親友は、曰く悪役令嬢らしい

オウラ

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閑話:ヴァレリナさんのお話

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 さてさて、どこから話しましょうか。えぇ、まずそう、私の話をしよう。なんと言うかここだけの話、私、ヴァレリナ・モーントには、前世の記憶がある。かつて私は、こことは違う、別の世界の少女だった。慎ましやかな生活を送り、どこにでもいそうな平凡な少女、それが前世の私。しかし、不幸なことに、彼女はもとい、前世の私は若くして命を落としてしまった。 あぁ、今思い出しても、あれは、不幸な事故だったと思う。まさか、工事現場の骨組みである鉄骨が落ちてきた……ことに驚いた衝撃で、動物園の飼育員さんがうっかり檻に鍵をかけ忘れ、そこから逃げ出した猛獣……とは少し言いがたいけれど、逃げ出した凶暴な猿に襲われ……そうになった拍子に八百屋のおじさんが、捨てようと思っていた生ゴミが散乱して、その中にあったバナナの皮に足を滑らせ頭を打って死ぬなんて……果たして誰が想像しようか!!なんて悲しすぎる死にざま。こんな風に死にたくないよね(笑)ランキングにも絶対入る死に方、そんな死に方で私は死んだ。そして新たにこの世界で生を受けた。といっても、生まれた時から、前世の記憶があったわけではない。
 記憶を思い出したのは、今から10年前。王宮主催のお茶会に呼ばれた時のこと。(経緯は恥ずかしいので省かせて貰うが)その日、私は思い切り頭を打った。そしてその衝撃で、前世の自分の事、家族のこと、友人のこと……そして、とある乙女ゲームのことを思い出したのだ。

 私が前世ハマっていた乙女ゲーム「愛しているのは君だけ」通称あいきみは、一時期とても話題となったゲームである。ストーリーは勿論、システムやスチルも大変評価が高く、人気故に続編やファンディスクは勿論のこと漫画化、ノベル化、アニメ化とさまざまな媒体によって世に出された。乙女ゲームファンなら名を知らぬものはいない有名作。かく言う私も、このゲームにはまった1人で、何度も何度も、繰り返し遊んでいた。
 はて、なんでここで乙女ゲームのことなど思い出すのか。今、君はそう思っただろう。あぁ、私も当初思ったよ。確かに、大好きな乙女ゲームだったけれど、もっと思い出すべき事があるだろうと。他に大事なこと沢山あるだろって
 でもさ、そう思った次の瞬間、何故この記憶が蘇ったのかわかってしまったんだよね。
 生まれた国の名前、聞き覚えのある単語、そして何より自分の名前が、この乙女ゲームに出てくる名前そのもの。そして、直感的にだが、この世界が乙女ゲームの世界であると、自分が乙女ゲームのヒロインを虐める悪役そのものであると解ってしまった。

 絶望した。だって、このゲームの悪役令嬢。最後には断罪され、家は没落、辺境地に追放となるのだ。しかも、金がない辺境地での暮らしは辛く、最後には流行病にかかって死ぬと言う結末。
 嫌だ、嫌だ。そんな目にあいたくない。せっかく生き返ったのに、そんな絶望的な死に方したくないと心の底から思ったよ。でもさ、思うだけでは、人生は変えられない。
 だから私は、ゲーム通りの人生は歩みたくない。自分の人生を、自分の未来を自分の手で切り開いてやる!!と決意して、この10年間、様々な努力をしながら生きてきた。

 ぶっちゃけ、攻略候補とも関わりたくなかったので、なるべく避けようとしたし、殿下の婚約者候補とか言う役割も、私の未来の弊害となりそうだったから、わざと失敗して、外されようとした。だけど何故か、どっちも上手くいかなかったんだよね。攻略候補達は、今ではすっかり言い友達、ついでに言うと、物語通り未だに婚約者候補という展開。果たして、私の人生がどうなるか全く解らないけれど、それでもやれるだけのことはやって来たはずだ!!


 来週は、新学期。まさに今、その物語が始まろうとしている。だけど、私は、自分の未来を掴んでみせるわ!!

「でも、やっぱり無理かも!!悪役令嬢として追放されるかもしれないわ!!どうしましょう」
「そうだね、大変だね」

 そう言って、私の話に耳を傾けてくれるのは、マリーナ。彼女は、私が記憶を取り戻した頃からの友人で、とても頼りになる大切な親友。しかも私が、転生者だと知っていて(*知っていません)、悪役令嬢となる私の話を聞いてくれる(*聞いていません)唯一の人間でもある(*誤解が生まれています)
 幼い頃から、彼女に乙女ゲームのことやら悪役令嬢のことを話したので、私の、今の現状をちゃんと理解して(*されていません)いてくれているのはありがたい。相談相手がいる環境って素晴らしい。持つべきものは、やっぱり友人。

 だが、しかし、そんなとっても頼りになる彼女だが、実はゲームでの役割はヒロインのサポートキャラ、というか黒幕的ポジション。つまり私にとっては、友人とはほど遠い、敵キャラとも言える存在だったのだ。
 幼い頃の些細な出来事がきっかけで、悪役令嬢の取り巻きの立場にいたマリーヌは、心の底から私に対して嫌気感を指していた。そして、いつか悪役令嬢を奈落の底の底。絶望へと誘おうと考えていた彼女は、攻略候補達と仲良くなっていくヒロインに着目する。そして、ヒロインを利用して、私を学園、いや貴族という社会その物から追い出す計画を立てると言う中々のくせ者。でも、流石は、サポートキャラ。彼女のおかげでヒロインは、ヒーローとの恋を成熟させたし、見事私は、断罪された。特に、賛否両論一癖あることで有名なレギュラス殿下のルートでの活躍はヤバかった。手に汗握る展開と、最後にはとんでもない結末。思わず、マリーヌ様マジやばたんと呟いたほど、彼女の活躍っぷりはすごかった。。
 発売後に行われた、人気投票では攻略候補並の人気で、百合ルート求むなんて声もあったくらい。公式もその声に応えてか、ファンディスクには友情ルートが追加されていた。
 まぁ、悪役令嬢に対しては、どこまでも冷酷だったけれど。悲しい

 でも、彼女が敵だったのはゲームでの話。今は、ゲームと違って友達だし?むしろ親友だし?そんなことにはならないと信じている。信じているよ!!と期待を向けた視線を送れば

「お腹すいたの?食べる?」

 とクッキーを差し出される。いや、違うそうじゃない!!食べるけど。そこのメーカーのクッキー美味しいから、食べるけど!!そうじゃない。

「そうじゃなくて、マリーヌ、聞きたいことがあるの。ねぇ、私たち物語が始まっても、友達よね」
「あぁ、うん。友達、友達」

 どことなく、生返事だけれど、マリーヌは嘘を言わないから、信じても良いだろう。生返事だけど。え、信じても良いんだよね?これ、信じて言いも良いの? 
 あ、友達止めるね。裏切るねって展開にならないよね!?

 思わず最悪の展開を考えてしまう。うわぁ、何だろ、追放された先で待っている生活よりも、マリーヌに裏切られる方が、ずっと心に来る。ヤバい、そんなことが起きたら精神病む。
 考えれば、考えるほど辛い。物語通りに、進むとしたら私、マリーヌに嫌われるのかな?嫌だな。そう思って、うつむけば、視界がじわりと滲む。


「なに考えているか知らないけれど、ヴァレリナ。ヴァレリナはずっと友達だよ。」

 さっきの生返事とは違う。優しい声色が、耳に届く。顔を上げれば、馬鹿だなぁ、とでも言いたげな。それでも、優しい表情でこっちを見てくるマリーヌ。
 前言撤回、全面的に信じます。貴方に一生ついていきます。少しでも疑った私を許して!!!
 そうだよね、私たち友達だもんね、親友だもんね。ずっ友だもんね!!
 ゲームでは、悪役令嬢でマリーヌとは敵同士だったけれど、でもこうして友達になれて私はすごく嬉しいよ。これからも、ずっと一友達でいてね!!
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