1 / 1
愛と迷子の狭間 1900字以内
しおりを挟む
「どうしたの僕?迷子になっちゃったのかな?」
「……」
デパートの案内所の前で、少年が小さく頷いた。幼稚園児くらいだろうか、もう秋だというのに、半袖の青いTシャツが寒そうだった。青いジーパンの上で小さな手を固く結んでいた。
今にも泣きそうだが、別に珍しいことではない。子供がおもちゃ売り場を冒険してる間に、少し自分の買い物をしてきちゃおう、なんて親は少なくないのだから。全く困ったもんだ。
「そっか、じゃあ、今お姉さんが、君のお母さん呼ぶからね、お名前教えてくれるかな?」
「……別に呼ばないでいい」
泣きそうな目を横に流していた。子供にとって、知らない人に助けを求めるのは難しい事なのかもしれない、このまま泣き始めたら名前を聞くのも大変になる。
「それ、じゃがいもマンでしょ?」
少年の手に人形が握られていた、じゃがいもから手足が生えただけのキャラクター。朝の五分番組でやってる。内容も意味が分からなすぎて私も好きだった。
「知ってるの?」
「うん、知ってるよ。かまってあげないと毒の芽が出て、危険なんだよね」
「そう!お姉さん知ってるんだ!」
ここで、その人形はお金払ったの?なんて、馬鹿なことは聞いたらいけない。振り出しに戻ってしまう、じゃがいもで友好度を上げたまま、さりげなく名前を聞いたら放送をかけて、親に引き取ってもらう。それが私の仕事。
「もちろん知ってるよ、君のママも、じゃがいもマンに会いたいかもよ?」
「……そんなことない」
はい、私の下手くそ。これだから子供は苦手なんだ、なんで私がおもちゃ売り場の近くの案内所に配属されたんだろう。若い子が来るメンズの服屋近くが良かった……
嘆いても仕方ない、なんとか切り抜けないと。
「私、君のママに会いたいなー。なんちゃって」
「ぼくも会いたい……」
もう下手くそな誘導尋問しか出来ないけど、結果オーライだ。さっさと呼び出して引き取ってもらおう。
「よし、じゃあ、君の名前は?」
「ゆうと」
「上の名前は?」
「なんだと思う?」
「う、うーん。田中?」
「鈴木」
「惜しかった。鈴木ゆうと君ね、ちょっと待っててね」
「……うん」
何が惜しかったのか自分でも分からないけど、とにかく親に早く来てもらわないと白髪が増えそうで困る。
「ご来店中のお客様に、迷子のお知らせを致します。青いTシャツに青いズボンをお召しになった、鈴木ゆうと君が四階サービスカウンターで、お連れ様をお待ちです。え?なに、うん。今呼んでるよ、あ、大変失礼致しました。お心当たりのお客様は、四階サービスカウンターまでお越し下さいませ」
あー、最悪だ。アナウンス中に話しかけられて、完全にコントになってしまった。絶対他の受付嬢にいじられる……
「ねえ、呼んだの?ママ来てくれる?」
「うん、もうすぐ来てくれるよ、待っててね」
何とか笑顔を保って対応出来た、私も大人になったものだ……
五分もせずに、ゆうと君の親が来た。
「ゆうと!」
「……」
「ゆうと君のお父様ですか?」
「はい!すみません、ご迷惑かけて」
平日の昼間に体格の良いおじさんが来て、私は少し驚いた。白い帽子に赤いシャツに黄ばんだジャンパー、しみのある茶色い顔は、もうお爺ちゃんに片足入ってる感じだった。
ゆうと君はうつむいたまま、こっちを向いていた。
「うそつき。ママ来ないじゃん」
私の眉間にしわが走りそうになる前に、横にいる父親が力強く、ゆうと君の両肩を掴んだ。
「ゆうと。いいか。ママは、もう居ないんだ。分かるだろ」
「……」
私は何も言えずに、ただ息子の目線に跪《ひざまず》く父親を見守っていた。
「それ、欲しいのか?」
「……」
ゆうと君は、唇を力ませて、涙を流しながら首を横に振った。
「……そうか、じゃあ帰りに元の場所に戻すんだぞ。すみません、ご迷惑おかけしました」
「あ、いや。迷惑だなんて、とんでもないです。ご利用ありがとうございました」
私は、ただ、ゆうと君の力強い拒否の首振りが眩しく見えた、許されるなら、私が買ってあげたい……
「ほら、行くぞ。ゆうと」
「……」
ゆうと君が泣きながら、こっちを見つめてきて、私まで泣きそうになった。
「……お姉さん、また来ていい?」
「うん、また来てね。ゆうと君を待ってるよ」
「……うん」
とぼとぼと歩き出したゆうと君の横で、父親が私に深くお辞儀をしてきた。エスカレーターから見えなくなっても、私は、彼らの事を考えていた。
ママは死んじゃったのかな。生きていてほしい。一時的に居ないという意味であってほしい。でも、あの父親の説得の仕方は……
アナウンスの失敗を上司に怒られながら、これからは、少し子供に優しくしよう。そう思った。また会いたいな、ゆうと君に。
「……」
デパートの案内所の前で、少年が小さく頷いた。幼稚園児くらいだろうか、もう秋だというのに、半袖の青いTシャツが寒そうだった。青いジーパンの上で小さな手を固く結んでいた。
今にも泣きそうだが、別に珍しいことではない。子供がおもちゃ売り場を冒険してる間に、少し自分の買い物をしてきちゃおう、なんて親は少なくないのだから。全く困ったもんだ。
「そっか、じゃあ、今お姉さんが、君のお母さん呼ぶからね、お名前教えてくれるかな?」
「……別に呼ばないでいい」
泣きそうな目を横に流していた。子供にとって、知らない人に助けを求めるのは難しい事なのかもしれない、このまま泣き始めたら名前を聞くのも大変になる。
「それ、じゃがいもマンでしょ?」
少年の手に人形が握られていた、じゃがいもから手足が生えただけのキャラクター。朝の五分番組でやってる。内容も意味が分からなすぎて私も好きだった。
「知ってるの?」
「うん、知ってるよ。かまってあげないと毒の芽が出て、危険なんだよね」
「そう!お姉さん知ってるんだ!」
ここで、その人形はお金払ったの?なんて、馬鹿なことは聞いたらいけない。振り出しに戻ってしまう、じゃがいもで友好度を上げたまま、さりげなく名前を聞いたら放送をかけて、親に引き取ってもらう。それが私の仕事。
「もちろん知ってるよ、君のママも、じゃがいもマンに会いたいかもよ?」
「……そんなことない」
はい、私の下手くそ。これだから子供は苦手なんだ、なんで私がおもちゃ売り場の近くの案内所に配属されたんだろう。若い子が来るメンズの服屋近くが良かった……
嘆いても仕方ない、なんとか切り抜けないと。
「私、君のママに会いたいなー。なんちゃって」
「ぼくも会いたい……」
もう下手くそな誘導尋問しか出来ないけど、結果オーライだ。さっさと呼び出して引き取ってもらおう。
「よし、じゃあ、君の名前は?」
「ゆうと」
「上の名前は?」
「なんだと思う?」
「う、うーん。田中?」
「鈴木」
「惜しかった。鈴木ゆうと君ね、ちょっと待っててね」
「……うん」
何が惜しかったのか自分でも分からないけど、とにかく親に早く来てもらわないと白髪が増えそうで困る。
「ご来店中のお客様に、迷子のお知らせを致します。青いTシャツに青いズボンをお召しになった、鈴木ゆうと君が四階サービスカウンターで、お連れ様をお待ちです。え?なに、うん。今呼んでるよ、あ、大変失礼致しました。お心当たりのお客様は、四階サービスカウンターまでお越し下さいませ」
あー、最悪だ。アナウンス中に話しかけられて、完全にコントになってしまった。絶対他の受付嬢にいじられる……
「ねえ、呼んだの?ママ来てくれる?」
「うん、もうすぐ来てくれるよ、待っててね」
何とか笑顔を保って対応出来た、私も大人になったものだ……
五分もせずに、ゆうと君の親が来た。
「ゆうと!」
「……」
「ゆうと君のお父様ですか?」
「はい!すみません、ご迷惑かけて」
平日の昼間に体格の良いおじさんが来て、私は少し驚いた。白い帽子に赤いシャツに黄ばんだジャンパー、しみのある茶色い顔は、もうお爺ちゃんに片足入ってる感じだった。
ゆうと君はうつむいたまま、こっちを向いていた。
「うそつき。ママ来ないじゃん」
私の眉間にしわが走りそうになる前に、横にいる父親が力強く、ゆうと君の両肩を掴んだ。
「ゆうと。いいか。ママは、もう居ないんだ。分かるだろ」
「……」
私は何も言えずに、ただ息子の目線に跪《ひざまず》く父親を見守っていた。
「それ、欲しいのか?」
「……」
ゆうと君は、唇を力ませて、涙を流しながら首を横に振った。
「……そうか、じゃあ帰りに元の場所に戻すんだぞ。すみません、ご迷惑おかけしました」
「あ、いや。迷惑だなんて、とんでもないです。ご利用ありがとうございました」
私は、ただ、ゆうと君の力強い拒否の首振りが眩しく見えた、許されるなら、私が買ってあげたい……
「ほら、行くぞ。ゆうと」
「……」
ゆうと君が泣きながら、こっちを見つめてきて、私まで泣きそうになった。
「……お姉さん、また来ていい?」
「うん、また来てね。ゆうと君を待ってるよ」
「……うん」
とぼとぼと歩き出したゆうと君の横で、父親が私に深くお辞儀をしてきた。エスカレーターから見えなくなっても、私は、彼らの事を考えていた。
ママは死んじゃったのかな。生きていてほしい。一時的に居ないという意味であってほしい。でも、あの父親の説得の仕方は……
アナウンスの失敗を上司に怒られながら、これからは、少し子供に優しくしよう。そう思った。また会いたいな、ゆうと君に。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる