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ガイが用意した一枚の紙。
それを覗き込んだレオノールとトールの顔色がみるみるうちに変わった。
「これはなんだ……!?」
「川の水の使用権に関する契約書」
「……使用権だと」
トールは意味がわからないと言ってガイを睨みつけた。
ガイは淡々と説明を続ける。
「川の水を大量に工場に引き入れて、使用後に川に戻すのなら、使用権を設定しましょう」
「な、なにを言ってるだ」レオノールはイライラしている。「川は誰の物でもないという話だったろう」
公爵の領地と国有地は川を挟んで接しているが、水の使用に関する取り決めはとくにない。昔からの不文律で、とくに問題になることもなく、川の周囲に暮らす人々が自由に使っているのが現状である。
川の下流には公爵の領土ではない農地もあるし、人々が農業用水としてはもちろん生活用水として使っている。
領地がレオノールのものになれば、川の水をどう使おうが彼の自由である。少なくとも半分までは。
トールは「話にならない」と言って笑おうとしたが、ガイの顔を見て、笑みを引っ込めた。
「今まではそれでよかったでしょうが、ビジネスというものはシビアなんですよ」ガイは抑揚のない声音で続けた。「水源地の権利者が第三者となってしまいましたので」
ここでガイはサラに視線を向けた。つられるようにして、レオノールも公爵もトールもポールも、サラの顔を見た。
「そちらの第三者、サラと契約をしてください。契約をしていただけないなら川の水を別のところに回すそうです」
全員の鋭い視線を受けて、サラは反射的に笑みを浮かべた。
(まるでわたくしが提案したみたいになってるわね。ここはガイを信じて、笑っておくしかないわ)
離婚によって、山地の権利は公爵家から離れ、サラの手に戻った。
山に生えたリンゴの木からリンゴを収穫したら、サラのものだ。山から湧きだす水をどう処分しようとサラの自由だとガイは言う。
かなり強引だ。強引だが、ここは押し通すしかない。
「権利の濫用じゃないか。無効だ」
「金額を見てください。濫用と言われるほどではありません。もし法廷に出ることになっても金額の多寡が焦点になるでしょう」
「むむ」
「わずかな金額ですよ」
レオノールは金額を見つめて難色を示した。
「わずかであっても継続的に支払い続けるとなると気分が悪い。……よし、この山ごと買い取ろう!」
「どうする、サラ?」
ここでガイは初めてサラの意向を訊いてきた。
山を売るのもいい、まとまった金が入る。その金で、町に家でも買ってはどうか。ガイはそう勧めてくる。
だが、サラはきっぱりと断った。
「売る気はありません」
それを覗き込んだレオノールとトールの顔色がみるみるうちに変わった。
「これはなんだ……!?」
「川の水の使用権に関する契約書」
「……使用権だと」
トールは意味がわからないと言ってガイを睨みつけた。
ガイは淡々と説明を続ける。
「川の水を大量に工場に引き入れて、使用後に川に戻すのなら、使用権を設定しましょう」
「な、なにを言ってるだ」レオノールはイライラしている。「川は誰の物でもないという話だったろう」
公爵の領地と国有地は川を挟んで接しているが、水の使用に関する取り決めはとくにない。昔からの不文律で、とくに問題になることもなく、川の周囲に暮らす人々が自由に使っているのが現状である。
川の下流には公爵の領土ではない農地もあるし、人々が農業用水としてはもちろん生活用水として使っている。
領地がレオノールのものになれば、川の水をどう使おうが彼の自由である。少なくとも半分までは。
トールは「話にならない」と言って笑おうとしたが、ガイの顔を見て、笑みを引っ込めた。
「今まではそれでよかったでしょうが、ビジネスというものはシビアなんですよ」ガイは抑揚のない声音で続けた。「水源地の権利者が第三者となってしまいましたので」
ここでガイはサラに視線を向けた。つられるようにして、レオノールも公爵もトールもポールも、サラの顔を見た。
「そちらの第三者、サラと契約をしてください。契約をしていただけないなら川の水を別のところに回すそうです」
全員の鋭い視線を受けて、サラは反射的に笑みを浮かべた。
(まるでわたくしが提案したみたいになってるわね。ここはガイを信じて、笑っておくしかないわ)
離婚によって、山地の権利は公爵家から離れ、サラの手に戻った。
山に生えたリンゴの木からリンゴを収穫したら、サラのものだ。山から湧きだす水をどう処分しようとサラの自由だとガイは言う。
かなり強引だ。強引だが、ここは押し通すしかない。
「権利の濫用じゃないか。無効だ」
「金額を見てください。濫用と言われるほどではありません。もし法廷に出ることになっても金額の多寡が焦点になるでしょう」
「むむ」
「わずかな金額ですよ」
レオノールは金額を見つめて難色を示した。
「わずかであっても継続的に支払い続けるとなると気分が悪い。……よし、この山ごと買い取ろう!」
「どうする、サラ?」
ここでガイは初めてサラの意向を訊いてきた。
山を売るのもいい、まとまった金が入る。その金で、町に家でも買ってはどうか。ガイはそう勧めてくる。
だが、サラはきっぱりと断った。
「売る気はありません」
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