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「すげぇ美人だよ……男だけど」
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起きたのは昼。
俺も慶も。
今週は、俺も慶もずっと連勤してて、夜はバラバラだし……ずっと家で飯を作って無かった。
俺は、休憩時間に健吾が作るまかないを食べてたし、慶はコンビニで何か買ったり、食って無かったり。
食わないのは慶の悪いクセで……家に何もないとか、わざわざ買いに寄らないといけないとかになると、すぐに食べるのを止めるという選択肢を取ってしまう。
何度も言ってるけど、中々直らない。
だから、あんな細いんだ、きっと。
そんなのもあってかどうか分からないけど、「侑利くんが作ったご飯が食べたい」とか言うもんだから、起きてすぐにスーパーへ買い出しに行った。
適当に食材を調達して帰宅。
少し遅い昼飯を作った。
慶のリクエストでパスタを。
いつもの如く「美味しい」「天才」と言いながら食べてくれた。
更に、放っておいたらまた晩飯を抜くかも知れないと思ったから、慶に甘い俺は晩飯まで先に作って来てやった。
嬉しそうな顔で喜んでたのが可愛くて襲いたくなったけど、時間的に無理があったので我慢した…。
今日と明日はリニューアルしてから初の週末だから、かなり忙しくなりそうだ…。
昨日までは、なんだかんだ、俺が帰宅するのを待っててくれてたけど……今日はそもそも店が2時までで、帰るのは3時くらいになるから、さすがに起きては会えないだろう。
そう思うと、なんだかすごく寂しい気分になってくる…。
明日まで、起きてる慶に会えないとか……辛いわ、けっこう…。
俺、割とヘタレだな…ってつくづく思う。
「侑利、ごめん、ちょっと厨房入れるー?」
カウンターに戻って来ると、厨房から健吾が顔を覗かせた。
今日はリニューアル記念企画で、時間毎に色んなメニューを無料サービスしてる。
赤字覚悟だけど、お客さんに喜んでもらうのと、新しいお客さんに気に入ってもらってリピーターをより増やすっていう意図もあって、桐ケ谷さんが自ら提案した企画。
平日の間、宣伝してた効果もあって、お客さんの数がもう大変な事になってる。
ご飯時のこの1時間は、唐揚げとポテトのセットを無料にしてるから、とにかく注文が引っ切り無しで厨房がすんげぇ忙しくなってる…。
他のメニューの注文も入るからな…。
「おっけ、行くわ」
桐ケ谷さんに了解を取って、新しいエプロンで厨房に入る。
「おーっ、侑利、来た来た」
「久我さん、助かりますっ」
「すみません、指名入ってないんですか?」
厨房スタッフが次々と声をかけてくれる。
健吾以外は途中から入って来た奴らだけど、みんなやっぱり良い奴で、年上も年下も居るけど料理の腕は全員尊敬に値する。
俺みたいな、ちょっとした趣味で料理するような奴とは違う。
だから、新メニューの味付けとかは全員遅くまで残って真剣にやってる。
「とにかく、唐揚げとポテトを揚げててくれ」
健吾にそう頼まれる。
「ははっ、了解」
とにかくそれを揚げてれば良いんだな。
唐揚げとポテトだったら油に放り込んだらしばらく放置で良いんだろうけど、揚げ時間が同じじゃないからそれぞれを見て無いといけないし、とにかく次々注文が入るから連続してどんどん揚げて行かないといけない状態だ。
「指名入ったら良いからな」
「おー」
「…ってか、入ってないの珍しいな」
「今日はむしろ入らない方が良い。お客さん多すぎで、ややこしいわ」
「それもそうだな」
俺は、健吾に言われた通りに唐揚げとポテトを揚げて行く。
揚げて出来上がったものを小さなバスケットに盛る、を繰り返す。
何人か常連さんにも会ったし、遠目に見ただけだけど多分光も来てた感じだった。
でも、忙しそうなのを察してか指名は入ってない。
今日は、桐ケ谷さんの知り合いの音楽やってる人達が来てて、店内の音楽を生演奏してくれてるから、すごく雰囲気が良い。
時々静かな大人な感じの曲を入れたりして、何か盛り上がってるカップルとか居たし…。
「ちょっと、隣使う~」
健吾が隣のフライヤーに来た。
豆腐持ってるし、揚げ出し豆腐かな。
「そう言えばさぁ、侑利、大丈夫なの?」
「え?何が?」
何についての質問なのか…。
「沖縄でさぁ、急に帰ったじゃん」
……あぁ、あれか…。
「あー、うん」
「あれ、大丈夫?」
だいぶ、不自然な帰り方だったもんな、あれ…。
「天馬がさぁ、侑利が帰ったの、東京に大事な人が居るって言ってたからさ」
一瞬、唐揚げの肉を放り込む手が止まってしまった…。
そんな事言ってたの、アイツ。
まぁ…言いそうだけど…。
「旅行途中で止めて帰るくらい大事な人居んだ、って全員思ったよ」
「………だろうね」
ポテトのタイマーが鳴った。
「そういう色恋的な事に関してはさぁ、侑利、遊んでるイメージしか無かったからさぁ、」
「やっぱ、そういうイメージ?」
皆にそう言われるわ…。
ポテトに塩を振りかける。
「そりゃそうだろう、逆にどういうイメージを持てと?」
「………そうですね、すいません」
業とらしく答える。
「で、その大事な人とは、上手く行ってんの?」
「…まぁ、そんなとこ」
完全に依存症になってるけど…って思ったけど、そこは黙っておいた。
「へぇ。真面目に付き合ってんだ」
「…大真面目」
「そうなのっ?」
健吾…俺をどう思ってんだ。
俺だって真面目に人と付き合う事だってあんだよ。
「見てみたいわ~、侑利が真面目に付き合ってる子」
健吾がキラキラした顔で俺を見てる。
「年は?上?下?」
「…下」
「へ~、どんな感じ?」
「何が」
「見た目」
「見た目?……別に…」
「別にって事は無いだろ~」
「何でだよ」
「お前が付き合うくらいなんだからさぁ」
「別に俺、普通だって」
「そんな訳ねーじゃん、ムカつくくらいの男前のクセして」
「ムカついてたの?」
「そこ拾うなよ。…ってか、芸能人で言ったら誰に似てる、とかさぁ」
「別にねぇよ」
「アイドルみたい、とかないの?」
「…ない」
「何だよ~、想像させてくれよ~」
「…あぁ…まぁ、しいて言うなら…」
「言うなら?」
「………モデル…みたいな?」
「モデル!?」
健吾は自分の声の大きさに周りを少しキョロキョロと見た後、今度は小声で…
「お前、相当メンクイだな」
「や、そんな事はねぇんだけど…」
「だってモデルみたいな子って相当可愛いんじゃねぇの?」
「分かんねぇけど…」
「可愛いの?」
「んー、」
「美人系?」
「…あぁ、」
「何だよ、どっちだよ」
ふと、慶が言ってた言葉を思い出した。
彼女が居ると思われてそのまま話を進める事が、俺を隠してるような気がして嫌だった、って。
その気持ちが何となく分かった。
隠してるつもりはねぇけど……そのまま話が進んでく事に、マジですんごい違和感あるわ。
だから俺も、
「すげぇ美人だよ……男だけど」
……サラッと言ってみた。
「んっ?」
健吾がこっちを見てる。
「えっ?男?」
確認された。
「うん」
「え、相手男なの?」
そう何度も聞かれると、何か恥ずかしくなって来るけど…。
「ビビった?」
「……まぁ、ちょっとは」
はは、正直な奴。
「何かさぁ……気付いたら、好きだった」
「ちょっとお前……すげぇ恋愛してんだな」
健吾は揚げてた豆腐を油から取り出しながら言う。
「そう?」
「俺………何か、見直したわ、お前の事」
「何よ、それ」
「いや……だってさぁ……」
取り出した豆腐の油を切りながら続ける。
「お前なんかさぁ、彼女作ろうと思ったらいくらでもすぐ出来んのに、選んだのが男ってすげぇわ………何か……本気を感じる」
しみじみ言われた。
「別に、男が好きってタイプでも無いじゃん、ずっと女の子と遊んでたし。だから余計に真剣なんだなって思う。………好きなの?その相手の事」
健吾は、俺にすごく興味津々な感じ…。
すんげぇ聞いて来るじゃんっ。
「……ドハマり中」
俺の答えを聞くと、ニヤッと笑って思いっきり肩をバシッと叩いた。
「痛って、何だよ」
「マジで連れて来て、今度」
叩かれた肩が痛い。
「俺も恋愛してぇわ~」とか言いながら、揚げ出し豆腐の最後の調理をしに移動して行った。
ほんとに……慶の言う通りで……変に合わせて喋るより、言ってしまった方がすっきりして気分が良い。
慶がご機嫌になってた気持ちも、今ならちょっと分かる…。
「侑利~、悪い、こっち出れる?」
30分くらい揚げ物やってた辺りで、カウンターから声がかかる。
「あ、侑利、もう良いよ」
健吾が言った。
「サンキュー、助かったわ」
「あいよ」
キリの良いとこで手を止める。
あんまり手伝いにはならなかったかも知れねぇけど…。
「侑利」
「ん?」
「何か俺、無性にお前を応援したい」
「何だそれ」
「お前の事……もっと好きになったわ」
「…アホか」
あはは、とお互い笑う。
エプロンを外し、厨房の隅っこの棚に置いて、またフロアへと戻った。
「久我さんっ、厨房入ってたんですね」
光に声をかけられた。
今日は、天馬ファンの友達と2人みたいで、珍しくカウンターに座ってた。
「あれ、今日ここですか?」
「はいっ、さっきまで店長と喋ってました」
桐ケ谷さんはいつもカウンターに居て、そこに来たお客さんと喋ってる。
喋りやすい人だから、割と色んな話を色んな年代のお客さんとしてて、女子大生の恋愛相談とか受けてる時もあって、ちょっとウケる…。
「久我さん、お客様です」
奏太がそう言って連れて来たのは、前に来た事のある女子大生3人組…のうち、今日は2人。
搬入作業してた時に、差し入れを持って来てくれた子達だ。
「あ、どうも、この前は差し入れありがとうございました」
「いえいえ、あんな差し入れですみません」
「や、全然。みんなソッコー飲みました」
「って言うか、覚えてくれてたんですねっ」
「覚えてますよ、この間の事だし」
「あはは、そっか」
ちょうど光達の近くのカウンター席が空いたので、そこへ促す。
「今日はご飯ですか?」
「ご飯は食べて来ましたっ」
「じゃあ、飲みますか?」
「あー、少しなら」
「何します?」
女子2人はしばらく悩んで…
「カルーアミルクを2つ」
と言った。
いかにも女子らしいチョイス。
あんまり複雑なのは無理だけど、カルーアミルクくらいなら俺も作れる。
グラスにカルーアを入れて牛乳を静かに注ぎ、レシピには無いけど最後にミントの葉を少し乗せて完成させた。
我ながら、女子にウケそうな物が作れたと思う。
「はい、どうぞ」
思った通り、二層になった液体とミントのグリーンが女子の心を掴んだようだ。
可愛い~、とか言ってる。
「そう言えば、制服変わってますね」
「あ、そうなんですよ~、どうですかね?」
「「めっちゃ良いですっ」」
「いやいや、揃ってるし」
女子の発言が完全に被っててちょっと面白い。
「シャツはみんな色々なんですね」
「3色あって、どれ着ても良いんです」
「へぇ~、何かおしゃれ~」
「それ、店長に言ってあげて下さい。これ、店長チョイスなんで」
チラッと桐ケ谷さんを見ると「店長」というワードが聞こえたのかこっちに歩いて来た。
「制服褒められましたよ」
「だろ?」
すんげぇドヤ顔で話に合流。
「雰囲気変えてみました」
女子にドヤ顔のまま言う。
「すごくカッコいい」
「ありがとうございます、カッコ良さを出したつもりなんで、伝わってて良かったです」
桐ケ谷さんはハイセンスだから、変な物に仕上がるとは思ってなかったけどさ。
でも、俺も今の制服は前より大人っぽくて落ち着いてて気に入ってる。
「めっちゃカッコいいですっ」
女子大生はキラキラしてる。
歳はそんなに離れてないのに、何かすげぇ若さを感じるのは何でだ…。
「この前、差し入れありがとうございました。搬入作業してたんで、全員差し入れに群がってましたよ」
桐ケ谷さんも、礼を言った。
「だったらもっと良い物差し入れたら良かった~」
「ランク上げれば良かったね~」
女子大生がわざとらしく残念そうに言う。
「え、あの、瓶に入ってる果汁100パージュースみたいなやつ?」
「あはは、そうそう、あのギフトとかで貰うやつ」
「飲むの緊張するやつ~」
「差し入れで貰うには高級すぎますね」
「いや、その前に侑利似合わねぇわ」
「え、何がですか?」
「100パージュース」
「「……あっははは」」
めっちゃ女子大生に笑われてるしっ。
「確かに、久我さん、似合わないかも~」
「ほんとっ、瓶持ってるイメージ無い~~」
キャッキャ言ってるし。
「似合うとかあんの?」
「あるある」
「え、店長は?」
「店長は大人な雰囲気だから似合う似合う」
「俺は?」
「似合わない」
「何でっ、俺だって瓶持つわ」
「じゃあ今度それ持って来る~」
「良いよ、是非」
「ちなみに、久我さんは何のジュースが良いの?」
「………りんご」
「「「あははっ」」」
今度は女子大生プラス桐ケ谷さんに笑われたぞ。
「りんごってお前……可愛いじゃねぇか」
桐ケ谷さんがグリグリ頭を撫でて来る。
「や、何で笑われたんですか?俺」
「侑利とりんご100パージュースのベクトルが真逆」
「えぇ?」
女子大生はずっと笑ってる。
俺は、意外とイジられんだよ…何故か。
ぐしゃぐしゃにされた髪をざっと直す。
「じゃあ、次りんご100パーにしよう~」
「…瓶のやつで」
念を押したら「久我さんかわいい~」とか言われたけど……そうか?
俺、普通にりんごジュース飲みますけど?
チラッと見ると光と友達のグラスが空いてたから、何となくそっちへ声をかける。
「何か作りましょうか?」
「えっ?」
驚いたように2人が俺を見る。
「ん?」
「え、あ、良いんですか?」
遠慮がちに女子大生の方をチラッと見る。
2人は桐ケ谷さんと楽しそうに話してるし、指名でもないから離れても大丈夫そうだったので光達に声をかけた。
カウンターでは、同じ人と…って言うよりは、色んな人のところを移動しながら話すって感じだ。
注文聞いたりするから、その流れでその人と話したり。
「大丈夫」
「…あ、じゃあ…何か頼もうかな…」
光が友達を見ると、友達も「うん」と頷いた。
「飲みやすいのを2つ、お任せで」
注文されたアルコールメニューを作るのは、主にはバーテンダーの桐ケ谷さんと司くん(結城 司:ゆうき つかさ)の2人。
簡単なものなら俺らも作ったりするんだけど、お任せ、とか言われると俺には無理。
司くんは後輩だけど……歳は俺より上で28歳。
他の店でバーテンダーをやってたんだけど、そこが閉店になって、知人を通じてその話を聞いた桐ケ谷さんが司くんに声をかけてBIRTHに呼んだ形。
桐ケ谷さんは何回かその店に行った事があって、司くんを見て仕事ぶりを知ってたから、閉店するなら是非うちでって思ったらしい。
BIRTHに来たのは1年半くらい前。
ちょうど、BIRTHもバーテンダー募集してたからタイミングが良かった。
桐ケ谷さんが呼んだだけあって、司くんは後から入って来たけど輪を乱す事が無くて、他の店で自分のやり方でやって来たのにBIRTHではそれをあからさまに出す事をせず、すごく穏やかで大人だな~って思う。
その事を前に司くんと話した事がある。
その時司くんは、
「BIRTHの雰囲気がそうさせてくれてんのかも。もっとライバル心剥き出しの職場だったら俺もギスギスしてたかも。前の職場がそうで、すげぇ嫌だった」
と、言った。
俺は素直に嬉しくて、それまで以上に司くんを好きになった。
褒められたから、っていう単純な理由では無くて、何か……俺らをちゃんと見た上で働きやすいって思ってくれてんだな、って思えたから。
「司くん、飲みやすい甘いのでアルコール低めのを2つ」
「はいよ」
司くんが手際良く作り始める。
「今日、2人なんですね」
「はい、もう1人はばあちゃんが入院したらしくて、一昨日から実家に帰ってます」
「あぁ、そうなんだ」
「あ、…」
相槌を入れた俺に、光が大きな目をパチッとさせて言った。
「あの…」
「はい」
そこに、司くんが来て一旦話が止まる。
「お待たせしました、どうぞ」
光の前には淡いグリーン、友達の前にはピンクの液体が注がれたグラスを置く。
2人ともジッと見てる。
「あ、何か?」
固まってるから、司くんが2人に聞く。
「あ、いえっ。同じのが来ると思ってたから、」
「あぁ、何となくイメージで作ってみました。こっちがキウイでこっちがピーチです」
2人は顔を見合わせた後、嬉しそうにグラスを見てる。
「アルコールは低めにしてるんで」
司くんはそう言って、他の注文を作りに戻った。
イメージで作るとか、マジでオシャレだしっ。
俺が女だったら、司くんみたいな人に自分をイメージしたカクテル作られたら、多分落ちるな、って思う…。
真似できねぇわ~。
2人はそれぞれに一口飲んだ。
「わ、美味し~」
「ほんとだ~」
2人揃って女子みたいな感想だけど……口に合ったなら良かった。
「あ、そうだ、さっき」
「え?」
光はさっき何か言いかけてた。
「何か言いたい事あったんじゃないですか?」
俺の言葉に「あ、」と小さく呟くと、少し恥ずかしそうに俯いて、もう一口キウイのカクテルを飲む。
「あの…………俺達にも…普通に話して貰いたいなって思って……あの……敬語じゃなくて…」
お客さんが明らかに年下だろうが、俺は割と敬語で話す事が多い。
一線引いてる訳でも無いんだけど……人によって使い分けるのが正直面倒だなって思ってるぐらいで…敬語なら誰に対しても失礼にならないし…。
だけど、普通に喋ってと頼まれるのであれば、まぁ…別に良いけど…。
「聞いてた訳じゃ無いんですけど…あの、さっきの……隣の人との話が聞こえちゃって………久我さん、すごく普通に話してたから………何か……えっと……羨ましいって言うか…」
少し小さな声で、女子大生を気にしながら光が言った。
確かにさっき、女子大生相手に普通に喋ったかも知れないけど……別にそこに深い意味は無い…。
「あー…分かった、じゃあ、普通にする」
普通に喋ったら喋ったで……
「う、わぁ~~~ダメだ~~っ、何か、緊張して来て無理」
とか言われるし。
「無理って…」
「あっ、ごめんなさいっ、無理じゃないですっ、あ、いや、無理ですけど、でも、カッコ良すぎて無理って事なんで、全然、あの、普通に喋って下さいっ」
…光はよく、恥ずかしそうに大胆な事を言う。
今もまさにそうだと思う。
光は……俺を、好きだと言ってた。
自分で言うのも何だけど……きっとそれはまだ継続中なんだろう…って思う。
こういう仕事をやってると、そういうのは結構分かる。
光は慶の存在を知ってて、付き合ってるって事も知ってて、それでもこうやって会いに来る。
あれから、慶の話をした事は無い。
光も聞いて来ないし、俺の方から事更に言うのも変だし。
光には、出来れば誰か他の人と出会って、その人を好きになって欲しい。
その人が女か男か分かんねぇけど、幸せになって欲しいって……それは本当にそう思う。
俺を好きだなんて言ってくれるのは、そりゃ有難い事だけど…
俺には慶が居て………もう、慶が居ない人生なんて考えらんねぇぐらいハマってしまってるから……
俺も慶も。
今週は、俺も慶もずっと連勤してて、夜はバラバラだし……ずっと家で飯を作って無かった。
俺は、休憩時間に健吾が作るまかないを食べてたし、慶はコンビニで何か買ったり、食って無かったり。
食わないのは慶の悪いクセで……家に何もないとか、わざわざ買いに寄らないといけないとかになると、すぐに食べるのを止めるという選択肢を取ってしまう。
何度も言ってるけど、中々直らない。
だから、あんな細いんだ、きっと。
そんなのもあってかどうか分からないけど、「侑利くんが作ったご飯が食べたい」とか言うもんだから、起きてすぐにスーパーへ買い出しに行った。
適当に食材を調達して帰宅。
少し遅い昼飯を作った。
慶のリクエストでパスタを。
いつもの如く「美味しい」「天才」と言いながら食べてくれた。
更に、放っておいたらまた晩飯を抜くかも知れないと思ったから、慶に甘い俺は晩飯まで先に作って来てやった。
嬉しそうな顔で喜んでたのが可愛くて襲いたくなったけど、時間的に無理があったので我慢した…。
今日と明日はリニューアルしてから初の週末だから、かなり忙しくなりそうだ…。
昨日までは、なんだかんだ、俺が帰宅するのを待っててくれてたけど……今日はそもそも店が2時までで、帰るのは3時くらいになるから、さすがに起きては会えないだろう。
そう思うと、なんだかすごく寂しい気分になってくる…。
明日まで、起きてる慶に会えないとか……辛いわ、けっこう…。
俺、割とヘタレだな…ってつくづく思う。
「侑利、ごめん、ちょっと厨房入れるー?」
カウンターに戻って来ると、厨房から健吾が顔を覗かせた。
今日はリニューアル記念企画で、時間毎に色んなメニューを無料サービスしてる。
赤字覚悟だけど、お客さんに喜んでもらうのと、新しいお客さんに気に入ってもらってリピーターをより増やすっていう意図もあって、桐ケ谷さんが自ら提案した企画。
平日の間、宣伝してた効果もあって、お客さんの数がもう大変な事になってる。
ご飯時のこの1時間は、唐揚げとポテトのセットを無料にしてるから、とにかく注文が引っ切り無しで厨房がすんげぇ忙しくなってる…。
他のメニューの注文も入るからな…。
「おっけ、行くわ」
桐ケ谷さんに了解を取って、新しいエプロンで厨房に入る。
「おーっ、侑利、来た来た」
「久我さん、助かりますっ」
「すみません、指名入ってないんですか?」
厨房スタッフが次々と声をかけてくれる。
健吾以外は途中から入って来た奴らだけど、みんなやっぱり良い奴で、年上も年下も居るけど料理の腕は全員尊敬に値する。
俺みたいな、ちょっとした趣味で料理するような奴とは違う。
だから、新メニューの味付けとかは全員遅くまで残って真剣にやってる。
「とにかく、唐揚げとポテトを揚げててくれ」
健吾にそう頼まれる。
「ははっ、了解」
とにかくそれを揚げてれば良いんだな。
唐揚げとポテトだったら油に放り込んだらしばらく放置で良いんだろうけど、揚げ時間が同じじゃないからそれぞれを見て無いといけないし、とにかく次々注文が入るから連続してどんどん揚げて行かないといけない状態だ。
「指名入ったら良いからな」
「おー」
「…ってか、入ってないの珍しいな」
「今日はむしろ入らない方が良い。お客さん多すぎで、ややこしいわ」
「それもそうだな」
俺は、健吾に言われた通りに唐揚げとポテトを揚げて行く。
揚げて出来上がったものを小さなバスケットに盛る、を繰り返す。
何人か常連さんにも会ったし、遠目に見ただけだけど多分光も来てた感じだった。
でも、忙しそうなのを察してか指名は入ってない。
今日は、桐ケ谷さんの知り合いの音楽やってる人達が来てて、店内の音楽を生演奏してくれてるから、すごく雰囲気が良い。
時々静かな大人な感じの曲を入れたりして、何か盛り上がってるカップルとか居たし…。
「ちょっと、隣使う~」
健吾が隣のフライヤーに来た。
豆腐持ってるし、揚げ出し豆腐かな。
「そう言えばさぁ、侑利、大丈夫なの?」
「え?何が?」
何についての質問なのか…。
「沖縄でさぁ、急に帰ったじゃん」
……あぁ、あれか…。
「あー、うん」
「あれ、大丈夫?」
だいぶ、不自然な帰り方だったもんな、あれ…。
「天馬がさぁ、侑利が帰ったの、東京に大事な人が居るって言ってたからさ」
一瞬、唐揚げの肉を放り込む手が止まってしまった…。
そんな事言ってたの、アイツ。
まぁ…言いそうだけど…。
「旅行途中で止めて帰るくらい大事な人居んだ、って全員思ったよ」
「………だろうね」
ポテトのタイマーが鳴った。
「そういう色恋的な事に関してはさぁ、侑利、遊んでるイメージしか無かったからさぁ、」
「やっぱ、そういうイメージ?」
皆にそう言われるわ…。
ポテトに塩を振りかける。
「そりゃそうだろう、逆にどういうイメージを持てと?」
「………そうですね、すいません」
業とらしく答える。
「で、その大事な人とは、上手く行ってんの?」
「…まぁ、そんなとこ」
完全に依存症になってるけど…って思ったけど、そこは黙っておいた。
「へぇ。真面目に付き合ってんだ」
「…大真面目」
「そうなのっ?」
健吾…俺をどう思ってんだ。
俺だって真面目に人と付き合う事だってあんだよ。
「見てみたいわ~、侑利が真面目に付き合ってる子」
健吾がキラキラした顔で俺を見てる。
「年は?上?下?」
「…下」
「へ~、どんな感じ?」
「何が」
「見た目」
「見た目?……別に…」
「別にって事は無いだろ~」
「何でだよ」
「お前が付き合うくらいなんだからさぁ」
「別に俺、普通だって」
「そんな訳ねーじゃん、ムカつくくらいの男前のクセして」
「ムカついてたの?」
「そこ拾うなよ。…ってか、芸能人で言ったら誰に似てる、とかさぁ」
「別にねぇよ」
「アイドルみたい、とかないの?」
「…ない」
「何だよ~、想像させてくれよ~」
「…あぁ…まぁ、しいて言うなら…」
「言うなら?」
「………モデル…みたいな?」
「モデル!?」
健吾は自分の声の大きさに周りを少しキョロキョロと見た後、今度は小声で…
「お前、相当メンクイだな」
「や、そんな事はねぇんだけど…」
「だってモデルみたいな子って相当可愛いんじゃねぇの?」
「分かんねぇけど…」
「可愛いの?」
「んー、」
「美人系?」
「…あぁ、」
「何だよ、どっちだよ」
ふと、慶が言ってた言葉を思い出した。
彼女が居ると思われてそのまま話を進める事が、俺を隠してるような気がして嫌だった、って。
その気持ちが何となく分かった。
隠してるつもりはねぇけど……そのまま話が進んでく事に、マジですんごい違和感あるわ。
だから俺も、
「すげぇ美人だよ……男だけど」
……サラッと言ってみた。
「んっ?」
健吾がこっちを見てる。
「えっ?男?」
確認された。
「うん」
「え、相手男なの?」
そう何度も聞かれると、何か恥ずかしくなって来るけど…。
「ビビった?」
「……まぁ、ちょっとは」
はは、正直な奴。
「何かさぁ……気付いたら、好きだった」
「ちょっとお前……すげぇ恋愛してんだな」
健吾は揚げてた豆腐を油から取り出しながら言う。
「そう?」
「俺………何か、見直したわ、お前の事」
「何よ、それ」
「いや……だってさぁ……」
取り出した豆腐の油を切りながら続ける。
「お前なんかさぁ、彼女作ろうと思ったらいくらでもすぐ出来んのに、選んだのが男ってすげぇわ………何か……本気を感じる」
しみじみ言われた。
「別に、男が好きってタイプでも無いじゃん、ずっと女の子と遊んでたし。だから余計に真剣なんだなって思う。………好きなの?その相手の事」
健吾は、俺にすごく興味津々な感じ…。
すんげぇ聞いて来るじゃんっ。
「……ドハマり中」
俺の答えを聞くと、ニヤッと笑って思いっきり肩をバシッと叩いた。
「痛って、何だよ」
「マジで連れて来て、今度」
叩かれた肩が痛い。
「俺も恋愛してぇわ~」とか言いながら、揚げ出し豆腐の最後の調理をしに移動して行った。
ほんとに……慶の言う通りで……変に合わせて喋るより、言ってしまった方がすっきりして気分が良い。
慶がご機嫌になってた気持ちも、今ならちょっと分かる…。
「侑利~、悪い、こっち出れる?」
30分くらい揚げ物やってた辺りで、カウンターから声がかかる。
「あ、侑利、もう良いよ」
健吾が言った。
「サンキュー、助かったわ」
「あいよ」
キリの良いとこで手を止める。
あんまり手伝いにはならなかったかも知れねぇけど…。
「侑利」
「ん?」
「何か俺、無性にお前を応援したい」
「何だそれ」
「お前の事……もっと好きになったわ」
「…アホか」
あはは、とお互い笑う。
エプロンを外し、厨房の隅っこの棚に置いて、またフロアへと戻った。
「久我さんっ、厨房入ってたんですね」
光に声をかけられた。
今日は、天馬ファンの友達と2人みたいで、珍しくカウンターに座ってた。
「あれ、今日ここですか?」
「はいっ、さっきまで店長と喋ってました」
桐ケ谷さんはいつもカウンターに居て、そこに来たお客さんと喋ってる。
喋りやすい人だから、割と色んな話を色んな年代のお客さんとしてて、女子大生の恋愛相談とか受けてる時もあって、ちょっとウケる…。
「久我さん、お客様です」
奏太がそう言って連れて来たのは、前に来た事のある女子大生3人組…のうち、今日は2人。
搬入作業してた時に、差し入れを持って来てくれた子達だ。
「あ、どうも、この前は差し入れありがとうございました」
「いえいえ、あんな差し入れですみません」
「や、全然。みんなソッコー飲みました」
「って言うか、覚えてくれてたんですねっ」
「覚えてますよ、この間の事だし」
「あはは、そっか」
ちょうど光達の近くのカウンター席が空いたので、そこへ促す。
「今日はご飯ですか?」
「ご飯は食べて来ましたっ」
「じゃあ、飲みますか?」
「あー、少しなら」
「何します?」
女子2人はしばらく悩んで…
「カルーアミルクを2つ」
と言った。
いかにも女子らしいチョイス。
あんまり複雑なのは無理だけど、カルーアミルクくらいなら俺も作れる。
グラスにカルーアを入れて牛乳を静かに注ぎ、レシピには無いけど最後にミントの葉を少し乗せて完成させた。
我ながら、女子にウケそうな物が作れたと思う。
「はい、どうぞ」
思った通り、二層になった液体とミントのグリーンが女子の心を掴んだようだ。
可愛い~、とか言ってる。
「そう言えば、制服変わってますね」
「あ、そうなんですよ~、どうですかね?」
「「めっちゃ良いですっ」」
「いやいや、揃ってるし」
女子の発言が完全に被っててちょっと面白い。
「シャツはみんな色々なんですね」
「3色あって、どれ着ても良いんです」
「へぇ~、何かおしゃれ~」
「それ、店長に言ってあげて下さい。これ、店長チョイスなんで」
チラッと桐ケ谷さんを見ると「店長」というワードが聞こえたのかこっちに歩いて来た。
「制服褒められましたよ」
「だろ?」
すんげぇドヤ顔で話に合流。
「雰囲気変えてみました」
女子にドヤ顔のまま言う。
「すごくカッコいい」
「ありがとうございます、カッコ良さを出したつもりなんで、伝わってて良かったです」
桐ケ谷さんはハイセンスだから、変な物に仕上がるとは思ってなかったけどさ。
でも、俺も今の制服は前より大人っぽくて落ち着いてて気に入ってる。
「めっちゃカッコいいですっ」
女子大生はキラキラしてる。
歳はそんなに離れてないのに、何かすげぇ若さを感じるのは何でだ…。
「この前、差し入れありがとうございました。搬入作業してたんで、全員差し入れに群がってましたよ」
桐ケ谷さんも、礼を言った。
「だったらもっと良い物差し入れたら良かった~」
「ランク上げれば良かったね~」
女子大生がわざとらしく残念そうに言う。
「え、あの、瓶に入ってる果汁100パージュースみたいなやつ?」
「あはは、そうそう、あのギフトとかで貰うやつ」
「飲むの緊張するやつ~」
「差し入れで貰うには高級すぎますね」
「いや、その前に侑利似合わねぇわ」
「え、何がですか?」
「100パージュース」
「「……あっははは」」
めっちゃ女子大生に笑われてるしっ。
「確かに、久我さん、似合わないかも~」
「ほんとっ、瓶持ってるイメージ無い~~」
キャッキャ言ってるし。
「似合うとかあんの?」
「あるある」
「え、店長は?」
「店長は大人な雰囲気だから似合う似合う」
「俺は?」
「似合わない」
「何でっ、俺だって瓶持つわ」
「じゃあ今度それ持って来る~」
「良いよ、是非」
「ちなみに、久我さんは何のジュースが良いの?」
「………りんご」
「「「あははっ」」」
今度は女子大生プラス桐ケ谷さんに笑われたぞ。
「りんごってお前……可愛いじゃねぇか」
桐ケ谷さんがグリグリ頭を撫でて来る。
「や、何で笑われたんですか?俺」
「侑利とりんご100パージュースのベクトルが真逆」
「えぇ?」
女子大生はずっと笑ってる。
俺は、意外とイジられんだよ…何故か。
ぐしゃぐしゃにされた髪をざっと直す。
「じゃあ、次りんご100パーにしよう~」
「…瓶のやつで」
念を押したら「久我さんかわいい~」とか言われたけど……そうか?
俺、普通にりんごジュース飲みますけど?
チラッと見ると光と友達のグラスが空いてたから、何となくそっちへ声をかける。
「何か作りましょうか?」
「えっ?」
驚いたように2人が俺を見る。
「ん?」
「え、あ、良いんですか?」
遠慮がちに女子大生の方をチラッと見る。
2人は桐ケ谷さんと楽しそうに話してるし、指名でもないから離れても大丈夫そうだったので光達に声をかけた。
カウンターでは、同じ人と…って言うよりは、色んな人のところを移動しながら話すって感じだ。
注文聞いたりするから、その流れでその人と話したり。
「大丈夫」
「…あ、じゃあ…何か頼もうかな…」
光が友達を見ると、友達も「うん」と頷いた。
「飲みやすいのを2つ、お任せで」
注文されたアルコールメニューを作るのは、主にはバーテンダーの桐ケ谷さんと司くん(結城 司:ゆうき つかさ)の2人。
簡単なものなら俺らも作ったりするんだけど、お任せ、とか言われると俺には無理。
司くんは後輩だけど……歳は俺より上で28歳。
他の店でバーテンダーをやってたんだけど、そこが閉店になって、知人を通じてその話を聞いた桐ケ谷さんが司くんに声をかけてBIRTHに呼んだ形。
桐ケ谷さんは何回かその店に行った事があって、司くんを見て仕事ぶりを知ってたから、閉店するなら是非うちでって思ったらしい。
BIRTHに来たのは1年半くらい前。
ちょうど、BIRTHもバーテンダー募集してたからタイミングが良かった。
桐ケ谷さんが呼んだだけあって、司くんは後から入って来たけど輪を乱す事が無くて、他の店で自分のやり方でやって来たのにBIRTHではそれをあからさまに出す事をせず、すごく穏やかで大人だな~って思う。
その事を前に司くんと話した事がある。
その時司くんは、
「BIRTHの雰囲気がそうさせてくれてんのかも。もっとライバル心剥き出しの職場だったら俺もギスギスしてたかも。前の職場がそうで、すげぇ嫌だった」
と、言った。
俺は素直に嬉しくて、それまで以上に司くんを好きになった。
褒められたから、っていう単純な理由では無くて、何か……俺らをちゃんと見た上で働きやすいって思ってくれてんだな、って思えたから。
「司くん、飲みやすい甘いのでアルコール低めのを2つ」
「はいよ」
司くんが手際良く作り始める。
「今日、2人なんですね」
「はい、もう1人はばあちゃんが入院したらしくて、一昨日から実家に帰ってます」
「あぁ、そうなんだ」
「あ、…」
相槌を入れた俺に、光が大きな目をパチッとさせて言った。
「あの…」
「はい」
そこに、司くんが来て一旦話が止まる。
「お待たせしました、どうぞ」
光の前には淡いグリーン、友達の前にはピンクの液体が注がれたグラスを置く。
2人ともジッと見てる。
「あ、何か?」
固まってるから、司くんが2人に聞く。
「あ、いえっ。同じのが来ると思ってたから、」
「あぁ、何となくイメージで作ってみました。こっちがキウイでこっちがピーチです」
2人は顔を見合わせた後、嬉しそうにグラスを見てる。
「アルコールは低めにしてるんで」
司くんはそう言って、他の注文を作りに戻った。
イメージで作るとか、マジでオシャレだしっ。
俺が女だったら、司くんみたいな人に自分をイメージしたカクテル作られたら、多分落ちるな、って思う…。
真似できねぇわ~。
2人はそれぞれに一口飲んだ。
「わ、美味し~」
「ほんとだ~」
2人揃って女子みたいな感想だけど……口に合ったなら良かった。
「あ、そうだ、さっき」
「え?」
光はさっき何か言いかけてた。
「何か言いたい事あったんじゃないですか?」
俺の言葉に「あ、」と小さく呟くと、少し恥ずかしそうに俯いて、もう一口キウイのカクテルを飲む。
「あの…………俺達にも…普通に話して貰いたいなって思って……あの……敬語じゃなくて…」
お客さんが明らかに年下だろうが、俺は割と敬語で話す事が多い。
一線引いてる訳でも無いんだけど……人によって使い分けるのが正直面倒だなって思ってるぐらいで…敬語なら誰に対しても失礼にならないし…。
だけど、普通に喋ってと頼まれるのであれば、まぁ…別に良いけど…。
「聞いてた訳じゃ無いんですけど…あの、さっきの……隣の人との話が聞こえちゃって………久我さん、すごく普通に話してたから………何か……えっと……羨ましいって言うか…」
少し小さな声で、女子大生を気にしながら光が言った。
確かにさっき、女子大生相手に普通に喋ったかも知れないけど……別にそこに深い意味は無い…。
「あー…分かった、じゃあ、普通にする」
普通に喋ったら喋ったで……
「う、わぁ~~~ダメだ~~っ、何か、緊張して来て無理」
とか言われるし。
「無理って…」
「あっ、ごめんなさいっ、無理じゃないですっ、あ、いや、無理ですけど、でも、カッコ良すぎて無理って事なんで、全然、あの、普通に喋って下さいっ」
…光はよく、恥ずかしそうに大胆な事を言う。
今もまさにそうだと思う。
光は……俺を、好きだと言ってた。
自分で言うのも何だけど……きっとそれはまだ継続中なんだろう…って思う。
こういう仕事をやってると、そういうのは結構分かる。
光は慶の存在を知ってて、付き合ってるって事も知ってて、それでもこうやって会いに来る。
あれから、慶の話をした事は無い。
光も聞いて来ないし、俺の方から事更に言うのも変だし。
光には、出来れば誰か他の人と出会って、その人を好きになって欲しい。
その人が女か男か分かんねぇけど、幸せになって欲しいって……それは本当にそう思う。
俺を好きだなんて言ってくれるのは、そりゃ有難い事だけど…
俺には慶が居て………もう、慶が居ない人生なんて考えらんねぇぐらいハマってしまってるから……
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