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入学式のスーツ
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今日は、三月最後の土曜日。お天気。あったかい。
少しずつ、先生のマンションに私の物を運んで。本棚も、置かせてもらった。リビングの作り付けの本棚の、隣に。
生活費は月に三万円、ママから先生に渡すことになった。絶対、絶対、少なすぎるけど。その分、お家のこと、お願いするわねって。がんばります。いっぱい、やります。ほんと……ありがたい。
「入学式のスーツ、あるの?」
朝ご飯を食べながら、先生が聞く。先生は平日、朝ご飯をほとんど食べない。ホットミルクとか、白湯だけとか。今朝は私、ホットケーキを焼いちゃった。粉と牛乳がいいからか、二人でくっ付いて食べるからか、うちで食べてたやつより、美味しく感じる。
「スーツ……スーツなの? 入学式って」
行ってから、そりゃ、セーラー服ではないよな……と気付く。気付いた時には、先生、呆れ顔。
「可愛い可愛いセーラー服で行きたいのは、分かるけど。スーツよ」
「ち……ちがうもん。かわいく、ないもん。間違えちゃったの。制服はもう、着ないから。捨てるし」
先生は、私の鼻をつまむ。
「ま。捨てては、ダメよ。まだまだ、似合うんだから。着て。家で」
「ふぁ。家で、着ないよ。制服って、ラクじゃないもん」
「ばかね。えっちな時に、着るのよ」
あ、そういうこと……。先生ほんと、えっちだなあ。今度、セーラー服、着せちゃお。
そういうわけで、デパートに来た。二人で市内にお出掛け、初めてかもしれない。周りをちょっぴり、きょろきょろする。知ってる人、いるかも……。
「夕陽はデパートにお買い物、久し振りかしら。仲良くなってからは、休みの日はいつも、うちに遊びに来てくれてたものね」
「そもそも、ほとんど来ない。北海道物産展の時だけ、ママがたまーに連れて来てくれた」
「北海道?」
「お菓子、いっぱい買うの。物産展でしか買えない、北海道のチョコとかクッキーとか。旅行ごっこなの」
「それは……素敵なアイデアね。私も今度、真似させて貰うわ。色んなところへ旅行できるわね、ふふ」
私の顔を見て、指をぎゅっと繋いでくれる。私も指先でぎゅっ、を返す。
えへへ。ありがと。中学生の頃、ちょっとだけ入っていた同じ部活の子に旅行ごっこの話をしたら、次の日から、陰で貧乏って言われてた。先生、大好き。ほんとうに、やさしいね。
まずは、婦人服売り場へ。デパートの洋服のフロアって、通り過ぎるだけで、見たことない。春のきれいな色のセーター、値札を見ると、いつものお店のぴったり十倍だった。
先生に見てもらって、まず、黒のスーツを試着する。
「えへ……。どう? 大人っぽい?」
先生は、指を顎に当てて、考える。に、似合わない? かな?
「悪くないけど、こっちも着てみましょう」
紺色のスーツ。紺? いいのかな、黒じゃなくても。
「中、一緒に入っても?」
先生、店員さんに確認する。店員さんはきっと、姉妹とかだと思ってる。どうぞ、と言われる。
「一人で、着られるよ」
「知ってるわ」
ちょっと広めの、試着室。先生は当たり前のように、キスしてくる。ほっぺたに手をやって、大人の、舌を入れるキス。んっ、て、喉が鳴ってしまう。
「紺の方が、似合うわよ」
すぐに唇を離して、先生は言う。
「わ……わかんない。どっちでもいい」
めちゃめちゃ恥ずかしくて、俯いて小さく応える。 先生、頭おかしい。
「織江、スーツ着た夕陽と、したいな……」
先生は、私の耳に唇をくっ付けて、もっと小さい声で言う。ばか。先生、えっち……。
「し、しわになっちゃうから、入学式の、後ね……」
耳の入り口、ちょっとだけ舐められてしまう。私はもじもじして、太もも、擦り合わせる。
「あら。アイロン掛け、得意だって……知ってるわよ」
少しずつ、先生のマンションに私の物を運んで。本棚も、置かせてもらった。リビングの作り付けの本棚の、隣に。
生活費は月に三万円、ママから先生に渡すことになった。絶対、絶対、少なすぎるけど。その分、お家のこと、お願いするわねって。がんばります。いっぱい、やります。ほんと……ありがたい。
「入学式のスーツ、あるの?」
朝ご飯を食べながら、先生が聞く。先生は平日、朝ご飯をほとんど食べない。ホットミルクとか、白湯だけとか。今朝は私、ホットケーキを焼いちゃった。粉と牛乳がいいからか、二人でくっ付いて食べるからか、うちで食べてたやつより、美味しく感じる。
「スーツ……スーツなの? 入学式って」
行ってから、そりゃ、セーラー服ではないよな……と気付く。気付いた時には、先生、呆れ顔。
「可愛い可愛いセーラー服で行きたいのは、分かるけど。スーツよ」
「ち……ちがうもん。かわいく、ないもん。間違えちゃったの。制服はもう、着ないから。捨てるし」
先生は、私の鼻をつまむ。
「ま。捨てては、ダメよ。まだまだ、似合うんだから。着て。家で」
「ふぁ。家で、着ないよ。制服って、ラクじゃないもん」
「ばかね。えっちな時に、着るのよ」
あ、そういうこと……。先生ほんと、えっちだなあ。今度、セーラー服、着せちゃお。
そういうわけで、デパートに来た。二人で市内にお出掛け、初めてかもしれない。周りをちょっぴり、きょろきょろする。知ってる人、いるかも……。
「夕陽はデパートにお買い物、久し振りかしら。仲良くなってからは、休みの日はいつも、うちに遊びに来てくれてたものね」
「そもそも、ほとんど来ない。北海道物産展の時だけ、ママがたまーに連れて来てくれた」
「北海道?」
「お菓子、いっぱい買うの。物産展でしか買えない、北海道のチョコとかクッキーとか。旅行ごっこなの」
「それは……素敵なアイデアね。私も今度、真似させて貰うわ。色んなところへ旅行できるわね、ふふ」
私の顔を見て、指をぎゅっと繋いでくれる。私も指先でぎゅっ、を返す。
えへへ。ありがと。中学生の頃、ちょっとだけ入っていた同じ部活の子に旅行ごっこの話をしたら、次の日から、陰で貧乏って言われてた。先生、大好き。ほんとうに、やさしいね。
まずは、婦人服売り場へ。デパートの洋服のフロアって、通り過ぎるだけで、見たことない。春のきれいな色のセーター、値札を見ると、いつものお店のぴったり十倍だった。
先生に見てもらって、まず、黒のスーツを試着する。
「えへ……。どう? 大人っぽい?」
先生は、指を顎に当てて、考える。に、似合わない? かな?
「悪くないけど、こっちも着てみましょう」
紺色のスーツ。紺? いいのかな、黒じゃなくても。
「中、一緒に入っても?」
先生、店員さんに確認する。店員さんはきっと、姉妹とかだと思ってる。どうぞ、と言われる。
「一人で、着られるよ」
「知ってるわ」
ちょっと広めの、試着室。先生は当たり前のように、キスしてくる。ほっぺたに手をやって、大人の、舌を入れるキス。んっ、て、喉が鳴ってしまう。
「紺の方が、似合うわよ」
すぐに唇を離して、先生は言う。
「わ……わかんない。どっちでもいい」
めちゃめちゃ恥ずかしくて、俯いて小さく応える。 先生、頭おかしい。
「織江、スーツ着た夕陽と、したいな……」
先生は、私の耳に唇をくっ付けて、もっと小さい声で言う。ばか。先生、えっち……。
「し、しわになっちゃうから、入学式の、後ね……」
耳の入り口、ちょっとだけ舐められてしまう。私はもじもじして、太もも、擦り合わせる。
「あら。アイロン掛け、得意だって……知ってるわよ」
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