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第八章 さけたなか 湯けむりはれる 魔界旅
第136話 心のせんたく
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その後は、
「せっかく集まったんだし、皆でメシに行こうぜ!」
というホムラの宣言に従い、元いた温泉街へと転移して三人で昼食を食べた。
お店はホムラ行きつけで、大盛りでおいしいと評判だとのことだ。
温泉関連の料理はなかったけど、ホムラの言う通り、ここの料理もすごくおいしかったな。
そして食事後、マオはこの後も色々と予定があるとのことで、お互いが連絡できるようリンフォンの魔力を交換して別れた。
「……なあ、ホムラ。マオって、かなり忙しそうにしてるけど、俺の試練を手伝ってもらって大丈夫なのか?」
「それなら問題ないぜ。ああ、人間界からの客を案内している時は無理だが、そんなに頻度も多くないし、別の魔族が案内することもあるからな。だから、忙しい日はそんなにないはずだぜ」
「あれ? 案内以外にも、色々な仕事がある感じだったけど、そっちは?」
「ああ、それはな。あいつが勝手に手伝ってる、ってことが多いんだ。困っていそうな魔族を見つけては、手伝うっすよ、とか言ってな。それと、あいつは知り合いも多いから、手伝いが必要そうな魔族の情報が大量に集まるらしいぜ」
「……それ、場合によっては相手の迷惑になったりしないか?」
「ああ、最初はそうだったぜ。けど、色々と経験して行くことで、本当に手伝いが必要かを見極められるようになってな。今じゃ、色んな魔族がありがたがってるらしいぜ。……昔は、またあのバカが問題を起こしやがったか、って感じで、オレがよく尻拭いしたのが懐かしいぜ」
なんて、ホムラがしみじみと言った。
……手がかかる子ほどかわいい、なんていうけど、ホムラにとってはマオがそんな感じだったんだろうな。
◇
その後は、ホムラが俺に何かやりたいことはあるか? と聞いてきたので、昨日入った温泉とは別の源泉を使った温泉に入りたい、と希望してみた。
そしたら、どうせなら色々な風呂があった方がいいだろ? と、何種類も温泉がある施設に案内してもくれた。
普通の温泉だけでも色々な効能な温泉があったが、砂風呂や岩風呂などもあって、水に入れない魔族も療養できるように工夫しているとのことだった。
……かなりの高温になっている蒸し風呂、なんてのもあったけど、流石に入らなかった。
ちなみにホムラは、
「風呂ってのは、一日の終わりに入るもんだろ? オレはこの辺で適当に時間をつぶしてるから、のんびり入ってきな!」
と言って、俺の案内をした後は建物の周辺で待ってくれるようだった。
けど、想像以上に色々なお風呂があったので、時間を忘れて堪能してしまった。
まあ、おかげで色々な汚れとか疲れとかが、きれいさっぱりしたけどさ。
のんびり入ってきな、と言われたけど、流石に待たせ過ぎたよな……、と思いながら建物を出ると、そこでは
「残念だったな、コアががら空きだぜ! ……ふう。流石に連戦となると疲れてくるな」
と、ゴーレムファイトをしているホムラと対戦相手の魔族、それと、周囲を囲う魔族が何十人もいた。
……ちょっとびっくりしたけど、ホムラもホムラで楽しんでいたみたいだから、よかったかな?
その後は俺もゴーレムファイトに巻き込まれたけど、何だかんだと楽しくなってきて、気づけば宿へと戻る時間まで遊んでしまった。
観光はしなかったけど、色々な魔族と仲良くなれたし、これはこれでよかったな。
現地の人との交流、っていうのも、旅行の醍醐味だと思うしな、うん。
……まあ、明らかにリザードマンではない、療養に来ていたであろう魔族もいっぱいいたけどな。
◇
そして次の日、リューナに定期連絡をしたホムラから、
「……昨日の夜、連絡した時もそうだったんだが、早く帰って来てほしそうな雰囲気が伝わってきたぜ。……なあハクト、すまんが今日は早く帰ってらねぇか? 言ってくれりゃあまた案内するし、今度はリューナを連れて来てもいいしな」
とのことだったので、お土産を買って帰ることにした。
昨日、イズレと一緒に見て回ったから、ある程度目星がついてるからな。
……あ、リューナにも忘れず買って行かないと。
旅行の時はいつも一緒にいたから、ちょっと忘れそうになってしまった。
そしてホムラにお礼を言い、俺の家予定にある転移門に転移の魔道具で帰って来た。
さて、ホムラもああ言ってたし、旅行から帰って来たことをリューナに連絡しないとな、なんて思いながら外に出ると、リューナが待ってた。
……まさか、今日はずっとここで待っているつもりだった、とかじゃないよね?
「あ、えっと、リューナ。おはよう」
「おはようございます。……先ほど、ホムラさんから連絡がありましたので、こちらで待っていました」
「あ、そうだったんだ」
……よかった。
「そうだ! せっかくだし今渡しちゃおうかな。はい、これお土産」
と、さっき買ったばかりのお土産をリューナに手渡した。
……転移したのもあって、お土産というかお使いで買ってきた、みたいな感覚になるな。
あ、内容としては、湯の花とか、温泉から生成した塩とか、無難な感じだ。
「ありがとうございます」
お土産を受け取ったリューナは、収納の魔法でしまうと、こちらに向き直った。
そして、口を開いては何かを言い淀む、といったことを繰り返し、
「あの、ハクト様。……私の予想が間違っていなければ、魔王、と呼ばれていた魔族に会いませんでしたか?」
それを聞いた俺は、思わず目を見開いた。
とっさに言うべきか誤魔化すべきかを考えたが、さっきの態度でバレてるか、と思い直し、正直に話すことにした。
「……ああ、マオに、元魔王に会ったよ」
「……彼女にも、名前をつけたのですね」
あ、しまった。
……自分から、そこまでバラしてしまった。
「あ、いえ、気にしないでください。ハクト様は、知り合った魔族に名前をつけるのが趣味ですものね」
「いや、ちがうよ!? 必要があったからつけてるだけで、趣味ではないからな!」
「ふふっ、冗談です。……けど、そうですか。彼女は”マオ”という名前なのですね。……どうしてそのような名前になったか、聞いてもよいでしょうか?」
「それはもちろん。とは言っても、単純なんだけどな。俺の世界では”まおう”っていうのが魔王って意味で、そこから一文字とって、マオ、っていう名前なんだ」
「魔王、から一文字とって、ですか。……私の、龍に一文字足した名前とは逆、なのですね」
ああ、そこもリューナに気づかれてしまった。
焦りつつも、名前をつけたときの状況を説明しつつ、俺としてはそんな意図がなかったことを説明した。
「あ、すみません。別に嫌、というわけではないのです。ただ、彼女と私は対照的だ、などと昔はよく言われまして、それを懐かしく思ったのです。……ハクト様、お話を聞いていただいてもいいですか?」
「もちろん。俺は一応、リューナの上司、的なやつだしな」
「……ありがとうございます」
そして、リューナがぽつぽつと語り始めた。
ヒカリがとても慌てているのを、初めて見たこと。
その原因がマオにあると聞いたこと。
そして、マオが人間界に勝手に乗り込んだこと。
それらの情報を一度に聞いたリューナは、冷静さを失ってしまい、そのような最中で、マオからの的外れな言葉ばかりを聞いてしまい、完全に感情的になってしまった。
「……ですが、今思えば、ただ嫉妬していただけなのかもしれません。……私が先に、魔界とは違う世界に、人間界に一番乗りしてみたかった。そして、その世界で力を示し、多くの人をまとめる立場になれば、ヒカリさんに認められるかも、と。……だから、私ではなく、彼女が先に人間界を見つけ、そこで失敗してしまったことで、もしも私だったら上手くできたのに、と、どこかで考えていたのだと思います」
……そっか。
リューナは冷静なことが多いし、基本的には真面目な印象だから、その当時マオのやらかしたことが、ただ許せなかったのだと思ってた。
だけど、そうじゃなかったんだな。
……まあでも、そうだよな。
リューナはかっこいい物が好きだし、最近では冗談を言うし、お酒を飲むと口調が変わるみたいと、他にも色々な面を持っているんだよな。
「……それじゃあ今は、マオについてどう思っているんだ?」
「……そうですね。少し前までは、それでも許せない感情が残っていたと思います。ですが、ハクト様と出会い、様々な方と交流することで、それもなくなりました」
「それは、どうしてだ?」
「まずは、自分なら上手くできたかも、といった考えが無くなったことです。……人間族の方々と交流したことで、当時の自分では彼らを上手くまとめるなんて、とてもできないと思いました。……そして何より、様々な方と仲良くしているハクト様を見ていて、憧れを抱いたからです」
「ええと、憧れ? ……むしろ、情けない姿ばっかり見せてた気がするけど」
「そうですね――あ、いえ、その。……こほん。ハクト様は、種族や立場など関係なく、様々な方と友好な関係を築いています。それだけでなく、そうした方々が困っていれば助けようと考え、そして、そうしたハクト様に様々な方が力を貸してくれる、そういった存在だと思います」
「……それは、この世界に来て、そういった人たちと多く出会えたからなんだ」
本当にな。
……変わったところもあるけど、俺にはもったいないくらい、いい人たちばかりだ。
「……もしかしたら、そうなのかもしれません。ですが、少なくとも私にはそう見えたのです。そして、そんなハクト様を見て、彼女、マオへの許せないという感情が、完全になくなりました。……それを許せない自分が、とても矮小に思えたのです」
「……そっか。実はな、マオが俺の試練に協力したい、って言ってくれたんだ。というか、マオと会ったのはそれが一番の目的だったんだ。だから、えっと、その……」
「ええ。彼女が許してくれるのであれば、マオと仲直りして、ハクト様の試練を一緒に手伝いたいと、そう思います。……ただ、その。一人で会うのは中々勇気が出ず、可能であれば。同行していただきたいのですが……。ああ、いえ、無理に――」
リューナが言い終わる前に、
「もちろん!」
と、そう強く宣言した。
◇
その後は、リューナと旅行の話で盛り上がったのだが……、
「そういえば今回の旅行なのですが、お金を渡していませんでした。……大丈夫でしたでしょうか?」
「え? ……あ、そういえば今回のお金、全部ホムラが払ってた! 後で返さないと!」
最近は俺のお金をリューナが管理してくれてたから、すっかり忘れてた。
うん、次に会った時に払わなければな。
とはいえ、簡単には受け取ってもらえなさそうだし、対策を考えておかないと。
……情けないけど、リューナに相談しようかな。
そして、そんな俺の様子を見ていたリューナは、どこか晴れやかで、楽しそうな表情をしていた。
______________________________________
これにて第八章完結です! ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
「せっかく集まったんだし、皆でメシに行こうぜ!」
というホムラの宣言に従い、元いた温泉街へと転移して三人で昼食を食べた。
お店はホムラ行きつけで、大盛りでおいしいと評判だとのことだ。
温泉関連の料理はなかったけど、ホムラの言う通り、ここの料理もすごくおいしかったな。
そして食事後、マオはこの後も色々と予定があるとのことで、お互いが連絡できるようリンフォンの魔力を交換して別れた。
「……なあ、ホムラ。マオって、かなり忙しそうにしてるけど、俺の試練を手伝ってもらって大丈夫なのか?」
「それなら問題ないぜ。ああ、人間界からの客を案内している時は無理だが、そんなに頻度も多くないし、別の魔族が案内することもあるからな。だから、忙しい日はそんなにないはずだぜ」
「あれ? 案内以外にも、色々な仕事がある感じだったけど、そっちは?」
「ああ、それはな。あいつが勝手に手伝ってる、ってことが多いんだ。困っていそうな魔族を見つけては、手伝うっすよ、とか言ってな。それと、あいつは知り合いも多いから、手伝いが必要そうな魔族の情報が大量に集まるらしいぜ」
「……それ、場合によっては相手の迷惑になったりしないか?」
「ああ、最初はそうだったぜ。けど、色々と経験して行くことで、本当に手伝いが必要かを見極められるようになってな。今じゃ、色んな魔族がありがたがってるらしいぜ。……昔は、またあのバカが問題を起こしやがったか、って感じで、オレがよく尻拭いしたのが懐かしいぜ」
なんて、ホムラがしみじみと言った。
……手がかかる子ほどかわいい、なんていうけど、ホムラにとってはマオがそんな感じだったんだろうな。
◇
その後は、ホムラが俺に何かやりたいことはあるか? と聞いてきたので、昨日入った温泉とは別の源泉を使った温泉に入りたい、と希望してみた。
そしたら、どうせなら色々な風呂があった方がいいだろ? と、何種類も温泉がある施設に案内してもくれた。
普通の温泉だけでも色々な効能な温泉があったが、砂風呂や岩風呂などもあって、水に入れない魔族も療養できるように工夫しているとのことだった。
……かなりの高温になっている蒸し風呂、なんてのもあったけど、流石に入らなかった。
ちなみにホムラは、
「風呂ってのは、一日の終わりに入るもんだろ? オレはこの辺で適当に時間をつぶしてるから、のんびり入ってきな!」
と言って、俺の案内をした後は建物の周辺で待ってくれるようだった。
けど、想像以上に色々なお風呂があったので、時間を忘れて堪能してしまった。
まあ、おかげで色々な汚れとか疲れとかが、きれいさっぱりしたけどさ。
のんびり入ってきな、と言われたけど、流石に待たせ過ぎたよな……、と思いながら建物を出ると、そこでは
「残念だったな、コアががら空きだぜ! ……ふう。流石に連戦となると疲れてくるな」
と、ゴーレムファイトをしているホムラと対戦相手の魔族、それと、周囲を囲う魔族が何十人もいた。
……ちょっとびっくりしたけど、ホムラもホムラで楽しんでいたみたいだから、よかったかな?
その後は俺もゴーレムファイトに巻き込まれたけど、何だかんだと楽しくなってきて、気づけば宿へと戻る時間まで遊んでしまった。
観光はしなかったけど、色々な魔族と仲良くなれたし、これはこれでよかったな。
現地の人との交流、っていうのも、旅行の醍醐味だと思うしな、うん。
……まあ、明らかにリザードマンではない、療養に来ていたであろう魔族もいっぱいいたけどな。
◇
そして次の日、リューナに定期連絡をしたホムラから、
「……昨日の夜、連絡した時もそうだったんだが、早く帰って来てほしそうな雰囲気が伝わってきたぜ。……なあハクト、すまんが今日は早く帰ってらねぇか? 言ってくれりゃあまた案内するし、今度はリューナを連れて来てもいいしな」
とのことだったので、お土産を買って帰ることにした。
昨日、イズレと一緒に見て回ったから、ある程度目星がついてるからな。
……あ、リューナにも忘れず買って行かないと。
旅行の時はいつも一緒にいたから、ちょっと忘れそうになってしまった。
そしてホムラにお礼を言い、俺の家予定にある転移門に転移の魔道具で帰って来た。
さて、ホムラもああ言ってたし、旅行から帰って来たことをリューナに連絡しないとな、なんて思いながら外に出ると、リューナが待ってた。
……まさか、今日はずっとここで待っているつもりだった、とかじゃないよね?
「あ、えっと、リューナ。おはよう」
「おはようございます。……先ほど、ホムラさんから連絡がありましたので、こちらで待っていました」
「あ、そうだったんだ」
……よかった。
「そうだ! せっかくだし今渡しちゃおうかな。はい、これお土産」
と、さっき買ったばかりのお土産をリューナに手渡した。
……転移したのもあって、お土産というかお使いで買ってきた、みたいな感覚になるな。
あ、内容としては、湯の花とか、温泉から生成した塩とか、無難な感じだ。
「ありがとうございます」
お土産を受け取ったリューナは、収納の魔法でしまうと、こちらに向き直った。
そして、口を開いては何かを言い淀む、といったことを繰り返し、
「あの、ハクト様。……私の予想が間違っていなければ、魔王、と呼ばれていた魔族に会いませんでしたか?」
それを聞いた俺は、思わず目を見開いた。
とっさに言うべきか誤魔化すべきかを考えたが、さっきの態度でバレてるか、と思い直し、正直に話すことにした。
「……ああ、マオに、元魔王に会ったよ」
「……彼女にも、名前をつけたのですね」
あ、しまった。
……自分から、そこまでバラしてしまった。
「あ、いえ、気にしないでください。ハクト様は、知り合った魔族に名前をつけるのが趣味ですものね」
「いや、ちがうよ!? 必要があったからつけてるだけで、趣味ではないからな!」
「ふふっ、冗談です。……けど、そうですか。彼女は”マオ”という名前なのですね。……どうしてそのような名前になったか、聞いてもよいでしょうか?」
「それはもちろん。とは言っても、単純なんだけどな。俺の世界では”まおう”っていうのが魔王って意味で、そこから一文字とって、マオ、っていう名前なんだ」
「魔王、から一文字とって、ですか。……私の、龍に一文字足した名前とは逆、なのですね」
ああ、そこもリューナに気づかれてしまった。
焦りつつも、名前をつけたときの状況を説明しつつ、俺としてはそんな意図がなかったことを説明した。
「あ、すみません。別に嫌、というわけではないのです。ただ、彼女と私は対照的だ、などと昔はよく言われまして、それを懐かしく思ったのです。……ハクト様、お話を聞いていただいてもいいですか?」
「もちろん。俺は一応、リューナの上司、的なやつだしな」
「……ありがとうございます」
そして、リューナがぽつぽつと語り始めた。
ヒカリがとても慌てているのを、初めて見たこと。
その原因がマオにあると聞いたこと。
そして、マオが人間界に勝手に乗り込んだこと。
それらの情報を一度に聞いたリューナは、冷静さを失ってしまい、そのような最中で、マオからの的外れな言葉ばかりを聞いてしまい、完全に感情的になってしまった。
「……ですが、今思えば、ただ嫉妬していただけなのかもしれません。……私が先に、魔界とは違う世界に、人間界に一番乗りしてみたかった。そして、その世界で力を示し、多くの人をまとめる立場になれば、ヒカリさんに認められるかも、と。……だから、私ではなく、彼女が先に人間界を見つけ、そこで失敗してしまったことで、もしも私だったら上手くできたのに、と、どこかで考えていたのだと思います」
……そっか。
リューナは冷静なことが多いし、基本的には真面目な印象だから、その当時マオのやらかしたことが、ただ許せなかったのだと思ってた。
だけど、そうじゃなかったんだな。
……まあでも、そうだよな。
リューナはかっこいい物が好きだし、最近では冗談を言うし、お酒を飲むと口調が変わるみたいと、他にも色々な面を持っているんだよな。
「……それじゃあ今は、マオについてどう思っているんだ?」
「……そうですね。少し前までは、それでも許せない感情が残っていたと思います。ですが、ハクト様と出会い、様々な方と交流することで、それもなくなりました」
「それは、どうしてだ?」
「まずは、自分なら上手くできたかも、といった考えが無くなったことです。……人間族の方々と交流したことで、当時の自分では彼らを上手くまとめるなんて、とてもできないと思いました。……そして何より、様々な方と仲良くしているハクト様を見ていて、憧れを抱いたからです」
「ええと、憧れ? ……むしろ、情けない姿ばっかり見せてた気がするけど」
「そうですね――あ、いえ、その。……こほん。ハクト様は、種族や立場など関係なく、様々な方と友好な関係を築いています。それだけでなく、そうした方々が困っていれば助けようと考え、そして、そうしたハクト様に様々な方が力を貸してくれる、そういった存在だと思います」
「……それは、この世界に来て、そういった人たちと多く出会えたからなんだ」
本当にな。
……変わったところもあるけど、俺にはもったいないくらい、いい人たちばかりだ。
「……もしかしたら、そうなのかもしれません。ですが、少なくとも私にはそう見えたのです。そして、そんなハクト様を見て、彼女、マオへの許せないという感情が、完全になくなりました。……それを許せない自分が、とても矮小に思えたのです」
「……そっか。実はな、マオが俺の試練に協力したい、って言ってくれたんだ。というか、マオと会ったのはそれが一番の目的だったんだ。だから、えっと、その……」
「ええ。彼女が許してくれるのであれば、マオと仲直りして、ハクト様の試練を一緒に手伝いたいと、そう思います。……ただ、その。一人で会うのは中々勇気が出ず、可能であれば。同行していただきたいのですが……。ああ、いえ、無理に――」
リューナが言い終わる前に、
「もちろん!」
と、そう強く宣言した。
◇
その後は、リューナと旅行の話で盛り上がったのだが……、
「そういえば今回の旅行なのですが、お金を渡していませんでした。……大丈夫でしたでしょうか?」
「え? ……あ、そういえば今回のお金、全部ホムラが払ってた! 後で返さないと!」
最近は俺のお金をリューナが管理してくれてたから、すっかり忘れてた。
うん、次に会った時に払わなければな。
とはいえ、簡単には受け取ってもらえなさそうだし、対策を考えておかないと。
……情けないけど、リューナに相談しようかな。
そして、そんな俺の様子を見ていたリューナは、どこか晴れやかで、楽しそうな表情をしていた。
______________________________________
これにて第八章完結です! ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
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