えみりちゃんのいぬ

ぬえもと

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後日談

えみりちゃんといぬ(そのに)

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 気を紛らわせるようにしてテレビの画面を眺めながら、適当にリモコンのボタンを押していく。
 幾つかチャンネルを切り替えたところで、咲里はおもむろに指を止めた。

「彼とは大学のサークルが同じで――」

 画面の中でパーティードレスを着た若い女性が、スーツ姿の若い男性の横に座り、嬉しそうにはにかんでいた。男性も気恥ずかしいのか肩をすくめ、首の後ろを掻いている。
 なんとも微笑ましい光景に、反対側に座る司会の男女も目を細めていた。
 どうやら、新婚のカップルをスタジオに呼んで、司会の二人が話を聞くという番組のようだ。
 いつもなら、自分とは遠く離れた世界の人たちの話だからと、特に気に留めることなくチャンネルを回してしまうところなのだが。

(何か、参考になるかな……)

 一般的なカップルと比べると、些か咲里と男の関係は特殊過ぎるのだが、何も知らないよりはマシな気がすると、咲里はそのまま番組を見続けることにした。
 最初は二人の馴れ初め話が続いていたのだが、しばらくすると話は夜の生活の方面へと発展していった。

 リモコンを握りしめた腕に、知らず力がこもってしまう。
 咲里としては、出会いよりも何よりも、夜の生活こそ一番差し迫った問題なのだが。

 くろは一体どうしているだろうかと、背後を伺う。
 と、男は何食わぬ顔でキッチンの片付けを続行していた。
 どうかそのままこちらを見ないで欲しいと心の中で念じながら、咲里は再びテレビに視線を戻す。

「ベッドサイドにくまの人形を置いているんですけど、表だったら今日はダメ、裏だったらいいよ、みたいな感じで、夜どうするかを決めてるんです」

 その手があったか。
 ガガンと、頭の中をイナズマが駆け抜けていく。
 弛緩した手のひらの中から、テレビのリモコンが滑り落ちた。

(で、でもそのルールを決める時にくろと話し合わなきゃいけないし……っ、だ、ダメ……、人形を後ろ向きにした瞬間、恥ずかしさで死んじゃいそう……、やっぱり一定期間で区切るのが一番――)

「咲里?」

 咲里の挙動不審さに疑問持ったのであろうくろの視線が、こちらに向けられる。
 冷や汗を流す咲里とは反対に、くろは落ち着き払った様子で蛇口を閉め、濡れた手をタオルで拭いている最中だった。
 どうやら、片付けが終わったらしい。

「だ、大丈夫! ……ちょっとリモコン、落としちゃって」

「そうか」

 咲里は手早く床からリモコンを拾い上げ、適当なボタンを押した。
 画面にクイズ番組が映されるのを確認すると、テーブルの上にリモコンを置き、ソファーの上で膝を抱えこんだ。何もやましいことはしていないといった体を装って、じっと画面を見つめ続ける。
 そんな時、背後からくろの足音が近付いてきた。
 平静を装ってはいるが、画面の中の問題が全く頭に入ってこなかった。
 
 くろが、横に腰掛けてくる。座面が確かな質量を確認して、深く沈み込んだ。
 ゆっくりと頭を動かすと、欲を孕んだ黒い目と視線がかち合う。

「……あんたから、血の匂いがしなくなった」

 男の言葉を聞いた瞬間、沸騰したかのように体が一気に熱を帯び始める。匂いに鋭いくろのことだ。おそらく気付かれているだろうと覚悟していたし、だからこそ今日のタイミングで夜の話題を口にしたのだが。

(いざ言葉にされると、緊張するというか……)

 片方の腕で微かに前に乗り出した体を支え、くろは咲里の頬に触れる。
 先ほどまで水に晒されていたくろの指先は冷たく、軽く身震いしてしまう。主人のそんな反応をどう解釈したのか、咲里が隠したがっていたものを明確に暴き立てた男は、弄ぶようにして咲里の髪に指を絡ませていく。

「あんた、さっき言っていたよな。週に一度なら、抱いていいと」

 どこか責めるような口調で、くろは咲里との距離を詰めていく。
 逃げるなとでも言いたげなくろの様子に、咲里はたまらず尻込んでしまう。視線を逸らすこともできず、ただ黙ってくろの言葉に耳を傾け続ける。

「前にあんたを抱いてから、一週間経った」

 唐突に、テレビの電源が落ちた。リモコンに触れるでもなく前触れなく訪れた静寂は、一週間前の状況を彷彿とさせる。眼前の男が人間ではなく、人外の魔なのだと思い知らされたあの日と同じ。
 こうまでされて、くろが何を求めているのか分からないほど、咲里は鈍感にはなれなかった。

「こ、ここでは、あの、まだ明るいし、……ベ、ベッドで――」
 
「悪い」

 最後まで言い切らないうちに、咲里はくろに押し倒されていた。
 ソファーの座面に、体が沈み込んでいく。咲里にまたがった男の肩越しに、天井が見えた。窓の外で、蝉が鳴いている。

「これ以上、我慢出来そうにない」

 それこそ、とっておきのごちそうを前にした獣のように。
 はぁはぁと荒い息を吐きながら、くろは咲里の唇に喰らいついた。これまで従順に咲里に付き従っていた犬の顔に、ぞっとするほどに凶暴な色が滲み始める。
 口の中をまさぐり、蹂躙していく舌先からは一切の遠慮というものを感じられなかった。
 一週間という空白の時間は、咲里が思っていた以上にくろに我慢を強いていたらしい。
 舌先を絡めては吸い扱き、咲里の口の端から零れ落ちた唾液を舐め啜り、悦んで嚥下する。

「咲里、えみ、り……っ、あぁ、……あんたの、……ぁっ、味だ」

 感極まった叫びを上げ、くろは容赦なく主人の体を嬲っていた。
 咄嗟に腰を引いた咲里の体に腕を巻きつけ、逃げられないように微かに体重を掛け、伸し掛る。
 瞬間下腹部に触れた既に硬さを帯び始めている怒張の感触に、酸欠になった頭はますます混乱を極めていく。
 口付けを深めたまま、くろは一刻も待てないとばかりに咲里のシャツのボタンを順番に外していった。ぷちり、ぷちりと順番に聞こえてくるボタンを外される音が、蝉の声と混じり生々しく咲里の耳を掠める。

「ま、待って……っ! んっ、ぁ、せ、せめて、でん、き……っ」

 完全にシャツを脱がされる寸前になんとか声を振り絞り、咲里は懇願した。
 こちらに集中しろとでも言いたげに、くろの口付けがさらに激しさを増す。少しは話を聞いて欲しいと言おうとしたところで、テレビが消えたときと同じように、前触れなくリビングの明かりが消えた。
 どういう仕組みになっているのかは知らないが、一応は咲里の願いを聞く気があるらしい。
 それでも、窓から燦々と光が差し込む夏の日中とあって、室内は十二分に明るい。
 だが再度咲里が口を開く隙を与えず、くろは咲里の纏っていたシャツを完全に脱がせると、手早くブラジャーのホックを外した。
 咲里の上半身を無防備に晒し、ようやく口付けを中断したかと思えば、最後に名残惜しげに咲里の口元を舐め上げる。
 その頃には、完全に咲里の中から抵抗するという意志は消え失せていた。朦朧とした頭でただ呆然と頭上を見ていれば、不意にくろと目が合う。

 瞬間咲里を煽るようにして、くろはおもむろに舌舐めずりをしてみせた。
 そのあまりの妖艶さにぞっとしたのも束の間、男は咲里の胸に舌を這わせる。
 貧相な胸を食い尽くすかのよう銜え込むと、口の中で舐めまわし、弄ぶ。反対のささやかなふくらみをやんわりと揉みしだき、先端をすり潰すようにして摘まれれば、抑え込まれていた腰がびくりと跳ねた。

「咲里……っ、かわいい、咲里、えみ、り」

「っ……、ぁ」

 声にならない悲鳴を上げ、咲里は荒い息を繰り返す。
 とろりと膣内から愛液が零れ落ちるのに呼応するかのようにして、眼下の咲里を楽しげに見つめ、くろは胸をまさぐっていた腕を咲里の纏うタイトジーンズの隙間から差し込んだ。
 ずりずりと布越しに摩擦を繰り返されるたび、下着の中がぐちゃぐちゃに乱されていく。
 幼子のように胸を食み、下着越しに秘所を刺激しながら、くろは勢い良く咲里のジーンズを膝下まで引き下げた。
 
「濡れてる」

 下着を目視で確認したくろが、顔を上げ、嬉しそうにそんな言葉をこぼす。
 途端、朦朧としていた意識の中から羞恥心が蘇ってきた。
 
「やめ……、み、……っ、ない、で」

「どうして」

 身じろぎしながら零された言葉にも、くろは動じなかった。
 お決まりの台詞を吐き、容赦なく咲里の体を割り開いていくだけだ。
 咲里の抵抗も虚しく、最後に残されたショーツをずりおろされてしまえば、無防備な姿が男の目に晒されてしまう。
 
「咲里」

 目を閉ざし、現実から必死に目を背けようとする咲里を咎めるように、名を呼び、くろは咲里の秘所に指を差し込んだ。

「っ、ぁっ……、んっ」

 びくんと跳ねた腰を、咲里を責めているのと反対の腕が慎重に抑え込む。
 久しく異物を咥え込むことを忘れていた隘路は、濡れているとはいえ、侵入者を頑なに拒むようにきつく閉ざされ、指を入れられただけで途方の無い違和感が咲里の体を襲った。

「狭いな、あんたの中は。……あんなに、抱いたのに」

「ん、ぁ……っ!?」

 どこか悔しそうに嘲笑を零し、くろはゆっくりと秘所に指を埋め込んでいく。
 けれど、膣壁を引っ掻き、まさぐるようにして慎重に引き抜かれると、体は徐々にくすぶった熱を帯び始めていった。はじめての時はただただ恐ろしかっただけの熱は、今は心地よく咲里の体に溶けていく。この行為の先に何が待っているのか、咲里は知ってしまった。教え込まれてしまった。咲里を婉然と組み敷いている、頭上の男の手によって。
 生娘のように閉ざされていたはずの秘所は、何度か抜き差しを繰り返す頃にはしとどに蜜を漏らし、男の指を貪欲に締め上げていく。
 じゅぼっ、ずじゅっと淫猥な音を立てる度に、呼応するようにくろの体も熱を増していった。

「咲里、えみ……っ、り、咲里」

 埋め込んだ指をさらに増やし、わざとらしく膣口を広げながら、くろはさらに挿入を深めていく。首筋に噛み付くような口付けを落とされる度、隘路が切なく収縮を繰り返した。それに、気を良くしたのだろうか。

「あんた、ここが好きだったよな」

 頭の中に直接流し込むようにして、耳孔に舌を差し込むと同時に、膣内に埋め込まれたくろの指が、咲里の臍の裏を引っ掻くようにして蠢いた。

「んっ、ひっ、ぁあああ!?」

 瞬間、それまで高められ、溜まっていたものが一気に爆発した。まぶたの裏が白く塗りつぶされたかと思えば、ぴんと全身が張り詰め、そこから一気に突き落とされ全身が弛緩する。
 喉を鳴らす低い笑い声を聞きながら、咲里はしばし、びくびくと細やかな痙攣を繰り返していた。

「ん……っ」

 慎重に指を引き抜かれると同時に、栓を失った秘所から一気に蜜が溢れ出す。
 膣内から愛液が溢れ出す感触にすら、軽く絶頂を迎えてしまいそうだった。

「咲里、……、ぁ、かわいい、咲里、えみり……っ、俺の、咲里……っ」

 蜜の付着した自身の指を丁寧に舐め上げ、くろは宥めるようにして咲里の肌に触れる。肌に強く吸いついたかと思えば、軽く甘噛みを施し、それを何度も繰り返していく。
 そんな時、不意にくろの動きが止まった。どうしたのかと視線を上げた先にあったのは――

「抱いても、いいか」

 哀願、だった。頬を限界まで紅潮させ、どこまでも凶悪な誘うような笑みを浮かべ、犬は主人の許しを待っている。
 卑怯だと、思った。
 ここまで好き勝手にしておいて、最後の決定権だけは咲里に委ねるだなんて。 
 
「……ぁ、ず、るい」

「どうして」

 咄嗟に口から出てしまった、責めるような、不貞腐れたような、そんな咲里の声に、くろは額に軽く口付けを落としながら低い笑い声を返してみせる。
 分かっているのか、いないのか。
 おそらく前者だろう。分かった上で、この一週間のおあずけに対して、くろなりの意趣返しをしている。
 それに関しては若干の申し訳なさがあるので、咲里はただ黙り込むことしかできない。

(確かに、ちょっと先延ばしにしすぎちゃってたけど……)

 今更抱かれることに異存は無い。……ないのだが。

「……その、……くろも、脱いでくれるなら、……いい」

 視線を逸らし、詰まりながらも、咲里はそんなことを口にした。
 初めての時も二度目の時も、くろは最後まで完全には脱いでいない。
 いつも中途半端に着込んだまま、咲里が乱されるばかりで、何だかその一点がずっと引っかかっていた。
 だから、くろも脱いでみればこちらの気持ちが分かるだろうと、そう思ったのだが。

 くろの反応は、些か咲里が想定していたものとは違っていた。
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