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第5章
31.勘違いが解けていく
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『父上、聖威師たちの引き続いての滞留をお認め下さい』
フロースが父神を見て言った。水神の真っ青な瞳が末息子に向けられる。
『私は愛し子を見初めて以降、特別降臨をしてずっと側にいました。レアナを始め、聖威師たちを間近で見て来ました。ですから、はっきりと分かります。この子たちは池上に留まることを望んでいます』
『おぉ……あの臆病で引っ込み思案だった子が、こんなに堂々と……』
『本当ね。こういう時、人間の言葉では感無量というらしいわよ』
小声で囁き合った葬邪神とブレイズが目を潤ませる。青や白系統の髪と双眸を持つ水神の一族も、感慨深げに目元を抑えていた。
『天に還りたくないわけではないのです。ただ、神格を持つ者でしか対処できないような災禍や苦難から人と地上を守りたい、純粋にそう思っているのです』
当の水神は小さく瞠目していたが、やがて柔和な表情をさらに和ませて眦を下げた。
『フロース、君は変わったね。たった一年足らずの間で、ここまで……。リーリアが君を変えてくれたのかな。……そうだね、昇天させたいという気持ちは私も同じだけど、力ずくという手段は再考した方が良いだろう』
『私は聖威師の意思を鑑み、現状維持を支持する。同族を愛する帰還派の想いも十分に分かるが、聖威師の想いをへし折るような形で連れ帰っても、心を傷付けるだけ』
ブレイズやフレイムと似通った烈火の美貌を持つ火神が、凛とした声で告げた。真赤の瞳の中に炎が燃えている。
『母上、私からもお願いいたします』
『嫌だと言っているのに無理矢理引きずって行くのは憐れですわ、お父様』
嵐神が風神に、砂神が地神に口添えした。火神と地神は尊重派、水神と風神は穏健派だ。風を纏う飄然とした麗姿の風神と、重厚な御稜威を纏う地神が視線を交わし、共に頷く。
『聖威師が池上に滞留することは、我ら最高神が認めた権利。仮にそれを撤回するにしても、まずは腕ずくではなく話し合いをするべきね』
『うむ、こうまで必死に懇願されてはさすがに無下にできぬ』
佳良たちは全員、瞳に涙を溜め、一様に悲愴な表情を浮かべていた。それをねじ伏せてまで昇天を無理強いできる神は、強硬派の中にもいない。強引に事を進めれば、永劫に消えない傷を負わせてしまうことが明白だからだ。
ブレイズが神衣を翻し、よく通る声を響かせた。
『皆、聞きなさい。四大高位神のご意見が揃ったわ。今この場での聖威師たちの強制昇天は中止よ』
その宣言に、強硬派の神々が仕方なしという雰囲気で御稜威を緩め、主神と尊重派が肩の力を抜く。安堵した佳良たちが床にへたり込んだ。
『ああ、良かった。俺も出て来た甲斐があったよ』
呟いたルファリオンもへにょんと糸目に戻り、身を引いた。四大高位神が顕現した時点で、神威の弓と流星は消し去っている。
だが一柱、この展開に付いて行けず、ずっと呆気に取られていた神がいる。遊運命神である。
『えっ!? えっ!? えっ!? ……えええぇぇっ!?』
聖威師たちを呆然と見つめる面差しから、場違いな喫驚が漏れる。
『雛たちは地上にいたいのか? 本当に、心から? 義務感で泣く泣く残っているのではなく?』
「いえ、純粋な本心です。こちらの当波は除いてですが」
「余計なことは言わなくてよろしい」
最後に要らない情報を付け足したライナスを、オーネリアがこっそり小突いた。遊運命神が目を白黒させている。
『確かに……お前たちの顔があまりに必死ゆえ、神威で内面を確認してみれば、嘘偽りは無しと視えた。だが、それはそれで大問題であるぞ。あの神官が嘘を言ったということか? 何故だ?』
「大変失礼ながら、あの神官とは……? 先ほどもそのようなことを仰せでしたが」
『そういえばシュナ、何でお前は聖威師たちが本当は早く昇天したがってるなどと思い込んだんだ?』
困惑気味に問い返すオーネリアに重ね、葬邪神も聞く。
『そう聞いたのだ。私が覚醒しかかっている時、交信して来た神官に』
フロースが父神を見て言った。水神の真っ青な瞳が末息子に向けられる。
『私は愛し子を見初めて以降、特別降臨をしてずっと側にいました。レアナを始め、聖威師たちを間近で見て来ました。ですから、はっきりと分かります。この子たちは池上に留まることを望んでいます』
『おぉ……あの臆病で引っ込み思案だった子が、こんなに堂々と……』
『本当ね。こういう時、人間の言葉では感無量というらしいわよ』
小声で囁き合った葬邪神とブレイズが目を潤ませる。青や白系統の髪と双眸を持つ水神の一族も、感慨深げに目元を抑えていた。
『天に還りたくないわけではないのです。ただ、神格を持つ者でしか対処できないような災禍や苦難から人と地上を守りたい、純粋にそう思っているのです』
当の水神は小さく瞠目していたが、やがて柔和な表情をさらに和ませて眦を下げた。
『フロース、君は変わったね。たった一年足らずの間で、ここまで……。リーリアが君を変えてくれたのかな。……そうだね、昇天させたいという気持ちは私も同じだけど、力ずくという手段は再考した方が良いだろう』
『私は聖威師の意思を鑑み、現状維持を支持する。同族を愛する帰還派の想いも十分に分かるが、聖威師の想いをへし折るような形で連れ帰っても、心を傷付けるだけ』
ブレイズやフレイムと似通った烈火の美貌を持つ火神が、凛とした声で告げた。真赤の瞳の中に炎が燃えている。
『母上、私からもお願いいたします』
『嫌だと言っているのに無理矢理引きずって行くのは憐れですわ、お父様』
嵐神が風神に、砂神が地神に口添えした。火神と地神は尊重派、水神と風神は穏健派だ。風を纏う飄然とした麗姿の風神と、重厚な御稜威を纏う地神が視線を交わし、共に頷く。
『聖威師が池上に滞留することは、我ら最高神が認めた権利。仮にそれを撤回するにしても、まずは腕ずくではなく話し合いをするべきね』
『うむ、こうまで必死に懇願されてはさすがに無下にできぬ』
佳良たちは全員、瞳に涙を溜め、一様に悲愴な表情を浮かべていた。それをねじ伏せてまで昇天を無理強いできる神は、強硬派の中にもいない。強引に事を進めれば、永劫に消えない傷を負わせてしまうことが明白だからだ。
ブレイズが神衣を翻し、よく通る声を響かせた。
『皆、聞きなさい。四大高位神のご意見が揃ったわ。今この場での聖威師たちの強制昇天は中止よ』
その宣言に、強硬派の神々が仕方なしという雰囲気で御稜威を緩め、主神と尊重派が肩の力を抜く。安堵した佳良たちが床にへたり込んだ。
『ああ、良かった。俺も出て来た甲斐があったよ』
呟いたルファリオンもへにょんと糸目に戻り、身を引いた。四大高位神が顕現した時点で、神威の弓と流星は消し去っている。
だが一柱、この展開に付いて行けず、ずっと呆気に取られていた神がいる。遊運命神である。
『えっ!? えっ!? えっ!? ……えええぇぇっ!?』
聖威師たちを呆然と見つめる面差しから、場違いな喫驚が漏れる。
『雛たちは地上にいたいのか? 本当に、心から? 義務感で泣く泣く残っているのではなく?』
「いえ、純粋な本心です。こちらの当波は除いてですが」
「余計なことは言わなくてよろしい」
最後に要らない情報を付け足したライナスを、オーネリアがこっそり小突いた。遊運命神が目を白黒させている。
『確かに……お前たちの顔があまりに必死ゆえ、神威で内面を確認してみれば、嘘偽りは無しと視えた。だが、それはそれで大問題であるぞ。あの神官が嘘を言ったということか? 何故だ?』
「大変失礼ながら、あの神官とは……? 先ほどもそのようなことを仰せでしたが」
『そういえばシュナ、何でお前は聖威師たちが本当は早く昇天したがってるなどと思い込んだんだ?』
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