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序章
5.とある兄弟たちの未来の話⑤
『いつか僕たちが困ったことになった時は、呼んだら本当に助けに来てくれるよ』
遠慮がちに物申すウォーロックに、アルシオは鼻を鳴らした。
『あんな奴ら、くたばりぞこないの老いぼれで十分だ。……彼らはとてもお疲れだった。永すぎる時を粉骨砕身で尽力し続けて来られたのだから、もうゆっくりお休みになられれば良い。無理に蘇っていただく必要はない』
中盤以降の台詞は、本当はもう一度会いたい本心を押し隠した痩せ我慢だった。とはいえ、先達共が実際に復活すれば神々は大喜びするだろう。今度こそ本当の同胞になって戻って来てくれた、と。
能天気なこの弟も、優しいシルファールも、慈悲深いミスティーナも……そして自分とアーディエンスさえ、口では悪態を付いたとしても、何だかんだで歓喜してあの腐れ野郎たちを受け入れるはずだ。容易に想像できるその光景に、ふんと唇を尖らせる。
『大体、知識が豊富だからなんだと言うのだ。我が妻子と弟を苦しめた奴らの呼称など、老害で十分だ』
『そりゃ僕を通して色々されたことには、僕自身もすごく思うところがあるけど……でも、後でしっかりケアして下さったし、苦しんだのはシルファールとミスティーナだよ。僕はあくまで加害者だったんだから』
『それでもお前も傷付いた。いや、傷付けられた。その事実は不変だ』
老害先達たちは、まさにこれを狙っていたのだろう。自分たちこそが全ての害悪であり共通の敵なのだと認識させることで、アルシオとウォーロックが和解する道を残した。そのことを悟っているアルシオは、あえて先達たちの思惑に乗った。
かつての闊達さは鳴りを潜め、すっかり引っ込み思案に変貌した弟を、憂いげに見遣る。神成後のウォーロックは、真っ当な神でいた方が良いだろうという高位の悪神たちの采配により悪神化の進行を抑えられたため、基本的には通常の神として在る。
『私がもっと早く、お前を気にかけていれば良かった』
ひとたび弱みを持てば、それを利用されて蹴落とされる使役の世界。だからこそ、アルシオは大切な者を持たないよう心がけていた。それでも愛してしまったのが、妻子たるミスティーナとシルファールだ。そのこと自体は微塵も後悔していない。
だが、時折こうも思うのだ。弟にも目を向けていれば、と。ミスティーナとシルファールよりずっと早くから、自分の近くにいた存在。同じ天樹の同じ雫から、同じタイミングで生まれた片割れ。最も近しい存在のことも、きちんと見てやっていれば。彼が先達たちに操られていることに気が付けたかもしれない。
『でも、今こうして話せてるじゃないか』
『あの外道馬鹿のおかげだ。首尾一貫してろくでなしだったが、最後に役に立ってくれた』
『兄さんて意外と口が悪いよね……』
外道馬鹿。誰のことを言っているかはすぐ分かる。アルシオの前の大精霊、イーネストだ。
神逐後も神々の尻を追いかけていた彼は、かつてあっさり捨てた妻子が神成すると、再度掌を華麗に反転させて擦り寄って来た。
神成後、アーディエンスは母イルーナに神格を与え、自分ごときにそんな価値はないと渋るウォーロックを全力でかき口説いて親子の契りを結んだ。
そんな時に押し掛けて来たのがイーネストだ。その場にはアーディエンスとウォーロック、イルーナがいた。ウォーロックはイルーナが心を病んだ当初から気にかけており、献身的に介護をしていた。それが功を奏し、少しずつ復調していたイルーナも伴い、三名で神苑に出ていたのだ。
自分は日の当たる場所や表の場所に出られる存在ではない、とゴネるウォーロックを、アーディエンスが懸命に説得した。神々の勧めや、当時はまだ残留していた腐れ爺共の提案もあり、他の者たちがいない早朝にゆったり散策していたところに、例によって裏領域を抜け出して来たイーネストが突撃をかまして来た。
――イルーナ、アーディエンス、よく神成してくれた。かつてはすまなかった、これからは家族になろう。さあ愛しいイルーナ、可愛いアーディエンス、私にも神格を与えておくれ。これでやっと神々の身内に戻れる。アーディエンスや、お前とて本物の父親と共にいるのが一番だろう。とはいえ、ウォーロックも大事な同胞だ、義父枠で家族に入れてやっても良いぞ
いけしゃあしゃあと言い放った言葉に、怯えたイルーナは隣にいたウォーロックに縋り付き、反射的に彼女を抱きしめて庇ったウォーロックは困惑を浮かべて呆然としていた。
直後、アーディエンスが盛大にキレた。お前なんか親父じゃねーよクソ外道、と叫びながらイーネストに飛びかかり、怒りのあまり荒神化しかかったのだ。
遠慮がちに物申すウォーロックに、アルシオは鼻を鳴らした。
『あんな奴ら、くたばりぞこないの老いぼれで十分だ。……彼らはとてもお疲れだった。永すぎる時を粉骨砕身で尽力し続けて来られたのだから、もうゆっくりお休みになられれば良い。無理に蘇っていただく必要はない』
中盤以降の台詞は、本当はもう一度会いたい本心を押し隠した痩せ我慢だった。とはいえ、先達共が実際に復活すれば神々は大喜びするだろう。今度こそ本当の同胞になって戻って来てくれた、と。
能天気なこの弟も、優しいシルファールも、慈悲深いミスティーナも……そして自分とアーディエンスさえ、口では悪態を付いたとしても、何だかんだで歓喜してあの腐れ野郎たちを受け入れるはずだ。容易に想像できるその光景に、ふんと唇を尖らせる。
『大体、知識が豊富だからなんだと言うのだ。我が妻子と弟を苦しめた奴らの呼称など、老害で十分だ』
『そりゃ僕を通して色々されたことには、僕自身もすごく思うところがあるけど……でも、後でしっかりケアして下さったし、苦しんだのはシルファールとミスティーナだよ。僕はあくまで加害者だったんだから』
『それでもお前も傷付いた。いや、傷付けられた。その事実は不変だ』
老害先達たちは、まさにこれを狙っていたのだろう。自分たちこそが全ての害悪であり共通の敵なのだと認識させることで、アルシオとウォーロックが和解する道を残した。そのことを悟っているアルシオは、あえて先達たちの思惑に乗った。
かつての闊達さは鳴りを潜め、すっかり引っ込み思案に変貌した弟を、憂いげに見遣る。神成後のウォーロックは、真っ当な神でいた方が良いだろうという高位の悪神たちの采配により悪神化の進行を抑えられたため、基本的には通常の神として在る。
『私がもっと早く、お前を気にかけていれば良かった』
ひとたび弱みを持てば、それを利用されて蹴落とされる使役の世界。だからこそ、アルシオは大切な者を持たないよう心がけていた。それでも愛してしまったのが、妻子たるミスティーナとシルファールだ。そのこと自体は微塵も後悔していない。
だが、時折こうも思うのだ。弟にも目を向けていれば、と。ミスティーナとシルファールよりずっと早くから、自分の近くにいた存在。同じ天樹の同じ雫から、同じタイミングで生まれた片割れ。最も近しい存在のことも、きちんと見てやっていれば。彼が先達たちに操られていることに気が付けたかもしれない。
『でも、今こうして話せてるじゃないか』
『あの外道馬鹿のおかげだ。首尾一貫してろくでなしだったが、最後に役に立ってくれた』
『兄さんて意外と口が悪いよね……』
外道馬鹿。誰のことを言っているかはすぐ分かる。アルシオの前の大精霊、イーネストだ。
神逐後も神々の尻を追いかけていた彼は、かつてあっさり捨てた妻子が神成すると、再度掌を華麗に反転させて擦り寄って来た。
神成後、アーディエンスは母イルーナに神格を与え、自分ごときにそんな価値はないと渋るウォーロックを全力でかき口説いて親子の契りを結んだ。
そんな時に押し掛けて来たのがイーネストだ。その場にはアーディエンスとウォーロック、イルーナがいた。ウォーロックはイルーナが心を病んだ当初から気にかけており、献身的に介護をしていた。それが功を奏し、少しずつ復調していたイルーナも伴い、三名で神苑に出ていたのだ。
自分は日の当たる場所や表の場所に出られる存在ではない、とゴネるウォーロックを、アーディエンスが懸命に説得した。神々の勧めや、当時はまだ残留していた腐れ爺共の提案もあり、他の者たちがいない早朝にゆったり散策していたところに、例によって裏領域を抜け出して来たイーネストが突撃をかまして来た。
――イルーナ、アーディエンス、よく神成してくれた。かつてはすまなかった、これからは家族になろう。さあ愛しいイルーナ、可愛いアーディエンス、私にも神格を与えておくれ。これでやっと神々の身内に戻れる。アーディエンスや、お前とて本物の父親と共にいるのが一番だろう。とはいえ、ウォーロックも大事な同胞だ、義父枠で家族に入れてやっても良いぞ
いけしゃあしゃあと言い放った言葉に、怯えたイルーナは隣にいたウォーロックに縋り付き、反射的に彼女を抱きしめて庇ったウォーロックは困惑を浮かべて呆然としていた。
直後、アーディエンスが盛大にキレた。お前なんか親父じゃねーよクソ外道、と叫びながらイーネストに飛びかかり、怒りのあまり荒神化しかかったのだ。
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