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第3章
61.新たな事案発生
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『レアナー!』
空間が裂け、秀麗な美貌が躍り出る。白みを帯びた水色の長髪が舞った。リーリアの顔が綻ぶ。
「フロース様!」
『父神を説得しながら、あなたのことをずっと視ていたんだ。暴れ神が神威を消すのがあと少し遅かったら、助けようと飛び出して行くつもりだったんだけど……』
その直前に疫神が力を抑え、狼神が顕現したので、様子見を続けたらしい。
『あっ、それより今はこっちだ。ほら、滞留書を取り戻したよ!』
じゃーん、とばかりに泡の神が掲げた手には、一枚の紙が握られていた。雪のような白色をしているが、絹のような薄さで向こうが透けて見えるほどだ。上半分には文字がびっしりと綴られ、下半分は空白になっている。
『レアナは言っていただろう。滞留書が戻るまで心配で心配で息もできない、戻らなければずっと泣き暮らすって。だから、取り戻したことをその目で確認できたら安心してもらえると思って、持って来たんだよ』
得意満面のフロースに、リーリアとアマーリエはそろって顔を輝かせた。
「良かった……本当に良かったですわ!」
「フロース様、ありがとうございます!」
『暴れ神が鎮まったのを視て、安心した父神が一瞬油断したんだ。その隙を突いて取り返した』
よっしゃ、とフレイムが指を鳴らし、ラミルファも親指を立てる。
『やったな、泡神様!』
『ふふ、やればできるじゃないか』
喜ぶ若神と聖威師たちを眺め、狼神と葬邪神が感慨深げな表情を滲ませた。
『ほぅ、あの怖がりで引っ込み思案だった泡神様が、随分とお変わりになられた』
『良かったじゃないか。水神様も怒ってはおられない……むしろ、末子の成長を喜んでいらっしゃるだろう』
『そうでしょう。――さて、私もそろそろ戻りますかな』
『では俺も……あぁー!』
腰を上げかけた狼神に続こうとした葬邪神が、突如として大声を発した。
『し、しまった!』
「葬邪神様、どうしたのですか?」
「何かございましたの?」
近くにいたアマーリエとリーリアが尋ねる。少し距離がある位置まで移動していた大神官兄弟も、何事かとこちらを見た。
『もうディスを止められんと思って、さっき俺の権限でお前たちの昇天を決定してしまった!』
「……え……?」
『聖威師たちの主神が……選ばれし神が降臨し、濃密な神威が拮抗していた影響で効果が出るのが遅れているが――聖威師全員、間も無く強制昇天になるぞ! 否応無く神格が露出して神に戻ってしまう!』
「「ええええ!?」」
アマーリエとリーリアが叫び、聖威師たちが顔色を失くす。弛緩しかけていた空気が一気に緊迫した。
「と、取り消せないのですか、その決定!?」
「葬邪神様ご自身や、同格の神でも無効にできませんの?」
『ううん……形式的には、滞留書を更新できなくなったという理由で決定したからなぁ。その理由が解消されたとなれば、決定の取り消しも可能だ。つまり、滞留書の更新を今すぐ行えば理由が無効になるから、何とか間に合うかもしれん』
葬邪神の言葉に、アマーリエはホッとした。
「では、フロース様に急いで原紙を天界の箱に戻していただいて、こちらで更新作業を行えば良いのですね」
水神とて、暴れ神の一件が上手く片付き、聖威師が廃神になるリスクが無くなった場合は、原紙を返すつもりでいたはずだ。だが、その光明をアリステルが断ち切った。
「それは無理だ。先ほど疫神様が仰せになられていたが、地上の箱はまだ完全に復元していない。外観は元通りになっているが、天界の箱との繋がりが回復するまでに丸一日ほどかかるそうだ」
「そ、そうなのですか!?」
「あの箱は、最高神方が神威を注いでお創りになられた特注品。構造も複雑であるため、復元に時間がかかる。それも踏まえ、更新は日数に余裕を持って行うことになっている」
『丸一日かかるんじゃ間に合わんなぁ……その前に神格が表出してしまう』
あっちゃ~やってしまったなぁ~と頭をかく葬邪神に、灰緑の眼を鈍く光らせたラミルファが詰め寄った。
『兄上、何ということをしてくれた』
『あー、まずっちゃったなぁ、すま~ん』
『すま~んじゃないですよ! ……また主神たちを喚んで神威を出してもらって、決定の効果が出るのをもう少し遅らせれば、一日くらいなら何とか保つんじゃないですか?』
フレイムが美貌を硬くして提案するが、返事は否だった。
『いや、それはできんだろう。俺は確か決定の言葉としてこう言ったはずだ。〝次に太陽が昇る時、もう聖威師たちは地上におらん〟と。つまり、どんなに遅らせても、リミットは日が昇り始める瞬間までだ。それ以上後ろ倒しになることはない』
空間が裂け、秀麗な美貌が躍り出る。白みを帯びた水色の長髪が舞った。リーリアの顔が綻ぶ。
「フロース様!」
『父神を説得しながら、あなたのことをずっと視ていたんだ。暴れ神が神威を消すのがあと少し遅かったら、助けようと飛び出して行くつもりだったんだけど……』
その直前に疫神が力を抑え、狼神が顕現したので、様子見を続けたらしい。
『あっ、それより今はこっちだ。ほら、滞留書を取り戻したよ!』
じゃーん、とばかりに泡の神が掲げた手には、一枚の紙が握られていた。雪のような白色をしているが、絹のような薄さで向こうが透けて見えるほどだ。上半分には文字がびっしりと綴られ、下半分は空白になっている。
『レアナは言っていただろう。滞留書が戻るまで心配で心配で息もできない、戻らなければずっと泣き暮らすって。だから、取り戻したことをその目で確認できたら安心してもらえると思って、持って来たんだよ』
得意満面のフロースに、リーリアとアマーリエはそろって顔を輝かせた。
「良かった……本当に良かったですわ!」
「フロース様、ありがとうございます!」
『暴れ神が鎮まったのを視て、安心した父神が一瞬油断したんだ。その隙を突いて取り返した』
よっしゃ、とフレイムが指を鳴らし、ラミルファも親指を立てる。
『やったな、泡神様!』
『ふふ、やればできるじゃないか』
喜ぶ若神と聖威師たちを眺め、狼神と葬邪神が感慨深げな表情を滲ませた。
『ほぅ、あの怖がりで引っ込み思案だった泡神様が、随分とお変わりになられた』
『良かったじゃないか。水神様も怒ってはおられない……むしろ、末子の成長を喜んでいらっしゃるだろう』
『そうでしょう。――さて、私もそろそろ戻りますかな』
『では俺も……あぁー!』
腰を上げかけた狼神に続こうとした葬邪神が、突如として大声を発した。
『し、しまった!』
「葬邪神様、どうしたのですか?」
「何かございましたの?」
近くにいたアマーリエとリーリアが尋ねる。少し距離がある位置まで移動していた大神官兄弟も、何事かとこちらを見た。
『もうディスを止められんと思って、さっき俺の権限でお前たちの昇天を決定してしまった!』
「……え……?」
『聖威師たちの主神が……選ばれし神が降臨し、濃密な神威が拮抗していた影響で効果が出るのが遅れているが――聖威師全員、間も無く強制昇天になるぞ! 否応無く神格が露出して神に戻ってしまう!』
「「ええええ!?」」
アマーリエとリーリアが叫び、聖威師たちが顔色を失くす。弛緩しかけていた空気が一気に緊迫した。
「と、取り消せないのですか、その決定!?」
「葬邪神様ご自身や、同格の神でも無効にできませんの?」
『ううん……形式的には、滞留書を更新できなくなったという理由で決定したからなぁ。その理由が解消されたとなれば、決定の取り消しも可能だ。つまり、滞留書の更新を今すぐ行えば理由が無効になるから、何とか間に合うかもしれん』
葬邪神の言葉に、アマーリエはホッとした。
「では、フロース様に急いで原紙を天界の箱に戻していただいて、こちらで更新作業を行えば良いのですね」
水神とて、暴れ神の一件が上手く片付き、聖威師が廃神になるリスクが無くなった場合は、原紙を返すつもりでいたはずだ。だが、その光明をアリステルが断ち切った。
「それは無理だ。先ほど疫神様が仰せになられていたが、地上の箱はまだ完全に復元していない。外観は元通りになっているが、天界の箱との繋がりが回復するまでに丸一日ほどかかるそうだ」
「そ、そうなのですか!?」
「あの箱は、最高神方が神威を注いでお創りになられた特注品。構造も複雑であるため、復元に時間がかかる。それも踏まえ、更新は日数に余裕を持って行うことになっている」
『丸一日かかるんじゃ間に合わんなぁ……その前に神格が表出してしまう』
あっちゃ~やってしまったなぁ~と頭をかく葬邪神に、灰緑の眼を鈍く光らせたラミルファが詰め寄った。
『兄上、何ということをしてくれた』
『あー、まずっちゃったなぁ、すま~ん』
『すま~んじゃないですよ! ……また主神たちを喚んで神威を出してもらって、決定の効果が出るのをもう少し遅らせれば、一日くらいなら何とか保つんじゃないですか?』
フレイムが美貌を硬くして提案するが、返事は否だった。
『いや、それはできんだろう。俺は確か決定の言葉としてこう言ったはずだ。〝次に太陽が昇る時、もう聖威師たちは地上におらん〟と。つまり、どんなに遅らせても、リミットは日が昇り始める瞬間までだ。それ以上後ろ倒しになることはない』
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