神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

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第3章

12.魔物討伐

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《数と状況は?》

 アマーリエは間髪入れずに聞く。帝都の外れにあるスザール地区は人口が多い。

《数はおよそ数十体。非常に強力な霊威を持つ魔物たちで、攻撃性を著しく増しております。一般人は退避済みですが、撃退しなければ広域に被害が及ぶかと思われます》
(とても強いならば、古代魔物かしら。この前の地震で、地下で眠っていた太古の魔物の一部が覚醒したのよね。その仲間かもしれないわ)

 以前、藍闇皇らんあんこう高嶺こうれいと共に出動した際は、地上に襲撃しようと潜伏していた魔物たちしか討伐しなかった。だが、あの時には行動を起こしていなかった別の魔物たちもいたかもしれない。天界で眠る神々も起きそうだというし、上でも下でも目覚めが続きそうだ。

《すぐに出るわ。攻撃性が高まっているならば、魔物は人間を襲ったのかしら?》
《はい、地区の住民たちが被害に遭いましたが、霊具による防御及び離脱を成功させました。皆、怪我は負ったものの生命に別状はありません。ですが、魔物の霊威は増大しており、数も多いことから、人間の戦闘部隊では手に負えません》

 通常の魔物や悪鬼邪霊などであれば、人間の神官と武官の軍隊から成る戦闘部隊でも抗し得る。だが、いにしえの魔物たちは一線を画して強力な霊威を有しているため、聖威師でなければ手に負えない。攻撃的になっているなら尚更だ。

《そう……襲撃の実績と被害があるならやむを得ないわね。鎮圧ではなく討伐します》
(可能な限り殺したくないけれど、仕方ないわ。人間の安全が最優先だもの)

 ほろ苦い思いを抱きながら、先日の天災のことを思い出す。あの嵐の時は、相当な犠牲者が発生してからでなければ出動できなかった。相手が魔物や悪鬼邪霊などであれば、今回のように死者が出ていない段階でも動けるのに。
 相対するものが地上で自然発生する災害や事故等の事象か、あるいは地下世界の存在かで、出動条件が大きく変わるのだ。

 前者の場合、地上は人間が運営するという原則があるため、容易には介入ができない。だが後者であれば、地上とは別の次元にある地下世界の存在が相手なので、出動条件が緩まる。神器が相手の場合も同様だ。神が創り神威を有する神器は、地上にあろうとも天に属しているからだ。

(ごめんなさい、クラーラちゃん)

 アマーリエは続き部屋を遠視した。クラーラはベッドに腰掛け、大人しく絵本を読んでいる。

(少しだけお休みしていてちょうだい)

 自分が不在の間に、万一彼女が出て来て執務室の書類を触ってしまったら困る。こっそりと入眠の聖威を放つと、クラーラはふぁ~と欠伸をし、絵本を閉じてベッド潜り込んだ。そのままスヤスヤと眠りに落ちる。

(なるべくすぐ戻るからね)

 心の中で手を合わせ、フルードとアシュトンに念話で出動を伝えてから、転移でスザール地区へ飛んだ。

 ◆◆◆

(まあ、魔物があんなに暴れて……道路や家がめちゃくちゃだわ)

 魔物たちが暴れ回る街は、燦々たる状況だった。大型の魔物が建造物を叩き壊している。これでは上位等級の復元霊具を使っても復旧が大変だろう。

(今回は私が直せば良いのよね)

『キキィー!』

 アマーリエに気付いた魔物の一体が奇声を上げた。それを皮切りに、他の魔物たちも一斉にこちらを見る。

『おや、女か』
『自ら死にに来るとは』
『だが肉は柔らかそうだ』

 そろって三日月を描く彼らの目に宿るのは、侮りだ。か弱い小娘一人に何ができるのかと。……この状況で単身乗り込んで来る者が、ただの小娘であるはずがないのだが。
 ドラゴンのような巨躯を持つ魔物がグワリと大口を開け、口腔から炎のブレスを吐き出した。

(火の神である私に炎で挑むとはね)

 軽く後ろに跳躍して避け、続け様に襲い来る鎌鼬かまいたちや稲妻をダンスのステップを踏むようにひょいひょいと躱す。

(アリステル様の黒い風刃や当波様の雷撃に比べたらお遊びだわ)

 実戦の稽古を付けてくれた先達の聖威師たちを思い浮かべながら片腕を振るい、槍のように放たれた衝撃波を弾き返す。

「住民への襲撃及び街への破壊行為は見逃せません。私が引導を渡します」

 攻撃を放って来た魔物たちに向かって手の平を向けると、放射された聖威が標的を消し飛ばした。

『なっ……瞬殺されただと!?』
『今の力は霊威ではない……』
『まさか――』

 悲鳴すら上げる間も無く消滅した同胞を見て、残りの魔物たちが表情を変える。こちらの正体を察したのだ。

(私が聖威師だって気が付いたみたいね)

 だが、遅い。

『せ、聖威師がこんなに早く動くなんて……』
『逃げろ!』

 あたふたと大地に潜り、彼らの故郷たる地下世界へ――薄紙一枚を隔てた次元の先へと逃げる魔物たちに、一撃をお見舞いする。当然だが、地下世界に置いても聖威は使用可能だ。

『ま、待ってくれ! 我らはここで適当に遊べと指示を受けただけ――』
『お、お助け下さい、魔――』

 紅葉色の閃光が地面と次元をまとめて透過し、炎の花弁が魔物のみを灰も消し炭も残さず燃やし尽くした。

「ふぅ、一件落着ね」
(最後、何か言いかけていた気がしたけれど……途中で燃えてしまったわ)

 もしや何か裏でもあるのだろうか。ならば、一体くらい生け捕りにしておけば聞き出せたかもしれないと、少し後悔する。

(次にまた同じようなことがあったら、何体かは殺さず捕まえましょう。さて、後は街を復元して、フルード様に報告して帰るだけ……)

 内心でひとりごちながら、壊れた街並みを見つめ、何の気なしに上空を振り仰ぐ。

「――え?」

 無意識に声が漏れた。逆光の中に小柄な影がある。大部分を破壊されながらも、辛うじて崩れずに建っている塔の先端に立っていた。

(誰? 子ども?)

 逃げ遅れた市民がいたのか。だが、人間の気配は感じなかったし、避難するにしてもあんな不安定な場所を選ぶ理由がない。そもそも、聖威師の目は暗闇だろうが逆光だろうが関係なく景色を見通すのに、何故今の影は真っ黒で見えないのだろう。
 一度瞬きし、再度目を凝らす。そして唖然とした。

(消えた……)

 瞬きした刹那の間に、小さな影は綺麗にいなくなっていた。周囲を見回し、聖威で探査するも、何も引っ掛からない。

(み、見間違い?)

 実は疲れが溜まっていて幻覚でも見たのだろうか。今夜はフレイムに疲労回復のスイーツを作ってもらいたいと思いかけ、すぐにしょんぼりと下を向く。
 最愛の夫は、今夜はずっと不在だということを思い出したからだった。
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