親友は、曰く悪役令嬢らしい

オウラ

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第8夫人っていい響きだよね

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 ヴァレリナ・モーントは、大陸1の美女である。艶やかなプラチナブロンドの髪、滑らかなきめ細かい肌、アメジストのような綺麗な瞳、薔薇のような美しい唇。一つ一つでも美しいパーツなのに、絶妙なバランスで整えられたその容姿は、女の私でも、思わずため息を漏らしてしまうほど。加えて、彼女のその豊満なプロモーションと言ったら、どんな男も魅了すると言っても過言では無いだろう。いつぞやに、父上の書斎にこっこりと隠してあった……………………………いや、これは父上の名誉のために思い出すのは控えておこう。
 ともあれ、ヴァレリナは、その美しさから大陸1の美女と称されている。

 いや、彼女が美女と称されてているのは、何も外面だけが美しいからではないか。彼女は内面もまた美しいのだ。昔の様子からは考えられなかったが、頭を打ってから、彼女は慈善活動に力を入れるようになった。自らスラム街へと足を運び、飢え苦しむ人々に、手を差し伸べるその姿は、誰もが心を打たれたことであろう。まぁ、中にはそんなのは偽善、一時凌ぎの行為でしか無いと彼女の行動を罵るものも居るが、それでも彼女のその行動は、偽善だと馬鹿にして何もしない奴らなんかよりもずっととても素晴らしい事だと思う。それに、ヴァレリナの行動が何も役になっていないわけじゃないのだ。ヴァレリナが、実際に発案した案件は、彼女の父親を通し、この国に大きな貢献をもたらした。
 果たしてどこから得た知識なのか、いまだに疑問なのだけれど、スラム街における衛生改革はこの国の最下層の死亡率を大きく引き下げる結果へと繋がった。
 それ以外にも、彼女はなにやら面白い発想の元様々なものを考案している。

 ある日、共にお茶を飲んでいれば
「っく!お茶受けが、クッキーだけって、別にいいけど、なんか物足りない!!お菓子がもっと食べたい!!」
 とか言いプリンやら、マカロンやら、ポテトチップスなるものなどさまざまなお菓子を作り出していたし(特にポテトチップスは、今までに無いような食感と癖になる味わい。まさか、じゃがいもと塩であんな美味しいものができると思わなかった)

 新しいお菓子を発案しきったか?と思う頃には
「日本人ならやっぱり緑茶よ!!!」
 とか、訳のわからないことを言い出して、摘んだばかりの発酵もしていないお茶の葉を手に入れて、緑茶なるものを作っていたし(いつも飲んでるお茶とは、また違う味だがなかなかうまかった。また新芽と同じ色愛のお茶というのもなかなか趣深い)

 緑茶を作り出した頃には
「やっぱり和菓子よね!!和菓子!!」
 と言って、他国からさまざまな材料を取り寄せ饅頭、羊羹、最中、金平糖などなど、一風変わったお菓子を作っていた(これがまた緑茶にあって美味しいんだよなぁ)
 そして、そんな彼女の発案したお菓子やお茶は、近年のお茶会を大いに発展させ貴族たちの楽しみの一つにもなっている。
 あぁ。最近だと
「っく。洋食は色々あるのに、和食がないのが辛い。日本人なら、こめよ!醤油よ!味噌よ!!」
 とか言い出して、なにやら作り始めているようだ。果たして何ができるのか、個人的に楽しみである。(今思えば、食べ物ばかりだから、今度のも食べ物なのだろうけど)


 まぁ、何はともあれ、そんな風に外面の美しさだけではいのが、ヴァレリナ・モーントと言う人間だ。故に彼女に恋慕を抱くものは少なく………いや、むしろ多い、多すぎるくらいだろう。
 気がつけば

「なんか手紙をもらったわ。不幸の手紙!?」

 と恋文を貰っているし。気がつけば

「プレゼントを貰ったわ。はっ!まさか、罠!?私を陥れるための罠!?」

 と多くの贈り物を貰っている。

 彼の父親、モーント侯爵の話を聞くに年々、そういう話も増えているようで………まぁ、その色々と大変らしい。

 彼女へ恋慕を抱く人間は多い。お兄様を含めても、その数は五万といるだろう(いや、五万は言い過ぎか)だが、しかし、実際に彼女の婚約者や恋人とはもとい、彼女に対して本気で告白をするものが、彼女を思う人数に対して少ないというのもまた事実である。 
 というのも、実はヴァレリナ、この国の第一王子のの1人であるからだ。
 現在この国の第一王子、レギュルス殿下には数人の婚約者候補が存在する。といっても、しょせんは婚約者候補。その名の通りもしかしたら婚約者になるかもしれないといった、制約も拘束もないものである。だが、この婚約者候補と言うものはいささかこれは厄介なのだ。
 レギュルス殿下の婚約者候補に選ばれた数人の令嬢たちは全員が全員、幼い頃から厳しい王妃教育を勝ち抜いてきた名門名家の令嬢たち。誰が王妃になっても恥ずかしくないように育てられ、そして成長してきた。そして、彼女達は正式な婚約者が現れるまで、誰かが正式な婚約者になるまで、暫定婚約者候補。婚約者ではないしても、婚約者候補のものが他に婚約者を作るのは…………と言うのが、どことなく貴族間で広まっている暗黙のルール。まぁ、別に、実際に婚約者ではなくて、あくまでも候補なのだから、そこまでの強制力もないし、さっさと手を出してしまっても問題はないといえば、ないと思うんだけど。実際に、お兄様や他数名は本気でヴァレリナを口説いていた。あんな一世一代の告白、なかなか見られないぞと思うレベルで口説いていた。が、残念。流石はヴィレリナ、その残念過ぎる性格と勘違いのせいで、まったく相手にされなかったのもいい記憶。あぁ、お労しや、お兄様(と他数名)見ていてこっちが悲しくなったよ。


 あぁ、そうそう。それと、因みにの話だが、私も一応、その婚約者候補の中の1人だったりする。ヴァレリナがその昔
「っく、レギュルス様の婚約者にだけはなりたくない!!そうだ、わざと、ダメダメなふりをしよう」
 という、今までの彼女からは考えられないようなセリフが出たため、わざとヴァレリナのフォローをしたり、彼女の手柄を上手いこと作り上げたりとして、ヴァレリナと共に頑張ってきたら、ついでに私まで婚約者候補として名が挙がっていた。余計なことはするべきじゃないと学んだよ。まぁ、でも、その分ヴァレリナの面白可笑しい姿がたくさん見ることができたから良しとしよう。

 まぁ、でも、レギュルス殿下ももういい歳だ。きっとこのままいけば、そろそろ正式な婚約者が発表されるはず。私の読みでは、ヴァレリナが最有力候補。家柄、容姿、実績とどの点においても合格点間違いなし。性格は多少残念だが、彼女こそが現時点で、最も王妃の座につくものとしてふさわしいだろう(本人は認めてないだらうが)
 そうだな、レギュルス様のことは嫌いではないし、ヴァレリナが王妃になるなら第8夫人くらいにしてくれないかなぁ。後宮の片隅で、ヴァレリナとお茶をして余生を過ごしたい。お兄様には悪いが、個人的には、義姉が親友になるのは勘弁してほしいんだよな。なんだか、不思議な心境になってしまうから。






「………待ってくれ、今の話だと俺は少なくとも君以外に7人は妻を娶らなくてはならないのか?」
「そうですね。お望みなら、もっと娶ってもいいと思いますよ。」
「………いや、遠慮しておこう」

 そう言って、何故か目の前のレギュルス殿下は、げんなりとした様子でため息をついた。

 さて、現在は日曜日の午後。我が、フォーゲル家自慢の庭園にて私とレギュルス殿下は楽しくお茶を飲んでいた。いや、少し言い方に語弊があった。私は楽しいがレギュルス殿下は楽しくないかもしれないお茶会をしていた。
 というのも、この二人きりのお茶会は、何も私達が懇意の関係で行っているものではなく、レギュルス殿下が、国王陛下から言い授かった命令の一環。婚約者候補たちと親睦を深めるためのお茶会であるからだ。
 自分で決めたことならいざ知らず、決められた予定。義務としての茶会など楽しくないだろう。さっさと終わらせてしまうのが彼のためなのだろうが、私とて臣下の一人。流石に国王の命令には逆らえない。故に、楽しいお茶会を演じようとはしているのだが、これまた難しいことである。現に、目の前にはため息を吐くレギュルス殿下。さてはて、どうしたものか。

「マリーナ。俺はね、愛する人だけを妻にしたいんだよ」
「知ってますよ。殿下は昔からそうおっしゃっていましたから」
「うん、うんそうだろ?だから、妻も一人でいいんだ。そんなにいらない」
「しかし、殿下。愛する人が沢山いたら、その分奥方も増えますよ」
「え?」
「はい?」
「うん?」

 お前は何を言っているんだという目で見てくるレギュルス殿下。いやいや、私は何も可笑しなことは言っていない。

「ですから、殿下。生涯愛する人が一人とは、限らないじゃないですか」

 人間というのは生物だ。生物は子孫を残す。自分の子孫をできるだけ多く残そうとする。特に男性の場合は、多くの女性と関係を持ったほうが効率的に子孫を残すことができる生き物だ。生涯一人だけなんて言うそんな生き方は、非効率的だろう。

「ですから、ね?」
「ね?じゃない。確かに君の言うことも一理あるかもしれないが、人間には理性というものも存在するし、愛情という感情もあるんだ。」
「でも、殿下。人生何があるかわかりませんよ。実際に妻以外に好きな人ができて手を出した、逆に夫以外の男との子供を……なんて話、探せば馬鹿みたいに出てきますし。」
「っく、確かに、そういう話は聞くが……」
「そうでしょ?はっきり言って公認として認めちゃったほうが後々楽なこともありますよ。はっきり言って、どこぞの誰に手を出したのかも分からなくなると、跡取り争いが大変なんですよね。現に、うちだって数年前、父上と母上が結構な修羅場を迎えてましたし。いや、うちに限らず、名のある貴族ではそんな話結構あるんですよね。あぁ、殿下の兄上と思わしき子供を産んだ女性が現れた時は大変だったな。陛下の顔も真っ青で……」
「待ってくれ、今俺の知らない父上の情報がさらっと出てきたんだが」

 あぁ、そういえばそれは国家機密レベルの情報だったな。うっかりしていた。

「まぁ、気にしないでください。陛下も若いころはやんちゃだったという話です。」
「気にしないといわれてもだな………明日から、どんな顔をして父上に会えばいいんだ」

 眉間にしわを寄せ、再びため息をつく殿下。せっかくのイケメンなお顔が勿体無いですよ。

「……それにしても、相変わらず、君は権力者の弱みを握っているようだ」

 そんな人聞きの悪いことを言わないでほしい。私だって好きでそういうことを知ったわけではないのだ。たまたま、情報が入ってくるだけ。というか皆の秘密の隠し方が少し甘いだけなのだ。

「兎にも角にも、そういう人も多いわけですから。殿下も愛人を作るなら公認として囲ってしまったほうがいいですよ」
「いや、だから俺は妻は一人でいいと言っている。それにだ。そう言う話が多いというわけで、妻一筋の人間がいないわけでもないだろ?」
「まぁ、そうですね」

 実際のところ、うちの場合も勘違いで。父上は母上一筋だったわけだし。そういう人もいることには間違いがないだろう

「だったら、俺の言うことを信じてみないか?俺は、愛する人一人しか妻はいらないって」

 じっと私を見つめる真剣な視線は、その意志の強さを物語っている。
 まぁ、殿下がそういうのならそうかもしれない。頑なだし、きっと彼は一途なのだろう。

「そうですね。殿下が言うならそうなんでしょう。それに、私個人としては、殿下がその意思は、とても素敵だと思うし、嬉しいですよ。自分だけを愛してくれる旦那ってすごく憧れます。」
「あぁ、そう思てくれると嬉しいよ。」
「だから、私も殿下の意思を尊重しますね。仮にヴァレリナと殿下が結婚しても、私も第七夫人は諦めます。大人しく他国の王族に第8婦人として嫁ぎますね」
「そういうことじゃない!!」
「え?」
「はい?」
「うん?」

 何故か再びため息をつく殿下。うん、あれ?私何か可笑しなことを言ったか。
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