30歳の誕生日、親友にプロポーズされました。

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近くて遠い存在

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 ガンちゃんの家はどこにでもある綺麗なマンションの五階だった。
 豆腐のように綺麗なマンション。俺が住んでいたひび割れた古いアパートとは全然違う。



 「俺、もっとすごいお家かと思ってた」




 「悪かったな、普通のマンションで」




 「いやいや、そうじゃなくて。ガンちゃんは小説家としても売れてるから高層マンションとかに住んでるのかなって思ってたから。本の印税ってすごいんでしょ?」




 「まあ、食べるのに十分に困らないぐらいはあるな。でも俺は住居にそこまでこだわりはないし、自分が落ち着いて暮らせる場所だったらいいと思ってここを選んだんだ」



 確かにマンションの周りは穏やかに時間が流れている。少し歩けば駅があるし、コンビニも近くにあった。時々聞こえる子どもの声は通り道にあった公園からだろうか。


 なんだかガンちゃんらしいなと思った。ここにいるガンちゃんはとてもしっくりきていて、そこに俺が今いることが不思議な感じがする。


 本当に今日からガンちゃんと一緒に生活をするのだ。少しの不安と高揚が俺の胸を満たしている。

 
 これからどうなるのだろうか。





 家の中もガンちゃんの色で俺は思わず笑ってしまった。
 インテリアはシンプルでベーシックに統一されている。リビングには大きなソファがありダイニングキッチンが見えた。几帳面なガンちゃんらしく床は光を反射するほど美しい。



 
 「奥が俺の部屋でその手前が樹の部屋」




 「え?俺の部屋?」




 「うん。ないと落ち着かないだろ。もともと物置として使っていて掃除はしたから好きに使ってくれ」




 「ありがとう」



 
 自分の部屋まで用意してくれていたとは知らなかったので驚いた。物置とは思えないほど十分な広さがあった。




 「で、その手前が寝室だ」




 手前の扉を開くとセミダブルのベッドがある。シーツには皺一つなく整えられていた。


 違和感があった。ベッドには枕が二つ置いてある。
 俺の疑問をガンちゃんが察したように声を発した。




 「お前も今日からここで寝ろ」
 



 「ん?」



 
 「セミダブルだし男二人でも狭くはない。大丈夫だ」




 ガンちゃんは寝室に入りベッドに腰を下ろした。俺は唖然とした。



 「いや、全然大丈夫じゃない。ガンちゃんと寝るの?」





 「ああ。布団はないし、セミダブルだからいいかと思って」




 「いや、それはダメだよ。だって、その……」




 ガンちゃんは俺に好意があるわけで、同じベッドで寝るなんて、そんなのはダメに決まってる。




 「俺はソファで寝るよ」




 「それはダメだ。仕事で疲れてるのにソファで寝かせられるか。それだったら俺がソファで寝る」



 「いや、それこそダメだろう。小説家なんだからしっかり睡眠は取らないと。お前のベッドだし」



 「いや」 「でも」をお互い繰り返し、結局答えは出ないまま沈黙が生まれる。




 「樹」




 沈黙を破ったのはガンちゃんだった。




 「こっち来て」



 
 ベッドに座ったガンちゃんが俺を手招きする。
 恐る恐るガンちゃんに近づき、隣に腰を下ろした。二人の間には人一人入るぐらいの距離がある。




 「さっきも言っただろ。俺は絶対にお前の嫌がることはしない。それにお前の気持ちを無視して触れても全く意味はない」




 ガンちゃんの声に耳を傾けながら俺はどうしてもガンちゃんの顔を見ることができなくて俯いた。




 「俺は樹が好きだ。でもそれ以上にお前を大事にしたいんだ。だから俺を信じて欲しい。それに、寝る時ぐらい一緒じゃないと、その、寂しいだろ」



 最後のぶっきらぼうにつぶやいた「寂しい」という言葉に俺は顔を上げた。ガンちゃんはそっぽを向いていてどんな表情をしているか分からない。



 
 
 ああ。こういう男だった。ガンちゃんは。不器用だけど驚くほど真面目で誠実なのだ。そして優しい。ガンちゃんは俺を傷つけたりしない。だからガンちゃんといるのは安心するのだ。




 「へえー俺が一緒じゃないと寂しいんだ。そっかー」




 からかうような俺の声にガンちゃんは顔をしかめる。



 「からかうなよ」




 その言い方が子供っぽくて俺は笑った。




 「俺、朝弱いから起こして」




 少しの沈黙。ガンちゃんがいいのかという目で見つめてくる。俺は小さくうなずいた。
 ガンちゃんが嬉しそうに笑う。




 「布団を剥がしてでも起こす」





 「優しく起こしてよ」




 俺は苦笑しながら言った。ガンちゃんは笑いながら俺を見る。

 
 気づけばお互いの距離はほとんどないに等しい。ベッドの上でさっきまでの緊張感は姿を消し、いつもの優しい穏やかな空気が流れている。


 窓からは夕陽が顔を覗かせ、白く清潔なシーツに影を落とす。
 
 夕陽がガンちゃんの横顔を照らす。それがすごく綺麗で、綺麗すぎて俺はなんとなく目をそらしてしまった。

 




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