フィーメル・ドン・ファン

第一層・目醒め

　くたびれた住宅街を、オレンジ色の斜光が切り取る午後四時。人口が特に多くも少なくもない地域特有の、面積を持て余した公園で地面に絵を描いて遊ぶ女の子が二人、しゃがんで顔を寄せ合う。決して聞かれてはまずい会話をしているわけでもないのに、二人は周りを気にするようにヒソヒソと声を潜ませる。

「えー、そしたらカナコも誘わなきゃだね」

「うん。あ、でもカナコ明日以外は空いてないんだって」

「え、そんなに忙しいの？習い事」

「カワイソーだよね」

「そっか……じゃあ明日で決まりね」

「うん」

　結城ゆうき結依ゆいは、あまり家に帰りたくなかった。共働きの家庭では、子供は一人で過ごすのは当たり前だ。休日でさえ親子三人揃うのも難しく、今帰れば孤独を強く自認しなくてはならない。遊びに出かける用事ができなければ、しばしばこうして仲のいい子を帰り道に引っかけ、ダラダラと公園で時間を潰す。特に今の話し相手、真柄まから小夜さやとはよく気が合い、同じく親があまり家にいない家庭ゆえか、時間が合うことが多かった。

「ユイはさ、したことある？」

「なにが？」

　小夜がより近くに顔を寄せ、結依に囁きかけた。

「オナニー」

「おなにー？」

「お姉ちゃんが言ってたんだけどね……」

「うん」

「あそこを擦って、気持ちよくなることなんだって」

「あそこ？」

　結依が首を傾げていると、小夜は手を伸ばして、しゃがんで露わになっている結依のクロッチを指先で撫で上げた。

「ひゃ！？」

「そこのこと」

　結依は咄嗟に、触られるとは思っていなかった恥ずかしい部分を押さえながら立ち上がった。それを見て小夜は悪戯っぽく破顔する。その結依の嬌声にも似た声に、公園にいた何人かの男の子が振り向いた。視線を集めてしまった結依は、恥ずかしさ満点の笑みで顔を伏せる。

「さ、サヤはしたことあるの？」

「うちも、ない……」

「そっか……」

　微妙な雰囲気を吹っ切るように、結依は立ったまま、まだまだ艶のあるランドセルを背負い直した。

「そろそろ帰ろっか」

「うち、もうちょっといるよ」

「そっか。じゃあね」

「うん、また明日」

　しゃがんだままの小夜を置いて、結依は逡巡もなく帰り道へと足を向けた。

「おなにー……」

　この言葉に興味が惹かれっぱなしだった。一人で家にいる時間が長い結依は、それなりに一人遊びを覚えるのも早かった。それ故に小学生に可能な一人遊びは、三年生の段階であら方やり尽くしてしまったのだ。そんな中、小夜が提供してくれた新しい「一人遊び」らしきもの。とりあえず帰って試してみよう、という意欲がそそくさと結依を帰らせた。焦りでも歓喜でもない、何かにつき動かされるような衝動的感覚。さっき触られた「あそこ」に神経が集中し始める。そんな悶々とした内心を抱いて家路を歩く結依は、側から見ればじつに神妙な面持ちの、賢そうな女の子に見えただろう。


＊＊＊


　古い団地の一階、角部屋。廊下の端まで歩いて、慣れた手つきで巾着袋から鍵を取り出して差し込み、解錠、開扉、施錠。その背格好とは不釣り合いな、半ば退廃的な帰宅である。

「ただいま……」

　ランドセルを下ろし、トイレに入る。デニムのスカートと真っ白で薄い布地のパンツを下ろして便座に座ると、真っ先に小夜の言っていた「おなにー」のことを思い出した。

「こする……」

　擦れば気持ちいい、という認識が先行すると、結依は不思議とそこが触れば気持ちよくなる箇所であるように思えてきた。それまでは気にもしていなかった、股にある襞を腰を曲げて覗き込む。小さいながらプックリとした恥ずかしい双丘、その下にアワビにも喩えられる、綺麗なサーモンピンクの女性器。もちろん生殖するにはまだ未熟だが、早めに初潮を迎えている以上は、妊娠自体は可能な体になっているはずだ。

　生唾を飲み、恐る恐る右の人差し指で触れる。フワッ、と、体が熱くなるような、浮いてしまいそうになる感覚が下半身一帯から走った。そのままピチャ、ピチャ、とどことなく卑猥な音を立てながら、その感覚を探る。指の腹で撫でていたところから、下の膣口あたりをグッ、と押すと、何とも言えない刺激を感じた。

「ここ……？」

　この刺激を、求め始める。何度も何度も何度も指の腹が、女の子の大事なところをグイ、グイ、と押し込み続け、その度に脚が細かくブルッ、と震えた。だんだんと意識がぼんやりと溶け始めるのがわかる。この感覚を“気持ちいい”と、思い始めていた。グイ、グチュ、ヌル、ピチャ。気持ちいいと思えば思うほど、指がその箇所を刺激することはやめられなかった。

「んっ……ふっ……」

　一旦押し込むのをやめて指を離すと、お祭りで見る水飴のような透明な粘液が、性器と人差し指の間に糸を引いた。クチュ、と心地良いほどの水音が鳴り、結依はこれらに本能的に淫猥な雰囲気を感じ取った。その水音とは対照的に、全身がその性感ですっかり火照っていた。幼いながら整った顔は紅潮し、下半身は既にスカートとパンツから脚を抜いて、局部を弄るのに集中するために大きく開脚されていた。

「もっとやったら、もっと気持ちいいかな……」

　結依は再び右手を股間に当て、さっきよりも強く深く、指を押し込む。プジュ、と体液が弾ける音がし、またあの気怠い刺激がやってくる。その度にどんどん息が荒くなり、静かな鼻呼吸から下品な口呼吸に。指はどんどん刺激を求め、奥へ奥へと膣の周りを押す。そのうち、

「んぐっ！？」

　潤った指の先は、ずぶ、と膣口に挿入されてしまった。痛みとも少し違う、未知の感覚の到来に結依は脚をバタつかせた。必死に抜こうとするたびに膣穴がキュウ、と締まり、淫靡に指を咥え込む。

「んぃ……」

　力を込めて、ずる、と引き抜いた。その瞬間、膣の内側と指が擦れた瞬間にゾワゾワ、と何かが全身を駆け巡り、それが結依の体温と心拍数を一気に上げた。

「きもちい……」

　この時の結依は、非常に好奇心旺盛だった。一人遊びへの探究心もさることながら、つい先週に初潮を迎えたばかりの自分の体の変化に、とても惹かれるものがあった。

　さらにずぷ、と人差し指を押し込んでみる。膣口はもう既に粘液でベトベトで、潤滑油を得た指先が女陰を犯すのは簡単だった。

「うぐ」

　さっきよりもさらに奥に入った。膣の中は滾るように熱く、心臓のように脈打っては結依の指に肉が絡みついてきた。そうして収縮するたびに、ぐぶ、と愛液が指と膣の間から溢れ、青い果実の瑞々しさを称えていた。

「こんな、はいっちゃうの……」

　女性器は人差し指の第一関節を優に飲み込み、第二関節まで誘い込もうと蠢いている。詳しい教育を受けていない小学四年生は、この穴が本来何を受け入れる為のものかも知らず、自らの股間からジワジワと広がる快感に浸っていた。

　戸惑いの中震える指は何の拍子か、第一関節を曲げて膣壁を少し強めに擦った。するとそこから、信じられないほど大きい快感の波が、

「んいぃいッッ！？！？」

　結依の脳天を貫いた。未成熟な女陰がGスポットを打たれ、その瞬間に女児をオーガズムへと放ったのだ。全身が痙攣し、ガクガク、とスラっとした脚が閉じたり、開いたりしてその性感の波を表現する。括約筋が緩み、膀胱に溜まっていた尿がちょろちょろと尿道から漏れ、便器に流れていく。その下、便座で潰れた尻に伝って、若くも扇情的なラブジュースが滴り、粘ついては妖しく光っていた。

　膣に指を突っ込み、仰け反ったまま恍惚の表情を浮かべる。結依はしばらく、初めての絶頂の余韻にだらしなく浸っていた。


＊＊＊


「行ってきます」

昨日の体験が忘れられず、モヤモヤとした心持ちのまま朝を迎えた結依は、あまり晴れない表情を母に心配されながら家を出た。本当はこのことを小夜に報告したくてウズウズしていたところだった。そのことを思い出すたびに、昨日触った部分が疼くような感覚がする。今日も帰ったらしてみよう。そんなことで頭がいっぱいだった。

「おはよ！」

「おはよー」

　団地を出てすぐの小夜の一軒家の前で待っていると、結依はいつもより数段明るい声色で挨拶を飛ばした。その新鮮さに驚きつつ、小夜は結依のもとに駆け寄った。

「どしたの？朝から」

「昨日教えてくれた『おなにー』、やってみたんだ」

「ほんとに？」

　小夜は目を丸く見開いた。

「うん……気持ち、よかったよ……」

「いいなあ、うちもやってみたけど全然で」

「ウソ！指で押したり入れたりしたら、体がフワフワってなって……」

「『入れる』……？」

　瞳を輝かせながら立て板に水を流すように語る結依に、小夜は今度は訝しげな顔を向けた。

「うん、穴があって……」

「穴？」

「指入れたら、気持ちよかった」

「へー……」

　そうして呆気に取られた表情。自分の発言でコロコロと変わる小夜の顔色に、結依は小さな優越感すら覚え始めていた。

「お姉ちゃんは、お豆を弄ったら気持ちよくなる、って言ってたんだけど……」

「おまめ？」

「うん。おしっこが出るところのすぐ上にあるんだって」

「お豆……」

「ユイ？」

　また新しいことを聞いてしまった。この探究心にすっかり火がついた結依は、授業が終わってからの“お楽しみ”に胸を膨らませながら、ランドセルの肩紐を握り締めた。



「ごめん、やっぱり今日遊べないや」