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01. 婚約と婚約者の兄
3万文字弱の短編になります。
流血シーンのある回は、前書きに注意書きがあります。
________________
「錆なんかが……」
忌々しそうな口調でフィオンが呟いた。
「エインもあんなヤツ見てたら目が腐るぞ。王子の目に入れる価値なんかない」
黙っていると、更に言葉を重ねた。
フィオンは俺を第二王子として見るが、おもねったりしないところに好感が持てる。
とはいえ少々、口が過ぎるところは否めない。
話の後半を聞き流しながら目線の先を追うと、赤毛を表現したのだろう、言い得て妙なほど赤錆のような色の髪が生垣の向こうから見え隠れしていた。
こちらに来ようと思って、フィオンの姿を見て立ち止まったのだと、手に取るようにわかる。
マクウィラン侯爵家の兄妹は不仲だ。
どちらかといえば兄のフィオンが一方的に妹のディアドラを毛嫌いしているようだったが。
嫌う理由は容姿。
この国の貴族に一番多い色は金髪碧眼。次いで茶色の髪だけど、金茶に近い明るい色が多い。反対に平民は焦げ茶が一番多かった。ディアドラの髪は赤茶色だ。平民に多い色を持つせいで、フィオンには卑しく映るのだろう。
身内は時として他人以上に辛辣な評価を下す。
「妹に酷いこと言うなあ」
侯爵家の長男なんだから、もうちょっと身分を考えて言葉を選べば良いのに。
「あいつなんかとは血が繋がってない。再婚だからな」
フィオンは、俺の心を見透かしたように言い切った。「俺たちは血が繋がってない」と。
顔が似てないとは初対面で思った。
まさか母親違いでさえない義理の兄妹だったとは。
侯爵は金髪碧眼、夫人は金茶色の髪に翠の瞳。子供たちも長男のフィオンと、次女でディアドラの三歳年下の妹が金髪碧眼。一人だけが異質な色をまとう。
フィオンは自分と同じ色を持つ下の妹のことは可愛がっている。兄として薄情ではないのだろう。
もしかしたら身体が弱く、ちょっとしたことですぐに寝込むから、つい気に掛けるだけかもしれないが。
だからと言って九歳にもなって感情も露わに罵るのは貴族的ではないと思うけど。一歳しか違わないとは思えないほど、フィオンは子供っぽかった。
彼の同い年の妹ディアドラの方がまだ大人っぽい。
女の子の方が成長が早いからなのか、家族の中で一人浮いた存在だからなのか、早く大人にならなくては自分を守れないのかはわからないが。
「まあほどほどにしとけよ」
言動を改める気がなさそうな友人に、形ばかりの忠告を行った。
侯爵は事なかれ主義というか、諍いを嫌う人だ。兄妹でいがみ合うのを見たくはないだろう。
夫人は実家が公爵家とはいえ後妻。前妻が亡くなる以前からの付き合いなのは、末子でありフィオンやディアドラの妹リリアスの容姿から一目瞭然だ。ディアドラの母がいくら子爵家の出身だとはいえ醜聞がつきまとう。自身の父と次期当主の弟が外交官として国外に出ている今、頼れるのは夫しかいない弱い立場だった。
――四年後。
十四歳になった俺はディアドラと婚約した。
この国の貴族と王族の子女に、入学が義務付けられた高等学院の学生になる前に、俺の後見を決めておきたい王族側の理由と、名門侯爵家の令嬢に悪い虫がつかないようにという、双方に利益のある婚姻。
側妃から生まれた第二王子である俺は後ろ盾が弱い。
母上は伯爵家の出身である。正妃から生まれた第一王子を含め王子、王女の仕度はすべて母の実家を頼るのが、この国では一般的だから、生まれながらにして俺は厳しい環境に置かれていた。
正妃と兄上の婚約者、マクウィラン家は同じ侯爵位。家格や資産、権力もほぼ同等。
その中で側妃である母だけが伯爵家出身。裕福とはいえ侯爵家のように王家に嫁した娘の体面を維持し続けられるほどのものではない。
公爵家に年の合う令嬢はおらず既に全員既婚という時点で、侯爵令嬢のディアドラは条件だけで言えば国内最高の結婚相手なのだ。
そして立太子するのは第一王子とは限らず、未だ王太子は空位。
俺が侯爵家の令嬢と婚約すれば、兄上と条件は互角になる。という訳でなされた縁組だった。
しかもディアドラと生さぬ仲とはいえ、マクウィラン侯爵家の第一夫人はアトリナム公爵の妹であり、後ろ盾としては十分過ぎる。
四年経ちディアドラの赤茶色の髪は一層、赤味が強くなった。かつてフィオンが言った通り赤錆にしか見えない。鈍色の瞳も色が濃くなり無機質さに拍車がかかった。
硬質な色の髪と瞳。特に髪は朽ちた鉄。
どうしても憂鬱な気分になるのだ。結婚すれば常に横に並ぶ存在で、疎ましく思っても離れられなくなることが。
しかしマクウィラン侯爵家の後見は重要だった。
次期当主のフィオンを側近にするのは当然だが、王子妃として掌中に収めるのもまた必要なこと。絶対に失くす訳にはいかない。
王族、特に継承争いに参戦している王子が、好悪の感情だけで動くのは下策。
「学院生活を楽しむな、とは言われてないだろ? 上手くやれば良いんだよ」
俺の心を見透かしたようにフィオンがニヤリと笑う。
「派手なことをせず、瑕疵とまで言われない程度に遊べば良いんだよ。固く考えるな」
「ヒドい兄だな」
顔を見合わせ、互いに「悪いヤツだ」と言い合う。
思ってたのとは違う、楽しい学院生活になるなと思いながら……。
「ディアドラを大切にするように」
「もちろんです。婚約者を蔑ろにするような真似はしていません」
母からは事あるごとに言われている。
そして嘘は言っていない。
手紙は筆不精という理由をつけてあまり書いていないとはいえ、最低限の季節の挨拶くらいは送っている。
誕生日だとか折々の贈り物だって欠かしていない。商人を呼んで物を選ぶのは俺だし、添えるカードも俺の手書きだ。
ちょっとした手間で足元を掬われるのは御免だった。
顔合わせの場だって定期的に設けている。婚約者と二人きりではなく、リリアスの四人でだ。微妙にディアドラが話に交じれないような話題ではあるが、一応話を振ることも忘れていない。鈍くて会話に加われないと思わせるような感じの雰囲気に持っていくのは、俺一人では難しいがフィオンと二人なら上手くやれた。
半年もすればリリアスも俺たちと同じように、ディアドラが愚鈍なのが悪いと話を合わせるようになってきた。
外出時も同じ。
婚約者とはいえまだ学生の身だから、節度ある交際をしたい。そのため兄妹も交えていると言えば角も立たなかった。
ディアドラにとって面白くない時間だろうが、こちらの非を責められるようなヘマはしなかった。本当は昔のフィオンのように髪色を揶揄ってやりたかったが我慢する。身内ですら分別のつく年ごろになって、言動を考えるようになった。
ただの婚約者でしかない他人が言うには、憚れるような言葉の数々は控えた。
あくまで婚約者とその兄妹を交えた楽しいひと時でなくてはならない。
二人きりなら息が詰まるだけの茶会も、置物のように無言でその場にいるだけなら存在を忘れて三人で楽しめる。
学院だって同じだ。
女子生徒と遊ぶのが楽しくて何人も侍らしたが、しかし二人きりで会うなんて真似はしない。
常に同性の友人たちも含めた数人と一緒に。メンバーも毎回固定ではなく、たまには違った面子にしたり、男女同数ではないときもあるといった感じで。
適当さを装いつつも常に気を使っていた。
俺だけでなく参加者も皆、婚約者以外との男女交際を楽しみたいと思いつつも、醜聞を気にして保身に走っているような友人ばかりの構成だったから、人の目を気にしつつも疑似恋愛とグループ交際を楽しんでいる。
学院を卒業したら、貞淑な花嫁や愛妻家に変わる予定だ。
あくまで子供時代の楽しい遊びでなければならない。みんなも弁えていて一線を越えようとする愚か者がいなかったのも良かった。
流血シーンのある回は、前書きに注意書きがあります。
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「錆なんかが……」
忌々しそうな口調でフィオンが呟いた。
「エインもあんなヤツ見てたら目が腐るぞ。王子の目に入れる価値なんかない」
黙っていると、更に言葉を重ねた。
フィオンは俺を第二王子として見るが、おもねったりしないところに好感が持てる。
とはいえ少々、口が過ぎるところは否めない。
話の後半を聞き流しながら目線の先を追うと、赤毛を表現したのだろう、言い得て妙なほど赤錆のような色の髪が生垣の向こうから見え隠れしていた。
こちらに来ようと思って、フィオンの姿を見て立ち止まったのだと、手に取るようにわかる。
マクウィラン侯爵家の兄妹は不仲だ。
どちらかといえば兄のフィオンが一方的に妹のディアドラを毛嫌いしているようだったが。
嫌う理由は容姿。
この国の貴族に一番多い色は金髪碧眼。次いで茶色の髪だけど、金茶に近い明るい色が多い。反対に平民は焦げ茶が一番多かった。ディアドラの髪は赤茶色だ。平民に多い色を持つせいで、フィオンには卑しく映るのだろう。
身内は時として他人以上に辛辣な評価を下す。
「妹に酷いこと言うなあ」
侯爵家の長男なんだから、もうちょっと身分を考えて言葉を選べば良いのに。
「あいつなんかとは血が繋がってない。再婚だからな」
フィオンは、俺の心を見透かしたように言い切った。「俺たちは血が繋がってない」と。
顔が似てないとは初対面で思った。
まさか母親違いでさえない義理の兄妹だったとは。
侯爵は金髪碧眼、夫人は金茶色の髪に翠の瞳。子供たちも長男のフィオンと、次女でディアドラの三歳年下の妹が金髪碧眼。一人だけが異質な色をまとう。
フィオンは自分と同じ色を持つ下の妹のことは可愛がっている。兄として薄情ではないのだろう。
もしかしたら身体が弱く、ちょっとしたことですぐに寝込むから、つい気に掛けるだけかもしれないが。
だからと言って九歳にもなって感情も露わに罵るのは貴族的ではないと思うけど。一歳しか違わないとは思えないほど、フィオンは子供っぽかった。
彼の同い年の妹ディアドラの方がまだ大人っぽい。
女の子の方が成長が早いからなのか、家族の中で一人浮いた存在だからなのか、早く大人にならなくては自分を守れないのかはわからないが。
「まあほどほどにしとけよ」
言動を改める気がなさそうな友人に、形ばかりの忠告を行った。
侯爵は事なかれ主義というか、諍いを嫌う人だ。兄妹でいがみ合うのを見たくはないだろう。
夫人は実家が公爵家とはいえ後妻。前妻が亡くなる以前からの付き合いなのは、末子でありフィオンやディアドラの妹リリアスの容姿から一目瞭然だ。ディアドラの母がいくら子爵家の出身だとはいえ醜聞がつきまとう。自身の父と次期当主の弟が外交官として国外に出ている今、頼れるのは夫しかいない弱い立場だった。
――四年後。
十四歳になった俺はディアドラと婚約した。
この国の貴族と王族の子女に、入学が義務付けられた高等学院の学生になる前に、俺の後見を決めておきたい王族側の理由と、名門侯爵家の令嬢に悪い虫がつかないようにという、双方に利益のある婚姻。
側妃から生まれた第二王子である俺は後ろ盾が弱い。
母上は伯爵家の出身である。正妃から生まれた第一王子を含め王子、王女の仕度はすべて母の実家を頼るのが、この国では一般的だから、生まれながらにして俺は厳しい環境に置かれていた。
正妃と兄上の婚約者、マクウィラン家は同じ侯爵位。家格や資産、権力もほぼ同等。
その中で側妃である母だけが伯爵家出身。裕福とはいえ侯爵家のように王家に嫁した娘の体面を維持し続けられるほどのものではない。
公爵家に年の合う令嬢はおらず既に全員既婚という時点で、侯爵令嬢のディアドラは条件だけで言えば国内最高の結婚相手なのだ。
そして立太子するのは第一王子とは限らず、未だ王太子は空位。
俺が侯爵家の令嬢と婚約すれば、兄上と条件は互角になる。という訳でなされた縁組だった。
しかもディアドラと生さぬ仲とはいえ、マクウィラン侯爵家の第一夫人はアトリナム公爵の妹であり、後ろ盾としては十分過ぎる。
四年経ちディアドラの赤茶色の髪は一層、赤味が強くなった。かつてフィオンが言った通り赤錆にしか見えない。鈍色の瞳も色が濃くなり無機質さに拍車がかかった。
硬質な色の髪と瞳。特に髪は朽ちた鉄。
どうしても憂鬱な気分になるのだ。結婚すれば常に横に並ぶ存在で、疎ましく思っても離れられなくなることが。
しかしマクウィラン侯爵家の後見は重要だった。
次期当主のフィオンを側近にするのは当然だが、王子妃として掌中に収めるのもまた必要なこと。絶対に失くす訳にはいかない。
王族、特に継承争いに参戦している王子が、好悪の感情だけで動くのは下策。
「学院生活を楽しむな、とは言われてないだろ? 上手くやれば良いんだよ」
俺の心を見透かしたようにフィオンがニヤリと笑う。
「派手なことをせず、瑕疵とまで言われない程度に遊べば良いんだよ。固く考えるな」
「ヒドい兄だな」
顔を見合わせ、互いに「悪いヤツだ」と言い合う。
思ってたのとは違う、楽しい学院生活になるなと思いながら……。
「ディアドラを大切にするように」
「もちろんです。婚約者を蔑ろにするような真似はしていません」
母からは事あるごとに言われている。
そして嘘は言っていない。
手紙は筆不精という理由をつけてあまり書いていないとはいえ、最低限の季節の挨拶くらいは送っている。
誕生日だとか折々の贈り物だって欠かしていない。商人を呼んで物を選ぶのは俺だし、添えるカードも俺の手書きだ。
ちょっとした手間で足元を掬われるのは御免だった。
顔合わせの場だって定期的に設けている。婚約者と二人きりではなく、リリアスの四人でだ。微妙にディアドラが話に交じれないような話題ではあるが、一応話を振ることも忘れていない。鈍くて会話に加われないと思わせるような感じの雰囲気に持っていくのは、俺一人では難しいがフィオンと二人なら上手くやれた。
半年もすればリリアスも俺たちと同じように、ディアドラが愚鈍なのが悪いと話を合わせるようになってきた。
外出時も同じ。
婚約者とはいえまだ学生の身だから、節度ある交際をしたい。そのため兄妹も交えていると言えば角も立たなかった。
ディアドラにとって面白くない時間だろうが、こちらの非を責められるようなヘマはしなかった。本当は昔のフィオンのように髪色を揶揄ってやりたかったが我慢する。身内ですら分別のつく年ごろになって、言動を考えるようになった。
ただの婚約者でしかない他人が言うには、憚れるような言葉の数々は控えた。
あくまで婚約者とその兄妹を交えた楽しいひと時でなくてはならない。
二人きりなら息が詰まるだけの茶会も、置物のように無言でその場にいるだけなら存在を忘れて三人で楽しめる。
学院だって同じだ。
女子生徒と遊ぶのが楽しくて何人も侍らしたが、しかし二人きりで会うなんて真似はしない。
常に同性の友人たちも含めた数人と一緒に。メンバーも毎回固定ではなく、たまには違った面子にしたり、男女同数ではないときもあるといった感じで。
適当さを装いつつも常に気を使っていた。
俺だけでなく参加者も皆、婚約者以外との男女交際を楽しみたいと思いつつも、醜聞を気にして保身に走っているような友人ばかりの構成だったから、人の目を気にしつつも疑似恋愛とグループ交際を楽しんでいる。
学院を卒業したら、貞淑な花嫁や愛妻家に変わる予定だ。
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