涙は雨降る黄昏の街に隠して

若瀬

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涙は雨降る黄昏の街に隠して

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「……いま…」
「…………………………」
真冬に似合わない大量の発汗で目が覚めた。暖色に照らされた部屋に午前四時頃を指した時計がぼんやりと浮かんでいる。

まだ温もりの残る天国を離れる。思い出せそうにない夢の内容を考えながら階段を降りていく。寒さに身体が引き締まり、震える。
キッチンに明かりが灯る。
私は壁に掛けられたカレンダーをじっと見つめた。

待ちに待ったこの日。
二月十四日、今日ほど早起きが得な日は他にない。


「今日、夕方から雨降るらしいから傘持っていき!」
お母さんの心配する声が聴こえる。
「平気平気!大丈夫だって」
私は応える。

心配なんて要らない。信じることが大切。
雨と恋の模様にそう言い聞かせた。


「先輩に告白する」
親友を含め誰にも言ってこなかったこの想い。今日、部活終わりの十七時。私はその時を待っている。


午後五時。空は晴れている。
自分でも分かる青春の一ページ。
甘くて酸っぱい。オレンジ色に染まった校舎を背に私は勝負に出た。

「先輩、ずっと好きでした!」
「………」
「私と付き合ってくれませんか?」
想いが言葉に変わる。
伝えきれない想いはチョコレートに乗せる。
……………
たった一秒がとても長い…そんな気がする。
私はひたすら根拠のない自信を持ち続ける。
……

…………
それでも恐ろしいほど長く感じる沈黙に心は蝕まれる。
甘味に苦味が加わる。
甘さが遠のいていく…
…………

……
……

…………
「チョコ、ありがとう。でも、その想いには応えられそうにないや。ほんとにごめん………」

「……そう…ですか…………」
「……」
「…」
「…………」

気がつくと雨が降り出していた。

さっきまでは確かに晴れていた。いや、晴れていたように見えただけだったんだろう。気がついた時には雨に変わっていた。どこか身に覚えのあるシナリオ。雨粒が痛い。

現実が容赦なく突き刺さる。
砕けた。砕け散ったんだ…
何故?
「私」という人間を強くアピールしなかったから?
想いがバレることを恐れて控えめだったから?
実は自分の中で答えが出ていたのでは?
それもずっと前から。

私は「恋の成就」という完成されたシナリオを歩んでいるつもりだった。自分の足りないところに見せかけの重い蓋をして。

マジックアワーの時間帯、明るくも雨を降らせる空に背を向けて本気で走った。
苦くて渋いだけ。甘さはどこにもない。
これも青春の一ページ? 

暖色に照らされた世界に私の家がぼんやりと浮かんでいる。バレンタインデーに似合わない涙を大量の雨粒で隠して家に入る。

「ただいま!」
「…………………………」
「………」


真冬に似合わない大量の発汗で目が覚めた。暖色に照らされた部屋に午前四時を指した時計がはっきりと見える。
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