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学園編・前編
第29話〜予行練習〜
しおりを挟む「そうか、まぁ同じ学園に通わせているのだから当然と言えば当然の帰結だな」
セチアとイレーナ猊下との夕食を済ませた帰りにファラ陛下に謁見を賜ると学園で先輩方に聞いた話を元にシオンさんについて話を伺う。
「…確かに奴はそこのクズ男(イリアス)の娘であり血縁上は私の姪にあたる、クラス替えについても私の…というより学園側との暗黙のルールとして毎年替えをさせている…それについては奴自身の能力が起因しているがな」
「能力…ですか?」
先輩方の話に一番に疑問を抱いたのはシオンさんは最低でも1回はクラス替えを経験しているという事、二寮は基本的に魔法の素養よりも武術の才に秀でた人材が集まる。…即ち、転移魔法の様に高度な魔法を扱える者は限られてくる、無論魔法ではなく何らかの能力を使えば考えられなくも無いが、トラップ式の連鎖爆発魔法を仕掛ける時点で武術よりも魔法の才能に富んだ女性(ひと)だと直感が囁いたからだ。
だが、毎年クラス替えをしている理由が能力で然も学園側もそれを良しとしているのは驚きだ。
「…奴の眼は『死滅の魔眼』だ、視界に収めた者の死や寿命を好きに出来る魔眼の中でも最凶に位置する…眼に映るものなら火も水も、大地すら殺すが私の能力なら無効化出来ていた。…この城を出る前に渡したコンタクトで無効化は無理でも大幅に弱める事は出来るが念の為に一年周期でクラス替えをさせていたんだ。…そうすれば3年間同じクラスで同じ人間と寝食を共にするよりも奪う寿命もぐっと減らせるからな」
…なるほど、だがそれならシオンさんには酷な話だが城に囲っていた方が世の為なのでは無いのだろうか?
「…一部の魔王達が利用しないとも限らんし、何より始末しろという声も出ていた。…だが…」
握り拳から血が出る程に握り込む姿に私は息を呑む、ファラ陛下は必要であれば先代魔王(イリアスさん)やアリシアをも手に掛けるが本人はそれを手放しで是とする性質ではない、きっと苦悩しただろう…両手でそっと手を包むと回復魔法を掛ける。
「……すまんな、今まで黙っていて」
「…いえ、寧ろ今まで話せない状況を作り出していて申し訳ありません…」
ふ…と、笑うファラ陛下の治療を終えると謎に包まれていたシオンさんの事も何となくだが理解出来た、…後はこの頼りになるんだかならないんだか解らない人(イリアスさん)が起きた後に問い詰める事にしよう。
----------------
一夜明けて学園では本格的に授業も始まり私は各クラスに3人ずつ分身(わけみ)を遣わせる。
分身(わけみ)の術とは自身の影に自身と同じ学習能力を与える魔法であり現在の私には11人分の知識や情報がフィードバックされている状態だ。
無論、修行等に使用する場合数が多くなれば多くなる程脳に掛かる負担も尋常ではない筈なのだが、こと限界の枷が存在しない私にはデメリットは存在しない。あるとすれば魔力が11人分に分散されるだけだ。
「ユウキって今何人で授業受けてんだよ!さっきもすれ違ったしその前なんか三寮の奴等と話してたのを見掛けたしまじスゲー!」
「確かに、な…心魔法を使用する複合魔法は政府や魔法士協会が固く禁じているが、それ以前に分身(わけみ)は光魔法と闇魔法も共に高レベルに届かないと形には出来ない…どんな修行をしているのか興味があるから話しながら昼食を摂らないか?」
「おっ、飯か!良いねぇ、仲良く肩並べて食べようじゃないのさっ」
「あの、その…わ、私も…」
元々アリシアやエリス、セチアも呼ぶつもりだったが今日はセチアとは逢っていない、どうやら病欠らしい。…授業が終わったら見舞いに行くのも良いかもしれないな。
「アリシア、エリス。先輩達も一緒で良いかな…?」
「うん、ボクは構わないよ?」
「エリスも…」
二人の了承を得れば私も断る理由はない、先輩達に食堂に繋がる通路でも尤も近道とされる道順を案内される形で目的地に着くと食堂は食券式なのでカツ丼三人前を何時もの様に頼んだ。
「…ここのカツ丼って割とボリュームがあるんだがな、確かカツとライスだけで700グラム程だった気がするが」
「そーかぁ?俺は二人分なら結構きつかったけど食べ切ったぜ?逆に一人分じゃちょっと足んねェよな!」
「あはは、昔から結構食べる方なんですよ、私」
一つ訂正するなら昔は差程食べる方では無い、10歳を超えてから第2成長期を迎えて健啖家にはなった、基本的には何でも食べるので夜食を持って来てくれるルトさんやルカさんには頭が上がらない。
「こほん、…そんな事よりも私の普段の鍛錬の内容…でしたよね?」
あぁ、と頷くリリア先輩に促される形でアリシアとエリスを除いた8つの眼差しが私に向けられる。私も二人が何千倍の重力の中で鍛錬をしているのかは興味はあるんだが…
「最近は忙しくて時間はあまり取れないのですが、空間魔法でトレーニングルームとして使っている部屋を一つの異空間に作り替えた場所で8000倍の重力と身体に1000キロ程の重りを付けて100キロのランニングや懸垂、500キロの木刀の素振りに腕立て伏せ、スクワットをしていますね、後ドラゴンフラッグという腹筋を鍛えるものも、あ、勿論背筋もです」
ぽと…っと、誰かのフォークから肉が落ちた音がした…恥ずかしくて仕方ない、父上はきっと若い頃は1万倍の重力に耐え切れた筈だし話に聞くロンさんも若しかしたらそれ以上の重力に耐え切れた筈だ。
本当に情けなくて仕方がない「……いや、それマジで…?」…?ライ先輩が信じられないとばかりに問い掛けるが若しかしてライ先輩はそれ以上の鍛錬をしているのだろうか、だとしたら是非とも御教授願いたい…!
「はい、あ、勿論筋肉に利かせる為に私的にはゆっくりめに1回ずつ…時間の関係上2時間位しか余裕が持てないので各種類を100回、3セットしてます、素振りは1000回ですが」
空間魔法を維持しながら身体を鍛えるだけの簡単な鍛錬方法しかしていないなんてサボりも良い所ではあるが、若しかしたら先輩はより効率的な鍛錬方法を知っているかもしれない、という期待を以て答えるがライ先輩はその場で土下座した。
「お、俺をあんたの弟子にしてくれユウキの兄貴ッ!」
「ちょっ、待って下さい!?というか皆さんこの学校に入れる位なんですからそれくらいしてますよね?!」
突然食堂なんかで土下座されたら人目につく、慌てて立ち上がらせようとしながら問い掛けるがアリシアとエリスも含め首を振る。
「いや…確かにヒュペリオンは重力を枷にして掛けられた対象の魔力を元に成長する呪術だけどボクは800倍で潰れ掛けたかな…」
「エリス…重たいのやだから1000くらい…」
「いやいや…800倍や1000倍でも私や他の人達でも驚愕すると思うのだが、それでも体系的に女性らしく居れる分君達が学んでいた魔心流や魔身流とは一体どんな…」
「流石のあたいでも8000倍は直ぐに圧死しちまうねェ…ギリギリ800倍なら1歩ずつ歩けるかもしれないけどさ」
「わ、私なんか羽虫みたいにぷちってなっちゃいますぅ…っ」
マジか…一体どんな育てられ方をしたんだろうか。最近の親御さんというものは異世界でも過保護過ぎじゃないだろうか…?
だが、ふむ…これは一度先輩方の力量を見させて貰う必要がありそうだな。
「……あの、もしよろしければ放課後先輩方の実力を見せて頂けませんか?弟子入りとかもその時の結果次第で考慮させて貰いたいです」
「おぉ!一応前向きで嬉しいぜ!」
「……そうだな、先輩としての威厳を見せてやらねば示しもつくまい」
「良いぜ~?そん代わりこっちは全力だからなぁ?」
「あの、その…が、頑張ります…!」
四人ともやる気だ、どうかそのやる気に伴うだけの実力を持ち合わせていて欲しいものだが…。
----------------
「…なんでエリス達まで…」
「文句は言わない、…まさか素のパラメータに彼処まで開きがあるなんて思わなかった…」
「へへ、悪ぃな…7人でユウキに一矢報おうぜ!」
「煩い、バカ。…もう一度勝利条件を確認する、彼が持っている魔法石を破壊すれば私達の勝利、逆に彼が私達全員を戦闘不能にしたら私達の勝ちだ」
「か、勝てるかなぁ…」
「弱気になるのは解るねぇ…ありゃあ、バケモンだ…」
「お、ルビア姉ビビってんのか?まぁなー、彼奴は俺の認めたマブダチだからよ!つか彼奴が揚げた唐揚げってめっちゃ美味ぇんだよなぁ~」
7対1、斯様な変則ルールを赦したのは他でもないユウキであった、そうでもしないと素のステータスに開きがある。食堂を出る際に偶然入れ違いになったヒュウガも楽しそうだ、という一言で入ったのは誤算ではあったが昨日借りを作った身としては断るのも忍びなかったというのはここだけの話ではあるが。
何より、これはアリエス杯の予行練習だ。彼の手には魔剣では無く何の変哲もない木刀が握られている。…無論、魔心流の拾弍秘剣に数えられる玄龍(げんりゅう)により伝説の聖剣や魔剣に匹敵する力を帯びた木刀が。
1キロ離れていようと大気が震えているのが解る程の威圧感、先程からずっと微動だにしないユウキにアリシア、エリス、ヒュウガの三人は汗を垂らしながらも心は努めて平静を保とうとしている。
残りの四人は、怯えや焦燥の方が勝っているのを気付かない程に。
「…先ず、ボクが注意を「待ってらんねェ!俺が先に行くぜッ!」っ!待って下さい先輩!」
アリシアやエリスには解っていた、あれだけの魂合(こんごう)を纏いながら一歩も動く事の無いユウキが何を狙っているか、その真の意味を…!
「がっ!?」
獣人族特有の俊敏性を活かし高速で肉薄するライであったが風切り音と共に「斬馬…!」と、声が聞こえたかと思えば赤みを帯びた黒い斬撃とライ自身の身体が宙を舞っていた。
「…遅かったか…!」
リリアが三叉槍を片手に一撃の元に気絶させられたライを抱えるが
「───えぇ、遅過ぎます。仲間を救おうと判断する時間も、身のこなしも…」
「な!?…ぁ…」
と、声がしたかと思えば首筋に指先を蟻を摘むように軽く当てられただけで白目を剥いて気絶する。
「……手加減しては、くれなさそうだね…ユウキ…」
「…しているさ、だからこそ冥犬(めいけん)も使わなければ作戦を練る時間もあげたんだ。
──大魔王から逃げられない様に裏ボスからも逃げられないよ、勇者(アリシア)一行。全力で掛かってこい…!」
鍛錬や修行に対して一切の妥協はしないユウキ、素のパラメータに差があるならばアリエス杯迄の自身との予行練習(たたかい)で戦い慣れして貰う、それが歳若き裏ボスが定めた練習方法であった。
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