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第5章
45.奪われたのは
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『ん? 聖威師の滞留書を更新する際に必要なペンだが?』
(どうして疫神様が持っているの!?)
フルードの昇天が間近となったため、アマーリエは先日、滞留書とペンを引き継いでいた。引き継ぎ先の候補としては、アマーリエの他にアシュトンとランドルフ、リーリアとルルアージュも挙がっていたが、アシュトンは辞退した。滞留書は次代に受け継がせ、自分はフォローに回った方が良いという考えからだった。
結局、残りの候補者で公平にくじ引きをし、順に管理していくことになった。トップバッターに当たったのがアマーリエだ。その場には疫神もいた。幼児の姿でコロコロしながらくじ引きの様子を見ていたので、知っているはずだ。
(ペンも滞留書と一緒にしまっていたはずなのに)
慌てて神官衣の懐をかき回すが、ない。
(い、いつ落としたのかしら)
このまま気付かなければ、大変なことになっていた。思わぬ失態に冷や汗をかきながら、アマーリエは疫神に手を差し出した。
「拾っていただいてありがとうございます。気付かない内に落としてしまっていたようです。粗忽者で申し訳ありません」
だが、疫神はペンを返してくれなかった。相変わらず手の中で回しながら、不敵に笑う。
『いや、お前は落としておらんぞ。きちんと懐深くにしまっていたのを、我が掠め取っただけの話だ。レイとリオと遊ぶ前にな』
「か、掠め取っ……?」
そこでハタと思い出した。戦闘神の刃から守ってくれた時、疫神の手が一瞬だけ胸元を掠めた気がしたのだ。
(まさか、スられた――!?)
神様がスリの真似事なんかしないで下さいよ、と叫びたいのを堪え、疫神を見上げる。
「か、返して下さい! どうしてこのようなことを?」
ペンを取り返そうと腕を伸ばすが、疫神はひょいと手を頭上に掲げてしまう。背伸びをしても、相手は長身なので届かない。
『小さき雛よ』
魅惑の美声が空気を振動させる。
『我は本来、強硬派だ。今までは尊重派の真似事をしていたが、それももう終わって良いのではないかと思ったのだ。とはいえ、力に訴えればまた雛を泣かせてしまう。それはもうせんと決めた。だから、なぁ……滞留書だけあっても、専用のペンがなくば更新はできまい?』
アマーリエの全身から血の気が引いた。腕ずくで命を絶とうとしていないため、やり方としては穏健派に近い。だが、どちらにしても最悪の展開だった。
《そ、葬邪神様……!》
『アレクに念話しようとしておるな。だが無駄だ、聖威が発動せぬよう我の神威で無効化した。今まではレイとリオの力で結界が張られていたからな、他の神々はこちらの居場所を突き止められなかった』
天堂に行ったフルードとフレイムたちは、葬邪神とブレイズたちから戦神と闘神、疫神が消えたことを聞かされ、文字通り血眼になってアマーリエを探しているという。
『我はその結界を引き継いだわけだ。助けは来んぞ。さて、このペンをどうしようか。一思いに握りつぶしてしまおうか』
「や、やめて下さい!」
真っ青になったアマーリエの様子を見て、戦神と闘神が美貌を歪めた。
『お待ちをディス様!』
『これでは想いを踏みにじられる雛たちが憐れ』
ようやく尊重派がちゃんと仕事を始めた。
『雛たちは地上に残りたいんでしょう。ペンを返してやって下さい!』
『あなた様は私とレイの手から雛を守り、きちんと言葉を聞くようお諭し下さったはず。何故、今になって態度を翻すのですか』
『そんなもの気分だ、気分。雛を守ったのもお前たちを諭したのも、ペンを奪ったのも、全てその場の気分でした行為にすぎん』
ラミルファもびっくりの移り気である。この神は、その場その場で自分が面白いと思った言動をするのだ。そこに一貫性も整合性もない。抗議する戦闘神の声を聞きながら、アマーリエは心の中で繰り返した。
(フレイム、助けて。ここに来て、フレイム)
少し前、葬邪神の異空間にフルードが軟禁された時、ラミルファはその場所を探し当てて救出に行ったと聞いた。包翼神と宝玉の間に築かれる、確固たる繋がりを辿ったのだという。当事者たちの話では、その時のフルードとラミルファは、心の中で互いのことだけを何度も何度も強く呼び合ったそうだ。
その話を、今この土壇場で思い出した。ならば、同じことが主神と愛し子にもできるはずだ。先ほどのように複数の神を呼ぶのではなく、最愛の神一柱に限定して念じる。
(お願い届いて。フレイム――フレイム)
他の神のことは一切呼ばず、頭から追いやる。ラミルファもフロースも葬邪神も。ただ一神だけに心の全てを傾ける。
(フレイムッ!)
左手薬指の指輪が光る。何かが割れる音が脳裏に響いた。
(どうして疫神様が持っているの!?)
フルードの昇天が間近となったため、アマーリエは先日、滞留書とペンを引き継いでいた。引き継ぎ先の候補としては、アマーリエの他にアシュトンとランドルフ、リーリアとルルアージュも挙がっていたが、アシュトンは辞退した。滞留書は次代に受け継がせ、自分はフォローに回った方が良いという考えからだった。
結局、残りの候補者で公平にくじ引きをし、順に管理していくことになった。トップバッターに当たったのがアマーリエだ。その場には疫神もいた。幼児の姿でコロコロしながらくじ引きの様子を見ていたので、知っているはずだ。
(ペンも滞留書と一緒にしまっていたはずなのに)
慌てて神官衣の懐をかき回すが、ない。
(い、いつ落としたのかしら)
このまま気付かなければ、大変なことになっていた。思わぬ失態に冷や汗をかきながら、アマーリエは疫神に手を差し出した。
「拾っていただいてありがとうございます。気付かない内に落としてしまっていたようです。粗忽者で申し訳ありません」
だが、疫神はペンを返してくれなかった。相変わらず手の中で回しながら、不敵に笑う。
『いや、お前は落としておらんぞ。きちんと懐深くにしまっていたのを、我が掠め取っただけの話だ。レイとリオと遊ぶ前にな』
「か、掠め取っ……?」
そこでハタと思い出した。戦闘神の刃から守ってくれた時、疫神の手が一瞬だけ胸元を掠めた気がしたのだ。
(まさか、スられた――!?)
神様がスリの真似事なんかしないで下さいよ、と叫びたいのを堪え、疫神を見上げる。
「か、返して下さい! どうしてこのようなことを?」
ペンを取り返そうと腕を伸ばすが、疫神はひょいと手を頭上に掲げてしまう。背伸びをしても、相手は長身なので届かない。
『小さき雛よ』
魅惑の美声が空気を振動させる。
『我は本来、強硬派だ。今までは尊重派の真似事をしていたが、それももう終わって良いのではないかと思ったのだ。とはいえ、力に訴えればまた雛を泣かせてしまう。それはもうせんと決めた。だから、なぁ……滞留書だけあっても、専用のペンがなくば更新はできまい?』
アマーリエの全身から血の気が引いた。腕ずくで命を絶とうとしていないため、やり方としては穏健派に近い。だが、どちらにしても最悪の展開だった。
《そ、葬邪神様……!》
『アレクに念話しようとしておるな。だが無駄だ、聖威が発動せぬよう我の神威で無効化した。今まではレイとリオの力で結界が張られていたからな、他の神々はこちらの居場所を突き止められなかった』
天堂に行ったフルードとフレイムたちは、葬邪神とブレイズたちから戦神と闘神、疫神が消えたことを聞かされ、文字通り血眼になってアマーリエを探しているという。
『我はその結界を引き継いだわけだ。助けは来んぞ。さて、このペンをどうしようか。一思いに握りつぶしてしまおうか』
「や、やめて下さい!」
真っ青になったアマーリエの様子を見て、戦神と闘神が美貌を歪めた。
『お待ちをディス様!』
『これでは想いを踏みにじられる雛たちが憐れ』
ようやく尊重派がちゃんと仕事を始めた。
『雛たちは地上に残りたいんでしょう。ペンを返してやって下さい!』
『あなた様は私とレイの手から雛を守り、きちんと言葉を聞くようお諭し下さったはず。何故、今になって態度を翻すのですか』
『そんなもの気分だ、気分。雛を守ったのもお前たちを諭したのも、ペンを奪ったのも、全てその場の気分でした行為にすぎん』
ラミルファもびっくりの移り気である。この神は、その場その場で自分が面白いと思った言動をするのだ。そこに一貫性も整合性もない。抗議する戦闘神の声を聞きながら、アマーリエは心の中で繰り返した。
(フレイム、助けて。ここに来て、フレイム)
少し前、葬邪神の異空間にフルードが軟禁された時、ラミルファはその場所を探し当てて救出に行ったと聞いた。包翼神と宝玉の間に築かれる、確固たる繋がりを辿ったのだという。当事者たちの話では、その時のフルードとラミルファは、心の中で互いのことだけを何度も何度も強く呼び合ったそうだ。
その話を、今この土壇場で思い出した。ならば、同じことが主神と愛し子にもできるはずだ。先ほどのように複数の神を呼ぶのではなく、最愛の神一柱に限定して念じる。
(お願い届いて。フレイム――フレイム)
他の神のことは一切呼ばず、頭から追いやる。ラミルファもフロースも葬邪神も。ただ一神だけに心の全てを傾ける。
(フレイムッ!)
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