laugh~笑っていて欲しいんだ、ずっと~

seaco

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「今の侑利が俺は一番好きだな」

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「これとこれと…あと、これも」

慶が花を選んでる。

というか、花は花なんだけど……何て言うか、最近店のレジ周りとかによく置かれてるのを目にする、オイルの入った瓶に詰めた花。

ハーバリウム、という聞き慣れないその品は、意外と雑貨好きである慶の心を掴んだようで、慶なりに奏太をイメージした花を何種類か選んで、瓶詰めにして貰ってるとこ。

ピンクとオレンジと黄色の花を選んで、後は花屋の店員さんに良い感じに仕上げて貰った。


そう言えば……慶の誕生日がもう直ぐだ。

12月12日。

覚えやすさ故に、忘れる事なくインプットしてる。

……何を渡そうかと、考えて無い訳ではない。
ほとんど私物がない慶には、渡したいものが多すぎて、1つに絞るのが意外に難しい。

しかも、休みを合わせてしまってたら、一体いつ買いに行ったら良いんだ…。
仕事に少し早く出て選ぶ、とか?

隠れて買う事もないし…そんなにサプライズ好きでもないんだけど……何となく、用意して渡してやりたいような気がして…。

一緒に買いに行くとかになると、きっと、前に買った服が誕生日プレゼントって言った、等と言われそうなので、やっぱ、1人でいつか見に行った方が良さそうだな…。



奏太の家から近いスーパーへ来た。

ここで、頼まれてるサラダ的なものと、飲み物とか色々を買ってから行こうって事で。
慶は、カートを押す俺の隣を、少しひょこひょこしながら歩いてる。

「大丈夫か?」
「うん、昨日よりマシだよ」

まぁ、後は完全に日にち薬だよな、これは。

顔の打撲は少し色が変わって来てて、今日は赤黒くなってるけど、もうここは自然治癒でって事で何もしないでいる。
……正直……ちょっと、殴られました感あるけど……。

「いつものスーパーじゃないから、置いてるとこ分かんないね」

キョロキョロしながら慶が言うけど……改めて見るとやっぱり慶は目立つ。
気付いてないのは本人だけだ。

「あ、侑利くん、サラダ発見」

少し先にあるサラダコーナー。
パックに入ってるものから、量り売りまでけっこうなスペースをサラダに使ってる。

「量り売りだって~」

嬉しそうに俺を呼ぶけど……お前、けっこう周りに見られてるからな。
俺だって、知り合ってなくてお前みたいなのがスーパーに居たら、多分見るわ。

「量り売り、良いじゃん」

そう言って近付いた俺に、小さな声で、

「やっぱ侑利くんの事みんな見てるからっ」

と言う。

こんな事、前もあったよな…確か。
結局、やっぱり俺ら浮かれてんだな…。

ま、誰にも迷惑かけてねぇし、良いか…。



沢山買った。

サラダは量り売りで2ボウル分。
後は、天馬と奏太に白ワインと、自分らのノンアルコールのビールやらカクテルやらを色々。





~~~~~~~~


「どうぞ」

玄関を開けたのは天馬。

「おー」
「お邪魔しますっ」

緩い俺とは反対に、慶がきちんと言う。

「久我さんっ、慶ちゃんっ、いらっしゃい」

奏太が奥から飛び出して来た。
エプロンしてて、すげぇやる気出てる。

「急に誘ってすみません」
「や、全然、良いよ」

言いながら、中へ入る。

「慶ちゃん、いらっしゃい」

奏太が改めて慶に声をかける。

「あ、あの、誘って貰ってありがとうございますっ」
「ふふっ、緊張しないでね」
「はいっ…」

って、顔がもう緊張してるけどな…。
まだ、玄関から動けて無いし。

「慶ちゃんも早く上がんな」

天馬が促す。

「あ、はい、失礼します」

脱いだ靴を揃えてる。
多分俺のも一緒に揃えただろう…。

慶らしくて好きだ。

ワンルームだけど、キッチンが4畳リビングが10畳あるらしく、普通に広い奏太の部屋。キッチンも対面で、カウンターになってて、そこで空間を緩く仕切ってるようになってる。リビングの隅にデカいベッドがあるけど、それを置いても尚テーブルとソファまで余裕で置ける広さ。ナチュラルな感じで部屋を纏めてるから、奏太のイメージよりも少し落ち着いて見える印象。

だいぶ前に何回か外までは送って来た事があったけど、中に入るのは今日が初めてだ。

「あの、奏太さんっ、」

慶が奏太に声をかける。
アレを渡すんだな、きっと。

「ん?何?」
「あの、これ、」

手に持ってた袋を差し出す。

「え?」
「気に入って貰えるか…分からないけど…」
「え~何なに?」

奏太が袋を受け取る。

「今日…誘ってくれたから」
「えっ?もう~慶ちゃん、そんな気遣わなくて良いのに~」
「いえ…全然…そんな…凄い物じゃ無くて…」

慶は少し、困った口調で言う。

「開けてみても良い?」
「…ど、どうぞ」

にっこりと笑って見せる。

「何?」

天馬も隣から袋を覗き込んでる。

「あっ、」

奏太がそう言って、中からハーバリウムを取り出す。

「ちょっと、オシャレ~~、可愛い~~」
「花なんで……瓶を…女の子っぽくならないようにして貰いました…」

慶が説明してんのが、ちょっと笑える。

「花は慶が奏太のイメージで選んでた」

補足してやった。
言えそうにない感じだったから。

「え~、そうなの?嬉しい~~、ありがとう慶ちゃんっ」
「いえ…そんな」

恥ずかしそうに少し俯いてる。
きっと、心臓バクバクなってるに違いない。

「どこに置こうか………あっ、」
「玄関だろ」
「そう、何で分かるの」
「靴箱の上が寂しいとか言ってたじゃん」
「ちょっと待ってよ」

そう言って、奏太が靴箱上部のスペースに、それを置く。

「こうかな…や、こっちかな」

向きを変えて置いてみて、良い位置と向きを見付けたらしい。

「よしっ、良いじゃ~ん」
「ん、そだな」
「殺風景だったし、ここなら、毎日必ず見れるしね。慶ちゃん、ほんとありがとうね」

奏太がもう一度慶に礼を言う。

「いえ、全然、」

ブンブン首を振ってる。
こういう光景もお決まりになりつつある。


買って来た物を勝手にキッチンへ置く。
ピザ生地が置いてあるけど、トッピング待ちの生地の横にまだ伸ばしてない塊があった。

「え、奏太、もしかして、生地も作ったの?」
「はい、そうですよ」
「お前すげぇな、どんだけ気合入ってんだよ」
「や、何か、友達が作ってるの見てたら、自分も作りたくなっちゃって」
「友達もすげぇな」

沢山焼こうと思って、と、奏太が腕まくりをしてキッチンに立つ。

「慶ちゃんに手伝って貰おうと思ってるんだ~」
「えっ、」

慶があからさまに動揺してる。

「お、俺、何にも出来ないんですけど……」

恐る恐る言う。

「あー、大丈夫大丈夫、トッピングだからさ」

具材を纏めてるトレーを見ると、既に全部キレイに切られてて、後は乗せるだけで準備されてる。

それなら、慶にも出来るだろう…。
好きなもん乗せりゃ良い。


「何買って来たの?」

天馬が言う。

「頼まれてたサラダと、飲み物色々」
「ワインあんじゃん」
「あー、奏太と飲むかな、と思って」
「お~、飲むわぁ、サンキューな」

天馬は、それらを冷蔵庫に入れる。

「慶ちゃん、ケガの具合どう?」
「あ、そうだった!慶ちゃん、立ってるのしんどかったら座ってやっても良いよ?」

天馬の言葉に奏太も急いで付け足す。

「いえ、全然大丈夫ですっ、昨日よりマシです」
「それなら良かったけど…ほんと災難だったね」

ほんとに、骨に異常なくて良かったよ。
俺も学生時代、足の指の骨にヒビ入った事あるけど、治るのすんげぇ時間かかったしさ…。

「侑利、ちょっと外行かねぇ?」

外、と言って指差したのはベランダ。

慶は、奏太にトッピングを教えて貰いながら、楽しそうにやってる。
こんな風に家に誘われるなんて経験も無いんだろうし、友達と一緒に何かするような事も、慶の人生では初めてかも知れない。


ピザ作りは2人に任せて、俺らはベランダに出た。


奏太の部屋は3階。

ベランダもゆったりと広くて、キレイに掃除されてる。
意外に家庭的な奏太らしいなって思う。

「慶ちゃん、大した事なくて良かったな」
「あぁ、」

2人で並んで、何となく街並みを眺める。


「…あのLINE、」

天馬が短く言った。

…この誘いが来た時に、俺が最後に付け足して天馬に送ったメッセージの事だろう。


『包丁は、持たせないでやって』


天馬は…きっと、分かってくれてるんだろう。

「前にちょっと野菜切るの頼んだらさ……」
「うん、」
「包丁持ってる手が、めっちゃ震えてさ……自分で止めらんねぇくらい」

天馬が静かに聞いてる。
空気を読む奴だからな…。

「包丁って、料理に使うもんだとしか思ってなかったけど……慶にはそうじゃなかった。……………目の前でそんな辛い事がほんとにあったんだな、って、そん時改めて思った。……過去の事だけど……記憶は劣化しないんだな、って」

キッチンを振り返ると、生地にソースを塗ってる奏太とその上に具材を置こうとしてる慶が見えた。
動きがぎこちなさすぎて、笑いそうになる。

「奏太が、慶ちゃんの事気に入ってるからさぁ、今日も呼ぼうって言い出したの奏太でさ、」
「そうなの?」

キッチンの2人は、何やら話しながらやってる。

「前に、巴流たちと集まったじゃん」
「あぁ、」
「あの時、慶ちゃんが話した事が奏太にはすげぇ衝撃的だったみたいでさ」
「…まぁ…そうだろうな」

俺達とは全く違う人生を生きて来たんだからさ…。

「自分ももっと毎日を大事に一生懸命生きなきゃいけない、って思ったんだって」
「…どしたんだ」
「あはは、あいつ案外そういうとこあんだって」
「…まぁ…優しいからな、奏太」

奏太が慶を気にかけてくれてんのは、俺が見てても分かるよ。

「慶ちゃんがそんな風に生きて来たって知らなかったら、自分はもっといい加減に過ごしてたと思うって。だから、あの時慶ちゃんが自分の事話してくれた事で、自分を改めて見つめ直すきっかけになったって言ってたよ」
「…あいつ、そんな事言うの?」
「だから、そういうとこあんだよ、意外と」

慶と同じで、真面目なんだな、奏太も。

「俺は……奏太には、感謝してるよ」
「何で?」
「ちょっとの事だけどさ、慶に友達になろうって言ってくれたり、連絡先交換してくれたり……そういうの、慶はいちいち感動してる。…そういう奴、居なかっただろうから。…すげぇ嬉しいけど、嬉しいのが勝っちゃって、ウザがられたらどうしようとか……言わねぇけど、そういう風に考えてんの分かる。……奏太の事、大事にしたいんだと思う。…きっと初めての友達だと思うから」

慶はもう、生きるのを止めようって思ってたぐらいだ。
友達が出来るなんて思って無かっただろう。

「慶を認めてくれて感謝してんだ。……もちろん、お前にも」

久しぶりに、真面目に言った。

「…久々に侑利が真剣に悩んでんなって思った。特に沖縄は」
「あぁ…そうかもね」

沖縄の時は…確かに悩んでた。

「侑利が、予定変えてまで東京帰ってさぁ……そこまでして会いたい相手ってどんなんだ、ってマジで思った」

改めて言われると、ちょっと恥ずかしい気がするな…。
ベランダの手すりに頬杖をつきながら、景色を眺める。

「今の侑利がさぁ……今まで、付き合って来たどの子の時より、何か完璧じゃなくて、人間味があって、俺は好きだよ」

……天馬はいつも、意外な答えをくれる。
天馬を見ると、相変わらずの男前な顔で笑ってる。

「相手の事を考えて、悩んだり、突っ走ったり、泣いたりさぁ……見た事ねぇもん、お前のそんなとこ」

確かに、今までそういう風に思えた事は無かったかも。
彼女とも、そりゃ好きで付き合ってたけど……それほどの情熱は無かったな…。


「出会ってだいぶなるけど、今の侑利が俺は一番好きだな」
「何だよ…恥ずいわ」

真面目に好きとか言ってんじゃねぇよ。

「なぁんで、良いじゃんたまには。侑利も言ってみ?」

ウザったい笑顔で距離をつめて来る。

「何言うんだよ、俺も天馬が好きだ、とか?」
「そうそう、それ」
「ヤダよ」
「何でっ」
「、わっ」

行き成りヘッドロックされる。

「侑利は何かさぁ…俺にとっては、親友でもあり弟でもあり、彼女でもあるんだよ」
「いやいや、おかしいじゃん」
「ん?」
「彼女って何だよ」

どういう目線で俺を見てんだ、お前はっ。
ヘッドロックを無理矢理解く。

「え?だってさ、悪い虫がつかないように見張ってんだよ、俺と巴流と大和で」
「……え、何それ」
「やっぱさぁ、侑利は弟感半端ないからね」

急に子ども扱いだし。

「可愛い弟の幸せを兄貴達が願うのは普通だろ」

得意気に言ってるけど…

「俺は、お前らと兄弟でもないし、同い年ですけど」
「そういう事じゃないんだって」
「何だよ、もういいよ」
「とにかく、彼女的弟だな」

意味分かんね。

「ブラコンじゃねぇか」
「ははっ、まぁ、とにかく、侑利が幸せになってくれたら良いって事だよ」
「え、そういう事?」
「そうだよ」
「じゃ、最初からそう言えよ」
「お前への熱い気持ちを分かって欲しかったんだって。最近、2人で話せてないじゃん」

2人で話せてないのは認めるけど……俺をそんな目で見てんのかと思ったら、戸惑うわ。


「あのぉ……」

後ろの大きな窓がスッと開き、慶が控えめに声をかけて来る。

「ん?どした?」
「えっと、トッピング、俺らが全部やっちゃって良いの?」

それを確認しに来たのが、ちょっとかわいいと思ってしまった。

「いいよ、任せるわ。順調?」
「うんっ、奏太さん、凄いんだよっ、伸ばすのめっちゃ早いっ」

生地の事だろうな…。

「マジか」
「あいつ、案外何でもやるからね」
「じゃあ…続きしてくるね」
「はいよ」

窓を閉め、笑顔で俺らに緩く手を振ってまた奏太の所へ戻って行った。

「デレてんぞっ」

頭をぐりぐりと揺らされる。
…ってか、俺、やっぱデレてたか…。

「俺は慶ちゃんに感謝だわ」
「何が」
「侑利を振り回してくれて」
「何だよそれ」
「誰とも付き合わねぇから……恋愛恐怖症にでもなったのかと思ってたからさ」

喝入れたの俺だし?…と、天馬が付け足す。

「確かに、天馬に言われて俺はそういうの止めたけど……でも、それは俺が納得して止めた事でさぁ………本気で好きになれる相手と出会うまでは、別に彼女とか要らねぇなって思ったから、誰とも付き合わなかっただけだよ」

慶は…そんな俺の中にすんなり入って来て……もう、完全に支配してる。

「お前はどうなんだよ」

逆に聞いてやる。
奏太との事だって、そんなに聞けてない。

うまく行ってんだって事は分かるけど、お互いの感情とかそういう部分。

「あー俺?」
「ん」

弟としては、兄貴の恋愛事情気にしたって良いだろ。

「奇跡的にケンカもなく今まで来てる」

ビシッとピースを目の前に見せて来る。

「どっちが上位?」
「………あっちだな」

チラッとキッチンの奏太を見遣る。

「ははっ、だと思った」
「何で」
「あいつ、何だかんだで天馬の事回してそうだもんな」

何か、尻に敷いてそうだよ。

「俺も結局、お前と一緒でさぁ、奏太と付き合う前の生活がどんなだったか薄れるくらいハマってんの」

相手の気持ちはすごく伝わるし、俺って愛されてんなって自覚あるけど……でも、やっぱり自分の方が上を行ってんだろうな、って思う。

慶は「俺の方が好きだよ」って言うけど………きっと俺が上だ。

「やっぱ勝ち負けだよな、恋愛ってさ」

天馬が言う。

「そうだよ。俺らは結局負けてんだろ、どうせ」
「あはは、負け組じゃん」
「まぁ、でも良かったわ、天馬が居て。負け組1人ってだいぶ辛いから」

可笑しそうに天馬が笑うから、何か俺もつられて笑う。
ちょっと虚しいけどさ。


「あのぉ……」

再び、控えめに声がかかる。
振り返ると、また慶が遠慮がちに窓を開けていた。

「ん?どした?」
「1枚目焼けました」
「業務連絡か」
「あははっ、ほんとだ」

俺らに笑われて困った顔をしてる慶が、窓を大きく開けて中に入るのを待ってる。
促されるままに室内に入ると、ピザのこんがり焼けた匂いが広がってた。

「おぉ~~っ、すげぇ~」
「美味そうじゃん」

慶は、俺らの反応を見てすごく嬉しそうに微笑んでる。

奏太とは、何を話しながらやってたのかは知らないけど、随分楽しそうにやってたし……だいぶ、仲良くなったかな。

頑張ってたし、帰ったら褒めてやるよ。
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