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第5章
43.絶好のチャンス
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「いいえ! あ、いえ、もちろん時期が来たら還りたいですし、天への思慕もありますけれど、今はまだ昇天する時ではないと思っています」
アマーリエはここぞとばかりに声を張り上げた。疫神が作ってくれた好機だ。ここで納得してもらえなければ、本当に強制昇天させられかねない。
「人間として持っていた寿命を全うするまでは、地上に残って人間を守りたいのです」
『ああうん、だからあれだよな、口ではそう言ってるが本心は――』
「ほ・ん・し・ん、ですっ!!」
力の限り言い切ったアマーリエの叫びに、戦神と闘神が気圧されたように仰け反り、疫神が繰り返した。
『よく聴け、そしてよく視よ。雛の心が何処にあるか、何処へ向いているか』
『『――――』』
オリーブと金糸雀の双眸が、貫くようにこちらを見据える。魂の裏側まで見透かされてしまいそうな眼差し。反射的に身を竦ませそうになるアマーリエだが、緊張の時間は長くは続かなかった。
『……あれっ?』
『んん?』
間を置かず、立ち上がった二神がコテンと首を倒した。
『雛、本音で言ってるみたいだぞ。え、どういうことだ?』
『紛れもなく本当の気持ちだと視える。さりとて、シュナが虚言を述べたとは思えぬ』
『だよな。そもそも嘘を吐く理由もないんだし』
あと一押し。ここが踏ん張りどころだと、アマーリエは腹に力を入れた。説明するならば、思い違いを解くならば、今しかない。
「遊運命神様も誤解なさっておいでだったのです! 実は神官が二名、暴走してしまいまして!」
そこから先はもう必死である。もつれそうになる舌を動かし、魔神から聞いた話をそのまま戦闘の神々に伝えていく。二対の目が予想外の話を聞いて真ん丸になるのを視界に納めながら、どうにか話し終えて締めくくった。
「……と、いうわけです。ですので私たちは、本当の本当にまだ人の世にいたいと思っております、ええ切実に!」
力説するアマーリエと、呆気に取られている戦神と闘神。三者を脇から眺めていた疫神が言葉を挟んだ。
『我も天堂で種明かしを聞いておった。魔神様が雛たちに念話を始めた頃、お前たちがいなくなっていることに気付き、探しに出たのだ。シュナも既に正しい認識をしておる』
「疫神様、恐れながら……葬邪神様か天堂にお出での神々に、戦神様と闘神様がおられないので探すとお伝えになりましたか?」
恐る恐る聞くアマーリエ。質問の形を取っていても、答えは予想できていた。疫神がきちんと事前に申告してくれていたら、葬邪神やブレイズ、魔神や主神の誰かが、こちらに念話で警告を飛ばしてくれたはずだ。『誤解が解ける前に戦闘神たちがそっちに行ったかもしれないから用心しろ』と。
だが、そんな連絡は来ていない。ということは――
『いや、何も言っておらんが?』
(ほーらやっぱりそうじゃない! どうして一言でも言ってから出て来てくれなかったのよ! ……なんて言えないけれどね。天の神相手に、しかも助けていただいたのだから)
大正解の返答に、内心でビシッとツッコむ。口には出せないもどかしさを覚えながら、せめて相手が疫神でなければと思った。
(ラミルファ様やフロース様だったらまだ物申せたのに)
ごく自然にそう考え、そんな自分に唖然とした。あの二神は、いつの間にか、アマーリエにとってとても親しく近しい神になっていたのだ。そんな胸中など知らぬ疫神が、飄々と嘯く。
『上手くすれば、レイとリオと遊べるやもしれなかったゆえなぁ。あの生真面目なアレクなんぞに伝えてみろ、お前は出るなの一点張りで押し込めようとして来るに決まっておる』
『俺たちごときじゃディス様のお相手としては役不足ですよ』
『ご自身でも仰せであった通り、あなた様のお相手が務まるのはアレク様とハルア様くらいかと。今後、異次元に苛烈な気性を持つ選ばれし神かつ生来の荒神が誕生すれば話は別ですが』
達観した目で応じる戦神と闘神の目に、悔しさはない。疫神の性情はあまりにも酷烈であり激甚。言葉の通り次元が違う。それはもう、嫉妬や羨望の念を抱く気にもならないほどに。
葬邪神と狼神も、疫神と同等の気性を潜めている。ただし、葬邪神はそれ以上にお兄ちゃん気質が大きく、不動と称される狼神は滅多に腰を上げないため、普段はその凶暴性を表面化させていないだけだ。
だが本当のところを言えば、他の同格の荒神たちも――子猫と評されるフレイムとラミルファでさえ――本質の奥の奥には、疫神たちに達する激しさを秘めている。ただし、それが露わになり彼らが獣に変貌するのは、自身の『特別』が危機に陥った時くらいだが。
『まぁ、少しわちゃわちゃしたか、程度の愉しみは得られたぞ』
泰然と述べる疫神に諦観の眼差しを向けた戦神と闘神が、アマーリエの方を向いた。
アマーリエはここぞとばかりに声を張り上げた。疫神が作ってくれた好機だ。ここで納得してもらえなければ、本当に強制昇天させられかねない。
「人間として持っていた寿命を全うするまでは、地上に残って人間を守りたいのです」
『ああうん、だからあれだよな、口ではそう言ってるが本心は――』
「ほ・ん・し・ん、ですっ!!」
力の限り言い切ったアマーリエの叫びに、戦神と闘神が気圧されたように仰け反り、疫神が繰り返した。
『よく聴け、そしてよく視よ。雛の心が何処にあるか、何処へ向いているか』
『『――――』』
オリーブと金糸雀の双眸が、貫くようにこちらを見据える。魂の裏側まで見透かされてしまいそうな眼差し。反射的に身を竦ませそうになるアマーリエだが、緊張の時間は長くは続かなかった。
『……あれっ?』
『んん?』
間を置かず、立ち上がった二神がコテンと首を倒した。
『雛、本音で言ってるみたいだぞ。え、どういうことだ?』
『紛れもなく本当の気持ちだと視える。さりとて、シュナが虚言を述べたとは思えぬ』
『だよな。そもそも嘘を吐く理由もないんだし』
あと一押し。ここが踏ん張りどころだと、アマーリエは腹に力を入れた。説明するならば、思い違いを解くならば、今しかない。
「遊運命神様も誤解なさっておいでだったのです! 実は神官が二名、暴走してしまいまして!」
そこから先はもう必死である。もつれそうになる舌を動かし、魔神から聞いた話をそのまま戦闘の神々に伝えていく。二対の目が予想外の話を聞いて真ん丸になるのを視界に納めながら、どうにか話し終えて締めくくった。
「……と、いうわけです。ですので私たちは、本当の本当にまだ人の世にいたいと思っております、ええ切実に!」
力説するアマーリエと、呆気に取られている戦神と闘神。三者を脇から眺めていた疫神が言葉を挟んだ。
『我も天堂で種明かしを聞いておった。魔神様が雛たちに念話を始めた頃、お前たちがいなくなっていることに気付き、探しに出たのだ。シュナも既に正しい認識をしておる』
「疫神様、恐れながら……葬邪神様か天堂にお出での神々に、戦神様と闘神様がおられないので探すとお伝えになりましたか?」
恐る恐る聞くアマーリエ。質問の形を取っていても、答えは予想できていた。疫神がきちんと事前に申告してくれていたら、葬邪神やブレイズ、魔神や主神の誰かが、こちらに念話で警告を飛ばしてくれたはずだ。『誤解が解ける前に戦闘神たちがそっちに行ったかもしれないから用心しろ』と。
だが、そんな連絡は来ていない。ということは――
『いや、何も言っておらんが?』
(ほーらやっぱりそうじゃない! どうして一言でも言ってから出て来てくれなかったのよ! ……なんて言えないけれどね。天の神相手に、しかも助けていただいたのだから)
大正解の返答に、内心でビシッとツッコむ。口には出せないもどかしさを覚えながら、せめて相手が疫神でなければと思った。
(ラミルファ様やフロース様だったらまだ物申せたのに)
ごく自然にそう考え、そんな自分に唖然とした。あの二神は、いつの間にか、アマーリエにとってとても親しく近しい神になっていたのだ。そんな胸中など知らぬ疫神が、飄々と嘯く。
『上手くすれば、レイとリオと遊べるやもしれなかったゆえなぁ。あの生真面目なアレクなんぞに伝えてみろ、お前は出るなの一点張りで押し込めようとして来るに決まっておる』
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『ご自身でも仰せであった通り、あなた様のお相手が務まるのはアレク様とハルア様くらいかと。今後、異次元に苛烈な気性を持つ選ばれし神かつ生来の荒神が誕生すれば話は別ですが』
達観した目で応じる戦神と闘神の目に、悔しさはない。疫神の性情はあまりにも酷烈であり激甚。言葉の通り次元が違う。それはもう、嫉妬や羨望の念を抱く気にもならないほどに。
葬邪神と狼神も、疫神と同等の気性を潜めている。ただし、葬邪神はそれ以上にお兄ちゃん気質が大きく、不動と称される狼神は滅多に腰を上げないため、普段はその凶暴性を表面化させていないだけだ。
だが本当のところを言えば、他の同格の荒神たちも――子猫と評されるフレイムとラミルファでさえ――本質の奥の奥には、疫神たちに達する激しさを秘めている。ただし、それが露わになり彼らが獣に変貌するのは、自身の『特別』が危機に陥った時くらいだが。
『まぁ、少しわちゃわちゃしたか、程度の愉しみは得られたぞ』
泰然と述べる疫神に諦観の眼差しを向けた戦神と闘神が、アマーリエの方を向いた。
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