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学園編・中編
第44話〜救済へと至る過程〜
しおりを挟む私、ことリリアは疑いもせずに私自身を信じると言い切ったに等しい20の瞳に思わず顔を伏せてしまう。
(……どいつもこいつもバカばかりだ…だが…)
だが、その馬鹿さ加減に私の心は救われている。
同時に、一時でもそのバカの筆頭(ユウキ)に醜い感情を向けた私自身が一番愚かだと理解した。
或いは、彼等ならこの運命(のろい)を終わらせてくれるかもしれない…そんな淡い希望を抱かせる程に水中から見る太陽の様に眩しい存在だった。
「……今日はこの後授業もない、皆に時間があるなら私の生い立ちから話したいが…構わないか?」
返事の代わりに皆が首を縦に振る、マイペースだと思っていたエリスが全員分のジュースを食券で買ってくるが、それは彼女なりの気遣いなのだと此処にきて初めて気付いた。
「……ありがとう、…私は水中国家アトランティスの第一皇女マリー様に仕える騎士として育てられた上流貴族の出だ…国家と言ってもアトランティスが水中で唯一の国ではあるが」
マリー様は現アトランティス国のアトラス様とその奥方様であるマリア様の一人娘であり、私を姉様と慕ってくれる私にとっても妹同然の存在だ。
そんな彼女に異変が訪れたのは今から3年前…。
ある日夢の中で神託を受けたマリア様はマリー様が海の神であるポセイドン様にマリー様の15歳の誕生日と共に花嫁として貰い受けるとの神託を受けた。
その神託から3日後の早朝、マリー様の胸元にポセイドン様の象徴とも言える三叉槍の呪印が刻まれていた。
だが、我々海に生きる者にとって海神ポセイドンは血の気は多くとも決して弱者を食い物にしない誇り高き存在だ。
皆、場内の者は皆ポセイドン様の名を騙る者の仕業であると噂しているし私だって同じ気持ちだ。
問題は偽物であったとしてもマリー様が神の名を騙れる程の力の持ち主に狙われているという点だ。
私を含め上流貴族の者達は皆王国の上級騎士と同じ位の戦闘力は持つ、こと水中戦となれば無類の強さを誇るだろう。
然し、相手が神域となれば話は変わってくる。
然も我々が住むアトランティスはAクラスの魔法を幾ら打ち込まれても微動だにしない強力な防御結界に覆われているのだ、その中でも王族が住まう王宮は特に強力な結界に覆われている。
その結界を突破し二度に渡り王族に干渉してきたという点に皆、警戒心を強めている。
此処までを余す事なく話す、彼等の信頼に応える為に。
「……成程、ありがとうございます。…もう一度確認しますがその呪印らしきものは三叉槍だったのですね…?」
ユウキが確認の為、と挙手をしながら問うが私はそれに首を縦に振る。
「あぁ、確かに三叉槍だ。だがあれが本当に神託によるものなのか呪いによるものなのかは定かでは無い…本来神の気を探る等は一度でも神域に至った者で無ければ預かり知らぬ事なのだからな」
少なくとも、アトランティスにはそんな稀人は存在しない。
ユウキと初めて手合わせした時に、直感的に彼が神域に至った者だと理解したからこそ彼を連れて行きたかったのだ。
今も尚、気丈に振る舞いながらも不安に脅えているマリー様を救う為に。
「…なら、私としては明日にでも御伺いしたいと思います…皆はどうかな?」
暫く考え込んでいたユウキは皆に意見を求むと皆、異議なしとばかりに頷く。
「俺も師匠に賛成だ!そんな話聞いたら黙ってられねぇって!」
単細胞だとバカにしていたライに今程感謝した瞬間は無い。
「あたしも賛成だねぇ、頭数は多い方が良いさね」
ルビア先輩がにっと不敵に笑いながら私の頭を抱き込む…どうやら何時の間にか泣いていたようだ。
「み、皆一緒なら怖くない…です!」
ベラ先輩が小さな身体でガッツポーズを取るのが見えた。
「…任せて」
エリスがぽんぽんと背中を叩く、宥めるように優しく。
「…仕方ないわね、協力してあげるわ」
「ふふ…安心して下さいね?心の中では放っておけないって言ってますよ?」
シオン先輩の心を代弁しとうのシオン先輩に怒られているセチアが頭を撫でてくれた。
「そういう訳です、勇者としても後輩としても…仲間としても放っておけませんよ」
アリシアが力強く、仲間と口にするのが聞こえた。
「ま、乗り掛かった船だ!泥船に乗ったつもりで任せときな!」
「兄さん、泥船に乗ったら沈みますよ?」
ヒュウガとユイが励ましてくれる。
(…私は、良い仲間を持った…)
本当に良い仲間を持ったと思う…私には勿体無いくらいの素敵な仲間達を。
----------------
その後、私はリリア先輩達と明日の昼頃に学園で集合する約束をしエリス以外の皆と別れた。
「おかえりなさいませ、ユウキ殿」
「ユウキ殿、入浴になさいますか?それとも食事になさいますか?」
「それとも~、あたしとにゃんにゃんする~?」
「食事でお願いします」
屋敷に戻るとメイド服を着たルトさんとルカさんに出迎えられるも何故布団で簀巻きにされた姿のライア様が現れるが気にしてはイケナイ類だと本能的に察すればルトさんとルカさんに向き合い間髪入れずに即答する。
「やぁん…ダーリンのいけずぅ…」
いや、いけずって…。
この人本当に何万年も生きた精霊(ニュンペー)なんだろうか。
「そうだよ~?なんなら証拠見せよっか?」
さりげなく心を読む辺り彼女が少なくともイレーナ母様なセチアの祖にあたる存在だというのは理解してしまう。
「いえ、大丈夫です…」
「そう?……あれ?…ふぅん…そうなんだ…?」
唐突に何かを察した様にふむふむと頷きながら私をじっと見つめるライア様だが、直ぐににっこりと微笑むとガッツポーズを決める。
「ダーリン、がんば!多分本物っぽいけどダーリンならなんとかなるよ!」
…どうやら私の中に眠る火の意思である精霊と会話をしていたようだ。
私はその方とは会話は出来ない分歯痒い思いをしてはいるのだが。
「あはは!まぁ、この子シャイだから仕方ないっしょ!」
そうなのか…そう考えるとなんだか愛らしいな。
「あ!だからって浮気はダメー!ダーリンのイケメン魂はあたしのなんだから!」
「……ユーくんはエリス達の…」
ぎゅっ、とエリスが腕を掴みライア様に威嚇する、うん、何時もの光景だ。
だが、本物かもしれない、か…一度調べてみる必要があるな。
「ところで、何でライア様は簀巻きになっているんですか?」
「それはね~ダーリンのせいだよ?」
簀巻きにされながらもえっへんと胸を張るライア様は私をじっと見つめている。
正直、解せぬ。
----------------
食事を頂き、風呂で汗を流した後、私は久方振りに幼い頃に授けられた力であるアカシック・ウィンドウを使い図書館へと入り浸る。
「…オリュンポス十二神…ポセイドン…あった、これだ」
不貞や浮気、拉致に強姦なんでも御座れのオリュンポス十二神の末弟ゼウスを頂点とした中でも海の神でありゼウスに次ぐ実力者である事から海のゼウスとも呼ばれるのが海神ポセイドンである。
彼は海の神である前は大地の神としての側面もあり地震を司る神である。
デメーテルやメドゥーサ、カイニスといった見目麗しい女性を手篭めにしてきたゼウスにも引けを取らない神であるらしい。
(……有り体に言えばクズだな)
改めて調べ直すとろくでもないなオリュンポス十二神…。
まぁ、神というのは善性の神ばかりでは無いのは確かだし人の尺度では測れないものもあるのだろうが。
「…さて、問題は掛けられた呪いの対処だがどうしたものかな…いっその事消しゴムの様にその呪いも消せたら楽なんだが…」
無窮斬者(むきゅうざんしゃ)で呪いを断つ事も勿論考えたが、その場合腹いせに地震で大津波でも起こされたら敵わない。
セチアの時のように一度術として完成してしまったものを無効化出来る能力は私は持ち合わせていない、ファラを連れて行けば良いのだが彼女は政務が忙しいとの事で直ぐには合流出来ないとの事だ。
シオンの能力を頼れば呪いを死滅させられるが同時にマリー皇女にも負荷を掛けてしまうかもしれない…。
「かと言って…多分普通の解呪(ディスペル)では解呪出来ないだろうな…中々に厭らしいな…」
そもそも呪いの効果すら現段階では推察の域を出ないのだ。
恐らくタイムリミット迄に刻んだ者の魂を蝕み心身共に己が花嫁にする類の呪術だとは思うが。
(…何か、何かないものか……ぐっ…)
幾つか当たりを付けた魔術書や歴史書の頁を捲っていると激しい頭痛を覚え頭を抱える。
「ぁ…が……あぁぁっ…!」
この頭痛の原因は理解している。
だが、認める訳には行かない。
『悲しいな…私はもう一人の私なのに』
!?
「あな、たは……」
目の前の有り得ない現象に眼を見開くが真白(ましろ)と真黒(まくろ)のベールに包まれた存在は私の額に手を置く。
『…本来、限界の概念が存在しない君がこうして苦しむのは身体や脳ではなく魂が私に引っ張られているからだよ、…平たく言えば私という存在に君が引き摺られている状態だ…綱引きみたいなものだね、私は何もしていないが』
彼が手を翳すと嘘のように痛みが引く…いや、“痛みという存在を抹消されたような感じだ”
『…一時しのぎかもしれないが、今はこれで良いだろう…さ、今はもう帰りなさい』
「ありがとうございます…、今…何をしたんですか…?」
目の前の存在に私は問い掛ける、何をしたのかを…魔法の気配を感じたがありとあらゆる魔法を修めた賢王である母上から魔法を学んだ私にも理解の及ばぬ魔法に今回の一件を解決に導く手掛かりが掴めそうで思わず問い掛けた。
『…そうだね、先ず私の事はカオスと呼ぶと良い。…この魔法は本来【原初の神鎧】に刻まれた魔法の一つだから教えたくは無いが…究極の救済を体現した魔法とだけ伝えておこう』
救済、か…。
確かに、これだけの魔法を何の詠唱もなく使えるならそれは使い方次第では大きな救いを齎すだろう。
その代わり、それを手にした者は…。
「…ありがとうございました」
『うん、…君は、後悔しない様にね』
何かを言いたげにしながらも虚空へと消えるもう一人の私(カオス)を見送り、私は彼が送り込んできた何万年分の記憶から擬似的にではあるが悪魔の力へと至る知識を手に入れた。
───絶対に手を出してはならない、禁忌の力へと至る時に、私がどうなるのかも自覚しながら。
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