メンタルエイジ

リアナ

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1話 非日常へ

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- 1話 -


「ん……朝…。」
カーテンの隙間から漏れる太陽の光で自身の起床時間、6時を察知する。
カーテンを開けると既にのぼりきった太陽が真っ正面から顔を照らす。


「うぅ…まぶし…」
冬ならまだ真っ暗だが、夏場は明るい時間帯だ。世間に目覚めを強要させられているように感じてしまう。


今日も一日が始まる。いつもと変わらぬ日常が。


そうぼんやり考えながら時計に目をやる。
時計の短針は8を指そうとしていた。


「え、やばっ…!目覚ましかけ忘れた!!」
その途端、思考停止していた脳がフル稼働し、心拍数が急上昇する。心臓の合図と共に全身に一気に力が入り飛び起きる。遅刻だ。


急いで食パンを貪りつつ髪をセットする。いかにも寝坊したような容姿では出社は出来ない。一度でも寝坊を感じ取られれば、アイツは寝坊するような自己管理が出来てない奴。と思われてしまいかねない。


急いで歯を磨きスーツに着替え、鏡で自分を見る。大丈夫、問題ない。
いつもならテレビや本を見つつ、ゆっくりする朝のコーヒータイムが好きなのだが、今日は仕方がない。昨夜の自分を恨みながら駅へと走った。




息もあがり、足に若干の疲労感を感じながらも駅のホームに着いた。電車到着2分前。酷使していた足を止めた途端、全身の汗が吹き出る。
ただ立っているだけでも汗が出るというのに、走ったのだから仕方がない。電車内で汗がひくだろうと思いつつ車内へ乗り込む。



いつも通りの電車に乗れた。安堵に浸る。
そう思っていると目の前の席が空いた。ちょうど全力で走って疲労を感じていたため、有難く座ろうとした、その時。隣に高齢者が立っているのに気がついた。


『平日の通勤ラッシュの時間に高齢者…?』
間違いなく満員電車になり、押しつぶされる事もあるだろう。怪我などしては大変だ。


「どうぞ」
1度は座ろうとしたものの、席を譲ることにした。相手は凄く驚いた顔をして、


「いや、大丈夫です。」
と断る。驚いた。通勤ラッシュ時間に一人で乗り込むのだから、そのくらいの体力はあるということだろうか。それともプライドを傷つけてしまったのだろうか。ただ断られたのだから、自分が座ろう。


ペコッとお辞儀をして腰を下ろし、目の前のご老人の姿をまじまじと見る。
スーツは新卒のようなピシッとした黒のリクルートスーツ。オシャレなカフスをして、持っている鞄もまだ新しい。つけている腕時計は太く、時折光を反射する程にピカピカだ。


『まるで新入社員のような若者が身に付ける物ばかり持ってるんだな。お孫さんに揃えてもらったのか?そもそも、外見からするとかなり高齢に見えるが、そんな年でもないのだろうか。』
などと、失礼なことまで考える。


その時ふと周りを見渡すと、普段より電車が混み合っていない事に気がつく。更に幼稚園くらいの子供から腰が曲がったご老人まで、いつもより幅広い年齢層の方が乗っている。


『もしかして今日は祝日だったか?』
そう思いつつ予定を確認するが、残念ながら今日はしっかり平日だ。なにかイベントでもあるのだろうと思いつつ電車に揺られていた。




駅に到着し、会社へと急ぐ。やはり今日は街中も会社員の姿がいつもより少ない。更に気がついたのはオフィス街にも関わらず小学生くらいの子供をちらほらと見かける。気になるのは、そんな子供達が親に連れられる事もなく一人で出歩いてることだ。
『無用心な親が増えてるんだなぁ』
と、やや呆れつつ足を進める。



それは会社内に入っても同様だった。会社内だというのに、幼稚園生くらいの子もいれば、かなり高齢の方も見受けられる。
『さ今日は社会科見学があるなんて言ってたから ?ウチの会社が受け入れるとは到底思えないけどな…』
そう思いつつ自分の席に到着し、いつものように隣の席の金森に声をかける。



「金森、おは…よ……?」
金森は明らかに昨日と比べ、どことなく雰囲気が違った。同期のはずが自分よりずっと「大人」になっていた。


「イメチェンしたの?」
イメージチェンジというには違和感があり過ぎるが疑問を投げかける。


「あんたは全然変わらないのね。」
「???」
金森は呆れたようにこちらに向き直り話を続ける。


「朝起きたら姿が変わってたのよ。通勤してくるまでに、色々な人が居たんじゃない?」
「!」
電車の中で出会った、若者のような身なりをした、ご老人。
一人でスタスタと歩く子供達。
会社の中にいた数々のスタッフ。
数々の光景が頭をよぎる。



「え、朝起きたらってどういう…?」
「私も知らないわよ。でも起きたらこんな風にまるで数年後の自分になってた。ってことは、急に年をとったり若返って子供に戻った人がいてもおかしくないわ。」


たしかに…。他の人はどうなんだろう。
そう思ったとき、

「おはよーざいまっす!」
「み、みなみ…?」

明らかに南なのだが、見た目は金髪ロン毛の高校生だった。


「さーせん!なんかイタズラっすかねぇ。朝起きたらこんななってて!朝早くて黒髪に戻せなかったっす!今日昼にでも染めてきやす!!」


違和感がないと言えばないのだが、金森は年上になったのに対し、南はかなり若返っている。
ただ年を取るというわけでは無さそうだ。


そこで朝はバタバタしてて見られなかったネットニュースを見る。すると多数の姿が変わったというコメントが寄せられていた。ニュースキャスターも昨日とは違う人がやっており、世間は混乱しているようだ。


「これは一体……。」
どういうことなのだろうか。
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