上 下
1 / 1

カーブミラー

しおりを挟む
「ここ、さっきも通らなかった?」

「バカな事を言うな!」

「でも、あのカーブミラー、さっきと同じよ。柱にお札が貼ってあるやつ……」

 L字通路を二つの鏡が、曲がり角の向こうと、二人のカップルがいる通路を映し出している。オレンジ色の柱は、赤い御札《おふだ》に埋め尽くされて赤い柱に見えた、御札に書いてある文字は見た事が無かった。
 霧がかかった住宅街は、コンクリートの塀に囲まれていて、家に入る出入口も無かった。コンクリートの壁が続く世界は、迷路に迷い込んだハムスターの様に二人を焦らせた。

「同じとは限らないだろ、相変わらず景色は変わらないし、人も居ないけど」

 二人が、カーブミラーの向こうに人が居ないのを確認して、L字通路を曲がる。

 小さな日本人形が歩いている、赤い着物に、割れた顔、腰まで伸びた黒い髪が揺れている。

 悲鳴をあげて、逃げていく二人は気付いていなかった、カーブミラーに、自分達も映っていなかった事を。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...