ウィルビウス〜元勇者パーティに拾われて裏ボス兼勇者に至った私と、元凶である悪役令嬢の元彼女を含めた絶対破壊の交響曲!?

奈歩梨

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学園編・中編

第47話〜喧嘩〜

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 オルレアとヒュウガの試合が急遽決まり城内は疎か、それ迄厳しい訓練に身を置いていた女性人魚達は遠巻きに訓練所を見ている。

「オルレア様が外から来た竜人族の男と戦うらしいわ!」
「オルレア様に挑むなんて命知らずね!」


 外の世界を知らず、水深6000メートルの深海で生きてきた彼女達にしてみれば時折迷い込んできた海に住まう巨大なモンスターよりも恐ろしく、そして誰もがその実力を認めているのがオルレアであるのだから仕方が無い、というのはあるだろう。

 その竜人族の男というのが、嘗て自身が王と仰ぐ戦士を何度も苦しめ破壊神すら動かした竜王の息子だとも知らずに。

「しっ!始まるみたいよ?」


 そして、彼女達は知るだろう。


 ──上には上が居る、という事を。




「ルールを確認します、お互い命を奪わずまいったと言わせるか気絶させるかで勝利とし、それ以外は武器、魔法、能力何を使っても良いとする…構いませんね?」


 白銀の鎧に身を包み三叉槍を手にしたオルレアとは対照的に学生服をなんかかっこいいから、という理由で学ラン風に改造(いじ)ったヒュウガが向き合う中、オルレアは試合の内容をヒュウガに確認する。

 その顔には余裕の笑みを浮かべている、彼女の中では身の程知らずの男が突っかかってきた、程度の感覚なのだろう。

 一見隙だらけのヒュウガをどう諌めようか、といった所か。


「あぁ、構わねェよ。寧ろ何をしても良いなら助かるわ」


 そんなオルレアに対しヒュウガは不敵の笑み。
 然も、先程まで来ていた外出用の私服ではなく学ラン風ながら制服という一見動き難い姿で相対す姿は巫山戯(ふざけ)ていると見られても仕方が無いだろう。


「…では、誰か合図をお願いします」


 が、その事に対してはオルレアは何も言わない、早く済ませようとばかりにヒュウガ以外のメンバーに視線を向けるとライが名乗りを上げる。


「はいよ!んじゃ、二人とも頑張れよ!始めッ!」

----------------

「はッ!」
「鈍(のれ)ェな…」

 当初は一方的な試合展開を想像していた人魚達の中に言葉にならないどよめきが走る。

 それもその筈、神槍(しんそう)の二つ名を周囲に知らしめてきた程に完全に習熟するには時間の掛かる槍、その中でも刃先が独特な形状をした三叉槍を巧みに扱うオルレアの初撃を身を捻り躱しながら胴金の部分を脇に抱えるとオルレアの身体を軽々と投げ飛ばす。

 無論、彼女もアトランティスで押しも押されぬ実力者だ。
 空中で受け身を取り掌を翳すと高圧縮した水の塊を高速で右回転させ散弾銃の様に打ち出すが尽くを拳で打ち払うヒュウガの実力に周囲は疎か試合が始まるまで彼を見くびっていたオルレア自身が舌を巻いている有様だ。

 オルレアの着地と共に二人は再び距離を詰め穂先での一撃を躱されるのを見越した上で薙ぎ払われる一撃も鉄(くろがね)よりも硬い竜の鱗ではなく人間同様に柔らかくも、確かな研鑽が積まれた肉体で受け止めるヒュウガ。

 ち、と誰かの舌打ちが聞こえるも目の前で繰り広げられる試合の苛烈さに誰もがその声に気を割く余裕等が無かった。


「凄い…オルレア様の槍を見切る処か捌いてるなんて…」
「あの竜人族…只者じゃないわ…!」

 どよめきは興奮と変わり見た目とは裏腹に強者の風格を纏うヒュウガの評価を覆す者達が後を絶たない中、ユウキとの戦いで互いの実力を知る者達はヒュウガの脚捌きや息遣いに既視感を覚える者もで出した。


「いやぁ、実際ヒュウガが戦う姿をただの観客として見るのは始めてだが動きが何となくエリスやユウキに似てるねェ?」


 ヒュウガ兄妹とは同郷であり幼い頃は遊び相手にもなっていたルビアが呟く。
 彼女も弓以外に短刀や拳闘は手習い程度には学んでいるがヒュウガのそれはユウキやエリスが修めた魔身流に近いものがある、と彼女は腕を組みながら冷静に分析していたが、それに対しユイは苦笑する。


「あはは…それはそうですよね、ルビアお姉さんはイージスに行く前は少し荒れていましたし…えっと…実は兄さんの拳闘はユウキさんと戦っている間に身に付けたものなんです」


「え…それって…」


 ルビアの傍らでベラは驚愕の声をあげる。
 それも無理からぬ事だ…あの戦いを途中迄七人で切り抜けてきた者なら誰もがユイの言っている出鱈目さが理解出来るというものだ。

 ヒュウガは、たった一人であの鬼神とも思えるユウキと立ち向かい彼との戦いで今の強さを手に入れた、と言っているのだから。


「…兄さんには内緒にしてくださいね、…ユウキさんに初めて逢った時、人族だと思って甘く見ていた兄さんは喧嘩を吹っ掛けた直後のたった一撃で3日間位昏倒してしまったんです、兄さん」

「あー…何となく想像出来るねェ…ユウキは生身でも強いから。ありゃあ…人間の域を超えちまってる」


 ユイの言葉にルビアはあの地獄の一週間を思い出し呟く、隣に居るベラもガタガタと震える有様だ。

 爆炎轟き魔法により矢の嵐と化した演習場…否、最早極小の戦争地帯を木刀一本持って練り歩く優男(ユウキ)が、次の瞬間には背後に立っているなんてザラだった……あの地獄を一人で潜り抜けてきたと聞けばその出鱈目さも理解は出来よう。


「はい、実際当時から強かったです。…でも、寂しそうで、悲しそうで…辛そうでした……だからですかね、兄さんは負けても転がされても気絶しても“絶対に諦めなかった”…そういう人なんです、兄さんは」


 その所為で戦闘狂(バトルジャンキー)になっちゃいましたけどね?と、苦笑するユイ。

 全てを護る為に力を蓄え続けてきたユウキと戦闘を楽しむヒュウガ、全く異なる性質の二人が時折見せる絆の強さにはそういった事情があったのかとルビアは唸る。

 これがユウキが他者を露骨に見下す様な陰険な男ならヒュウガも無視を決め込んだだろう。
 だが、実際は違う事を初めての喧嘩で理解したヒュウガは執拗(しつこ)い位に食らい付いてきた。

 …まぁ、その所為で叡智等とは無縁である様な扱いを受ける事もあるが。
 彼はそういった面では寧ろ感情の機微を聡く見通す生まれ付いての長に相応しい男ではあった。


 だからこそ、ヒュウガという男からすればオルレアという女は“許せない”相手ではあるのだろう。

 味方を謀り、仕えるべき主を謀り、…自分自身の心すらも謀っている何かを隠し持つ彼女を、ヒュウガという男は戦いながら見定めようとしている。


「どうしたよ、最初の頃に比べて突きの速度も急所を狙う精密さも衰えてきたぜ?」
「ッ…貴方様を見くびっていたようです…此処からは魔法槍を使わせて貰います…!」


 親指以外の四本の指でちょいちょい、と恰も此方は未だ全力を出していないとばかりに挑発するヒュウガにオルレアの評価は完全に変わった。

 この男は全力を出すに値する男である、と。


「──そうかい、なら俺も“この状態の”半分くれェの本気を出してやるよ」


 この状態、即ち尾と翼はあるが人間に酷似した姿である。
 然も、今まで全力では無かったという彼女にとっては侮辱以外の何ものでもないおまけ付きで。


「減らず口を…!人魚之三叉槍(セイレーン トゥエリナ)ッ!」

 怒りに任せ全力であるAランク相当の右回転の水流と左回転の水流を高圧縮し一気に刺し貫く水の槍を構えるオルレア。

 高圧縮した水流は鉄すら斬り裂く万能の刃となるのは現代でも知る者は知っているが、それも極めれば天災に近い人災を招きながら相応の切断力を与えるという事だ。

 これこそが、彼女が神槍(しんそう)と呼ばれる所以。
 水中に生まれ水中に死ぬ人魚族にとって水流…基(もとい)海流を自由自在に操るという事は場を支配するにも等しい御業だからである。


 ───が、裏ボスを親友に持つ者(ヒュウガ)にとっては、それがどうした?とばかりに不敵に笑いながら風と電撃を拳に纏い始める。


「…温いぜ、俺の親友(マブダチ)の方が数百倍強えェよ」
「なッ!?」

 一瞬、されど途方も無い魔力を引き出し小さな村程度であればそのまま洗い流す水流の動きを支配すると穂先を掴み槍に電流を流しオルレア自身の手から槍を手放させる。

 その有り得ない自体にオルレアの口からは驚愕の声が漏れるがヒュウガは槍を掴んだまま勢いを無くした水を被り青い髪を濡らすとオルレアの前に拳を突き出す。

「…なんだよお前、やり方間違えてんじゃねーよ。」
「っ…なに、を…」

 何を言っている、そう言おうとしても言葉が続かない。

「……ま、良いや。俺達未だ此処に居るつもりだし“一応”お前の本気は見させて貰ったからよ。…お前が何かすんなら俺が止めてやるよ、今度は全力でな?」
「…貴方は…バカですね、底抜けの…」

 恐らく、ヒュウガにはオルレアの真意が何となく見えたのだろう。
 その上で、お前は俺が止めると言っている事に遠方で事の成り行きを見守っているライ達には聞こえない声量で会話を続けるヒュウガはにっ!と真っ白な歯を見せ笑う。


「おう!だって俺がバカしても親友(マブダチ)達がフォローしてくれっからな!」


 ヒュウガの何処までも前向きなバカさ加減にオルレアは一瞬呆気に取られるも直ぐに口許に“自然な笑みを浮かべる”


「…参りました、降参です」


 その日、アトランティスでは新たな歌のタネが生まれたがそれは未だ少し先の話である。

----------------

 場所は変わりユウキ達一行はマリーの部屋で呪印の精査をしていた。


「…矢張りこの呪印はユウキの予想通りのもののようね…」
「…誰が相手かは解りそうですか…?」


 嫁入り前の、然も皇女という事もあり精査はシオンが引き継ぐ。
無論、後で見れる様に簡易的なカルテを作成しながらではあるが。


「……ダメね、私では解らないわ…ただ、各種族毎に魔力の質があるように呪印みたいに物理的に形の残るものは比較的どの種族が施したかが解るの…人魚族では無いわ、多分天族…或いは神…ね…」
「そんな…それでは本当に…」

 本当に、ポセイドン様なのか?…と、リリアの表情は深い悲しみで彩られていた。



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