辰巳 虚(うつろ)の”キョウセイ”捜査

秋津島 蜻蛉

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捜査行動01 「奇手」

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 明朝未明に女性の死体が川で発見された。
 河川敷を歩いていた一般市民の通報により警察が現場周辺を封鎖。
 身元は川の上流の大学に通う女子大生。
 死因は、
「溺死だそうです。抵抗の形跡無し。婦女暴行の形跡無し。薬物反応無し。これは水難事故、自殺、殺人、どれも断定出来ないそうです」
「あっそ」
 二十代前半のボブショートの女性刑事と、三十代手前の短髪の男性刑事が現場を見て状況を整理している。
「…辰巳さん。人が死んでるんですから、少しはシャンとしてください」
 小柄で見目麗しい女性刑事が、普段から態度を変えない男性刑事、辰巳に小言を刺す。
 辰巳は面倒くさそうに遺体発見場所の近くを見回している。
「んだってさぁ。ここから川上だけじゃなくて、周辺域全部が捜査範囲なんだよ。ここら辺にどれだけの人がいると思うよ? 亡くなった女の子が通ってた大学を洗って、ハイお終い。とはならないでしょう」
 身なりはしっかりとしている辰巳だが、背筋に力が入っていない。
 遺体が見つかった場所に手を合わせると踵を返してそこから離れようとする。
「ちょっと、辰巳さん! どこ行くんですか! これから課長もいらっしゃいますよ!」
「ホントあの人、偉いくせによく現場出てくるよね、シミズちゃん」
清水キヨミズです! ここはちゃんと辰巳さんから課長に説明してください!」
「悪いけど任せるよ。おやっさんには話しといて。俺は俺で手掛かり探してくるわ」
 ビシリと親指を立てウインクをする。容姿が整っているだけに、妙に絵になる。
 女性刑事、清水も、いつもの癖かと半ば諦めつつ去っていく辰巳に手を振っておく。
「さてと。初めに押さえておきたいところ、となると」

 そう言って、【辰巳たつみ うつろ】が捜査を開始する。



「ですので、その件はこれで手打ちとしました。今後あなたに難癖はつけないでしょう。何かあればご相談ください。ウチがお手伝いしましょう」
 そう言って男は通話を切った。 ”仕事”が一段落して息を吐く。事務所の棚からウイスキーの瓶を取り、高級なソファーに身体を預けてグラスに注ぐ。
 一杯口に付けようとした時、ドア越しから声が掛かる。
「…アニキ。お忙しいところすいません」
「間が悪ぃな。なんだってんだよ」
 さっきの電話越しとは打って変わり、横柄な態度を見せる。
「申し訳ありません。なんか、辰巳っていうサツが来てまして。『カシラに会わせろ』とか入口でゴネてまして…。うるさくてうるさくて」
 若干白髪の入った頭に手を当て、持っていたグラスをテーブルに置く。
「…本当に間が悪ぃんだよ。次から次へと」
 崩れたオールバックを直し、辰巳を通すよう促す。
 しばらくしてノックが鳴り、個室に辰巳が顔を出す。
「こんにちは、若頭。辰巳です」
「見りゃ分かるよ。何しに来た? ウチのシノギはアンタんとこに眼を付けられるようなもんじゃないだろ」
 グラスの酒を一気に飲み干し、持つ手の仕草で辰巳にも一杯を進める。
 勤務中だから、とジェスチャーして話を切り替える。
「別件ですよ。この辺で何か変なトラブルありませんでした? 特に女性がらみの」
 辰巳も若頭の対面に座る。
「…いや。ちょうど今、女関係の件を処理したところだ。ストーカー男を一人”分からせて”やったばかりだ」
「それは重畳、重畳」
 若頭の反応を見て辰巳も納得の頷きをする。
「これはまだ報道前だから、端から知らないなら問題ありません。実はこの辺の川の下流で女の子の遺体が上がりましてね。”本職”の方々が絡んでないなら、だいぶ絞られる。いやはや、ありがたい限りですわ」
「…なぁ、普通ウチに来る前にカタギの聞き込みするもんじゃねぇの?」
「普通の捜査なら、普通の警官がやればいいだけですよ。普通じゃない警官が、普通じゃないところに迅速に動いた方が、表が生きてくるんです」
「…俺らの稼業が言うことではないけど、アンタ相当イカレてるぜ」
「お褒めいただいたと、解釈します」
 褒めてねぇよ、と呆れつつグラスにウイスキーを注ぐ。
「この前の頂上作戦の時にウチのオヤジを外してくれたこと、本当に感謝してる。あれはアンタのおかげだ。でもそれを差し引いても、こんなに気軽に来るのはサツとしても面子が立たないんじゃねぇか?」
「言ったでしょう。”普通のことは普通の人に任せる”こちらの警部のおやっさんがツラ出してもそちらも困るでしょう? なら俺が来た方が、早いし、情報が美味い」
「そりゃそうだが、こっちも面子商売でね。サツの狗になったと思われたら、たまったもんじゃねぇ。それにアンタも警部補なんだから充分大物だよ。そこはもうちょっと考えてくれよ」
 ふぅむ、と辰巳が顎に手を当てる。
「そんなものは、名ばかり名ばかり。四方八方に走るのが性に合ってるんですよ」
「行く場所は選べよ。こっちは当たり屋にやられた気分だわ」
 若頭は苦笑をし、辰巳は悪童のような笑みを浮かべる。
「とりあえずお暇します。突然来て騒いで、すみませんでしたね」
「事務所に来る前に連絡してくれ。場所は用意するから。何かネタが上がったら、こっちから連絡する。あんまり無茶苦茶やるなよ。おっかねぇ」
 立ち上がって礼をし、辰巳は部屋を出ようとする。
 ドアの外には強面もスーツ集団が集まっていた。
「おい、ニィチャン。サツだからってあんまり調子こくなよ」
「アニキのご指示だから優しくしてやってんだ」
「俺らを手駒にするつもりなら、覚悟してもらうからな」
 顔に創がある者や片腕の無い者まで、様々な人間が辰巳に睨みを効かせる。
 両手を上げ、辰巳が降参のポーズを取る。
「ごめんなさいね。俺はただ、女の子一人の命のことを思って動いてるだけ。あなた達が直接係わることが無いようにします。それは最善を尽くします。出来なければ、山に埋めて虫の養分にするなり、海に沈めて魚の養分にするなり、好きにしてください」
 その言葉を聞くと、集団が出口までの道を開ける。
「今の言葉、忘れんなよ。こちとら破門されてでも、サツ殺ししてやるからな」
「承知の上。文字通り、矢でも鉄砲でも持ってきてください」
 周りの人間に目も合わさず、スタスタと出口から事務所がら出ていく。
 窓から辰巳が事務所から離れていくことを確認し、話を始める。
「アニキ、何であんな若造に肩入れするんすか。あの歳で警部補って、エリートのボンボンじゃないですか」
「でもな、俺らのオヤジはあのボンボンに助けられたんだよ。ウチの上部の組は軒並み逮捕パクられた。今、身体を壊してるオヤジには留置所暮らしも厳しい。それは理解してくれ」
 若頭が煙草を手に取ると、失礼します、と弟分が火を着ける。
「それにアイツは、底が知れないんだ。何を考えてるのかてんで見当も付かねぇ。あの薄ら笑みの下に、どんなモンが潜んでいるやら」
 煙草をふかしながら若頭も呆れた声を出す。
「あんな奴、警官なんかにしとくのは勿体ねぇぜ」
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