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悪女になりました
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「アルフレッド様、本日もとても素敵ですわ。うふふふふ」
反吐がでるような甘ったるい声でそう言えば、目の前の男は困った顔をしながら私ではない少女の顔色を伺う。彼に見えないよう、その少女にニコリとなんとも腹立たしい顔を向ければ、彼女は何か言いたげな顔になるが、すぐに冷静を装った。
2人は互いを思いあう、なんとも慎ましい間柄。そして私はと言うとこの2人の恋を邪魔するお邪魔虫、咬ませ犬なのであります。そう、物語で言うところの悪役でございます。
何故、私がこのような、2人の仲を引き裂くような事をしているか。それはアルフレッド様が心の底より好きだから、彼を私のものにしたいから。などと言うありもしない理由ではなく、まぁ、ひとえに頼まれたからでございましょうか。
そう事の発端、それはかれこれ今から1週間前にまでさかのぼる事となります。
~一週間前~
「どうかこの通り頼む!!あいつらの為に悪女になってくれ!!」
頭を床に擦り付け、そう懇願するのは私の婚約者であるルドルフ様。いきなり家に来て急にそんな事をされても全くもって話が読めません。ですが、この眺めは最高とだけ言っておきましょう。あぁ、ルドルフ様のその情けない姿、そそりますわ。でも、さすがに、いつまでもそのような事をさせているわけにはいきません。
「ルドルフ様、顔を上げてください。話が読めません、説明を要求しますわ」
「あぁ、そうだな実は……」
そう言って、ルドルフ様は大雑把ながらにも、何故私にそんな頼み事をしたのか説明し始めました。ですがえぇ、流石はルドルフ様。所々主語が無い、話が飛ぶ、と見事だと言っても可笑しくないほどの下手な説明。それこそ説明を求めた私が馬鹿でしたと途中から思い始めた程。それでもまぁ、頑張って説明を続けたと言うその努力は認めることにいたします。そんなおバカなルドルフ様も素敵ですわ。
何とかして、彼の話を簡潔にまとめるならば、私に恋のキューピットの役割を果たして欲しい。その一言。
なんでもルドルフ様の友人であるアルフレッド様には思い人が居るらしく、その思い人もまたアルフレッド様を恋い慕っている。本来ならそれで、ハッピーエンド、キューピットなどはいらないとなるものですが、どうやらそう簡単に話が進まないようです。ルドルフ様によるとこの2人、鈍感すぎて互いが互いを思い合ってある事に気づいていないらしく、みているこちらが、焦れったいのだとか。
さりげなく、それとなく伝えても冗談だと受け取られるばかり。彼らの周りももう見ていられない程に、本人達は鈍感らしいのでございます。だから、私にその協力を欲しいと、二人をどうか結び付けてくれとのこと。
それは良いのですが……婚約者である私に頼みますかそれ。と思いました。が口には出さないでおきましたよ、えぇ。
「まぁ、大体はわかりました。ですが、何故私が悪女の振りを?」
「それはまぁ、お前がアルフレッドにべったりと付きまとえばきっとライアも今のままでは駄目だと気づくと思ってな」
嬉しそうにそう話すルドルフ様。きっとその弱い頭をフル回転させて考え出した作戦なのですね。素晴らしいです。ですが、残念な事に基本その手の、始めから彼にアプローチをしない女性は、そんな事があれば、その恋を諦めるのがオチ………なんてこともあり得るのですが。せっかくルドルフ様が、たいしてない頭をフル回転させて考え出した方法なので、ここはおとなしく聞く事にしましょう。落ち込む姿も好きですが、やはり笑顔が一番なので………最高潮から最悪までに落とされた顔が大好きなので、黙っておきましょう。
「たしか、一昔前に流行った小説もそうだっただろ?ライバルや障害がある方が恋は燃え上りやすい。だから俺たちの手で彼奴らの恋を燃えさせやろうぜ!」
……ルドルフ様、その顔で恋愛小説を読むのですね。別に好みをとやかく言うつもりはないですけれど、読むのですね。なんと言うか、とても可愛らしいですわ。……今度、ルドルフ様のご友人にお教えしておきましょうか。あぁ、楽しみですわ、恥ずかしがるルドルフ様のお姿。
「ですがルドルフ様。その手の小説は大抵主人公のどちらかが死んでますよ?」
「…………そ、それは小説の中ではだろ!?」
その小説を参考にしようとしたのはどこの誰ですか。貴方ですよね?
「それに大丈夫だろう、彼奴らはそんな事で死ぬような奴じゃないし。そんな事にならないように俺が頑張るから」
個人的会見ですが、貴方が一番心配なのですよ、ルドルフ様。そうやって物事に足を突っ込んで何度痛い目を見たことか。毎回助ける身にもなってください。
「悪いとは思ってる。でもお前しか頼れる奴が居ないんだ。」
捨てられた子犬の顔をしながらそう頼むルドルフ様。………まったく頷くしかないじゃないですか、そんな顔をされたら。
「まぁ、わかりました。ルドルフ様、協力いたしますわ、その計画とやらに」
「本当か!?ありがとう、やっぱ困った時に頼れるのはお前だな」
ぎゅっと私を抱きしめるルドルフ様。
少し苦しいですが、悪い気はしません。あぁ、それにしてもこれで何回ルドルフ様に騙されてきたことか。別にその顔が見られるのなら構わないのですけど。
今回は彼らの気持ちが通じ合うようさっさと細工して両思いにさせて仕舞えばいいだけの話。相手を惚れさせろという無理難題よりもずっと簡単なお仕事。なるようになるでしょう。心配なのはルドルフ様が変に暴走しないかだけ、まぁ変な方向に突き進もうとしたら私が止めればいいだけの話ですが
「俺と一緒に頑張ろうな!」
二カリッと笑うルドルフ様はそれはそれは可愛らしくて、子犬のようでした。
「お願いします。ルドルフ様」
こうして、私の悪女たる日が始まったのでございます。
そして、今日も私は、鈍い2人をくっつける為に悪女を演じます。
困り果てる男に、泣きそうになる女に、自分で頼んでおいて嫉妬する婚約者に囲まれながら………
反吐がでるような甘ったるい声でそう言えば、目の前の男は困った顔をしながら私ではない少女の顔色を伺う。彼に見えないよう、その少女にニコリとなんとも腹立たしい顔を向ければ、彼女は何か言いたげな顔になるが、すぐに冷静を装った。
2人は互いを思いあう、なんとも慎ましい間柄。そして私はと言うとこの2人の恋を邪魔するお邪魔虫、咬ませ犬なのであります。そう、物語で言うところの悪役でございます。
何故、私がこのような、2人の仲を引き裂くような事をしているか。それはアルフレッド様が心の底より好きだから、彼を私のものにしたいから。などと言うありもしない理由ではなく、まぁ、ひとえに頼まれたからでございましょうか。
そう事の発端、それはかれこれ今から1週間前にまでさかのぼる事となります。
~一週間前~
「どうかこの通り頼む!!あいつらの為に悪女になってくれ!!」
頭を床に擦り付け、そう懇願するのは私の婚約者であるルドルフ様。いきなり家に来て急にそんな事をされても全くもって話が読めません。ですが、この眺めは最高とだけ言っておきましょう。あぁ、ルドルフ様のその情けない姿、そそりますわ。でも、さすがに、いつまでもそのような事をさせているわけにはいきません。
「ルドルフ様、顔を上げてください。話が読めません、説明を要求しますわ」
「あぁ、そうだな実は……」
そう言って、ルドルフ様は大雑把ながらにも、何故私にそんな頼み事をしたのか説明し始めました。ですがえぇ、流石はルドルフ様。所々主語が無い、話が飛ぶ、と見事だと言っても可笑しくないほどの下手な説明。それこそ説明を求めた私が馬鹿でしたと途中から思い始めた程。それでもまぁ、頑張って説明を続けたと言うその努力は認めることにいたします。そんなおバカなルドルフ様も素敵ですわ。
何とかして、彼の話を簡潔にまとめるならば、私に恋のキューピットの役割を果たして欲しい。その一言。
なんでもルドルフ様の友人であるアルフレッド様には思い人が居るらしく、その思い人もまたアルフレッド様を恋い慕っている。本来ならそれで、ハッピーエンド、キューピットなどはいらないとなるものですが、どうやらそう簡単に話が進まないようです。ルドルフ様によるとこの2人、鈍感すぎて互いが互いを思い合ってある事に気づいていないらしく、みているこちらが、焦れったいのだとか。
さりげなく、それとなく伝えても冗談だと受け取られるばかり。彼らの周りももう見ていられない程に、本人達は鈍感らしいのでございます。だから、私にその協力を欲しいと、二人をどうか結び付けてくれとのこと。
それは良いのですが……婚約者である私に頼みますかそれ。と思いました。が口には出さないでおきましたよ、えぇ。
「まぁ、大体はわかりました。ですが、何故私が悪女の振りを?」
「それはまぁ、お前がアルフレッドにべったりと付きまとえばきっとライアも今のままでは駄目だと気づくと思ってな」
嬉しそうにそう話すルドルフ様。きっとその弱い頭をフル回転させて考え出した作戦なのですね。素晴らしいです。ですが、残念な事に基本その手の、始めから彼にアプローチをしない女性は、そんな事があれば、その恋を諦めるのがオチ………なんてこともあり得るのですが。せっかくルドルフ様が、たいしてない頭をフル回転させて考え出した方法なので、ここはおとなしく聞く事にしましょう。落ち込む姿も好きですが、やはり笑顔が一番なので………最高潮から最悪までに落とされた顔が大好きなので、黙っておきましょう。
「たしか、一昔前に流行った小説もそうだっただろ?ライバルや障害がある方が恋は燃え上りやすい。だから俺たちの手で彼奴らの恋を燃えさせやろうぜ!」
……ルドルフ様、その顔で恋愛小説を読むのですね。別に好みをとやかく言うつもりはないですけれど、読むのですね。なんと言うか、とても可愛らしいですわ。……今度、ルドルフ様のご友人にお教えしておきましょうか。あぁ、楽しみですわ、恥ずかしがるルドルフ様のお姿。
「ですがルドルフ様。その手の小説は大抵主人公のどちらかが死んでますよ?」
「…………そ、それは小説の中ではだろ!?」
その小説を参考にしようとしたのはどこの誰ですか。貴方ですよね?
「それに大丈夫だろう、彼奴らはそんな事で死ぬような奴じゃないし。そんな事にならないように俺が頑張るから」
個人的会見ですが、貴方が一番心配なのですよ、ルドルフ様。そうやって物事に足を突っ込んで何度痛い目を見たことか。毎回助ける身にもなってください。
「悪いとは思ってる。でもお前しか頼れる奴が居ないんだ。」
捨てられた子犬の顔をしながらそう頼むルドルフ様。………まったく頷くしかないじゃないですか、そんな顔をされたら。
「まぁ、わかりました。ルドルフ様、協力いたしますわ、その計画とやらに」
「本当か!?ありがとう、やっぱ困った時に頼れるのはお前だな」
ぎゅっと私を抱きしめるルドルフ様。
少し苦しいですが、悪い気はしません。あぁ、それにしてもこれで何回ルドルフ様に騙されてきたことか。別にその顔が見られるのなら構わないのですけど。
今回は彼らの気持ちが通じ合うようさっさと細工して両思いにさせて仕舞えばいいだけの話。相手を惚れさせろという無理難題よりもずっと簡単なお仕事。なるようになるでしょう。心配なのはルドルフ様が変に暴走しないかだけ、まぁ変な方向に突き進もうとしたら私が止めればいいだけの話ですが
「俺と一緒に頑張ろうな!」
二カリッと笑うルドルフ様はそれはそれは可愛らしくて、子犬のようでした。
「お願いします。ルドルフ様」
こうして、私の悪女たる日が始まったのでございます。
そして、今日も私は、鈍い2人をくっつける為に悪女を演じます。
困り果てる男に、泣きそうになる女に、自分で頼んでおいて嫉妬する婚約者に囲まれながら………
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