女勇者様が弱すぎるんだが

ふつ

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1章〜ロレンと最弱女勇者

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 石でできた部屋を区切るかのように真ん中に引かれた豪華なカーペット。その両端には柱がたち規則的に奥まで並んでいる。

 全て同じ姿の魔物が部屋を覆い尽くすほど立っている。

 ざっと100体といったところだろう。襲ってくる気配はない。

「えぇぇぇぇぇぇぇ!! お、多すぎでしょ! ギュウギュウに詰まってて魔物たちも身動き取れてないよ!?」

 目を見開く彼女。

「1体1体が弱くても……さすがにこの数ははマズいっ!」

「ロレンくん! たくさんの敵を一気に攻撃できる必殺技ってないの!?」

 あるっちゃある、数少なく覚えてる限りの必殺技の中で。

 だがこんな狭い所では無理だ。

「……あるけど、キミまで巻き込むかもしれない!」

「……その必殺技って……枯れ枝は折れちゃうくらいの強さ?」

 言いにくそうに上目遣いで聞く女勇者に、即答する。

「大木が吹き飛ぶ!」

「ええっ!? じゃあ私、巻き込まれたら絶対死んじゃうよー。お願いだから、今はその必殺技は使わないでー!」

 引くしかないな、事態が大きくなる前に。

「わかった。」

「に、逃げよう! いったん退却ー」

 急いで俺たちはその場を後にした。

 古びた階段の手前で、魔物が追ってこないことに気づいた俺は立ち止まる。

「……追ってこなかったな。」

「はああ……し、死ぬかと思った。あれ? でもあの魔物たちどうして攻撃してこなかったのかな? 今だって追ってくればいいのに、いったいも出てこないし……なんでだろう?」

 ……そういえば、魔物たちの視界には完全に入っていた。
 
 だが奴らは俺たちの方を襲おうとするどころか、見てなかった。

 気づかなかった? ……まさか、そんな事があるわけ。

「……なにか『理由』があって魔王城から出られないのかもな。とにかく敵が多すぎる。あいつらを倒す方法を探さないと。

「そうだね。また勇者さんたちからなにか情報を得られないかな?」

 名案だ。

 魔境にいる元勇者達には本当に助かる情報を貰っている。

「それじゃあ一度、魔境に戻って聞き込みを――」

「うっ!」

 ん!?

 突然彼女は頭を抱え、その場にうずくまる。

「どうしたんだ!?」

「うっ……」

 悪夢でも見てるかのように魘されている。

 しばらくの間俺は、背中をさすり、心配の声をかけることしかできなかった。

 唸りが治ったようで口を開く。

「う、うん。なんか……頭が痛くて、変な声が聞こえた気がする。」

 変な声? どーゆーことだ? とりあえず今は彼女を安静にさせなきゃ。

「大丈夫か? 無理しないほうが……」

「でも……早く魔王を倒さないと。こうしてる間にも……世界中の人たちが、魔物たちに苦しめられているんだからっ……」

 辛そうに喋る彼女。

 気持ちは充分わかる、でもそんなんじゃ君はまともに戦えない。

「そうかもしれないけど少し休んだ方がいい。一度教会に戻って、体勢を立て直そう。」

 その場にうずくまった彼女に手を差し出す。

 それに気づいて顔を上げた彼女は、少し間をあけ、作り笑いのような笑みで頷いてきた。

 そして手を取り、立ち上がった。

 俺たちは手を繋ぎ、教会へ向かう。

 彼女はずっとうつむいていた。


----


 もう起きただろうか? 

 俺の部屋の扉をそっと開けると、彼女はベット1つ分を開けて並んだ2つのベットの片側に座り、首だけを曲けて、窓の外を見ていた。

 窓から見えたのは果てしなく茜色に染まった空。

 魔王城からはこんな景色みれないだろうな……

 そこから差し込んでくる淡い光は、彼女を柔らかく照らしていた。

 その綺麗な横顔を見ていると、なんだかさびしくて、儚くて、今にも消えてしまいそうだった。

 僕は彼女の存在を確かめるために声をかけた。

「あれから頭痛は?」

 突然声をかけられたようで、はっとする彼女。

「あっ、うん、大丈夫。……ありがと。」

 目を細めて言ってきた。

「ああ。大した事なくてよかった。」

 なんだろう、自然と頰が緩む。




 
 俺たちはずっと手を繋いできた。

 教会に入り、彼女を部屋に連れてくと、ベットが1つ増えてる事に気づいた。

 シスターの仕業だ。

 部屋の隅のベットに連れてくと、ベットに横たわった彼女に毛布をかける。

 疲れていたようで、すぐに寝息をたてたのだ。

「さっきは頭がガンガンして、もうダメかと思ったよ……あんな頭痛初めて。ロレンくんが育った場所が魔王城の近くにあって本当によかったよ。おかげで私は元気になれたし……それに、こーんなに強い人が仲間になってくれたんだもん。この教会には本当に、感謝してもしきれないよっ!」







 強い……



 ふと、昔のことを思い出した。

 教会には、他にも孤児の子供が数人いた。

 今は、もうどこか旅に出ている。

 彼らは魔王ごっこという遊びを好んでいた。

 その時いつも俺は部屋の隅でなんとなくそれを見ていた。

 なぜなら彼らに誘われないからだ。

 入りたい以前に、興味はなかった。だが、見ているのは飽きなかった。

 とある日、そこへシスターが来た。

 シスターは俺が1人でいるのを見て、彼らに仲間に入れてあげるように言った。

 そして、彼らの返答で俺が誘われない理由が分かった。

 その子供達は口を揃えて言った。

『だってロレン強いんだもん。』

 と……


 

 

 



「ロレンくん! 一緒にいてくれてありがとうっ! キミと一緒なら心強いよ! 」

 不意に聞こえたその言葉。

 ……心強いか。

 俺でいいならいつでも一緒にいてやる。だが君だけじゃない。俺も君と一緒にいて、色んなことに自信がついた。

「……俺もだ。」

「え? 『俺もだって』って……ロレンくんも私と一緒だと心強いってこと? 私……こんなに弱いのに?」

 ベットから立ち、目を見開きながらゆっくりと俺の元に近づいてくる。

 君は弱い、そのくせ勇者を名乗っている。君がどうして勇者になれたのかは分からない。

 でも君の魔王を倒そうとする意思は強く、本物だ。

 近くで頑張ってる人を見ると、俺も頑張りたくなるんだよ。

「ああ。」

 そう言って、笑顔をを見せた彼女の瞳には、涙が浮かんでるようにも見えた。

 俺たちは距離を詰めて見つめあっていた。

 窓の外では、もう沈もうとする夕陽。

 その光を背中に浴びた彼女の顔は、肌の色よりもずっと茜色にに染まっていた。そんな彼女の頰は赤らんでるようにも見えた。





ーーーー





「かえせ。」

「彼の方をかえせ。」

「あいつをかえせ。」

「あの子をかえせ。」

「私に、僕に、俺に、拙者に、某に、我に、我輩に、小生に、わしに、わらわに、かえせ。」

「かえせ、かえせ、かえせ、かえせ、かえせ、かえせ、かえせ、かえせ、かえせ、かえせ、かえせ、かえせ、かえせ。」

「かえしてもらわなければ。」

「でも……いったい何を?」








ーーーー











 























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