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第4章
35.最期の輝き
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◆◆◆
《写真には娘が写ってた。先代の初恋相手だ。ソイツが付けてるネックレスが、先代がオーダーメイドで贈った品で、同じものを神官エイールが持ってた》
《エイールのお母様の名前はサビーネというそうです。平民ですが、エイリスト国王の愛人になって子供まで産んだことで、名前が記録に残っていました》
フレイムとアマーリエが交互に説明する。この一件には高位神の力が――正確には高位神の力で創られた神器が――関わっていたため、フレイムも過去視をするのに難儀したという。
だが幸いなことに、ブドウ型の神器を下賜した高位神は選ばれし神ではなく、色持ちではあるがフレイムより格下だった。アマーリエやフルードと同格の神だったため、神威をかなり多めに解放することで、どうにか過去を確認することができたそうだ。
《では、神官エイールはアマーリエの従姉妹だということですか。ならば確かに、レシスの神罰の因子を継いでいる……》
《高位神の神器の神威が追跡を阻害していたから、聖威で確認しても見付けられなかったのか。自分たちを見付けられないように、という『自分たち』の範囲には、これから生まれる孫や曾孫まで含むと見なされたのだろう。……母のサビーネは既に死亡が確認されている。危ないならばエイールだ》
アリステルの言葉に、フレイムが補足する。
《俺たちや嵐神様が、ユフィーとエイールの血縁関係に気付かなかったのも、神器の影響だろうな。神の眼で視れば従姉妹だって判るんだが、地上に降臨してる時は神威を抑えてるだろ。そこに有色の神器の力が作用して、エイールの存在や素性を気取られないようにしてたら、目を眩まされる》
フレイムたちが地上で神威を解放したことはあるが、その時は大体、重要な契約や戦闘をしている最中だった。そんな時、わざわざエイールに意識を向けはしない。
《嵐神様が星降の儀でエイールを神使に選んだ時は、ある程度神威を解放していたと思うが……意識の大半は愛し子のアシュトンに割いてただろうし、まだ俺の寵を得てなかったユフィーと見比べようなんて思わなかっただろうしな》
なお、懇親会に臨席した際の嵐神は神威を抑えていた。高位神が単発で降臨する際、どれくらい力を抑制するかは個々の裁量に委ねられている。公的な降臨であったり従神を控えさせて大々的に降りる場合は、あまり抑えないらしい。今回の嵐神はいわばお忍びに近い単独降臨であったので、フレイムたちと同じ程度に抑えていたとのことだった。
それらを聞いたフルードは少し沈黙し、念話で告げた。
《……アシュトン様やライナス様に協力を依頼し、私の休憩を延長します。アマーリエ、休日に申し訳ないのですが、今から大神官室に来ていただけませんか?》
《もちろんです、すぐにでもお伺いします!》
《ありがとう。アリステルは務めを抜けられますか?》
《私は元から裏方仕事が主だ。悪神が荒れたり悪神の神器の暴走などが入らなければ、かなり自由に動ける》
《では、すみませんがここに来て下さい。公私混同はしたくないとはいえ、不幸の因子は本人のみならず、配偶者や子孫、周囲などの第三者にも絶大な影響を及ぼす可能性があります。対応を後回しにはできません》
《承知いたしました》
《分かった》
◆◆◆
「フルード様、参りました」
「ありがとう、アマーリエ」
アマーリエが大神官室に転移すると、すぐにフルードが迎えてくれた。心なしか顔色が悪い。
(今日も体調がお悪そうだわ。聖威でも治し切れないのかしら)
レシスの末裔が生きていることを知ったのだから、表情が優れないのは当然だろう。だが、そういった事情を抜きにしても、最近の彼は慢性的に具合がよろしくないように感じる。星降の儀でフレイムと再会した直後は生き生きとしており、元気になったように思っていたのだが。
――あの一時の快調は、消えゆく灯火が見せる最後の輝きだったのかもしれない。
そんな考えがふと頭に浮かび、慌てて否定する。そんなはずはない。フルードはまだ31歳。寿命はかなり残っているはずだ。
(フルード様も数日休暇を取ってゆっくりされれば良いのに。そうしたらきっと回復するわ)
アシュトンがいるのだから、休みを取ろうと思えば取れるはずだが。
「フルード」
「アリステル、手間をかけました」
「いや、構わない。レシスの末裔の話ならば、私にも関係がある」
続けて現れたアリステルとフルードが、業務連絡も兼ねて一言二言話しているのを見ながら、こっそりひとりごちる。
(調子が良くなさそうですが私の聖威で治療してみましょうか、なんて差し出がましいことは言えないし)
フルードの方がアマーリエより遥かに卓越した聖威の使い手である上、現在はフレイムとラミルファが側にいる。大切な弟ないし宝玉のためなら、治癒でも回復でも何でもしているだろう。ふとフレイムを見ると、憂いを帯びた眼差しでフルードを見ていた。
「どうぞ座って下さい」
アリステルとの短い会話を終えたフルードがソファを勧めてくれた。一礼して腰掛けたアマーリエは、向かいでヘラリとしている邪神を見た。
「ラミルファ様はエイールさんのことをご存知だったのですか? 私に家系図を調べろと教えて下さいました。サード邸にある家系図を、細部まで徹底的に確認しろと」
あれは、資料庫の原本だけでなく他の部屋にある写しまで全てを漏らさず確認しろという意味だったのだろう。
《写真には娘が写ってた。先代の初恋相手だ。ソイツが付けてるネックレスが、先代がオーダーメイドで贈った品で、同じものを神官エイールが持ってた》
《エイールのお母様の名前はサビーネというそうです。平民ですが、エイリスト国王の愛人になって子供まで産んだことで、名前が記録に残っていました》
フレイムとアマーリエが交互に説明する。この一件には高位神の力が――正確には高位神の力で創られた神器が――関わっていたため、フレイムも過去視をするのに難儀したという。
だが幸いなことに、ブドウ型の神器を下賜した高位神は選ばれし神ではなく、色持ちではあるがフレイムより格下だった。アマーリエやフルードと同格の神だったため、神威をかなり多めに解放することで、どうにか過去を確認することができたそうだ。
《では、神官エイールはアマーリエの従姉妹だということですか。ならば確かに、レシスの神罰の因子を継いでいる……》
《高位神の神器の神威が追跡を阻害していたから、聖威で確認しても見付けられなかったのか。自分たちを見付けられないように、という『自分たち』の範囲には、これから生まれる孫や曾孫まで含むと見なされたのだろう。……母のサビーネは既に死亡が確認されている。危ないならばエイールだ》
アリステルの言葉に、フレイムが補足する。
《俺たちや嵐神様が、ユフィーとエイールの血縁関係に気付かなかったのも、神器の影響だろうな。神の眼で視れば従姉妹だって判るんだが、地上に降臨してる時は神威を抑えてるだろ。そこに有色の神器の力が作用して、エイールの存在や素性を気取られないようにしてたら、目を眩まされる》
フレイムたちが地上で神威を解放したことはあるが、その時は大体、重要な契約や戦闘をしている最中だった。そんな時、わざわざエイールに意識を向けはしない。
《嵐神様が星降の儀でエイールを神使に選んだ時は、ある程度神威を解放していたと思うが……意識の大半は愛し子のアシュトンに割いてただろうし、まだ俺の寵を得てなかったユフィーと見比べようなんて思わなかっただろうしな》
なお、懇親会に臨席した際の嵐神は神威を抑えていた。高位神が単発で降臨する際、どれくらい力を抑制するかは個々の裁量に委ねられている。公的な降臨であったり従神を控えさせて大々的に降りる場合は、あまり抑えないらしい。今回の嵐神はいわばお忍びに近い単独降臨であったので、フレイムたちと同じ程度に抑えていたとのことだった。
それらを聞いたフルードは少し沈黙し、念話で告げた。
《……アシュトン様やライナス様に協力を依頼し、私の休憩を延長します。アマーリエ、休日に申し訳ないのですが、今から大神官室に来ていただけませんか?》
《もちろんです、すぐにでもお伺いします!》
《ありがとう。アリステルは務めを抜けられますか?》
《私は元から裏方仕事が主だ。悪神が荒れたり悪神の神器の暴走などが入らなければ、かなり自由に動ける》
《では、すみませんがここに来て下さい。公私混同はしたくないとはいえ、不幸の因子は本人のみならず、配偶者や子孫、周囲などの第三者にも絶大な影響を及ぼす可能性があります。対応を後回しにはできません》
《承知いたしました》
《分かった》
◆◆◆
「フルード様、参りました」
「ありがとう、アマーリエ」
アマーリエが大神官室に転移すると、すぐにフルードが迎えてくれた。心なしか顔色が悪い。
(今日も体調がお悪そうだわ。聖威でも治し切れないのかしら)
レシスの末裔が生きていることを知ったのだから、表情が優れないのは当然だろう。だが、そういった事情を抜きにしても、最近の彼は慢性的に具合がよろしくないように感じる。星降の儀でフレイムと再会した直後は生き生きとしており、元気になったように思っていたのだが。
――あの一時の快調は、消えゆく灯火が見せる最後の輝きだったのかもしれない。
そんな考えがふと頭に浮かび、慌てて否定する。そんなはずはない。フルードはまだ31歳。寿命はかなり残っているはずだ。
(フルード様も数日休暇を取ってゆっくりされれば良いのに。そうしたらきっと回復するわ)
アシュトンがいるのだから、休みを取ろうと思えば取れるはずだが。
「フルード」
「アリステル、手間をかけました」
「いや、構わない。レシスの末裔の話ならば、私にも関係がある」
続けて現れたアリステルとフルードが、業務連絡も兼ねて一言二言話しているのを見ながら、こっそりひとりごちる。
(調子が良くなさそうですが私の聖威で治療してみましょうか、なんて差し出がましいことは言えないし)
フルードの方がアマーリエより遥かに卓越した聖威の使い手である上、現在はフレイムとラミルファが側にいる。大切な弟ないし宝玉のためなら、治癒でも回復でも何でもしているだろう。ふとフレイムを見ると、憂いを帯びた眼差しでフルードを見ていた。
「どうぞ座って下さい」
アリステルとの短い会話を終えたフルードがソファを勧めてくれた。一礼して腰掛けたアマーリエは、向かいでヘラリとしている邪神を見た。
「ラミルファ様はエイールさんのことをご存知だったのですか? 私に家系図を調べろと教えて下さいました。サード邸にある家系図を、細部まで徹底的に確認しろと」
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