laugh~笑っていて欲しいんだ、ずっと~

seaco

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「俺の心が狭い訳じゃねぇよな?」

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*工藤side*

「ぁ、」

ちょっと……心拍数が上がった。

忘年会出欠の羽柴くんの欄にマルが付いている…。


来るんだ……。

無性に嬉しい俺が確かに居る。

はぁ、この2日間、何かちょっと虚しかったな…。
羽柴くんはきっと、彼と幸せな誕生日を過ごしたんだろうからさ…。

1時間くらい前、仕事してる羽柴くんを事務所からチラッと見た。
連休明けに見る羽柴くんは、やっぱり自分の頭の中に居る羽柴くんよりも数段キレイで……改めて、ドキドキさせられる。


「これ、貰ってくね」

羽柴くんの後ろに溜まってる完成品を回収に行く。

「あ、はい、お願いします」

いつもの、キレイで可愛い笑顔だ。

「忘年会、出られるみたいだね」
「はい」

にっこり笑う。
あぁ、可愛い。

彼の承諾が下りたんだ…。
正直、無理かと思ってた。

羽柴くんが出席すると分かってからの俺は……思いっきりテンション上がってる。
あまり、喜びを外に出さないようにはしてるけど…。

「あの、」
「へっ、」

ちょっと変な声が出た。

「プレゼント、ありがとうございました」
「あー、いやいや、あんなもんでゴメンね」
「いえっ、俺カフェオレ毎日飲みますから」

…可愛いなぁ……ほんとに見惚れるよ…。

「…大丈夫だった?…彼」

羽柴くんに近付いて、周りに聞こえないように小声で聞く。

「え?」
「…いや…他の男からプレゼントなんてさ……気を悪くしたかなぁと思って」

羽柴くんは少し恥ずかしそうな表情をしたけど、すぐに笑顔に戻って「大丈夫ですよ」と言った。

でも…なんとも思わなかったのか、気を悪くしたけど大丈夫だったのか、そこは分からない。
仮に、彼がものすごく怒って大喧嘩をしたとしても、羽柴くんは「大丈夫ですよ」と言うだろう………そういう子だ。

「忘年会、楽しみだね」
「俺、忘年会初めてです」
「え、そうなの?」
「はい。今までは、そういうの無かったし…」

初めての忘年会かよ~。
何か……ほんと擦れて無いんだよなぁ…。

「羽柴くん、お酒あんまり飲めないんだったよね?」
「…はい…あんまり飲めません…」
「あはは、そう見えるよ」
「……ガキですから」

思わず笑って言ったら業とらしくムッとした口調で言うけど、可愛さしかないからね、それ。
でも、そんな表情もしてくれるなんて、だいぶ心を開いてくれたのかな、なんて、俺はまた嬉しくなるんだよ。


2日会ってないだけなのに、何だか美人度が増した気がするのは……誕生日に彼と過ごしたからかも、とか考えると……なんとも惨めな気分になるけど……

だからこそ、忘年会くらい……羽柴くんと過ごさせてくれたって良いだろう…。


……って、俺、やっぱり相当危ない奴だな…。

恋人が居る人に、本気でこんな事思うなんてさ…。








*侑利side*

休憩中に見たLINEに、忘年会出席にマルしたって入ってた。

そりゃ、さぞかしアイツが喜んでんだろうな……。
俺の推測でしかねぇけど…多分、当たってる。

「侑利~、ちょお、ここ開けて~」

天馬の声がして休憩室のドアを開けると、唐揚げ定食的なメニューを2セットを運んで来た。

「おー、サンキュ」

1つを受け取る。
今日の晩飯だ。

「健吾が勝手にこれにした」
「めっちゃ腹減ってるから、良いわ、これで」

休憩室は和室。
寝ようがどうしようが自由。

真ん中のテーブルに2人向かい合わせで座った。
テレビは適当にザッピングしてBGM代わりに流してる。

「旅行の後の仕事はどう」
「あー…体がついて行かねぇな」
「はは、2日なのに?」
「やー、疲れたし」
「温泉入って疲れんなよ、……あ、…はは~ん」
「何だよ」
「……侑利のエッチ」

否定はしねぇ。
確かに、俺はエッチな部類に入るだろう。

性欲の塊だわ、多分。

「うまぁ…」

天馬の発言を思いっきり無視して呟いた。

健吾の唐揚げは今日も美味い。
今度、また、味付けのバリエーション聞こう……。

「奏太が温泉温泉って聞かねぇの」
「ははっ、影響受けまくりじゃん」
「近かった?」
「割と。2時間かかんなかったし」
「そうなの?…じゃあ、また行くわ」
「あ~、行った方が良い」
「何で」
「旅館の浴衣がすげぇポイント高い」
「そこかよ」
「や、破壊力が」
「すげぇの?」
「半端ねぇ」
「マジか」

エロに目覚めた中学生の会話みてぇだけど……男なんだから仕方無い。

「侑利、デレてんぞ」
「……すみませんね」

俺らは今、よくある言葉で言うなら「ラブラブ」だ。
いや、「超ラブラブ」の方が良いな。

デレデレしたって良いじゃねぇか。

「まぁ、そうなるわな」
「何が」
「や、浴衣で慶ちゃんにウロつかれたら、侑利がどうなるか容易に想像できるわ」
「……」
「合ってんでしょ?俺の想像通りで」
「…あー…多分合ってんな」
「ははっ」

奏太が行きたがってんなら、天馬にも是非温泉旅行を勧めたい。
浴衣と部屋に露天ついてたら尚良いぞ。

「慶の誕生日だったからさぁ…何かちょっと違った」
「あー、気持ちが?」
「そう」

慶の笑ってる顔が沢山見れたしさ。

「侑利がこんなんなるとはなぁ…マジで予想外」
「何だよ、こんなん、って」
「や、慶ちゃんと付き合ってから完全に腑抜けじゃん、あははっ」

腑抜けって……まぁ、確かに俺もビビってるわ。
一体どこまで好きになんだ、って思ってる。

今日がマックスで好きだと思っても、不思議な事に明日にはそれが更新されんだ。

「マジで自分に引く時ある」
「例えばどんな?」
「嫉妬深さ、独占欲、性欲。この3つ」
「あっはははは、面白れぇ」

いやいや、笑わそうとしてる訳じゃねぇんだよ。
簡潔に答えたのがハマったのか、天馬はしばらく笑ってた。

「あぁ、そう言えばさ、」
「ん?」

唐揚げ定食を半分ほど食べた所で、ふと頭に過った。

「俺の推測でしかねぇけど…」
「うん」
「前に、慶が職場でケガしたじゃん」
「あー、巻き添え食らったやつね」
「そうそう。その慶が居るとこのリーダー」
「うん、」
「…多分、慶の事狙ってる」
「ブッ、」

天馬が飲んでた水を吹きそうになって堪えた。
めっちゃ咽てる。

「大丈夫か?」
「ゴホッ、あぁ、ちょっと、ビックリしたわ」

前触れなく言ったからな。

「え、前に、そこまで送って来てたって人?」
「そう」
「え、マジで?何でそう思うんだよ」
「何か、休憩時間合わせて来てるらしいし、いつも慶にだけ飲み物奢るらしいし、この前は慶が旅行で連休取ってたら、誕生日のプレゼントだっつって、前日にわざわざ渡して来てさ、」
「え、それ、狙ってんな、確かに」

やっぱり、そう思うだろ?

「プレゼントって何だったの」
「あー、それは普通。コーヒーとクッキーのセット」

ふ~ん、とか、はぁ~、とか言いながら、天馬が聞いてる。

「今度、会社の忘年会あんだって」
「え、慶ちゃん行くの?」
「慶も含めた新人の歓迎会も兼てるらしくてさ、出て良いか聞かれたけど…歓迎会兼てるって言われたら、何か止めろって言えなくてさ……今日、参加のとこにマルつけたってさっきLINE入ってた」

彼氏としては、行って欲しくねぇけどな。

「…で、落ち着かない訳だな」
「そ」

しばし沈黙で唐揚げ定食を食べる。


「んあーっ、やっぱちょっと嫌だわ、俺も」

静かに食ってると思ったら考えてたんだな…

「俺がお前の立場でも、やっぱ嫌だな、それ」
「だろ?」
「知らねぇ奴だしね」
「それ」
「どんな奴か分かんねぇし」
「そう」
「狙ってる奴が居るって分かってる忘年会に行かれると、何も手につかねぇな」
「な」

どれも同じ意見だよ。

「俺の心が狭い訳じゃねぇよな?」

天馬に聞いてみた。
負け組の同志だから。

「や、全くもって普通の感情だよ」
「お前ならそう言ってくれると思ってたわ」
「普通はそう思うだろ」
「…だからさ、とりあえず送迎する事にした」
「出た出た、独占欲」

楽しそうだな、お前…。
俺が悩んでんのが物珍しいんだろ、きっと。

定食の最後の一口をかき込む。

「これは普通の感情じゃねぇの?」
「……ま、普通だな」
「ほら見ろ」

天馬の頭を小突いてやる。


「侑利~、お客さんが呼んでる~」

巴流が呼びに来た。

「誰だろ、ちょっと行って来るわ」
「おー」

天馬がひらりと手を振る。
俺を呼ぶような客って誰だ。

フロアに出てみると、巴流に示された先に男が立ってた。

目が合うと、少し離れた位置から軽くこちらへお辞儀をする。
……知らねぇけど……とりあえず、行ってみるか。

俺は、その男の方へ歩いた。

大学生……くらいかな。
爽やか、って感じの。

でも、全く知らねぇ奴だけど……。


「あの、」

先に声を発したのは相手。

「俺、新堂翔真って言います。ここに、よく来てる小田切光の友達です」

はぁ、なるほど、光の友達ね。

「あぁ、光くんの」

俺がそう言うと、一瞬、ソイツが警戒した感じの表情を浮かべた。
しかし、光の友達が俺に何の用だよ。


「光の事、遊びですか」


唐突にソイツはそう言った。

「…え、?」

俺にしてみたら、全くのハテナだ。
遊びですか、って言われても……


「付き合ってる人が居るんですよね?…だったら、中途半端に光に優しくしないで下さい」


新堂翔真は俺を見据えてそう言った。

何か……どこかで情報が歪んでる感じだな、これは。


「あいつが泣いてるの、何度も見ました」


え…。


「あいつがあんたを好きだって知ってんでしょ?」


それは……知ってるけど…。


「もし、遊んでんだったら、俺、黙ってられませんから」


何がどうなったんだよ…。
翔真はずっと、俺を凝視。

「次あいつがあんたの事で泣いてたら……俺、あんたをぶっ飛ばしに来ますから」
「あのさぁ、」

遮るように声を発した俺を、翔真が睨む。

「俺は光くんに対して、特別に優しくしてるつもりはないけど。…それに、遊んでるつもりもねぇよ」

俺は遊んでるほど暇じゃねぇ。


「…だけど、光は泣いてんだ」


……そう言われても……困るんだけど…。


「…俺に、どうしろっての?」

お前の望みは何なんだよ。
確かに、光は俺を好きだと言ったけど……それは、俺が口説いた訳でも、そう言わせた訳でもない。

泣く事も…あるのかも知れねぇけど……
俺がそれ聞いて、どうすりゃ良いんだよ。


「光を泣かすな。…それだけ」


きっとコイツは光の事が好きで、感情のままにここに来たんだろう。
言いたい事もまとまってないけど……とにかく、光が泣かないようにしたくて必死なんだ。

好きな奴の泣いてる顔見たくないのは、俺も同じだけどさ。

翔真は見据えていた視線をフッと反らした。


「今日来たのは、俺が勝手にやった事だから。光には関係ないから」


それだけ言うと、翔真はそのまま去って行った。


何か、一歩的に言われた感がすげぇけど……。

光が泣いてる理由になってしまってるのは、きっと事実だろう…。
そう思うと…何も言えなかった。





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