神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

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第3章

24.箸の使い方は難しい

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『…………』

 言質げんち取ったりである。灰銀の太古神がのたまったのは、この上ない自白の言葉。やはりこの神が関わっていたかと、フレイムは胸中で唸った。

『天界にある滞留書の原紙は、箱ごと強力な結界で守られている。最高神たちが総出で張り上げた特製の守りだ。それを破って細工したんなら、あなたが真の神格を出したのかと思いました』

 選ばれし奇跡の神、狼神。普段は仮の神格の奥に秘めている真の神格を解放すれば、その立場と力は最高神に届く。いや、狼神もまた、フレイムたちとであることを踏まえれば、力に関しては届くどころか超越する。

『だが、そんなことをしたらいくら何でも気付かれるでしょう。真価を出したあなたの神威はあまりに強烈で大きすぎる』
『私と同類のあなたがそれを仰いますかな。結果的に自画自賛になっておりますぞ』
『褒めるつもりで言ったんじゃありませんよ。コソコソ暗躍するには向いてないという意味です』
『おやおや、それは失敬』

 揶揄うように言う狼神に、フレイムはフンと鼻を鳴らした。辛うじて形だけは貼り付けていた先達への敬意すら剥がれかけているが、古き大神はまるで気にしていない。そもそも、フレイムと狼神の関係は元から相当に親密だ。態度一つでどうにかなるようなことはない。

『あなたがやったんでないなら、可能性はあと二つ。一つは、あなたや俺たち以外の他の選ばれし神が真の神格を出して結界をどうにかした』

 例えば運命神義兄上とか時空神とかですね、と補足し、あらぬ方を睨み上げながら言葉を継ぐ。

『あるいは――結界を張っている側、つまり最高神側に、あなたたちの味方がいるか、だ』

 地水火風禍の全柱が狼神側ということはないはずだ。もしそうであれば、わざわざ二度手間三度手間になるような方法を取ってまでフルードやフレイムたちの注意を剃らさせ、数日もかけてこっそりと動く必要はない。
 最高神全てが合意したならば、一瞬で結界を解いてしまい、滞留書でも箱でも好きなように壊してしまえるのだから。

『最高神の一部だけが、密かにあなたたちに手を貸した。他の最高神たちには気取られないように。だから数日の期間を必要としたんだ。俺はこっちの可能性の方が高いと思いますがね』
『仮にそうだとして、その一部がどなたであるかは見当が付いているのですかな?』
『ええ、もちろん。それをこれから確かめに行くんですよ』
『では、もうお帰りになられるので?』
『はい、そうですが』
『それは残念。せっかく焔神様にお越しいただいたというのに、茶の一杯も出さず申し訳ない限りですぞ』
『あなたの図体で茶など飲めんでしょう……。どんだけ巨大な壺をカップ代わりにしなきゃならんと思ってるんですか』

 見晴るかす大きさの巨狼を眺め、呆れ声で呟くと、ケロリとした声が降って来た。

『そのようなもの、今までもこうして来たでしょう』

 ◆◆◆

 摘んで持ち上げようとするたび、標的はスルンと逃げ出していく。

(くっ……このっ。えいっ!)

 高価な朱塗りの椀の中で踊る、細い糸。棒状のカトラリーの間からすり抜けていく麺と格闘しているアマーリエの耳に、軽い呆れ声が滑り込んだ。

「やれやれ、まさか皇国料理とは。お茶と軽食というから、サンドウィッチかスコーンでも付いた簡易なナイトハイティーかと思っていたのだがね」

 そう呟く邪神だが、無造作に茶器を傾けて緑色の茶を飲む姿は凄まじく様になっている。

「すみません……どうせなら箸の使い方を教えていただこうかと思いまして。時間は有効活用しないと」
(魔神様や滞留書に関して、私たちからできることはないもの。悪神の神器を鎮める練習は、さすがに今はやめておいた方が良いでしょうし)

 肩をすぼめるアマーリエ。聖威師となった以上、各国の王侯貴族が主催する祭祀や国家行事に貴賓として招かれることもあるため、食事を含めた作法を勉強中なのだ。
 夕食は既にポトフを食べたが、魔牛との戦闘で体を動かした上、皇国料理はさっぱりした味付けの物が多いので、腹に入ると判断した。

「箸の基本的な扱いは覚えたのですが、豆みたいに丸くて小さなものとか、麺のようにツルツルした物を掴むのが上手くいかないのです。後は、魚を綺麗に食べたり、小骨を取ることも苦手で……」

 えんどう豆の煮物や焼き魚が盛り付けられた染付の器と、にゅう麺の汁物が湯気を立てる塗り椀は、売れば一財産になる高級品だという。アマーリエが聖威師になった際の祝い品として、皇国の各地や諸侯貴族から献上された。箸も高価な漆塗りで、先端は細い。当然、滑り止めの加工などはされていない。

 なお、皇国式の夕食は聖威を使って一瞬で作った。さすがにこの状況で一人キッチンにこもる気にはなれない。

「自力でやらずとも、聖威を使って補助すれば上手く食べられるだろう」

 気のない表情で言うのは、焼物が乗った染付皿をつついているアリステルだ。滑らかな所作で魚の身をむしっている彼は、しかし、見たところ聖威を使ってはいない。

「だとしても、できる限り自分の力でできるようになりたいと思うものですよ」

 やんわりと口を挟んだのは、ごく自然な動作でえんどう豆を摘んでいるフルード。大神官兄弟も夕食がまだだったらしい。

「私はそうでした。勉強熱心なアマーリエもきっと同じでしょう。あなたもそうだったのではありませんか、アリステル」
「それは否定しない」

 あっさりと認めたアリステルに、逃げ回る麺から一度意識を離したアマーリエは聞く。

「フルード様はフレイムやラミルファ様、狼神様に作法を教わったと聞きました。アリステル様は鬼神様に御指南を受けられたのですか?」
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