睨へいげいしている青年は、気怠げなその様相だけで全てを圧倒していた。

「…………」

 リーリアたちは反射的に足を引いてひざまずいていた。頭が自然に下がる。視線だけを上に向けると、案内役の少年が軽やかな足取りで段を上っていくのが見えた。下にいた深翠の神官衣を着た神官たちが、一斉に叩頭している。

(待って……あの方々は中央本府の主任と副主任ではなくて?)

 神官府で発行されている機関紙に顔が載っていたので、覚えている。

(中央本府のトップ二人が、どうしてあの子に頭を下げるんですの?)

 リーリアが内心で首を傾げている間に、少年は最端に一つ空いていた宝座に腰掛けた。

「貴き大神方よ。これなるはテスオラ王国神官府より参りました者たちにございます」

 中央本府の主任神官が、段上に向かって述べた。

「面を上げよと大神様が仰せです」

 首座の右後方に控えている別の少年が、薄く微笑んで言った。サラリとした金髪に若葉色の瞳をしている。案内役の少年よりも少し年上で、恐怖を感じさせるほどの凄みを持つ美貌だ。

「貴き大神にご挨拶申し上げます。テスオラ王国神官府にて主任を務めております、ヘルガ・レオ・アヴェントにございます」

 テスオラ神官府の主任神官である父が、作法に則って低頭する。続いて副主任であるマキシム当主と祖父が挨拶し、リーリアとオーブリーが進み出た。まだ認証が済んでいないので、一般の神官と同じ所作で挨拶をすることになっていた。

「貴き大神に、テスオラの神官を代表してご挨拶させていただきます。リーリア・レアナ・アヴェントと申します」
「同じく、テスオラ神官代表としてご挨拶申し上げます。オーブリー・セドル・マキシムにございます」

 若葉の目の少年が、ゆったりとした袖で口元を隠した。妙な色香と高貴さを漂わせる動きだ。華奢な肩が微かに震え、チラリとこちらを覗く双眸は三日月の形に細まっている。

(この子……こちらを見て笑っているの?)

 だとしたら、それは何故。

 首座の左右に居並ぶ男女は、眉ひとつ動かさない――いや、少しだけ表情を変えた者が二名いる。一人は女性だ。ハーフアップにした髪に赤いドレスを着た、綺麗な若い娘。リーリアとオーブリーを見て、不思議そうに首を傾げている。

(こちらのお方がアマーリエ様だわ)

 彼女を見た瞬間に直感が走る、そう言えば、かつてテスオラ神官府で全体集合を行った際、似たような少女が隅の方にいた気がする。
 だが、あの時の少女はこんなに自信に溢れた瞳をしていなかった。こんなに堂々とした立ち姿をしていなかった。

 まるで別人だと思いながら、視線を移す。先ほど表情を動かした今一人は、神の左後方に控える金髪碧眼の青年だ。こちらに視線を据え、目を見開いている。リーリア、とその口元が動く。

(あのお方は……神の従者ですわよね。どうしてわたくしの方ばかり見ておられますの?)

 オーブリーもいるのに、と思い、目だけを動かして横を見る。当のオーブリーは、何故か吸い込まれるような表情で、呆然とアマーリエを見ていた。

「…………」

 ワインレッドの髪を持つ神が、左手をゆるりと一振りした。

「大神様はもう良いと仰せです。お下がりを」

 若葉色の瞳の少年が告げた。笑いをかみ殺すように、口元に力が入っている。

(えっ?)

 リーリアは硬直した。予定では、この挨拶で認証してもらい、間違いなく聖威師であるとして彼らの同胞に迎え入れられることになっていた。なのに――

(どうして……予定と違うではありませんの)

 オーブリーも唖然としている。祖父と父、マキシム当主もだ。

「お、お待ちを……」
「お下がり下さい」

 身を乗り出した祖父の言葉を遮り、くだんの少年が繰り返した。その目は緩く弧を描いている。やはり笑いを堪えているようだ。

「っ…………」

 黙り込んだ祖父が、ヒュッと喉を鳴らす。まだ若年であるこの少年の言葉に、どうしてか逆らうことができない。
 リーリアたちは弾かれたように立ち上がり、見えない力に押し出されるようにしてホールを後にした。
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