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前編
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南の野原は子ギツネたちの格好の遊び場です。子ギツネたちは鬼ごっこやかくれんぼをして遊んでいます。その群れの中からちょっぴり外れたところに、子ギツネのルゥがいました。
子ギツネのルゥは石をひっくり返したり、風と追いかけっこしたりと一人ぼっちで遊ぶのが大好き。たまに誰かを捕まえては、小さなルゥの頭にたくさん詰まった質問を浴びせて、困らせてしまいます。
今日もルゥが木の皮を剥いで虫を探しているといたずらっ子のクゥ、フゥ、スゥが木の裏からぴょっこりと現れました。
「なあ、知ってるか? 今日の祭りのこと!」
「お祭り? お祭りってなあに なあに なあに?」
ルゥは首を傾げて、クゥの言葉を復唱しました。
「太陽がこーんなに小さくなるころ、西の裏山に狼が集まって儀式をするんだってさ! きっと次は誰を食っちまおうか相談してるに違いない」
「違いない、違いない!」
クゥが応えて、フゥとスゥがきゃいきゃいと続きました。
「お前も食われないように、今日はとっとと帰るんだぞ!」
「ふうん」
ルゥが顔を上げると、雲の向こうでぴかっと空が光りました。遅れて、割れるような雷鳴が轟きます。三匹はきゃっと叫んで、一目散にねぐらに帰ってしまいました。
一匹取り残されたルゥは、狼のお祭りとはどんなものかしらと思いました。
ルゥはまだ小さな赤ちゃんだった頃、お母さんに連れられて人間のお祭りに参加したことがあります。お母さんキツネはひょいひょいと人間の足の間を通って、子ギツネに赤いリンゴの欠片をくれました。
そのおいしかったことと言ったら。
後にも先にも、ルゥがあんなに美味しいリンゴを食べたのはあの時だけでした。
遠くから、お母さんキツネがルゥを呼ぶ声が聞こえてきます。ルゥはその声から逃げるように、西の裏山へと向かって走り出しました。いつも風と追いかけっこをするルゥですから、その足の速さといったら鳥のようです。
お母さんキツネが南の野原に辿り着いたとき、ルゥは温もりさえ残さず消えてしまっていました。
真っ黒な雲がぐんぐん空を駆け抜けて、南の空を覆いました。嵐がやってきます──。
子ギツネのルゥは石をひっくり返したり、風と追いかけっこしたりと一人ぼっちで遊ぶのが大好き。たまに誰かを捕まえては、小さなルゥの頭にたくさん詰まった質問を浴びせて、困らせてしまいます。
今日もルゥが木の皮を剥いで虫を探しているといたずらっ子のクゥ、フゥ、スゥが木の裏からぴょっこりと現れました。
「なあ、知ってるか? 今日の祭りのこと!」
「お祭り? お祭りってなあに なあに なあに?」
ルゥは首を傾げて、クゥの言葉を復唱しました。
「太陽がこーんなに小さくなるころ、西の裏山に狼が集まって儀式をするんだってさ! きっと次は誰を食っちまおうか相談してるに違いない」
「違いない、違いない!」
クゥが応えて、フゥとスゥがきゃいきゃいと続きました。
「お前も食われないように、今日はとっとと帰るんだぞ!」
「ふうん」
ルゥが顔を上げると、雲の向こうでぴかっと空が光りました。遅れて、割れるような雷鳴が轟きます。三匹はきゃっと叫んで、一目散にねぐらに帰ってしまいました。
一匹取り残されたルゥは、狼のお祭りとはどんなものかしらと思いました。
ルゥはまだ小さな赤ちゃんだった頃、お母さんに連れられて人間のお祭りに参加したことがあります。お母さんキツネはひょいひょいと人間の足の間を通って、子ギツネに赤いリンゴの欠片をくれました。
そのおいしかったことと言ったら。
後にも先にも、ルゥがあんなに美味しいリンゴを食べたのはあの時だけでした。
遠くから、お母さんキツネがルゥを呼ぶ声が聞こえてきます。ルゥはその声から逃げるように、西の裏山へと向かって走り出しました。いつも風と追いかけっこをするルゥですから、その足の速さといったら鳥のようです。
お母さんキツネが南の野原に辿り着いたとき、ルゥは温もりさえ残さず消えてしまっていました。
真っ黒な雲がぐんぐん空を駆け抜けて、南の空を覆いました。嵐がやってきます──。
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